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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2345/2964

2345. 旅の三百四十二日目 ~8つの指輪と精霊②・トゥの能力・首都の騎士団状況

※体調の都合で、25日(土)の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。

 

『精霊の声を聴く者が、精霊の道を辿る』


「二人連れてくれば、民を助けて下さいますか」


 精霊の言葉の後、イーアンは追いかけるように急ぐ。指輪の精霊は、ほんの数秒の間があれば消えてしまう。躊躇う・考える隙はない。 



『祈祷師の一人は北へ、一人は南へ民を導く。南は川を舟で進み、北は大地を(そり)が走る』


「分かりました。二人の祈祷師を、間違えずに選ぶには」


『精霊の声が()()()()()を尋ねなさい』


 指輪の精霊はそれを最後に教え、姿を消した。急に消えてしまう相手を引き留めることは出来ず、イーアンは受け取った情報―― 声が聞こえた祈祷師 ――に感謝した。


 振り向いてタンクラッドを見ると、タンクラッドは目を合わせてすぐ、イーアンからトゥに視線をずらす。話をすると思った矢先に目を逸らされ、あれ?とイーアンが思ったすぐ、トゥは、主の言いたいことを理解して頷いた。


()()()()()は俺に読めない」


「相手が生粋の精霊だと、遮断するのか」


「違う。精霊に、思考と経験の記憶がない。あったとしても、『内以外の世界に在る』ものだろう」



 トゥの話は、聞こえによっては哲学的だが、哲学云々関係ない。

 彼は事実を話しており、イーアンはその説明で納得する。あの手の精霊は『実体がないから、記憶や経験の残りや思考などが、別世界に置かれている』との解説は、ぴったり来る。


 もし、アシァクやヴィメテカのような体を持つ精霊であれば、違うのかもしれない。思うに、アガンガルネ他ナシャウニットたち大精霊も、見える姿より、存在の広がりが大きな場合、トゥに読める相手ではないのだろう。


 タンクラッドは何となく理解したらしく、『イーアンは思考や記憶が、この体に入ってるから読めるんだな』と、女龍を読み取った先ほどを参考例にしていた。


 親方としては、精霊の言葉以外で、トゥが探ったならそれも聞かせろ、とした考えのようだが、タンクラッドらしいというか。

 精霊相手に探るなんてこの人は、と思ってしまうが、確かに・・・民の命がかかっている以上、受け取る情報が多いに越したことはないに違いなかった。



「イーアン。今ので、見当はついたか」


 二人の祈祷師の選別に、当てがあるかを尋ねられ、イーアンは頭にすぐ浮かんだのがリチアリだが、もう一人はピンと来ない、と答える。タンクラッドも同じらしく、リチアリはすぐ探しに行こう、と決まった。


「もう一人、だな。探す時間を食うのか」


「リチアリに言えば、彼の視点からもう一人を考え付くかもしれません。ところで、8つめの指輪・・・手に入れたのは、()()です?」


 イーアンはタンクラッドに、入手が『今日ほやほや』かを尋ねる。親方は、出掛けた日から、外の状況を全く知らない様子。聞かれたタンクラッドは背後のダルナを指差して『さっきだ』と答えた。



「連絡も阻まれて、()()()()()場所だった。外の流れを知らないまま、だ。トゥが解除を終えたから出たが、あれから何日経過したかも分からん」


「本当にお疲れ様でした。私も空へ行った日から戻っていませんため、ミレイオたちに会ったのは今日です。ダルナやセンダラと合流して、魔物退治と人々の救助で帰る隙がありませんでした」


「疲れたな、イーアン。で、お前はミレイオのいる船で?それから首都の用事とは何だ。首都はあの状態だぞ」


 指差す先は、白んでくる明け方に煙が無数に立つ大きな町。魔物はいないが被害後だろうというタンクラッドに、イーアンも眉根を寄せて溜め息を吐く。


 あれでは無理かも・・・と呟いて、自分を見ている二人に事情を話した。タンクラッドは怪訝そうに、トゥは興味なさそうに別の方を見ている。



「騎士団に?ゴルダーズが」


「そうです。でもこの戦況で誰が耳を貸すでしょうか。手紙を受け取ったので、一応、話しはしますが」


「それこそ時間の無駄に思うがな。騎士修道会ほどの命がけの気合いがあれば、可能性はあるにせよ。そうか、俺も行こう。お前だけでは、引き際が分からなくて手間取る気がする」


 え、と返したイーアンに、タンクラッドは背後のダルナを肩越しで指差し『彼は空で()()()()』と決定。嫌そうな顔をするトゥをちらっと見たイーアンは、トゥはどこまでも一緒にいようとするんだと感じた。


「ということだ。待ってろ」


 親方の次の一言は、トゥを引き離す。銀色の双頭を大袈裟気味に傾け、もったいぶったダルナがゆっくり言い返す。


「お前と『一緒に』行くものだ、と()()に話したはずだがな」


「相手は人間で・お前の出るほど重要じゃない用件、だ。俺一人で充分」


 トゥが離れない理由は、秘密めいた含みがありそうな、ただの『従う』に留まらないと感じる一言。親方も、その理由を知らなさそうだが、一先ず、ダルナに待てと言いつけ、ダルナは不承不承で受け入れた。


「すぐ戻るだろう。お前の姿を見せる相手じゃない、ってことだけ忘れるな」


「遅かれ早かれ、俺の姿を誰もが目にするのに。おかしなことを」


 今じゃないんだよ、と親方は言い捨ててイーアンの背中を押すと、逃げるようにダルナを置いて山を離れた。



「トゥは、なぜタンクラッドについたのですか?」


 飛びながら、短い距離でイーアンが尋ねる。親方も首を傾げ『()()()()だから分からない』と正直に答えた。表情が本当に分からなさそうなので、こういうくっつかれ方もあるんだな、とイーアンは思う。


 相手を好ましいかどうか・・・少なくとも自分に合う合わないを、判断した上で側に付くダルナのイメージだったが、トゥは持ち前の能力がかなり異質なので、そのために親方を選んだのかもしれない。


「さて。首都だ。ゴルダーズ公の手紙は誰に渡すんだ?」


 あっという間に首都上空。聞かれたイーアンは意識を変えて、多分聞いてはもらえない、と嫌な展開への予想を呟いてから、騎士団本部のある、国防省の屋根を見た。


 遠くからでも目立つ、屋根に騎士団の象徴が大きく刻まれたそこ・・・あれです、と指差すと、タンクラッドの歯に布着せぬ皮肉が続く。


「行っても、人っ子一人居なくて()()()()()()のが理想だ。だが、()()()()()一人も居ない可能性の方がありそうだ」


 その可能性もある、と小さく息を吐き出し、イーアンとタンクラッドは明け方の首都へ飛んだ・・・のだが。



 結果までが10分かからなかった。


 ――タンクラッドの皮肉は、ある意味当たっていた。国防省と名だけはついているが、アイエラダハッドは、民間の隊商軍を使()()()()()ため、国自体の名目には『人道主義・武力紛争の回避』を掲げており、国防の意味は軍や騎士を示していなかった。


 それを後に知ったイーアンは『なんの国防だ』とぼやいたが、騎士団の動きを持続させるための組織でしかなく、それらしい機能、それらしいあれこれ(※予算とか)の都合をつける、形だけの省。

 ただ、隊商軍の維持、寄付基金等もここで扱うので、『実際に稼働している隊商軍のため』と言えなくもないが、それは貴族と騎士の建前で、表立っては話しにも上がらなかった――



 こんな国防省は、ただただ広く大きな歴史的建築物を構えてはいるものの、イーアンたちが開け放された入り口を過ぎてから、人が駆けつけて来て止められ、鎧姿から騎士と分かるものの、イーアンを見て慄き恐れた。

 逃げ出そうとした騎士に、『ゴルダーズ公からです』とイーアンが慌てて手紙を差し出すと、怯えながら振り返って受け取り、『今は人がいない』と言いながら、代理で彼が目を通した。


 開封しながら自己紹介を済ませた騎士は、下級貴族の出身らしく、自分より立場が上の騎士たちが、既に()()()()()()ことも口にし、理由は彼らが立場上、危急の時は職務を離れて良い決まりがあるから、ということだった。


 要は、本当にいない。

 ほとんどの騎士が、実家に戻ったと言われたに等しかった(※残った騎士は留守を押し付けられただけ)。


 呆れたタンクラッドだが、イーアンは何となくもう諦めていたのもあり、喋ることなく頷くに留める。

 ゴルダーズ公の手紙を読んだ騎士は、態度も変えず、封筒にまた紙をしまうと『ご覧の状況で』と、早い話が『無理だ』と答えた。


 要望に沿う状態ではないし、首都は破壊が著しく、隊商軍と民間の自警団が新しい武器と共に、首都を守っているのだが、騎士団は・・・と、ここで言葉を切って濁す。

 イーアンは溜息と一緒に『分かりました』と項垂れ、タンクラッドも女龍の肩に手を置き、『帰るぞ』と背中を向けた。


 見上げるイーアンに『これ以上は無駄だ』と、騎士に聞こえるようにはっきり言い、イーアンはもう少し何かと思いながらも、確かに無駄そうな気もして、はい、と答えた。


『手紙は、上の者に渡します』と背中にかかる声にも振り向かず、イーアンとタンクラッドは形だけの『国防省』から飛び立った。



「渡すだけ渡したんだ。落ち込むな」


「落ち込みませんが・・・ まだ、『言い合いになって、結局通らなくて、遣る瀬無くなる設定』の方がマシだった気がします」


 何の設定だと眉を寄せる親方に、なんでもない、と返してイーアンは溜息をまた落とす。話にもならなかった・・・・・ まさか、『いない』なんて。半分逃げた、とかなら、まだわかる。だけど9割以上が逃げ出したって、ドルドレンにも言えない(※総長で真っ直ぐ騎士の人)。


 なんて情けないんだ、と目を瞑るイーアン。彼らは一応、貴族の誇りと騎士の訓練を身に着けた団体ではなかったのか。

 そんなイーアンを横目に、タンクラッドは元気出せと励ます。


「イーアン。凹むな。予想どおりじゃないか(?)」


「おかしな慰め方しないで下さい。私たちがこんなに必死に戦って、民間の・・・剣も手に取ったことのない人々が、家族や住まいを守るために立ち上がって、毎秒命を落としながら戦っていると言うのに、騎士ともあろう者が何て情けない」


「お前が悲しむことじゃないだろう。貴族なんて、そんなものだ。ゴルダーズは()()()()()だったってことだ。大貴族くらいまでなれば、態度も責任も胸張って命も賭けるだろうが、『宙ぶらりんで覚悟も収入も適当なぬるま湯人生な輩』が、命なんか賭けるわけない」


 親方の切り方が実に正論で、イーアンも相槌を打って『そうですね』と気持ちを入れ替える。しかし、ゴルダーズ公に伝えるのも気後れする。彼は正真正銘、()()()()()()の貴族、とここで認める。


 そしてイーアンは、はた、と思い出す。ゴルダーズ公が南東へ行く、本当の理由。それがリチアリ目的であること――



「そうでした!タンクラッドも知らないのですよね。私もミレイオたちに聞いて、知ったばかりですが。リチアリは古王宮にいるのではと、ゴルダーズ公は目途を付けていたようです。理由も聞きましたが、正しく感じます」


「何?古王宮?そうか。じゃ、とりあえず船に報告だ。俺が報告しよう。このままリチアリを探しに古王宮だ」


 どんな理由で古王宮と察したのかまで、タンクラッドは聞かない。イーアンが『正しいと思った』だけで充分らしく、今はどこに寄る時間も惜しいとばかり、イーアンに連絡珠を貸せ、と手を出し、ミレイオの連絡珠を引き取ると、空中でミレイオと交信し始める。


 短い交信を終えたタンクラッドの後ろに、ふっと銀色のダルナが現れ『移動か?』と察していた。タンクラッドは片手を胸の前にあげて、肯定。


「移動だ。トゥ、イーアンも一緒に連れて行く」


「俺に問題はない。乗っていろ」


 振り向いたタンクラッドの言葉に、すんなり応じる双頭のダルナ。無駄のない会話・・・(※心読まれてるから)タンクラッドには相性が良いかも、とイーアンは思いつつ、お礼を言ってトゥの背中に乗せてもらった。


「南東、古王宮だ。場所は知らん」


「行き先の情報が全くない場合。少し時間が要るぞ」


 そう言うと、双頭の首を真下に向け、トゥの広げた翼に描かれた目が瞬きした。絵の瞬きに気付いてギョッとしたイーアンとタンクラッドに、トゥは何も説明することなく、首都上空から下方の町を見つめること数十秒。一つの頭がゆらっと浮いて、南へ向くと呟いた。


「場所は特定出来た。行くぞ」


「どう、特定したん」


『だ』を言い終わる前に、タンクラッドの前の風景は様変わりした。ブゥン、と不思議な揺れを肌に感じた直後、真下に森と・・・・・


「古王宮。だったのでしょうか」


「崩壊?」


 二人は直下の光景に目を瞠る。大きな建物が瓦礫の山に変わった様子と、それを包み込む手入れされた森。これが古王宮?!と驚く二人に、トゥは二つの首を頷くように揺らす。



「ここまでは、()()()()()()()。最近こうなったのかもな」


 つーっと視線を動かしたタンクラッドと目が合い、ダルナは一方の首を真下に、もう一方の首を持ち上げて主に向けると、主の心に浮かんだ疑問に答える(※読むなって言われても関係ない)。


「さっきの町の人間の記憶から、『古王宮』の位置を得た。だが、どれも()()()()()()()はなかった」


 あっさり言うが、トゥは町中の人間の記憶を読みこんで、正確な場所へ連れて来たと、イーアンは知る。こんな能力もあることに、口が開いてしまうほど驚くイーアン。振り向いたタンクラッドは、イーアンの口に手を添えて閉めてやり『俺も驚いている』と同意した。



「それで。次は『祈祷師』探しか?」


 銀色のダルナは言いながら、森の向こうの丘をぐるりと巻くように流れる川を見た。

お読み頂き有難うございます。

体調の都合で、25日(土)の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。

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