2376. アイエラダハッド魔物決戦 ~ヒューネリンガ合流②ドルドレンから『檻』の話・魔導士からの戦況情報
☆前回までの流れ
ヒューネリンガの町で、キトラの示唆『檻』を伝えに来たドルドレンは、タンクラッドたちと合流。隊商軍から装備の特性による『今の魔物は、魔物の要素が少なく感じる』聞き逃せない報告も受け、その後、館で互いの話を共有する時間。
今回も引き続き、話し合いの場から始まります。
〇明日も一日二回投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。
「何があった」
総長の返答『フォラヴは生きている』その一言が曖昧で、タンクラッドがすぐ続きを促す。
一呼吸置いて、ドルドレンは自分がフォラヴを発見した時の状態から、治癒場のリチアリに出会うまで、驚く二人に静かに伝えると、『フォラヴは今回、参戦しないだろう』とも添えた。オーリンが頭を振りながら『倒される?』と聞き直す。
「マジかよ。死にかけただと?彼は結構、強くなったじゃないか。相手は」
「相手は、『サブパメントゥと人間混じりの魔物』だったと思うが。現場の名残で、ポルトカリフティグはそう教えてくれた。フォラヴも、多分そうだ、とは話していたが、彼自身、気配曖昧な相手に、その正体を掴んでいなかった」
ただ、死体が操られていたのでは、とフォラヴは言ったので、ドルドレンも『死体を使う敵は多い』と仲間に教えた。自分も、高確率で動く死体を倒している。これを聞き、タンクラッドたちは眉根を寄せた。
「俺もオーリンも、手加減はしないが。見て分かる死体でもないと、迷うこともありそうだな」
「まさに、フォラヴはそうだったと思う」
溜息を吐き、ドルドレンはもう一つの話に切り替える。それは、キトラが教えてくれたこと。ポルトカリフティグに話したところ、『仲間に言いなさい』と、ドルドレンを送り出した理由。
「『古代檻』について、教えなければ」
「・・・シャンガマックたちが閉じ込められた、あれのことか」
食事を終えたオーリンが、手を拭きながら聞き返す。また何かが閉ざされた?と言いたげな目に、ドルドレンは『ああ』と、忘れていたそれも思い出した。オーリンの言う檻は、シャンガマック親子の禁忌で入った檻のこと。
「あれも『檻』か・・・いや、同種か分からないのだが。俺が今から話すのは、シャンガマックがテイワグナ決戦で使った魔法というか、技である(※1691話参照)」
フォラヴと分かれた後、精霊のキトラが『アイエラダハッドにある檻』を使うように教えた。
種族の分だけ種類があるが、サブパメントゥの檻だけは、使う前に必要かどうか考えるように・・・と注意があった。
「キトラがこれを教えた理由は、龍の力が地上を壊すから、と。地上自体が危うい異時空亀裂だらけで、こちらも動きに難儀する。逃げる輩を捕まえるに、『檻』を使う一網打尽が早い・・・この解釈で、正しいと思う。
檻を立ち上げると、その種類の檻が全土に出る。シャンガマックは、テイワグナで使ったそれを『古代檻』『龍の檻』と呼んでいた。
詳しくは彼に聞けると良いのだが、彼はいないし・・・もし、お前たちが、シュンディーンやセンダラに会う時があれば、それを伝えて対処を」
「シュンディーンはな。あれは親の元へ行ってるから、戻るか分からんぞ。センダラは、会っても話を聞かないだろう」
他の仲間に伝えてくれと言う総長に、タンクラッドは目を逸らして首を傾げる。魔法を使える者限定の話で、自分たちは関係ない。ドルドレンも勿論、魔法は使えないので関係なし。
イーアンは使えるようになったが、そもそも『龍の力側の、女龍』に伝える意味はない。
場に静かな空気が流れ、三者は目を見合わせて、ドルドレンが『俺が伝えるのは、これくらいだ』と話を終え、『ザッカリアとミレイオはどうなったか』を質問した。それとイーアンはどこに?と、最初の質問に続けたところで―――
「おい。今、ザッカリアとミレイオと言ったな。何の話だ」
不意に、嗄れ声が三人の耳に入る。この声は、と窓に振り向いた三人の目に、窓向こうに浮かぶ緋色が映った。
「来てみれば、何てザマだ。まさかミレイオも、おめおめやられたって言うのか?」
窓を開けた途端、翻った布は男の姿に変わり、部屋に入ってきて三人を睨んだ。ミレイオが倒れたことを知らない様子の魔導士に、タンクラッドから話をする。ミレイオが彼を慕うのと同じように、彼もまたミレイオに、特別世話を焼いていると感じていたので、魔導士が怒るのも無理はない。
「ミレイオが倒れた状況を、知らないんだ」
ミレイオ、生死の境目・・・その前に魔導士に会いに行ったと言うと、漆黒の目が一層、きつく光った。
「俺に会いに出て?その後だと」
「そうだ。ミレイオがあんたに会えたかどうかも、こっちは知らない。戻らないと気にしていたら、ヤロペウクが助けたらしく彼を連れて」
「・・・俺は、ミレイオの報告を聞いている。やられたなら、その帰りだ(※2360話参照)」
苦々し気に口の中で呟く魔導士は、静かな怒りを発しており、黙った三人は、彼が話すのを待つ。魔導士は舌打ちし、一旦外を振り向いてから『ミレイオは』と内容を教える。
彼は、『ザッカリアの死・ヤロペウクの預かり・センダラの自由攻撃・龍族が動くこと・精霊の指輪で人間が減ったこと』を魔導士に報告していた。
ザッカリアは蘇生の可能性があり、それが今日と言っていたから、魔導士は一向に結果を知らせないミレイオに会いに来た。
これも、既に幾らか探した後らしく、ミレイオがどこへ行ったか、調べても魔方陣にさえ映らないので、タンクラッドたちが移動した先に、わざわざ聞きに来た様子。
「ヤロペウクは。何て言ってたんだ」
鋭い視線を投げる魔導士に、タンクラッドは小さく首を横に振り、『問題山積みだ』と前置きしてから、ヤロペウクの助言、ミレイオに掛けられた呪い―― サブパメントゥによるもの ――の話と、呪いを外す方法、それと、ミレイオが生き延びた場合、死んでしまった場合の違いが出ることを教えた。
「サブパメントゥが、ミレイオを」
呟いた魔導士に、今度はドルドレンが話をする。続きがあり、フォラヴが対処して『シーリャ』という精霊の力で、ミレイオの魂の繋ぎ止めは叶った・・・そこまで教えると、多少、尖っていた魔導士の雰囲気が和らいだ。
「精霊が繋いだんだな?」
「そう言っていた。フォラヴはシーリャに直に頼み、直に結果を告げられている。聞いたままを、俺も話している。つまり、どこにいるか分からないにしても、ミレイオは精霊に命を繋がれ、死んではいないはずである」
「分かった」
ふーっと息を吐いた魔導士は、黒髪をかき上げ、数秒考えたようだが、自分を見ている男三人に顔を向けると、『俺も教えておいてやろう』と話を変える。
「の、前に。上の、あれは何だ。ダルナだろうが、ここにいる意味は」
「あ。あれは俺のダルナだ(?)。銀色の、二つ首だろう」
「タンクラッドのダルナ?なら、いいが。俺に探りを入れたが、こっちの質問に答えないから、お前らに用でもありそうだと思った」
「・・・うむ。そうだな。『俺に用』だが、あれは俺から離れないから・・・上で待たせている」
言い難そうな親方に、魔導士は何となく察しをつける。
双頭のダルナが、時の剣を持つ男から離れない―― 魂になった魔導士に反応し、攻撃はしなかったが、辿り着く前に調べられた印象があったのは、過去の縁を、あのダルナが知ってるのかもしれない。
『銀のダルナ』をドルドレンは知らないのでピンとこないが、話は変わり、魔導士は『檻の話、後でもう一度聞かせろ』と先に命じてから、アイエラダハッドの現状を三人に伝えた。
魔導士の話は、的確な要点を続け、受ける質問を一言で捌き、自分の質問も彼らに投げ、答えを確認して―――
「あっという間に、全員情報共有だ」
魔導士の把握していた戦況と、ドルドレンの『古代檻』までが完了し、ドルドレンが褒める。
魔導士はちらっと勇者を見て『暇がない』と嫌味を言い、それからタンクラッドとオーリンを見て、下を指差し『お前らは、決戦中もここが中心、だな?』と再確認。頷く二人に頷き返し、『それなら』と、共有の続きは指示に変わる。
「さっきも言ったが、北部は西も東も、守りが手薄だ。北部に回れるやつは、一人でも行け。
タンクラッドとオーリン。ここを拠点に据えたとなれば、お前たちは毎回こっちに戻れ。ヤロペウクが、ザッカリアなり、ミレイオなりの話を、持ってくる場所を定めておいた方がいい。
ん?北は、ドルドレンが行くか。なら、そうしろ。俺も見ているが、お前は精霊と移動するんだったな・・・・・
フォラヴが出ないのは、あいつの使命上、『何かの鍵』かもしれん。何もないかも知れないが、決戦中に極北へ移動する可能性もある。それも覚えておくようにな。
俺の子孫(※シャンガマック)と獅子は、中部から北上していた。何頭かのダルナが、あの二人と組んだし、放っておけ。ドルドレンの持ち込み情報『檻』は、あいつらと、あとはセンダラか。俺が伝えてやる」
古代檻――― これに、魔導士は反応した。やけに細部まで、ドルドレンが聞いた話を確認した。
魔法使いだからか、としか三人は思わないが、バニザットにはそれ以上の意味を持つ。とりあえず、魔導士経由で、シャンガマック親子・センダラへ連絡。
「あとは、ダルナだ。異界の精霊は、東西南北全てにいる。姿を見せなくても、何かしらの力は働いている。
あいつらが『貢献』目的で動いている限り、味方と同様だ。ただ、これもさっき言ったが、残党サブパメントゥの『出どころ』や、この世界の条件まで、あれらは触れられない。
これも忘れるな。異界の精霊が何を倒したところで、根っこは残ってる、ってことだ。出どころは見つけ次第、潰せ。
もう一つ、だ。イーアンたち龍が、白い筒を打ち上げると、足場も空間も破壊する。龍族は、ある程度しめたらやめるだろう。
終わって、すぐさま龍気が引くわけでもない。龍気が比較的及んでいない地帯を、サブパメントゥや魔物が動く。
それを止めるのが、精霊キトラの示唆、『檻の準備』だな。話が出たってことは、恐らく『檻』が最後の決め手になる。初っ端から使わないのは、世界の事情があるからだ。深入りするなよ。
お前たちは、『檻が立ち上がる』まで膝をつくな。もし誰も使わないとなれば、俺が知った以上、ギリギリで俺が対処してやってもいい。
だが俺の旅じゃない。俺が手を出す前に、お前らの仲間が状況を見て『檻』を使うか、さもなくば、魔物全頭倒し切れ」
手伝うのか、手伝わないのか。どっちなの、とドルドレンは疑問を顔に出すが、魔導士に怒られそうなので言えない。とどのつまりは、『龍族の白い柱の続き→何かしらの檻』で決戦を切り抜ける、で作戦決定なのは理解したが。肝心の『決め手執行』が誰の判断か分からない。
横を見ると、タンクラッドとオーリンも胸中は同じなのか、似た様な表情をしている。魔導士は、三人を一瞥すると『じゃあな』の声と共に緑の風になって、窓の隙間を抜けて消えた。
「『知恵の話』には、触れなかったな」
窓を閉めながら、ぼそっと呟いたオーリンが振り向く。魔導士が『残存の知恵』について情報を聞いた割に、ちょっとも指示に入っていなかったこと。
暖炉の炎が映る黄色い瞳は、変じゃないか?と仲間を見たが・・・ オーリンたちが、解るわけもない。
魔導士にとって、『知恵の名残』よりも―― 『檻』が、精霊の示唆で確実に出る方が、ずっと重要だとは。
お読み頂き有難うございます。
明日も二回投稿です。時間は未定です。どうぞよろしくお願いいたします。
決戦という割に、アイエラダハッド編は大人しい場面が続いています。ちょっと物足りないかも知れませんが、いろんなことを詰め込んで進めるので、どうぞご理解頂けますように・・・




