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魔物資源活用機構  作者: Ichen
アイエラダハッド最後の魔物戦
2371/2964

2371. アイエラダハッド魔物決戦 ~気の抜けた幕開け・『呼び声』と『脱け殻』

※数日お休み頂いたのですが、また明日から少し休みます。どうぞよろしくお願いいたします。

☆前回までの流れ

ザッカリアの死で龍族が怒り、続いてミレイオが襲われ、二人はヤロペウクの元に。助言を受けたフォラヴは、精霊シーリャを頼って、ミレイオの命を繋ぎました。皮肉にもフォラヴは直後に自らも殺されかけ、ドルドレンに救われて南の治癒場で回復。治癒場では民を連れて行ったリチアリが悩み、フォラヴは彼と共に残ることを決め、ドルドレンは出発。

イーアンは『呼び声』を捕らえたものの逃げられ、白い筒が発生し、シャンガマック親子も参戦。舞台は整ったけれど・・・

今回は、魔物の王の話から始まります。

 

 オリチェルザムは、妖精が倒れた場面まで見て、満足(※2367話参照)。


 ()()()()とは気分が良い。人間を取りこむ質の魔物が、うまい具合にサブパメントゥの出所付近に重なった。

 曖昧な『人間味』を残した魔物が、初期サブパメントゥの盾に変わり、フォラヴ(精霊の鍵)を捕まえた。



『一人で動く時・・・人間に弱いと、呆気ないものだ』


 簡単で、魔物の王も拍子抜けして嗤う。どこでもこのやり方が早そうだ、と皮肉を自分に言える余裕。

 そして、フォラヴが生き延びたのを知らないまま、これを機会に旗揚げとする。


 増えに増えた『混成魔物』とはいえ、引っ張るにもいい加減、長引いた。アイエラダハッドで使える魔物の手持ちは、既に少ない。

『二度目の旅』時と訳が違い、『三度目』は、弱々しい勇者たちに情をかける、()()の方が面倒臭いのだ。



 開始の国ハイザンジェルは呆気なく、三度目はすぐ勇者を倒せると思いきや。追い込んだ最後で、女龍が召喚された。まだ、女龍手前の()()()だったイーアンは、あっという間に形勢逆転した。


 テイワグナは、早くも旅の仲間が8人まで揃い、常に団体行動。

 同行者も人間以外の別種が付き添い、イーアンは早々と女龍に変化。龍族(※男龍)が中間の地に降り始め、龍の頭数が増え、後半には、死んだはずの『大地の光(※魔導士)』も加わった。


 アイエラダハッドでは、古に封じられた異界の精霊が解き放たれ、それらが旅の仲間の味方にほぼ回り、決戦直前で、まさかの精霊交代まで起こった(※知恵の還元)。

 旅の仲間自体は、依然として強弱の差があるが、あれらの側についた()()()()は侮れない。数もかなりあり、力の種類は把握出来ない(※異界の精霊)。


 とはいえ、一方的に不利でもない。


 アイエラダハッド決戦前に、旅の仲間を減らせたのは有利。こちらも、土地の邪とサブパメントゥが回っているも同然。あれらは『自発的』に魔物を増大し、使う。


 決戦で旅の仲間をさらに減らせば、残る厄介な女龍とコルステイン、勇者を続く国で追い詰めることも出来るだろう。

 初期サブパメントゥも、三度目(最後の機会)は躍起になっている・・・動き出したあれたちを、次の国でも使えるのは決まったようなもの。


 オリチェルザムは、骨ばった手を石の玉に向ける。手持ちの魔物を一斉に―― アイエラダハッド全土へ ――放つ。


『混じれ。分かて、増えよ。無窮の闇を縫い、倒せ』


 ()()()()でもまぁいいが、と決戦なのにオリチェルザムは、狙いを弱める一言も出す。


 この三ヶ国目で、全員が片付けば無論、文句なしだが、女龍とコルステインがいる以上は、この手薄で通用しない。

 あれらの仲間を減らす方が、次が楽そうだと、切り替える。現に、あまりにも呆気なく、嘘みたいな成り行きで二人が死んだ。あれでいいなら、と雑音じみた笑い声が、愉快そうに石の部屋に響いた。


 二度めの旅の仲間は、ここまで脆くなかったなと、遥か昔のことも思い出す。黒く骨ばった姿を、曇る鏡に馴染ませてオリチェルザムは消えた。



 ―――気の抜けた開幕。 空と大地にあいた通路を潜る魔物の群れに、勢いはない。じわじわと、足場を抜く方へ進む。


 この初っ端は、南東部に出た魔物が、居合わせた龍族にやられるところから始まるが、そんなことも・・・言ってみれば、『それはそれ』とした始まりだった。



 *****



 居場所へ戻った『呼び声』は、精霊の関与でミレイオへの操作が妨げられたことを知った。


 サブパメントゥの宝石。その名前も手に入れ、後は自在に操るだけだが、それが出来ない。精霊の邪魔が一枚噛んだのは、完全な妨害ではないが、殺すことは出来なくなった。

 だとしても操ることは可能だが・・・自分にも想定外の衝撃を受けたため、暫し回復を待つよりない。


 龍が、妙な技を使うとは思わなかった。龍は、大振りの攻撃ばかりだと思いきや・・・あれだけなら逃げたが、二度目の攻撃に完全に足止めを食らった。


 この世界にないはずの力を使う、異界の精霊ダルナの仕業。

 急に固定され、そのまま別の物体になった。あれが何の状態か見当もつかない。足掻きが無駄な状態だったが、()()()()()で解けて抜けた。


『あの一瞬で当てられたら終わっただろう。解けた同時、どうにか』


『どうにか、じゃないだろ?俺が手伝ったから、お前はまだここに居るんだ』


 横槍を入れたのは、同じ古代サブパメントゥの一人。『呼び声』の危機を、間一髪で地下へ引きずり込み、逃がしてやった。


 最後の一瞬――― とは、白い筒が立ち上がった時。一瞬とは言え、ダルナの魔法が外れかけ、その隙をついた。


 紺と白の鎧に似た体は、横たわる柱に仰向けに倒れ、影にいる仲間の言葉に黙る。体が薄れ過ぎて、能力が覚束ない。意識を保たないと、()()()()()()体から離れかねない。


()()()


『なんだ』


『魔物の残りが出た』


『分かってる』


『残っている人間をこのまま片付け』


『龍がいるぞ』


『土の下からやれ』


 所々、音が崩れる声で『呼び声』は命じ、『脱け殻』と呼ばれたサブパメントゥは胡散臭げに相手を見る。


 時間は日中である。言われなくとも地上になど出はしないが、龍が来ていると知っていて、土の下から人間を操れと言うのは。

 黙って返事をしない『脱け殻』に、『呼び声』はもう一度急かす。


『あんなものを気にするな。龍は土の上。土の下深くまで及ばん』


 女龍の気に消されかけたばかりのやつが、仲間に命じる言葉と思えない・・・『脱け殻』も執念と執着は古いが、異界の精霊も自分らを狙う中、ここで無理に動くのは不利。


 魔物に乗じて、人間の数を減らすのは、手っ取り早いに違いないが、それは『出始めから中盤』で、決戦で畳み込むには、こちらに頭数がないと厳しい。現状では下手に出れば、こっちが減るのは火を見るよりも明らか。


 それならいっそのこと、次の国に魔物が移ってから、アイエラダハッド(この国)の人間をまた襲う方が、よほど都合良いだろうに―――


 既にそうして、()()()の人間を殺し始めたのだから、この国の面倒な状況は、もう捨てておいてもと思う。



 古代サブパメントゥの数は減っている。誘い操るに、ここまで自分らも()()()はしている。『呼び声』の使う『言伝』は古来から仕掛けてあった分、ここでは充分、人間を減らせたのに、まだ足りないのか。

 やりにくい状況で、出る気になれない『脱け殻』は、薄れる体のサブパメントゥに訊ねた。


『呼び声。何を拘ってる。この国は、あとは魔物が人間を減らすだろう。みすみす』


『情けないやつだ。龍が来たら動く気もない。俺たちは龍を引きずり下ろすんじゃなかったのか』


 女龍を相手に消されかけた『呼び声』は、仲間の及び腰を罵る。垂れた長い尾の先が床を一打ちし、尾の中からじゃらっと音立てた金属が落ちた。


『持っていけ』


 それは、鎖の切れ端。4つほどの鎖の輪が連なる短さで、『脱け殻』は側へ行き、これを拾い上げた。『呼び声』が耐えた理由はこれか、とやや驚かされる。女龍の気の中で、なぜ生き延びたか、そこまで耐性がないはずの『呼び声』のしぶとさに疑問だったが・・・


 鎖を拾った『脱け殻』は、これでサブパメントゥと繋がっていた『呼び声』が、龍に挑んだのを理解する。


『行け。俺が身を以て、それの効果を証明したんだ。龍に怯むな』


 改めて命じる『呼び声』の言葉に、鎖の切れ端を受け取ったサブパメントゥは、仕方なし、闇に溶ける。



 地上の人間を制圧してから、空へ上がる機会は、三度目の魔物が出た時―――


 制圧は、人間全滅を意味しないが、古代サブパメントゥの頭数を()()()()()は求められる。


 切れ端の鎖を、ぺらぺらの膜のような体にしまいこみ、『脱け殻』はサブパメントゥの闇を伝って、日中の地上、その真下へ移動する。


 井戸はもう、この国ではさほど役に立たない・・・人里はほぼ人間がいなくなった。精霊の力が増えた日の後、なぜか一斉に人間が減ったことを境に、人里に残る人間も、里を出て移動している。


『こうなるとな。()()()くらいしか使えそうにない。他の連中にも、遠隔の仕掛けを使うように言うか。後は、()()()で棘と移動か』


 自分らの数を維持しながら、戦闘放棄しない程度。

 ()()()―― サブパメントゥ遺跡 ――と、集めた棘を使うのも念頭に置いておく。あれを後々使えるようにしてから、アイエラダハッド(ここ)を出るのが良いだろう。


 鎖は、万が一の護身だが、これに頼る気はない。()()()()に遭う気もない。


『脱け殻』は面倒の少ない仕掛け技を選び、仲間にも同じようにしろと伝えた。

 鎖は、コルステインの親の持ち物で、『呼び声』が僅かに手に入れたのも何をしたか分からないが、誰もが持てるものではない。


 捨て身で挑むほど・・・『昔と違うんだ。呼び声』そう静かに呟き、地中から地上を『脱け殻』は透かし見る。


 土の分厚さを越えて感じ取る、地上の様子。龍の力が、この位置でも伝わる。命じた『呼び声』の気持ちは分かるが、妥当ではない。あいつは、()()()に拘り過ぎている。


 目的は『打倒、龍』じゃない。空を奪えば、自ずと結果は出てくるのだ。龍は、真っ向勝負で敵う敵ではないのは、骨身に染みて分かってる。



『お前だって、時期を待っていただろうによ。動き出した途端、待ち侘びた願いに火がついたか。この国で急いでも、こっちの不利にしかならんと思えんか』


 やるなら次の国だろと、独り言を落とし、『脱け殻』は広がる袖に似た腕を、地上へ向けた。

 地下から操られる、地面の曖昧な影が歪む。影という影に、操りの色をまぶしこみ、再び影が放されると、操りを含んだ影は人間を探して地面を這う。


()()()()のは結構だが、俺は熱で進まない性質だ』


 息巻く仲間と、少し温度差のあるサブパメントゥは、その場で成り行きを見る。

 地中にまで衝撃を感じる、龍の気配に警戒しながら。



 ・・・この、『脱け殻』こそ。

 二度目の旅路の頃、テイワグナのミニヤ・ミニの井戸に出たサブパメントゥであり、

 僧院の連中が使えると踏んで、接触による触発を選ぶサブパメントゥでもある。


 直近では、ゴルダーズ公の船に載せた船員に、『被り皮』も与えている。貴族に匿われ続ける、隠れ僧院の僧侶を丸め込み、船に送り・・・旅の仲間の妨害を目論んだ一件だった。


『脱け殻』は、幾らかの家族を持ち、似たような質のサブパメントゥを世界各地に置いている。

 その一人がフォラヴを倒したサブパメントゥで、性質は『脱け殻』に似て、無理はしない。あの後も、龍気に打たれるより早く、身を隠していた。



『脱け殻』は、空を狙う古代サブパメントゥとしては、動きが少なく、見極めた時にしか動かない。強さは、地味であるものの、残ってきただけの理由はある一人―――

お読み頂き有難うございます。


数日休みましたが、まだあと何日か休もうと思います。意識が続く時を使って、出来るだけ物語を書いています。

今回の決戦は少しイメージが違うかもしれないし、私もこの状態なので、話が長引く予定ですが、次からは連続で投稿すると思います。

不安定で申し訳ないです。修正箇所の時系列もまだ終わっておらず、いろいろと滞っていますが、落ち着いた頃に少しずつでもきちんと整えます。

次回まで、また少し開きますが、どうぞよろしくお願いいたします。いつもいらして下さって有難うございます。本当に、本当に皆さんに心から感謝して。

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