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魔物資源活用機構  作者: Ichen
アイエラダハッド最後の魔物戦
2372/2964

2372. アイエラダハッド魔物決戦 ~南、白い筒一発対処・船の行方

☆前回までの流れ

決戦開始、と言えど、気の抜けた「魔物は少量」。初期サブパメントゥ、土地の邪など、他の因縁絡みも乗った、アイエラダハッド決戦。旅の仲間の参戦者は、少な目。『とにかく倒し切ったら終わり』が目安で、紛れる厄介な問題の方に翻弄されそうな状態。

今回は、発動した白い筒の話から始まります。

〇お休みして申し訳なかったです。今日から年末まで連続します。年末で完了しない場合は、年明けも元旦関係なく続行します。明日から一日二回投稿です。時間は未定です。投稿回数が増える場合は、前書きでご連絡します。

 

 アイエラダハッドの大地に、白い筒が二つ立ち上がった。龍族はサブパメントゥのへばり着くような感覚を知っている。


 この筒の意味を理解していない輩は、二つが関連していることも想像しないか。間隔を開けた白い筒の合間、サブパメントゥと魔物が、地面に続々と浮き上がっている様子。



「なぜ、()()()()()なんだろうね」


 タムズは下を見ながら、過去の話を思い出して呟く。私たちがいるだけではなく、これほど龍気を集めたガドゥグ・ィッダンがあるというのに。

 創世の話で、サブパメントゥは龍に引き寄せられるように上がってくる、そんな話を聞いていたが、今も同じそれを、自分の体感で感じるとは思わなかった。


「それがサブパメントゥだろ」


 時の剣状態の用を済ませたシムが、少し離れた場所で答える。イーアンは龍気の塊と化している見た目で、うんと離れた静かな方の筒、その向こう側で一番星のように輝いている。


()()()()でも、息絶えるサブパメントゥはいそうだ。龍気で魔物も、勝手に潰れているんだから。よくこれほど愚かな連中に、中間の地は掻き乱されるものだよ・・・イーアンに聞こえたら怒るだろうが」


 タムズの呆れる言葉に、シムが鼻で笑って首を横に振る。


「始めるぞ」


「いつでも」


「イーアンやドルドレンには、()()()()があるだろ」


 シムが一言添えて、今度はタムズは失笑する。『私たちにだって情はある』そう答えてから、荒ぶる白い筒を男龍二人で挟み込む位置についた。


「こっちが飛んだら」


「イーアンも同時」


 二つの筒がある距離。合間の大地も、爆発する龍気の波がぶつかり合って包み込まれ、合間が瞬間的に埋まることで、二つ同時に空へ帰る。


 タムズとシムには、アオファが一緒。イーアンは、始祖の龍が使った、()()()()付き。イーアンの龍気は、イヌァエル・テレンへ戻らなくても朝から使いっぱなしであれ、小石のおかげで増幅無限。


 男龍たちは、アオファの呼応で増やすが、タムズが物質置換をするので、シムはタムズのコピーを通し、『タムズの凝縮龍気爆発』がダブルになる具合。これはテイワグナの山岳地下の水脈で行った方法(※1666話参照)。


 振動と衝撃は凄まじいが、それこそ龍族からすれば、丁度良いことである。

 サブパメントゥが、地中の()()()に隠れているようだが。そんな隠れ方、何の意味もない。


「コルステインは、さすがに」


「タムズ。気にするまでもない。とっくに龍気の届かない闇の中に引っ込んでる」


 呟いたタムズの、ささやかな気配り。シムの流す一言。頷いた赤銅色の男龍が、ボッと龍気を膨れ上がらせた。シムも続いて同じような色の龍気を膨張。


 嵐のど真ん中のような、風の渦巻く白い筒は、二人の膨張した龍気で下方に白さを増し、タムズの龍気が赤銀の閃光を放ったと同時に、反対側のシムも龍気を放つ。ガァン!と大気の揺すられる衝撃が轟音を立てるや覆い被さるように、バッと空中が一瞬弾ける。


 イーアンの真っ白な龍気爆がもう一つの筒に打ち込まれ、二つの白い筒の間に龍気は充満する。

 龍気が飛び散る前に、次の一弾を当てられた空間は圧縮を受け、土を壊し浮かせ、合間に充満した龍気が、筒に吸い込まれる前に地中を貫く。


 衝撃で地中に叩き込まれた龍気は、すぐさま筒に空に吸い上げられ、次は撥ね返る龍気が、筒と筒の間を光線の反射の如く駆ける。

 地中のガドゥグ・ィッダンは、あっという間に姿を現し、目にしたと思った瞬間、粒子に解けた。


 イーアンの方の白い筒は、二重仕立ての無音の筒。イーアンの作った龍気の密度を一撃で食らい、向こうから飛んだ男龍による衝撃で挟み込まれ、真上までカッと白さを走らせた後に消滅。男龍の方の白い筒も、巨大な旋風を一度引き起こし、その後に消滅する。


 たった一回で、と言えば、そう。

 タムズは、連発に等しい密度を作っていたし、コピーのシムも同等。イーアンは抱えられる最大まで龍気を高めた結果、三つがぶつかり合ったことで、一度の対処で終わった。


 そして、目論見どおり・・・イーアンは自分と男龍までの距離、変化した地上を眺めた。


 これまでも自然を破壊してしまう威力を見てきたが、今回は空恐ろしい規模だと思う。そして、消し切った大地の下にも、自分たち龍の爪痕を残したのが伝わる。


 私たちを、()()()()()()()()()サブパメントゥの気配は、まるっきり感じない。逃げる暇などなかっただろう。生き残っているわけがない。


 この程度のやつらに、ザッカリアは。ミレイオは。そんなことも思う。


 ザッカリアは生き返る話だったが、今頃、どうだろう。ミレイオは、スヴァウティヤッシュが辿っていると・・・『イーアン』タムズの声が頭に届き、ぼうっとしたイーアンは顔を向ける。赤銅色の男龍は、翼を広げて優雅に側へ来ると、空を見た。



「かなり力も使ったし、私たちはすぐ戻る。君はどう?」


「まだ、大丈夫です」


 自分は地上に残る、とタムズに言おうとして、ひゅっと側へ来たシムに褒められる。


「さすがだ。イーアン、ビルガメスが戻れと言っていた。お前からも聞きたがっている」


「あの・・・ええ。そうだと思いますが、私はミレイオを」


 ()()()()()()()ミレイオを探したい。死んでいないことに安心はしたが、まだ落ち着かない心を抱え、イーアンは目を逸らした。じっとシムが見つめ、イーアンの頭を少し撫でて『ミレイオは死なないぞ』と言ってやる。


「それでも心配か」


「はい」


「仕方ない。タムズ、帰ろう。イーアンは後で来い」


「でも、魔物が増えたから、もうイヌァエル・テレンに戻る時間がないかも知れません」


「それなら、なおさらだ。次の連動を忘れるな。一度戻らないと、さすがに()()に関わるんじゃないか」


 シムの『後で来い』の提案も断ろうとしたイーアンだが、決戦が始まった気がしてのこと。だがシムは『次がすぐ起こる』と連動の合間が短いことを告げ、一回空に戻って回復しないと、基本の精気がやられると忠告する。


 はた、とイーアンは止まり『精気』と繰り返した(※1179話中半参照)。タムズの同情気味の視線が痛い。すぐに忘れるんだから、と言いたげな視線に『分かりました』とだけ答え、今日中にはイヌァエル・テレンへ上がると約束した。


()()()じゃ、遅いかも知れんぞ。すぐもう一回こなさないとも限らない」


「そんなに早く?はい。では、意識して、その。ミレイオをもう少し探してから行きます」


「・・・ビルガメスに伝えておく」


 仕方ない、と頷いてくれた男龍は、イーアンを労い、多頭龍と共に空へ戻る。少し見送ったイーアンは、下方の変わり果てた地上を見渡して、大きく溜息を吐くと、一旦、船のある川へと向かった。


 イーアンは直感で、直接、ミレイオの危険を察したため、前情報も事後もない。船に行けば、誰かしらがミレイオの情報を持っているかも知れない、と思った。



 *****



 船は―― シュンディーンの結界が消えた時点で、魔物に襲われ出し、川は荒れ続けていた。


 川の水に魔物が生じ、いわば、船の浮かぶ川自体が魔物の状況で、そこへ空から両岸から、魔物と()()()()()が襲った。


 結界を張っていた時も、川の水流はおかしな動きを見せていたが、深刻ではなかった。シュンディーンが親の精霊の元へ出た後、一時間もしない内に水はそこかしこで逆流し、命を持つように波を返し、水を分けて川床をむき出しにし、オーリンとタンクラッドで急いで応戦。


 この手の魔物―― 自然の性質 ――はテイワグナで何度か出くわしたが、アイエラダハッドでは初。魔物には違いないため、オーリンが親玉を探し、タンクラッドは翻弄される船を守るに徹した。


 時の剣は、魔物の魔性と、龍気の面があれば使える。バーハラーを呼ぼうかと思ったが、船から離れる気になれず、敢えて甲板。

 一人で応戦だが、条件が絞られるため、アオファの鱗も使えない。アオファの鱗の攻撃も吸い込みかねない近距離。使用は難しいと判断。



 水が急に分かれ、現れた水底に前のめりで船が傾くのを、魔物の水と龍気の中和で水を引き戻し、逆流も時の剣の渦で跳ね返した。魔物自体は、大した強さではないと分かるものの、如何せん、船が掛かっている。


 馬たちや馬車も乗っていれば、危なっかしい動力の暴走の恐れもある。

 下手が出来ない上、守りながら四方八方から襲う相手を撃退するのは、タンクラッドに休む暇を与えなかった。


 いきなり始まった猛攻は、弱い強いが関係ない。圧倒的に数が違えば、負ける。


 ここに加わったのが、両岸から現れた魔物の群れで、巨大な芋虫に似た魔物がジャボジャボと川に入り、動く川の水の影響を受けながらも船に来る。


 オーリン早くしろ!と怒鳴るタンクラッドは、仕方なし、切り抜けるためバーハラーを呼ぼうとして、空を見上げた。

 鳶色の瞳に、空の向こうから来る、飛ぶ魔物の影が映る。こんな時にと舌打ちするが、すぐ気づいた。魔物の気配と違う・・・数秒後、群れになった鳥のような影が歌い出す。


 ハッとする、その声と歌。記憶に蘇った、カングートの魔物(※457話参照)。


 だが相手は魔物ではなく、もっと人間的な感情ある顔を見せる。目が合った鳥の翼に人体を持つ女は、ニコリと笑って歌い続け、目が合ったタンクラッドは頭がふらつく。



「こいつは」


 ぐらりと揺れる体を急いで立て直し、タンクラッドは片手で耳を押さえた。もう片耳は、剣を握る手で押さえられない。その声は、ずっと昔の静かな日々を呼び起こす。振り払おうと頭を振った視界の端に、甲板に出てくる船員たちの姿。


 誰もが、導かれるように上を見ながら出てくる。

 動力室は?と、ギョッとするタンクラッドが『船を守れ』と怒鳴るが、誰一人振り向かない。船の上を飛び回る翼を持つ女は、腕だけが翼で他は裸。

 荒れる川に翻弄される船の甲板を、足を滑らせながら舳先へ歩く船員は、どれほど怒鳴っても効き目がない。


 船員が全部出て来た時、一羽が滑空してひゅっと・・・船員の頭を掠めた。

 腕を伸ばした船員の手が取れ、血が噴き出し、頭の半分が後ろへ飛んで落ちる。押されたそのまま、ばたっと倒れた男から血が噴き出しているのに、彼の周りは見向きもしない。

 戻れ!と親方が叫んでも、また一人、同じようにして、鳥の翼に切り裂かれて倒れる。


「この野郎」


 戦意が薄れる頭で、タンクラッドは川の魔物と、芋虫みたいな群れが舷にへばりつくのを払いながら、頭上で飛ぶおかしなやつを倒すために、渦を出そうとしたが、しかし、引っ切り無しの魔物相手。飛ぶ輩にまで攻撃を向ける時間が続かず、何度か失敗して、この間に4人が命を落とす。


 背に腹は代えられない。魔物から頭上の敵に切り替え、急いで時の剣を空へ構えたが、渦は呆気なく回避された。それを見て、はたと気付く。



「もしかして。こいつら、異界の精霊の」


 先に気付かれては――― 時の剣の力を、相手が見抜いた後では、魔法の流れをこちらが吸い取ることを遮断される。ダルナ相手に苦戦したのを、焦る頭で今更思い出し、タンクラッドは舌打ち。


 こうなると一度に巻き込む手は使えない。ぐっと握った剣で、まずは川と舷につく魔物を渦で壊し、すぐさま空を飛ぶ怪異に、金色の光を飛ばす。鎌の刃のような光は、何羽を切り裂き、悲鳴を上げたそれらが川に落ちて飲まれる。


 攻撃を受けたと分かるや否や、鳥の翼の女は一斉に金切り声を上げ、タンクラッド目掛けて降下した。


 くそ、と剣を振り上げた一瞬、真横から赤紫色の業火が噴き出し、視界を遮る。続けて焼け落ちる鳥の怪異は、波を立ち上げた川に巻かれ、タンクラッドが振り向いたそこに、銀色の双頭が浮かんでいた。


「呼べ」


「お前は・・・ 」


「俺は、お前の側だと言ったはずだ」


 トゥには、他のダルナに声をかけさせ、彼らと共に、広がる魔物の対処を任せていた。だからタンクラッドは、ここを独りで応戦していたのだが、トゥは機嫌の悪い顔を向け『面倒だ』と嫌味のように吐き捨てると、川面をずぶずぶと埋める灰色の芋虫上の魔物も全て焼き払った。


「この、『川』。これは、ここに正体がない」


「・・・オーリンが今、探しに行っているが」


 タンクラッドが答え終わらない内に、船体が傾き、川が真っ二つにまた割れる。水を奪われた船がぐらっと左に倒れかけたのを、慌ててタンクラッドの時の剣が渦を起こして引っ張り上げる。これと被るように、銀色のダルナが巨体の脇を船に当て―― ぶぅん、と耳鳴りに似た音と共に、先へ移動した。

お読み頂き有難うございます。


お休み頂いて、少しずつ書き溜めました。私の脳の調子が面倒臭いのに加え、右腕が動きにくくなり、年内で完了しない可能性が高くなりました。

明日25日から一日二回投稿です。時間は決めていません。一話、大体5000文字くらいあると思いますので、お時間のある時に見て頂けたらと思います。

いつもいらして下さる皆さんに、本当に心から励まされます。本当に本当に感謝して!

年末年始はいつもこんな感じで済まないのですが、魔物資源活用機構連発、どうぞよろしくお願いいたします。

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