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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2346/2968

2346. 待つ人リチアリ・二人め探し

※明日25日(土)の投稿をお休みします。体調の都合でご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 リチアリを探しに来た二人は、古王宮がまさか瓦礫の山に変わっていたとは、思いもよらず。


 それは、多くを見抜くダルナ・トゥも同じ。理由など知る由ないが、トゥの能力は使い方次第。それを、この特殊な能力持ちはよく解っていた。



「トゥ。リチアリという名に反応して、そっちを見ているのは、もしや」


 タンクラッドは、トゥの仕草から、リチアリを感じ取ったかと訊ね、当たらずとも遠からずの返事が戻る。頭の一つで背の主を見たまま『古王宮とやら、ここに』の出だしから、ダルナは順を追って話し出す。


「その者がいた。どれくらい前か、十日は過ぎたやも知れん。最後にこの王宮にいたのは、その者と()()()()、そして精霊。一番最後まで残ったのが、恐らくリチアリ。

 古王宮に残った記憶の最後。その者・・・リチアリとして、それが他の者の名や、現象を」


「聞かせてくれ。他の者の名は?現象とは」


 遮って食いついたタンクラッドに、ダルナは『他の者の名は、ルオロフ。現象は、知恵の還元と、ルオロフが連れて行かれたこと』そう短くまとめて教えてやった。タンクラッドとイーアンは顔を見合わせ『ルオロフ?』初めて聞く名前を同時に口にする。


「知恵の還元が起こったのですね。古王宮(ここ)で」


「そうらしいな。リチアリは逃げられたのだろうか」


 ルオロフは正体不明の者として、リチアリが知恵の還元を起こし、そして古王宮が崩れたことまでは理解する。

 最後の記憶、とトゥが言ったのは、瓦礫に埋もれてしまったからなのか、それとも生きているのかと、タンクラッドが思った矢先、トゥは二つの首を川の方へ向けた。


「推測だが。リチアリ、その男はあの川辺にいる」


「本当に!」 「行ってくれ。生きているのか」


「生きているな」


 答えたトゥの感覚には、リチアリ(話題の男)の思念らしきものが伝わっていた。

 その思念と、タンクラッドたちの話が噛み合う。念じる内容に、女龍の名を何度も呼んでいるので、あれがそうだろうと見当をつけた。

 ただ、多くの者は、自分で自分の名を呼ばないから、本人かどうかの確定は控え、()()とはしなかった。


 だが、千里眼のダルナは慎重でも、二人は気にしない。

 このダルナがそう言うなら!と、もう信頼しているイーアンたちは、早く早くと移動をせっついた。トゥは二人を連れて、すぐに川上へ移動。一瞬の移動は『王冠』と同じ。イーアンは、ダルナ全員これが出来るのだろうか、とちょっと過ったが、今はそこではない。



「リチアリ!」


 明け方の光差す川上に、馬と人。川下には、襲われて壊れた船着き場。名を叫んだイーアンが、翼をバッと出して飛んだすぐ、川辺に立っていた人物が空を振り向き『イーアン!』と嗄れた声で、名を呼び返す。


「リチアリ、無事で」


「来てくれたんですね!ご主人様たちは」


「え?いえ、私はタンクラッドと、その、あれはダルナで味方。彼らと一緒にたった今、来ました」


 空から下りて来た女龍に両腕を伸ばし、側まで来るやイーアンを抱き寄せたリチアリは、ギューッと女龍を抱きしめ『ありがとう』と涙を滲ませて、再会を感謝する。


 イーアンも彼の背中を摩り、『怪我は?何があったんです』と早口で問う。声がガラガラで、リチアリの汚れ方は普通ではなく、頬のこけ方も尋常ではない。イーアンを抱きしめた庭師は、はーっと安堵の息をつき、我に返ったか。慌てて腕を解き、『すみません』と体を離した。


「いいのいいの、そんなの。リチアリ、息から胃の臭いがします。もしかして、随分食べていないのでは」


 はい、と頷いたリチアリの上に、影が横切り、どさっとイーアンの横に()()が下りる。

 振り向く二人の目に、仏頂面のタンクラッドが睨んでおり『抱き着く奴があるか』といきなり文句。すみません、とまた頭を下げたリチアリの前に、イーアンはそそくさ回り、妬いているらしき親方から彼を隠す。


「なんですか、そんなこと。彼は何日も食べていません。空腹のまま、ひたすら私たちをここで待っていたのです」


 多分そう、と思ったことをタンクラッドに言い切ってから、リチアリをちらっと見ると彼も頷いた。やっぱりそうかとイーアンは同情が募る。餓死寸前、餓死してもここで待つ気だったのだ。タンクラッドも仏頂面そのままに『まぁ・・・そうか』と少し落ち着く。


「リチアリに用事だが、その前に腹ごしらえか。まずは食事」


 喋ること、そして、立っていること。これだけでも強烈な疲労のリチアリは、安心から膝をついてそのままへたり込んだ。慌てたイーアンは龍気を少し流しながら『龍気は一時凌ぎですが』と回復を試みる。それから振り返って親方に頼む。


「タンクラッド。何か買ってきて下さい」


「ぬ。俺におつかいへ行けと言うのか」


「あなた、龍気出せないでしょう。いくら何でも。そこかしこ魔物に襲われているでしょうから、どこかで食べ物調達して下さい」


 言い包められたタンクラッドが頷きもせずに、くるっと踵を返すと(※おつかい承知)銀色のダルナは地面に足を少し浮かせたまま『食べ物か』と用事を聞いた。


「聞いてただろ。リチアリは数日食べていない」


「正確には一週間か。持ってきた食糧が尽きてからは、水と気力。馬は草があって助かったな」


 水だけで一週間。死ぬ気でここにいたのか、とタンクラッドは座り込んだ男を見た。『食べ物を買う』とダルナに伝えると、ダルナは長い尾を一振りし、そこに主食の塊を出す。目を丸くする主に『人間が食べるものは、これだろう』と、どうってことなさそうに、尻尾の先でタンクラッドにそれを押しやった。


 イーアンも目端で捉えた瞬間に、びっくりして凝視。お尻尾の先っちょでパンの塊をずらす(※汚れる)ダルナに、ちょっと待ってと急いで走り、パンを抱え上げた。


「凄いことをされます。食事まで出せるのですか」


 ぱっぱ、とパンの底を叩くイーアンに、『他にあるか』とダルナが訊ね、それならと思ったイーアンは、食事のテーブルのイメージを思い描く。トゥに伝わりやすい写実的なイメージは、あっさりと叶えてもらえた。


「焼けたお肉と、お芋と、パン。これだけあれば。有難うございます」


 ニコッとした女龍は、頭を下げてお礼を言い、それらを抱えてリチアリの元へ戻る。トゥは、食べ始めた男と傍の女龍を、一方の頭で見ながら、タンクラッドにもう一つの頭を向ける。主は無表情だが、自分への驚きを持った様子。



「なんでも、だな。イングやスヴァドも食事を出してくれたが、ダルナの魔法は何でもありか」


「ダルナ全体が、食事だ何だまで出せない。人間の生活を知っていることも、出せる要素の一つ」


 その意味は言わなかったが、タンクラッドは銀のダルナの言葉に理解する。

 彼らは・・・破壊してきたから。人里も人間の殺傷も、この世界に来る前は。そうか、と頷いたタンクラッドが、トゥの側に寄り、大きな体の足を撫でる。


「有難うな」


「何てこともない、些細なものだ」


 ダルナへの理解を示す主の心が、ちょっと近づいたその反対側で、イーアンはリチアリが今、何をしていたかを聞いて度肝を抜かれていた。



「あなた、死ぬ気でしたか」


「死にたいわけはないですが、覚悟はしました」


 夜明け前、もう体が持たないだろうと、感じていたリチアリは、死ぬ覚悟をしてイーアンを呼んだらしかった。

 イーアンはそれを受け取っていなかったが、彼は残った気力を注ぎ込んで、途切れる意識をどうにか持たせながら、一心不乱だったという。


 だから・・・このベストタイミングで現れた私を抱きしめたのか、と知ったイーアンは、最後の力を振り絞った話に切なくなった。リチアリはガツガツ食べながら、少しすまなそうに微笑む。


「でも。違ったんですね、イーアンが来たのは偶然でした」


「だとしても、精霊の取り計らいですよ。あなたの命が尽きては大変でした」


「私も。尽きる訳にいかない、と。思い残すことがあるので」


 口いっぱいに主食のパンを詰め込んで、んぐんぐするリチアリに『まず飲み込んでから』と注意して、イーアンは彼がパンを飲み込んだところで水を渡す。龍気もまだ流しているので、リチアリは回復が早い。


「すみません、龍気でしたっけ。あなたの力を分けて頂いているのが伝わります。驚くほど速く、私の力が戻っています、それに食事も」


「食事は彼ですよ、ダルナ。それで?思い残すこと、とは」


「はい。話の段取りもなく、前後しますが。古王宮で知恵の還元を行った後、私にはもう一つの役目があることを意識していました。私は民に()()()()のです」


 リチアリの一言に、イーアンは固まる。『そうです、私もそれであなたを探して』と言いかけ、リチアリの深緑色の瞳が向く。


「そうでしたか。詳細は知りません。ただ、私が民の手伝いというか、世界の旅人が民に気を取られず動けるよう、民の逃げ道に手を貸すような、そうした使命を占いで見たのです」


「まさしくそれです!リチアリ、私は先ほど、指輪の精霊・・・って言われても解らないですね。私もいきなりで申し訳ない。あなたは間違いなく、民を導く人の()()。良かった・・・安心しました」


 今度はリチアリがちょっと固まり、何度か瞬きすると、焼いた肉の一切れを口に入れて『もう一人いますか』と聞き返した。イーアンは顔を上げる。


「はい。精霊の指輪という道具がありましてね。それで、民を保護して下さる精霊を呼び出したのですが、精霊は祈祷師を二名、連れて来るように言いました。間違えないよう、判別するにはどうしたらいいかと聞いたら、その二人は精霊の声を聞いているそうです。

 私はリチアリしか思いつかず、もし違ったとしても、リチアリなら何か知っているのではと思いました」


  これを聞いて、リチアリは少し目を彷徨わせた。『正確に』でなくても良いのであれば、と前置きする。



「・・・祈祷師ですか。私は占い師ですが・・・精霊は大別しているから、同じような立場の人もいるかもしれません。今すぐに、私が言えることがあるなら、それは精霊の部族ではないかと思いました。

 私と同じ部族か分かりません。私の出身地には、精霊の部族でも、生活傾向が異なる者たちもいます。()()()()()()となると、時期的に移動している場合もあるでしょう。占いや祈祷に長けた者は確実にいますが、探すのに」


「あ。います」


 リチアリが考えて教えてくれた内容に、イーアンはヒントを得た。過ったのは一人だけ。()()()・・・彼であれば。彼じゃなくても、彼も占いの玉を見て、次を教えてくれるだろう。


 自分を見たまま、何か思い当たったらしきイーアンに、リチアリは『心当たりでも?』と訊ねる。イーアンはゆらゆらと首を動かし『今までに、一人だけ』とその人の話をした。



「ああ~・・・ なるほど。それは確かめに行った方が良いかもしれません。『女龍が思い出した』ことは重要です。タンクラッドさんたちは、その人をご存じないんですよね?」


「はい。会ったのは私と、いつもは別に動く仲間(※魔導士)でした」


「イーアン。私の馬も一緒に、その人に会いに行きたいです。どうにかなるでしょうか。私が話せば、きっと」


「そうして下さい。渡りに舟とはこれですよ。お馬も連れて行きましょう」


 はい、と頷いたリチアリは、馬に微笑みかけると最後の肉を口に押し込み、立ち上がる。離れて見ていたタンクラッドとトゥも、行く準備完了と知り、目を見合わせた。タンクラッドは、ぼそりと銀色の顔に呟く。


「お前も一緒に行くのか」


「そう言ってるだろう」


 どこまでも離れる様子がないダルナの即答に、親方も言い返す気にはならない。黙って頷き、それならと、トゥの力に目一杯頼ることにした。



 *****



『王冠』に使用回数の制限があったのを思うと―――


 トゥは、制限など何にも気にしないように見えた。ホイホイ運んでくれる。お願いするより早く、『移動か』と聞かれる質問に『はい』と答えれば、呆気なく瞬間移動行き。


 確かに、イングが前『王冠はダルナの力の一部』と言っていたから、トゥが『王冠』と同じ移動手段を使えるのは、何ら不思議ではないのだが、イングたちに瞬間移動を頼むことがなかったのもあり、トゥは大盤振る舞いに感じた。



 リチアリと彼の馬を連れて行くと決まり、トゥは二人を箱に入れた。武器や防具を出荷する時に使うコンテナ・・・そのものに、リチアリと馬が入り、ダルナはイーアンとタンクラッドを背に乗せて、一瞬で移動。


 揺れたかどうかも気づかない内に、全く違う風景の空に出て、イーアンは頷く。


「ここです。モティアサス」


 モティアサスも、あの時は被害がなかったものが。『ここも例外にはならなかったのね』嘆息する女龍は、イジャックが無事であるように祈り、ダルナに下へ降りてもらうようお願いした。


「タンクラッド、ここで待っていて下さい。私とリチアリで行きます。この町は常識が通じないので、イジャックの家まで彼を連れて飛びます」


「空中は変わらないんだろ?側まで一緒に」


「いいえ。この土地から滲むものは、空中にも帯びるようだから。私は効かないけれど、人間には危険かもしれません。リチアリもどうなるか心配ですが、イジャックと同じ部族であれば、彼は大丈夫かも知れません。彼の馬を頼みます」



 けったいな場所、とは聞いていたので、親方も時間が惜しいし了解する。町から離れたところで木箱を下ろし、イーアンはリチアリに説明して、彼を背中から抱え上げると『行ってきます』と挨拶して町へ飛んだ。


 タンクラッドの目は、彼女たちを見送ってから反対側を見る。この前は防具と材料を届けに来たが、パーミカの町は無事だろうかと少し気になった。


「見に行ったら良い」


 トゥが主の気持ちを読み、そう促す。見るだけにして、タンクラッドは町影のパーミカヘ向かった。

お読み頂き有難うございます。

明日25日(土)の投稿をお休みします。

体調の都合でご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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