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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2356/2964

2356. 死者 ~③ヤロペウクの迎え・ザッカリア対話・仕組む発動①

☆前回までの流れ

殺されたザッカリアを蘇らせる存在、ヤロペウクを頼ったタンクラッドでしたが、船に戻りすぐに、ミレイオの捕まえた放火犯と遭遇。放火犯は異形の者で、宣告めいた言葉を残して消えました。

今回は、ザッカリアの船室から始まります。

 

 ヤロペウクが待っている―――


 私たちの頼みを聞いてくれるかしらと、ザッカリアの部屋へ向かうミレイオに聞かれたタンクラッドは、即答しづらかった。

『来た以上、生き返らせてくれる』とは・・・ミレイオも頭から思い込んでいるわけではなさそうで、タンクラッドの躊躇う視線に『何かあるのね』と、自分で答え、それ以上は聞かなかった。



 タンクラッドは、ヤロペウクが『お前も船へ』と教えた理由が、ミレイオの捕らえた犯人のことだったと知って、ヤロペウクという存在は何者なのか、妙に気になる。

 蘇らせる特異な能力以外にも、どこからともなく声を聞き取り現れたり、未来や離れた場所を見る力があるのだろうか。

 十人目の仲間が、ザッカリアの死に応じてくれること。

 生き返らせるかどうかは未定でも、とにかく一縷の望みを得たのに・・・タンクラッドがこの仲間に感じている感覚は、底知れない畏怖だった。



「入るわよ」


 部屋の前で一声かけ、閉じた扉を一度だけノックしたミレイオが引き手を回す。扉を開け、振り向いた二人の騎士の縋る顔に、タンクラッドとミレイオが『ヤロペウクが来る』と教えた。


「側にいらっしゃるかも」


 涙目で、フォラヴが窓の外をちらりと見て、気配を感じていたことを話す。ロゼールは解らなかったようだが、妖精の騎士はこれまでの誰とも違う気配に、生死の境目を肌に感じたと言った。


「お前がそう思うほどか。俺もロゼールと同じで分からなかったが」


「そんなの後よ。もう来ているなら、部屋に」


 ザッカリアの遺体を前にした短い会話は、ミレイオに強制終了される。頷いたタンクラッドは窓辺に寄り、外だろうかと窓を開けずに表を窺い見た。すると、夜の川辺に靄が立ち、窓にかかる。


「窓を開けろ、タンクラッド」


 ガラス窓の向こうから聞こえた低い声に、タンクラッドは彼だと知って、すぐに掛け金を外し、小さな窓を引いた。靄が、ザッカリアの部屋に滑り込む。夜霧とも異なる濃い靄は、目を瞠る全員の前で白く密度を高めたと思うや否や、白い髪と髭を持つ大男に変わる。



「彼が、ヤロペウクですか」


 この中で、ヤロペウクを知らないのはロゼールだけ。精霊の祭殿へ行かなかったロゼールは、現れた十人目に釘付けになり、思わず名を呼んだ。

 天井につく背を屈めたヤロペウクが、赤毛の騎士を見て『お前は、ロゼール。サブパメントゥの家族だな』と素性を知る言い方で返すが、ロゼールとの会話はこれで終わり。


 ヤロペウクの目が、横たわる遺体を見つめ、数秒してから『連れて行く』と皆に告げる。彼の顔は毛皮のフードに包まれて影になるし、髭も口元を覆うので、はっきり見えない。多くを喋らない男に、遺体から何を感じ取ったのか聞きたいが、タンクラッドもすぐに質問しづらく、小さく頷くのみ。


 ミレイオはそうはならず、ヤロペウクの大きな手が遺体に触れる手前で、『聞いていいかしら』と勢いで質問した。


「ザッカリアは、生き返るの?」


「ミレイオ。それをこれから、俺は考える」


「でも。その、イーアンが前、あなたに言われたことを教えてくれて、あなたは条件が合えば生き返らせてくれるって」


「考える」


「ヤロペウク、私はザッカリアがまだ死ぬようには思えないのよ」


 言いながら涙が浮かぶミレイオが、ひくっと喉を引き攣らせて声に詰まる。眉間にしわを寄せ、涙を落としたミレイオは『この子は、することがあるはずなの』と震える声で続けた。ヤロペウク以外がしんみりと同じ寂しさに俯く。


 大柄な男は、じっとミレイオを見てから頭を一度振り、『今は答えられない』とだけ返事をして、浮かせていた手をザッカリアの遺体に置いた。


 ザッカリアの体が吸い寄せられるように浮き上がる。皆の視線が集中する、ほんの数秒間。ヤロペウクの手の平に胸部を貼りつける形で、ぐったりとした少年の体は浮かび、垂れる手足を、もう片手でヤロペウクが包むように胸に抱えた。


 大きなヤロペウクの片腕に収まった、小さな遺体・・・・・ 十人目の仲間は、その場の四人に視線を渡した後、ザッカリアのベッドにいたシュンディーンに少しだけ微笑んだ。


「明日にまた」


 赤ん坊に約束するかのようにそう言うと、ヤロペウクは再び靄に変わり、開け放した窓の外へ消えた。



 *****



 二部屋しかない木の小屋で、ザッカリアは目覚めた。

 体がフワフワしている。目は開いたが、生きていないとは分かった。


 寝かされた質素な寝台は、藁を敷き詰めた上に粗布と毛布が無造作にかかり、体の上には何もかけられていない。衣服がいつも以上に暖かく感じて、何の気なしに視線を向けると、寝台の奥右側に暖炉があった。左側は、戸のない隣の部屋に続いている。


 小さい木製の机と椅子が一つずつ。寝台も一つ。暖炉があるだけの、素朴な部屋。

 奥の部屋も反射する炎の明かりが壁を照らしているので、暖炉はあっちにもあるのだろう。そこに、薄っすらと影が動くのが見えた。


 ザッカリアに感じるのは、温かさと明暗。俺はどこに居るんだろ、とゆっくり瞬きした。意識はぼんやりしていて、恐怖心も挫折感もなかった。



「俺と話が出来るか」


「ヤロペウク?」


 隣の部屋から声が聞こえ、姿を見せる前に、誰だか分かったザッカリアが名を呼んだ。大柄な男が来て、寝台から離れた場所にある椅子に掛ける。不釣り合いなほど小さい椅子が壊れそうだな、とザッカリアは少し思う。


 ヤロペウクはそんなことに構わず、素朴な格好で寛ぐ。精霊の祭殿で見た時は、毛皮の上着だったが、今は普通にチュニックとズボンと革の靴。ザッカリアは、ここが彼の家かもと、『俺はどこに』と訊ねた。


「休憩している。お前の魂が繋がっている家にいる」


「そうか。俺の体はどこ」


「近くにある。お前の選んだ使命は何か。俺に話せるか」


「話せるよ・・・ 俺が殺されたら、サブパメントゥの加速を、ここで止めるきっかけになる」


「殺されなかった場合は」


「人間は、等閑になるだろうね。天地の戦いにもつれ込むから、総長たちは、イーアンやコルステインの協力を得られなくなる」


 サクサクと話す少年に、質問を一旦止めたヤロペウクは、彼の言わんとすることを要約する。


「・・・お前が死ぬことで、サブパメントゥの拡大を抑える。その解釈で良いな?」


「そう」


 ヤロペウクはじっと少年を見つめ、少年も大きな十人目の仲間を見つめる。『俺は、間違っていない』静かに言い切った少年が目を伏せ、ヤロペウクも何度か頷いた。


「『龍の目』、勇敢で潔いと言っておくか。だが、仲間も時も、お前をまだ求めている。どうする」


「俺が()()()()()()()?そう言ってるの」


 質問に、ヤロペウクは一呼吸置いて、説明を添えて答える。



「そうだ。お前は殺される未来を、躊躇せずに選んだ。悍ましいかどうかさえ、知らずに。恐怖と痛みは、サブパメントゥに()()()()お前を襲った人間ではなく、()()()()()()()()に感じただろう。

 お前の続きを担う者がいるとすれば、それは『龍の目』ではない。ただ、それも世界にとって、求められる動きが取れるかどうかというと、俺にそうは思えない」


「・・・もうちょっと簡単に」


 眠気が襲うザッカリアは、片目を瞑って、長い説明に理解できない。戻った意識の制限時間は、急速に引いてゆく。ヤロペウクも、次に話す時の課題として、抜粋で教えた。


「お前の死は、お前の見た未来を回避するが、続きは()()()()()()を壊す可能性が高い」


 眠気が。眠い。 どうしようもなく、眠くなる。 ザッカリアは、どんどん逃げて行く意識を掴むように、目をぎゅっと閉じ、頑張ってもう一度瞼を開く。


「俺の探し物を壊す?()()。それはミレイオとバニザットの」


 途中まで言いかけて、ザッカリアの意識は落ちる。

 椅子からゆっくり立ち上がったヤロペウクは、少年の側へ行くと、『()()()』と返事をし、眠った少年に両手を(かざ)して、二人共空気に消えた―――



 *****



 夜の真ん中で、永遠の光を持つ龍族が、地上を見下ろす。


 ビルガメスは、アオファとイーアンを側に置き、龍気を保ちながら、これから何をするかをイーアンに説明していた。ずっと腕に抱えられたままのイーアンは、はい、と答えるものの、気が散漫で、怒りに囚われ続けており、ビルガメスは何度も同じことを繰り返して聞かせた。


 いつもなら『ちゃんと聞くように』と注意するが、イーアンの怒りが静まらない今を、ビルガメスは止めなかった。


 この、『女龍の怒り』が()()()()()もある―――



「そろそろ、だ。あの空の下で、()()が次の魔法を使う。それに合わせて、お前もこの直下へ龍気を当てろ」


「はい」


「出来るか。俺も手伝って構わんが、俺とお前だとやり過ぎになりかねん」


「出来ます」


 ふーっと息を吐いた女龍は、気を持ち直そうとして首を上に向け、目の合った男龍に『出来ます』ともう一度伝える。頷いた男龍は、何度も話したことを最後に一度繰り返した。


「お前と妖精の振動は、時空を刺激する。不安定な時空は、魔物の門を繋ぎ、『空に繋がる力』が()()()()


 空に繋がる力=地上にあるガドゥグ・ィッダンのことだが、イーアンが名称を知ったらしいにしても(※イーアンの書庫で)、ビルガメスは直にその名は言わずにおく。普段は細かな含みに気づくイーアンも、この時は言われるままに小刻みに頷いて、頭の中で反芻している状態。イーアンは、9割以上が極度の感情に意識を連れて行かれており、耳で聞いたことも繋がっていない。


 危なっかしいには危なっかしいが・・・ ビルガメスは、このイーアンを使うに最適と判断している。


 もう一つ、ビルガメスが言わなかったこと。そしてイーアンが気付かなかったことがある。それは―――



「イーアン、今だ」


「はい」


 遠い空の地平線で、水色の爆発が弾ける。センダラが破壊した爆風が、鼓膜を圧す勢いで届く瞬間、ビルガメスの号令に応じたイーアンの、真っ白な龍起爆が直下の大地を撃破した。

お読み頂き有難うございます。


昨日は病院の用事でお休みしました。

先天性で抱えている脳の機能の問題が顕著になっており、普通でいられる時間が少々危なっかしい状態です。

年末、キリの良いところまで物語を運ぶ予定です。一日に複数投稿する日や、休む日、少し乱れが出てしまうかもしれないのですが、どうぞよろしくお願いいたします。

いつも、来て下さる皆さんに、本当に励まされています。皆さんに心から感謝しています。有難うございます。

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