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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2354/2964

2354. 死者 ~②希望・精霊の意向とは・ロゼールの情報

 

 ドゥージが消え、ザッカリアが死に―――


 イーアンはビルガメスに連れられて、オーリンもついて行った。


 船の主ゴルダーズ公も、船諸共木っ端微塵。遺体収拾は適わず。

 事故に見せかけた犯罪の疑惑が、同じ船に乗る船員にあり、オーリンは出発前、怪しいと踏んでいた人物が『人間かどうか』と濁した。


 ドルドレンはあの朝―― 知恵の還元 ――以降、ポルトカリフティグと出て、一度も戻っていない。

 ロゼールも、デネヴォーグの町を出てすぐに、魔物製品を集め配る目的で、ハイザンジェルへ行ったきり、の現状。



 ザッカリアの遺体を前に、『死者をよみがえらせるヤロペウク』を呼べたらと気づいたミレイオは、自分は旅の仲間ではないから呼べないと思い、急いでタンクラッドを探しに部屋を出た。


 ザッカリアを運んだ寝室は、最初こそ他の者たちもいたが、ミレイオが縋って泣くのをそっとしておくとして、シュンディーンとミレイオを残し、皆、出て行った後。フォラヴは自室に戻り、タンクラッドは甲板に戻って暗い夜を見据えていた。実際は、トゥが話しかけるのを、外で聞いている具合だったが、ここへミレイオが来て中断。

 慌てふためくミレイオは、シュンディーンを片手に抱えてタンクラッドの肩をもう片手で掴むと振り向かせる。



「ヤロペウクよ、彼を呼ぼう!」


「ヤロペウク?・・・ザッカリアを蘇らせるのか!」


 すぐに思いつかなかった、秘策中の秘策。有り得ない技を持つ、十人目の仲間を呼ぶ時だと、剣職人の腕を掴むミレイオに、タンクラッドも『その手があった』と目を丸くした。


「そうだ、彼なら。イーアンしか呼べないってことはないはずだ。ぬ、だが。ちょっと待て」


「何?」


「今、ダルナと話していた。その後、コルステインを呼んで、ビルガメスの言葉を伝えようと思っていた」


「そんなの今じゃなくたって良いでしょ!ザッカリアの体が腐ったらどうするのよ!」


「わかってる。だが、コルステインには先に伝えないと」


「ザッカリアを守る方が先でしょうがっ!早く呼べよっ」


 キレたミレイオの口調が変わる。

 本当なら我を忘れるほど怒りに呑まれているところを、ビルガメスが先に手を打っていたから、どうにか押し止めていた気持ち。ザッカリアを殺した輩へのビルガメスたちの制裁は圧倒的、と思えばこそ、無理やりでも抑え付けた、『ザッカリア殺害への怒り』。

 助かるかも!と気づいた今、何が何でもヤロペウクを呼びたい。悲しみが一縷の希望に変わったのに、タンクラッドのまごつくトロさに苛立ちが爆発した。シュンディーンが怖がって、ミレイオの服にしがみつく。


「タンクラッド!呼べ!」


「落ち着け、ミレイオ。分かったから手を離せ」


 タンクラッドの意識に話しかけていたトゥが『後でだな』と下がったので、タンクラッドは、腕を千切らんばかりに握るミレイオの手を離すよう頼む。ミレイオは白目をむいて剣職人を睨みつけ、手を振り放して悪態吐く。


「よく()()に出来るもんだ、ザッカリアが生き返るかもしれ」


「なんですって?今、何て?」


 真横に聞こえた声で、パッと顔を向ける二人の横。どこから来たのか、赤毛の騎士が甲板に足を下ろした。大きな紺色の目を丸くして、愕然とした顔で呟くように尋ねる。


「ミレイオ・・・『ザッカリアが』?」


「ロゼール」


「ザッカリア、どうしたんです。生き返るって?()()()って意味ですか?!」


「ロゼール、ロゼール大丈夫だ!」


 タンクラッドが急いで側へ行き、叫んだ赤毛の騎士を抱き寄せる。『ザッカリアはどこですか』腕の中で叫んでもがく騎士に、隣に立ったミレイオは溜息を吐く。暴れ出しそうなロゼールをがっちり抱きしめた剣職人は、こちらを気にする船員たちをちょっと見てから『中で話す』と静かに伝えた。ミレイオも、一分前まで取り乱していた自分が、ロゼールによって冷静さを戻すなんて、と思う。


「ミレイオ、タンクラッドさん。ザッカリアに何があったんですか」


「中で・・・あ。あんた、もしかしてコルステインに会っていた?」


「それよりザッカリアが」


 さっきまでの自分とタンクラッド状態。ロゼールがコルステインに会っていたなら、もう一度会って伝えられたら、と一瞬過った言葉は、『()()』。眉根を寄せる剣職人が黙っているので、ミレイオは溜息交じりに『ごめん』と質問を切って、一先ず部屋に連れて行った。



 *****



 ザッカリアに何があったんだと、心臓が飛び出そうなロゼールは、息も荒く嫌な予感が近づく数分に、気が変になりそう。


 ギィ、と軋む音を立て、一室の扉が開いたそこに、ランタン一つ。寝台に横たわる人影を見て、ロゼールは呼吸が止まりかけた。タンクラッドの手を抜け、よろけながら寝台に寄り、痛めつけられた傷だらけの遺体に震える手で触れた。


 ポタっと涙が落ちる。涙は一滴落ち、続けて流れ落ちる。ボロボロのザッカリアは冷たく、膨れた皮膚の痛々しさは、目にしただけで何があったか想像できた。



「ザッカリア・・・お前、こんな」


「ロゼール。今から、話す。それと、しなければいけないことも言っておく。お前の話はその後で聞く」


「俺、俺の・・・話なんか・・・いい、です、から。何でです・・・か。何でザッカリアが」


 泣きながら振り向くロゼールに、タンクラッドは額を少し掻いて『現場は知らない』それを前置きに、ビルガメスが彼を運んだ所から教えた。ビルガメスも詳しくは言わなかったし、イーアンは喋れないほど衝撃を受けていたため、ビルガメスとの会話内容だけしか情報はないと、何度も念を押すように言った。


 なぜ、どうして。誰が。いつ。 目で訴える騎士に、ミレイオもタンクラッドも同じことを思う。だが、彼らも知らないのだと、赤毛の騎士は目を伏せる。


「それで・・・オーリンとイーアンは、ビルガメスと一緒に。『報復』ではないんですね」


「彼は『違う』と言ったな。報復とも仇討ちとも違うだろう。これは『空の動き』として対処する、と言っていた」


 タンクラッドの返答に、ロゼールは涙を拭きながら溜息を落として、動かないザッカリアをじっと見つめ、視点を変えた思いを呟く。



「関係ないとは思えないんですが・・・メーウィックの手記に、『三ヵ国目は人を計る』と。アイエラダハッドに来てから、精霊が全ての人間を救うわけじゃないの、度々ありましたよね。ザッカリアも」


「分からん。だが、精霊の意向は()()に及んでいるだろう。言われてみれば・・・だ。俺もイーアンも、精霊の指輪がいざ揃った時、『人間が振り分けられる(※2348話参照)』ことを伝えていた。俺たちの意思にさえ、知らぬ間に『そうなる流れ』と及んでいそうだ・・・あの時は、気付かなかったが。

 空の一族のザッカリアの死となれば、お前の言う『計る』ではにしても、だ。 精霊の何かしらが、複雑に絡んでいるとしても変じゃないだろう」



 そう言いながらも、タンクラッド自身、自分に言い聞かせる想いもある。ザッカリアは無下に殺されたわけではない、とどこかで信じている。


 ロゼールは鼻をすすり上げ、冷静に答えた親方の言葉に、ぐちゃぐちゃになってしまった意識を落ち着かせた。落ち着かないが、落ち着くように。ザッカリアのために。俺は何が出来るか。


 ぐっと目を閉じ、頬を濡らした騎士を、職人二人は見つめる。ミレイオは『ヤロペウクを呼んで』と今度は静かに、タンクラッドに命じた。ロゼールの目もすっと開き、タンクラッドとミレイオを交互に見る。



「ヤロペウクと言う人なら。ザッカリアを生き返らせるんですか」


「決定じゃない。彼は精霊に近い印象だ。だが、()()()()()()()と、彼自らイーアンに話したことがあるらしいし、頼むだけ頼んでみる」


 壁に寄りかかっていたタンクラッドは体を起こし、ザッカリアをじっと見つめると『待っていてくれ』と・・・一言落として、部屋を出て行った。


 タンクラッドが廊下に消え、ミレイオは『コルステインに伝言があって』と、言い難そうに話した。

 ビルガメスは、残党サブパメントゥを引きずり出してでも殺す気だろう、と見当を付けている。そうなると、コルステインたちにも被害が出ないとも限らない。


「光・・・ですものね。龍は」


「ええ。彼らの光を浴びたら、コルステインたちも」


「分かりました。俺、少し前まで・・・一緒だったんで。俺が今、伝えに行きます。その、ドゥージさんも()()()んですよね?」


「知ってたの?」


 寝台の前に並んでしゃがみ込んでいた二人は、俯かせていた顔をそれぞれ見合わせる。はい、と力なく答えたロゼールにミレイオは強く同乗する。彼の頭に腕を伸ばし、赤毛の頭を胸に抱き、撫でて無言で慰めた。


 ロゼールはドゥージが消えたことも、コルステインに聞いた後だった。

 彼にとって、どれくらい辛かっただろう。アイエラダハッドに来てから、仲良くなった二人は、どことなく親子のように見えた時もあった。

 それが、ドゥージが消えた知らせの後で、ザッカリアの遺体まで見たら―――


「辛いね」


「はい」


 赤毛の髪を撫でるミレイオも、涙が止まらない。ロゼールもミレイオに抱きしめられながら、大人しく泣いた。シュンディーンも泣き止んだ後ではあったが、またポロポロと涙を落とした。



 *****



 タンクラッドが戻るまでの間。ロゼールは涙を拭き、コルステインに会いに行くと船を離れ、ミレイオとシュンディーンは、ザッカリアの寝室で、溜息だけが続く時間を過ごした。


 数十分後、部屋に直に現れたロゼールが先で、まだタンクラッドは戻っておらず、ミレイオは赤毛の騎士に礼を言う。コルステインに会えたのね、と言うと、ロゼールはまた消沈した様子で頷いた。


「どうした?何か問題?」


「いえ。コルステインは了解しました。龍族が動くとなれば、龍気が凄いから、暫く地上に出てこないかもしれません」


「そうよね・・・アイエラダハッドに、龍気がどれくらいの期間渡るか」


「なんか、もう。既に感じ取っているみたいで。地上限定じゃなさそうなんですよ。地下も・・・サブパメントゥじゃなくて、地面のすぐ下の意味ですが、地下も龍気が来てるようです」


「地下に?あ・・・もしかして」


 ミレイオに過るのは、地下神殿。テイワグナのヴィメテカの時や、海底の神殿遺跡が、凄まじい状態になった時。


 龍気を求める遺跡が動き出すと、そこら中の何でも気を巻き込んでしまうと、バニザットに教わった。龍気じゃなくても、らしいが、龍気が満ちないと吸引が拡大する。

 それで、ミレイオが手伝った時は、『龍気を引く』と『出す』とか、未だに意味がはっきり分からない手伝いをした(※1628話参照)。


 ビルガメスが来た時点で、あの遺跡何かするのかも、と考える。が、ここ止まり。


 ミレイオは深く知らないし、曖昧なことだらけなので、『そうなの』とロゼールに相槌を打った。ロゼールの沈んだ顔はちらっとこちらを見たが、変わっておらず、他にも心配があるのかと訊ねてみた。


「心配じゃないんですが・・・ アイエラダハッドの国民が、すごい減ったらしくて」


「ああ・・・そうね。さっき話してなかったけど、そうなの。十日くらい前だったか、精霊絡みで発端があったのよ」


 知恵の還元と精霊の導きのことか、とミレイオが説明しようとすると、ロゼールは大きく息を吸いこみ『それは何となく知っています』と言う。続けて『人数、やばいです』項垂れながら舌打ちする。


「どうしたの?コルステインに聞いた、とか?」


「はい・・・メドロッドに、ちょっとだけですけど。現時点、全国で一~二万人の数しかいないらしいですが、その人たちの多くは、コルステインと敵対してるサブパメントゥに」


 言葉を止めた赤毛の騎士から、辛そうな溜息が漏れた。ミレイオも何とも言えない。これまでも操られる人口は増えていたと思うが、土地の邪も同じように人間を使うので、操作されていた犠牲者はかなりの数に上るだろう。


 ここへ来て、精霊の導きから残った人々の殆ど、掌握されてしまったとは。



「それ、操りが利かない、とかないのかしら?()()()()()()()武器と防具を、持つ人もいるんだし」


「そういうの使う人たちは・・・ 大丈夫かもですが。メドロッドが言うには、『殆ど』の人だって」


 心が傾いている状態だと、サブパメントゥは入りやすい。この状況はもってこいなのだと分かる。嫌だが、ミレイオも理解できる。ロゼールの舌打ちの理由は、『残っている人間が敵に回った』意味であるのも・・・・・


 はぁ、と息を吐いて、ロゼールがザッカリアの遺体を悲しい目で見つめた。


「人間相手に、俺は倒せるだろうか」


「倒すのよ。相手が誰であれ、三ヵ国目の時期はそれを求められている」


 即答したミレイオを見ず、頷くロゼール。ミレイオは勘付いたことだが、ロゼールはまだそう思っていないのか、ザッカリアは恐らく人間相手にやられたのだということを知ったら、ロゼールも意識を変えるかもしれない。


 ビルガメスが『思い込むな』とタンクラッドを窘めたのは、まさにそれが当たっていたのでは。



「ミレイオ」


 バタンと扉が開いて、ハッとしたミレイオたちが戸口を見ると、タンクラッドが入ってきて『ヤロペウクに会いに行く』と教えた。


「どこへ?」


「ここで船員たちに見られても、何があるか分からん。俺は少し船を降りるが、お前とロゼール、フォラヴで留守を頼む」


「 ・・・・・分かった」


 今までどこでやり取りしていたのか、タンクラッドは詳細は喋らなかったが、ミレイオに留守を預ける確認だけすると、頷いてまた出て行った。


 自分もシュンディーンも、フォラヴもロゼールも。()()()()()強いから、と思うが。ミレイオは今日、『不吉の詰め合わせ』に感じている。


 タンクラッドが出て行ったことで、また何か起こりそうで・・・ ごくっと唾を呑んだミレイオは、フォラヴも部屋へ呼ぶことにし、皆で同じ場所―― ザッカリアの寝室 ――に集まっていよう、とロゼールに言った。


 ミレイオはフォラヴを呼びに行き、フォラヴと共にザッカリアの部屋へ戻る。シュンディーンをザッカリアのベッドの端に乗せ『待ってて』と、ミレイオはまた部屋を出て行った。

 何と言う理由もないのだが、ミレイオは船倉の馬車と馬を見に行く。警戒すると、予感のようなもの全て確認したくなる。


 そして船倉の通路へ入った時、ミレイオの勘は、当たる―――

お読み頂き有難うございます。

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