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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2364/2964

2364. 女龍と音

 

 龍族が降りるまで・・・二日は待つと見た夜が明け、朝も過ぎる頃。

 中間の地は早々、仕組んだ変化の坩堝にあった。



 ―――センダラの使う大型魔法による拍車は、空間のそこかしこを乱す。

 大量虐殺予告の朝から、異時空の裂け目を作ると承知で、魔法を使い続けた。必要なのは、人間へのある程度の気遣い、それと事態を余計に面倒にしないため、祠などの封じ門を含む場所への配慮。


 目的は、『片っ端から倒し続ける・減らし続ける』分かりやすいもので、それに沿わないことだけは気にしたものの、あって・ないような配慮に等しかった。


 余談だが、これが理由で各地の古い封じ門を抱えた祠は、不安定な状態になったし、何かが接触すれば、呆気なく壊れもした。

 ゴルダーズ公の船が大破した原因の一つ、川の祠も同じく。タンクラッドが単独で、魔物の門を封じるに成功したのも、同時発生が繋がった門のためで、皮肉ながら理由はこれだった―――



 イーアンと近い攻撃力を持つセンダラは、タイミングとして龍族に使い勝手良く、彼女に協力を求め、古代サブパメントゥを激減させる取っ掛かりを得た。


 今や、祠が門がといった注意事項は眼中にない。遠慮ないセンダラの攻撃で、弊害が利用へ変わる。


 魔物が漏れ出し、人里だろうがどこだろうが、異時空に呑まれる現象が広がる速度は、無論、犠牲者も増える。そして、地中に潜んでいたガドゥグ・ィッダン分裂が、地震を連発する。


 龍気()を立ち上げたら・・・『シムが先に行く。シムの用が終わり次第、イーアンとアオファ、男龍の誰かが行く(※2358話最後参照)』こう決定したビルガメスの言葉を、実行に移すつもりでいたが。


 イーアンが突然、動いた。男龍が気付いた時には白い尾を引き、イヌァエル・テレンの空を突き抜けた後。


 驚いた男龍は、その時、誰も彼女の側におらず、いきなり出て行ってしまったイーアンを、龍同伴の必要がないタムズが急いで追った。



 タムズは翼持ち。男龍最速はファドゥだが、翼の使い方と()()()の慣れは、イーアンに追いかけるに充分で、中間の地に彼女が降りる手前でタムズは回り込む。どん、と胸に当たる女龍。追いかけられていたのも気づいていなかったか、それとも気にしなかったのか。びっくりしたイーアンは、銀がかる赤銅色の男龍を見上げる。タムズもすぐ問いただす。


「イーアン、どうして」


「ミレイオが死にます!急がないと」


「ミレイオが死ぬ?」


 突っ込んだ女龍を、胸に抱きとめたタムズが、怪訝そうに聞き返す。顔が必死。ザッカリアのことじゃない。てっきり、彼の関係かと思ったタムズは、『ミレイオが死ぬ理由』を聞こうとしたが、イーアンはもがいて『あの方が死んでしまう』と叫ぶばかりで話にならない。本気で暴れてはいないが、抑え込むと強行突破しそうで、タムズは丁寧に静かにもう一回頼む。


「落ち着きなさい、今すぐ死ぬと言っているのか」


「今すぐですよ!早くしないと」


 金切声に近いイーアンは、『ミレイオが、ミレイオが』と名を呼ぶが、肝心の理由は言わない。


「イーアン。なぜミレイオが()()と言う。理由は、分かるのかね」


「私とミレイオは、魂の繋がりですよ!ずっと昔に、約束した姉妹・・・今、話している場合じゃないんだってば!」


 とうとう我慢が聞かずに怒鳴ったイーアンは、力任せにタムズの腕を抜け出す。タムズは急いでまた抱き留め、早く行かなければ、と涙目のイーアンをぎゅっと抱きしめ『私も行くから』と、顔を覗き込んで場所を聞いた。


「彼はどこにいる」


「ミレイオの気配が消えそう。多分、こっちです」


 一緒に行くと言ったので、すぐさま男龍を振りほどいたイーアンは、答えながら再び加速する。


 タムズは後をついて行くが、ミレイオの気配など、微塵も感じ取れない。イーアンが頼りにしているのは何なのか・・・もしや、本当に死に際かと過らせた。イーアンは直感に集中している。


 だがそれより、タムズに問題を感じさせたのは、()()()()こと・・・・・


 死んだ場合。ミレイオの代役は、予言にもない。そうなると。いや、ミレイオが宿()()()()()()()手前で死ぬなど、あるのだろうか?



 怪訝が立ち上がる。ザッカリアの死は、彼の立場上、変化の訪れがないことではない。だが、ヨーマイテスが離れた後で、ミレイオに嵩む荷は、運命上、増えたはず。彼まで死に迫られるなど、タムズに納得がいかなかった。


 仮に本当に死ぬことになったとして、ミレイオを蘇生する展開もあり得るが、それはミレイオの宿命『生きた宝石』の意味がない状態ではなかろうか。だとすれば、代役がいない彼の宿命は・・・と、ここまで考えた時、タムズの前を飛ぶイーアンが急下降した。


 見つけたか、と思いきや。ハッとしたタムズは止まり、今は行くべきではないと判断。イーアンは突っ込んでいく・・・が、タムズはここまでと決めて、イーアンを呼び止めもせず、空へ旋回。


()()は。私が近づけば予定が変わる。イーアンを止めるべきかも、私の範疇ではない」


 瞬時に判断したのは、イーアンと自分の別。そして、自分は『予定を狂わせる働きを選ばない』こと。女龍であれば、若干の狂いも枠内だろうと、タムズは考えた。ミレイオの()()()()()し、一先ず自分は戻る。



 タムズが止まった、理由。イーアンの目に映る相手。それはミレイオでも、ヤロペウクでもなく、『あいつ』だった。


 イーアンとタムズの耳に届いた、あの歌。タムズは感覚的に判断したが、イーアンは違った。

 あの歌は、ザッカリアの死に関わっている。歌の出所まで、あの時は分からなかったけれど、今は分かる。研ぎ澄ました集中力と直感の矛先は、歌の発生元を見抜いた。


 タムズと離れてから数秒―― どん、と地上に真っ白い光の玉が落ち、イーアンの暴発しそうな怒りが、モウモウと龍気をあげる。


 東部の南方。山脈手前で、丘の傾斜が小山の連なりに変わるそこは、細い川が多く、川が抜ける山塊のそこかしこは削れ、弧を描く山肌は影が複雑に入り交じる。


 イーアンが降りたところは、船一艘幅の川辺で、陽が斜めに差す朝は、濃い影を作る場所だった。


 何が隠れていようが、この龍気の眩しさ伴う怒りの女龍に、姿を出す者があるわけもないが、しかし、()()()は途切れない。あからさまな挑発と挑戦に、イーアンの表情は冷えきった仮面のように変わった。



「出てこい。ザッカリアとミレイオを襲った外道」


 この歌が関係したということは、目的は自分。女龍を目当てに、ザッカリアを殺し、ミレイオも襲ったとイーアンは関連付けた。肌で感じとる、歌にこもる恨みと呪い。

 ザッカリアを腕に抱えた私に、『龍。お前のせいだ』と聞こえた、あれ。この動きは、間違いなく()に向けている。


 関連付け以上の情報もある。イーアンは、この場所、ここにいる何者かに、ミレイオの魂の匂いを強く感じる。サブパメントゥに、ミレイオがやられたのだ。



「ミレイオ・・・あれの()か」


 不意に戻った声は合成的で、混ざる音が言葉になったよう。どこから聞こえるのか見当がつかない。ただ、側にいるのは感じる。頭の中に話しかけるサブパメントゥの方法ではなく、直接耳に届く異質。近くに見えないにも拘らず。


「出てこい。今すぐ殺してやる」


 イーアンに作戦などない。相手が誰であれ、殺してやるとしか思わない。こいつが何者かなんてどうでも良かった。


 だが、イーアンは地雷を踏んだことをふと思い出す。あ、と過った一瞬。名前、サブパメントゥにとっては―――


 相手も龍の微妙な意識を掴んだか、クックッと押し殺す笑いが届く。


「ミ・レ・イ・オ?だな?龍のような目を持つ、あれは」


 しまった、と気づいたものの遅い。合成の音声が女龍を面白がってからかう。


「気にするな。どうせ遅かれ早かれ、名はどこかで知る。龍のお前によって、それが早くなっただけの話だ」


「ミレイオを返せ」


 こうなったら力づくでも奪い取る。低く唸るイーアンの龍気が密度を高めて膨れ上がる。


「おお、龍よ。自尊心と傲慢の化身。お前たちは、それ故に考えないな。俺を殺すと息巻くが」


「出てこい」


「出ると思うか?察しくらいは、つけただろうに。あの子供が死に至ったのは人間の災い。関わりは、サブパメントゥ。お前の探すミレイオが死んだのも、サブパメントゥの・・・()()仕業なら。どうして龍に従うか。のこのこと」


「よく、くっちゃべるな」



 イーアンの直感が相手の場所を告げる。

『くっちゃべる』の呟きと同時、バガンと岩が砕けて川が飛び散った。轟く衝撃より早く、イーアンの龍気は壁を生み、指を組んだ隙間に唱えた一言が、絡め網に変わり内側から壁を覆った。


()()()()。生きてるか糞野郎?」


 顔の前に両手指を組んだまま、イーアンの鳶色の目が一転を見据える。影を弾き、僅かな暗所を保った一部、そこに尾のある巨漢の姿が蹲っていた。

お読み頂き有難うございます。

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