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魔物資源活用機構  作者: Ichen
アイエラダハッド最後の魔物戦
2375/2964

2375. アイエラダハッド魔物決戦 ~ヒューネリンガ合流①隊商軍視点の『魔物』・『計る』茫乎・館で

☆前回までの流れ

南東ヒューネリンガの町で、思いがけずイーアンと会い、貴族ヴァレンバル公の館へ行ったタンクラッドたち三人。ヴァレンバル公の話『動力製造』を続ける隠れ僧院を知り、その対処にイーアンは黒い鞄を持ってそちらへ、タンクラッドとオーリンは町に残ります。

今回は、町の夕方から始まります。

〇今日も一日二回投稿です。時間は決まっていません。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 閉ざされた知恵の遺り。

 手に余るその遺物の放棄を、大貴族から引き継いだイーアンが、南東の山脈端にある『製造院』へ急ぎ、隠れ住む()()に面会した頃。


  オーリンとタンクラッドは、三台の馬車と五頭の馬(※ドゥージの馬含む)と一緒に到着した、南東ヒューネリンガの町を軸に、魔物退治をすると仮決定。


 傷を癒したフォラヴは、同じ南部でも山脈奥・治癒場に潜むようにして、リチアリの手伝いを開始する。


 この展開を、治癒場を後にしたドルドレンが、精霊ポルトカリフティグに話し、ポルトカリフティグは少々考え込んだ後、ドルドレンを仲間の元へ一度戻す。精霊が迎えに行くまで、との話だった。



 そして、ドルドレンは、ポルトカリフティグに連れて行かれた先―― ヒューネリンガで、右も左も分からぬ丘陵の外れに置かれ、暗くなりかける空に浮かぶ、魔物と仲間の影を見つけ、魔物応戦中のタンクラッドたちと合流・・・の前に。


 町の壁の外で、隊商軍が魔物相手に奮闘していると知り、自分はそちらを援護することにした。



 突如、夕闇を切り裂く、太陽柱の大きな光。

 外にいた誰もが悲鳴を上げ驚いたが、タンクラッドとオーリンは下を見て、地上に立つ、一人の男の影に『来たか』と喜んだ。


 太陽柱の真っ直ぐな光線は、ドルドレンの長剣が薙ぐ方へ滑り、直線的でも照射幅が広がった技は、どこからともなく湧いていた魔物を焦がして消す。

 遠い丘陵の斜面に染みついた巨大な影、土地の邪・化け影は、この光に直撃されて消滅し、同時に、繰り返し崩れては現れていた魔物も消えた。


 隊商軍を援護したドルドレンは町へ向かい、上の魔物を退治していたタンクラッドたちも、飛ぶ魔物が消えたので降りて来る。


 数時間前に退治に出たタンクラッドたちは、別の場所で退治を終えてから来て間もなく、再会そこそこ『今、親玉を探しに行こうとしていた』と、先に倒したドルドレンに礼を言った。


 隊商軍も同じで、すぐに三人を取り囲み、代わる代わる、共通語で礼を伝える。


『龍を連れる騎士(※騎士ではないが情報でそう思っている)が参戦してくれた上、最後は強烈な数撃の光線が戦闘が終わらせてくれた』と、礼と労いを済ませて、三人に自己紹介を頼んだ。


 騎士修道会総長ドルドレン、魔物製品製作指導の剣職人タンクラッド、弓職人のオーリン、と簡単に名乗り、タンクラッドが丘に浮かぶ屋敷の黒い影を指差し『ヴァレンバル公の家に少し厄介になる』と宿泊先を添えると、隊商軍の全員が後ろを振り返って、タンクラッドたちを二度見し、『心強い』と喜んだ。


 ちなみに、ヴァレンバル公は貴族だが、彼は隊商軍とうまくやってきた人物らしく、魔物製品を運ぶ際も真っ先に船を貸すなどの、協力行為で信頼も強めていた。



 隊商軍は、退治を手伝った三人が機構の派遣と確認するや、魔物製品の性能を褒めて伝えた。

 従来の防具武器と比較にならない強度で、受け取ってからは死者の数が減った。隊商軍以外でも装備を受け取れると広まった各地に、自警団が増えたと教える。


 ある日から、使う武器や防具に精霊の力(※アシァク)も備わって、今もその恩恵を得て戦っている・・・ 装備を作り、配ってくれ、精霊の力も引き寄せてくれた、と頭を垂れる隊商軍に、『精霊は引き寄せていない』と言い難く、三人は頷く。


 そして・・・気になる報告がこれに続いた。


 ―――『魔物が、魔物らしくない』


 最初、これを聞いてドルドレンは同意してから、土地の邪がどこでも混ざって・・・と、自分の経験で理解している状況を教えた。が、隊商軍の者が言いたかったのは、そこではない。

 ドルドレンの簡潔な説明に、『自分たちもそう感じていた』と答え、続けた一言が。


『魔物が少なすぎる気がします』だった。

 彼らが使う、()()()()()()()()()()()()()材料で作った装備、これがこの一言に通じる理由。



 ―――ロゼールの仕事で、『魔物の属性』の話が出たことがある(※2116話参照)。


 アイエラダハッドに来てから、『魔物』と『土地の邪』が混ざった状態で倒していたため、その材料を使った品に問題が出た場合、『魔物製品』と一括りにしては信用に関わる懸念から、性能を試したことがある。


 ロゼールとオーリンがそれぞれ剣と弓を使い、それまでの『魔物製品』と異なる特徴で、『幽鬼が混じっていたら、幽鬼に効きやすい』明らかに分かる点が見えた。


 以後、隊商軍へ普及してからも、製品使用時の気付いたことをロゼールが情報収集した結果、やはり『材料の属性』で『退治する相手も同じ属性なら効果が出やすい』とはっきりした―――



 これを踏まえて、の隊商軍の『手応えによる、最近の傾向』報告・・・・・


 すっかり忘れていた『製品の特徴』を思い出した三人は、隊商軍の言いたい意味を理解する。

 早い話が『魔物以外の要素の敵が、魔物じみた姿で出ている』であり、もっと縮めて言えば『魔物は混ざっていても()()()()では』ということだった。


 数は多いし、敵の動きによっては戦いも翻弄されるが、しかし『属性』に合う装備で挑むと、戦い続けることは()()()()()・・・とさえ言う隊商軍の感想に、盲点というべきか、驚かされた。手応えの違い。


 自分たちは、そこまで留意することもなかった。民間と武器も違えば、使う技も違う。


 龍に乗り、精霊の力を伴い、特殊な武器を使いこなすドルドレン、タンクラッド、オーリンには、そうした『普通に戦っていたら気付くこと』が見えていない。


 暫し、言葉を失った後。ドルドレンは、彼ら視点の報告に気付かされた『重大さ』の礼を言い、ここで引き留めていた隊商軍も挨拶をして、分かれた。



「まさかね。()()で、これだけ敵が増えてるのに」


 歩き出してすぐ、オーリンがタンクラッドに苦笑する。タンクラッドも同じように思ったらしく、首を傾げながら頷いた。


「そうだな。民間が気付くくらい、変化が出ているわけだ。『ほぼ、魔物じゃない』ってな」


「魔物一割、の表現は言い得て妙である。確かに、土地の邪と古代サブパメントゥがどこでも影響しているから、九割が()()()と言われても」


 横から口を挟むドルドレンが、今日までぶっ続けで倒し続けていた中心は、土地の邪。そして、古代サブパメントゥの操りが及ぼす、悲惨な人々の状態が圧倒的に多かったことを話す。


「一割だ九割だは、場所によるだろうが・・・極端でもないな。ここに来る手前、船を襲った敵に、異界の精霊がいてな。あんなのも入ってるとなると、アイエラダハッド決戦は、残り物の魔物に乗じて、()()()()()がこぞって襲うと、捉える方がいいかも知れんな」


「戦い方が、そう変わるわけでもないけどね。でも、そうだな。魔物は本体付きの印象だけど、他は本体じゃなくて、幻とか見せかけに惑わされる。魔物だと親玉を倒して、残った奴らはもう増えないから倒す感じだ。古代種のやつらは、倒すと、それまで出ていたのも全部消えるよな」


 タンクラッドとオーリンは、この町を拠点に動く予定。ここから先、どれくらいの時間を粘るか分からないにしろ、『殆ど魔物じゃない、魔物の決戦』にその意識で臨もうと、話しながら町の壁に続く、瓦礫だらけの道を歩いた。



 これとは別の話だが―――


 隊商軍の態度も、ヴァレンバル公の態度も見て、タンクラッドは少し感じたことがある。

 精霊の匿いから漏れた人々は、こうして接していると、『不要』だから漏れたわけではない。


 生き残る中には、正しさを手探りで掴みながら、生き抜く者たちがいる。

 守られている人々に比べ、精神的にも肉体的にも厳しい環境に置かれて尚、彼らは、腐る者と、正しさを求める者に分かれた続き、正しさを求め生き抜いたら、彼らはアイエラダハッド復興に、大きな礎を作れる気がした。


 きっと。彼らのような屈しない民が、篩に掛けられて残った、誇り高き者たちになるだろう、と。


 そう考えると・・・『人を計る』の真意はここか?とも思った。

 実際、篩に掛けられる対象は、人間に終わらず他種族も、差がなく実行されているが、残る残らないの境目は不明だった。精霊に都合が良いか、世界のために動いているか、それは漠然として、答えらしい答えではない中。


 崖っぷちで、どこへ顔を向け、足をどこに踏み出すか。いつまでその心を持つか。種族別に違いはあれ、計る真意は見定めているようにも思える。


 この国で捌かれ、篩から落ちたとしても、抹消を示すような時期―― 淘汰 ――は、次の国・・・と手記にあった。


【種族・人間】代表で計られる羽目になった、アイエラダハッドの民。

 彼らの行動が、続く試練の進行の鍵になるのか。ぼんやりと思ったこのことは、(あなが)ち、真実に遠くないように感じた。



 *****



「よく来た。どこにいたかと」


 壊れた壁を跨いで町へ入るなり、タンクラッドはドルドレンを抱きしめ『無事でよかった』と感謝する。

 抱き返すドルドレンも微笑んで『お前たちも』と答えたが、親方が喜んでいるのは、ザッカリアとミレイオのことがあるから・・・と伝わるので辛かった。


 普段は触れてこないオーリンも、珍しく笑顔で片方の肩を引き寄せて抱くと、『()会えて良かったよ』とドルドレンの背中を叩いた。

 オーリンの『今』は、不安から出た言葉。誰もの心に辛いのは当然だが、これまで死者が出なかった自分たちには、強烈だと伝わる。



「また。すぐ行くのか」


 笑顔に躊躇いが浮かぶドルドレンを見つめ、タンクラッドが察して先に訊ねる。

 ドルドレンは、『それでも迎えが来るまでは一緒』伝えるべきことがあってと答え、タンクラッドたちも了解し、『港の近くの丘に馬車を預けられる場所があって、そこをしばらく拠点にする』と教えてから、三人でヴァレンバル公の館へ飛んだ。



 ヴァレンバル公の館は、壊されたところもあるが、使える部屋も半分以上は残っており、仲間を連れたタンクラッドたちに、貴族は部屋をあてがった。

 彼の召使いは三人ほど館にいて、彼の側で世話をするのだが、日常の世話―― 飲食・洗濯・掃除など ――は、ほとんど手つかずで、ヴァレンバル公自体、食事さえ館で調理するものを食べていない。


「この状況では、わがまま言えませんから」


 ドルドレンを迎えた貴族は、少しすまなそうにそう言ったが、立場は大貴族らしいので、恥ずかしさもありそうだった。だがそれを態度に出さず、余裕と理解を口にするあたりが、貴族の心構えなのだろうと三人は感じる。


 彼は、館の備蓄食糧を、襲撃が始まった時点で早々に避難所へ回したことで、そちらから配給の食事が提供される。召使いたちは、日に二度、隊商軍施設近くに設置された避難所に出かけ、人数分を受け取って、館に持ち帰っていた。


 この日、軍が管理する避難所宛に、短い手紙『ハイザンジェル騎士を本日から館で預かったため、配給の数を増やしてほしい』と書いたヴァレンバル公の手回しのおかげで、召使いは自分たち以外、タンクラッドとオーリンとイーアンの分も貰っていた。



「丁度良かったな。イーアンの分を食べればいいよ」


 部屋に案内され、机に置かれた食事の箱を見たオーリンがドルドレンに促すと、横で聞いた貴族は面食らった顔をしたが、タンクラッドがすぐ『龍は食べなくても平気だ』と教え、言ってなかったなと少し笑った。


「そうでしたか。イーアンは食事が不要な体、と」


「まぁ。食べようとすれば食べるし、本人も食べるのは好きだが、なくても差し障りないんだ」


 貴族とタンクラッドたちの会話に『イーアン』の名が出ているのを、ドルドレンは気にする。彼らのささやかな雑談の終わり、『イーアンはどこに』とすぐに訊いた。

 この一言で、またヴァレンバルの顔が緊張したので、オーリンたちは目を見合わせ、貴族に『ちょっと内輪で話したい』と彼の退出を願い、貴族も了解して逃げるように部屋を出て行った。



「長い話だが、適当に省くぞ。そっちの話の時間も必要だしな」


 タンクラッドはそう言って、薪が少ないために、火も小さな暖炉の側へ椅子を寄せ、暖炉側の暖かい場所で話すことにする。

 部屋は二階で、広いには広いがその分、暖めなければ寒い。南東はましな方ではあれ、川の近くで夜間はそこそこ冷えるため、三人は暖炉近くで食べながら話し始めた。


 タンクラッドは、まずは『イーアンは用事』として彼女の話を後に回し、ドルドレンの報告を先にした。黒髪の騎士もまた、精霊と回った期間は一先ずおいて、フォラヴと会い、仲間の話を聞いたところから始める。


 ドゥージの行方不明、船の事故、ゴルダーズ公の死、ザッカリアの死、龍族の処罰による白い筒の発生、ミレイオの生死を彷徨う状況、シュンディーンとフォラヴの行動・・・ここまで並べ、オーリンが『フォラヴはどこに?』と総長が言わないことを不安気に尋ねた。


「彼は()()()()()


「その言い方。フォラヴに何があった」


 靄がかる総長の言い方に、タンクラッドが被せるように尋ね返した。

お読み頂き有難うございます。

今日も、午後にもう一回投稿があります。どうぞよろしくお願い致します。

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