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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2344/2964

2344. タンクラッドの新たな味方・8つの指輪と精霊①

 

 指輪は8個、手に入った。トゥの解除は屋内だったため、コロンと落ちた指輪を拾うのは楽だった。


 その後、精霊の問答、崩壊・・・峰付近が黒い炎の筒に巻かれ続けて、それも静まり、全てが完了したことで、トゥは『用事が終わった、出られる』と教えた。


 長居は無用と、イングが飛び立つ。

 スヴァドも飛び、タンクラッドも龍気の板を出して浮上する。

 トゥが言ったとおり・・・ 制限は消えており、イングの翼は何に当たることもなく空を抜け、スヴァドもタンクラッドもそれに続いた。トゥは殿(しんがり)で、離れ行く巌の場所をしばらく眺めていた。



「俺は戻る。『指輪探し』は終わったな」


 イングが振り向き、タンクラッドが礼を言うと、スヴァドも引き上げる。次の解除があれば言え、とタンクラッドは挨拶代わりに声をかけたが、暫くは、解除も手付かずになりそうな気がした。戻れば自分も、戦闘に入る。


 夜空に消えた二頭を見送った後、後ろに来た双頭のダルナに、『お前はどうする』と訊ねると、一つの首がゆっくりと先―― アイエラダハッド南部 ――に向く。


「混乱と破滅。お前は分が悪い、と俺は言った。意味は解っているな」


「俺の解釈では・・・ いや、どこまでお前が知っているのか、それが気になる」


「話してみろ」


「ふー・・・ お前は、もしや。()()()()()のように、俺たちの敵の『古代サブパメントゥ』が、お前を」


「正しい」


 遮ったトゥは、自分の風貌がタンクラッドたちの敵を刺激するだろう、と単刀直入に答えを足した。タンクラッドも何度か頷き『そうなりそうだな』と大きく息を吐いた。


 なるほど、これが度胸・・・・・ トゥを()()()()()()()()()状態になっているが、指輪探しの『後日談』だ。指輪を得るための度胸ではないと、メーウィックの強調した部分がずれていると感じた。


 すると、その思考を読んだトゥは、二つの顔を近づけて覗き込む。大きなダルナの頭が二つ、目の前に並び、タンクラッドはちょっと笑って『どうした』と聞いた。


「タンクラッド。お前は床の示す影を見ただろう。あの時既に、俺を出すかどうか問われていた。『指輪』を求める意志が強く、お前は選択肢に『解除』しかなかっただろうが、数百年前の男が注意した言葉は、何も間違えてはいなかった」


「・・・数百年前。メーウィックのことか?俺の心を読んだのか?」


「力になる、とは、そういう意味だ」


 支える主の思考を読んで先回り、それは当たり前と・・・ 何だか、ズカズカ立ち入る宣言を、然も普通、と言い切るダルナに、タンクラッドは『やめてくれ』と顔を背けた。


「そこじゃないぞ。お前の問いかけへの返事を用意したんだ」


 トゥは、ダルナらしく・・・感覚がズレている。良かれとする方向が斜めなのは仕方ないので、イーアンの苦労をタンクラッドも理解する。他人事の内は、何とでも言えるもので、タンクラッドはこれまで『従う』ダルナに会っていなかったことを、今になって恵まれていたと気づいた(※つまりイヤ)。


 礼を言え、と無言で待つ相手に、タンクラッドは『そうだな』と了解し、疑問に答えたトゥを褒めた(※一応)。


「お前の力は、何だ?なぜ俺の心を読み、答えが出て来たんだ。メーウィックという男のことまで知らないだろう?それなのにお前は、彼が注意した言葉は間違えていない、と正確に指摘した。

 さっきもそうだ。俺の魂がどう、とか。心を読み、魂の声を聞くのがお前の力か」


「そう捉えていい。まだあるが、追々分かる」


 出し惜しんでいる様子もなく、面倒がっているわけでもなさそうなトゥの返事に、面食らうタンクラッド。従うと決めた割には言わないんだな、と理解に難しいが、本人も『追々』と言っているので、付き合うと見えてくるのだろう。



「次は何処へ行くんだ。()()()使()()のか」


 不意に、トゥが次の行動を尋ねる。が、既に尋ねている範囲を飛び出している。何でも知ってるのかと聞きたくなるが、時間の無駄なので、そうだと答えると、双頭のダルナはタンクラッドに『乗れ』と言った。


「お前のそれ(※お皿ちゃん的龍気)は速度だろう。時間を食う」


「・・・トゥ。先に確認だ。お前は一体、何者だ。なぜ何でも知っているんだ」


「俺が『そういうダルナだから』と覚えておけ。知らないこともある。俺が知ろうとしない限りは」


 さらりと・・・・・ 恐ろしい言葉を聞いた気がしたタンクラッドは、向かい合う銀色の双頭を見つめる。つまり、早い話が、こいつは自分が知ろうとしたら、相手の魂も思考も記憶も経験も、瞬時に手に入れているのか。


()()()()()()だ」


 思った途端、口に出す気もない思考が読まれて、返事が返る。この自由のなさ。タンクラッドは深呼吸し、しっかり相手を見据えた。まずは、教育。俺といる以上は、絶対に躾が必要だ。


「俺と来る、と言ったな。それなら」


「嫌か?読まれるのは」


「当たり前だ。俺は心の自由を奪われるのは御免だ」


()()()()()()ぞ。お前の心を束縛していない」


「~~~っ!! そうじゃないんだよっ」


 斜めな相手で強力な力の持ち主が、自分を慕うやりにくさを、初っ端から痛感する。良いから()()()っ! 苛立ち気味に命じると、トゥは二つの顔を見合わせて『構わない』と、シレっと返した。



 タンクラッドは、先が思い遣られるダルナに、出会い頭からくっ付かれる羽目になり、しかし断ることも出来なさそうなので、これも運命と受け入れる。


 双頭――― もしかしたら、受け入れた最初の理由は、双頭(これ)だけだったかもしれないが。


 ザハージャング(因縁の相手)ではないのに、トゥは自分がそれと被ることも承知して、タンクラッドの側につくことを自ら選んだ。不思議な相手が、この先どう、タンクラッドの役に立つのだろう・・・精霊の指輪で民を―― と考えたところで、再び遮られた。



「まずは、乗れ。精霊の指輪を使う場所、知っているのか」


「だから『読むな』って!」


 おちおち考えてもいられない。読むな、と命じた傍から、思考に対して話しかけてくるトゥは、怒鳴られても全く悪びれないで『乗れ』と言い換えただけ(※気を遣っているつもり)。


 怒るだけ損する相手と思うことにし、溜息混じり、タンクラッドは銀色の広い背中へ行くと『この辺か?』と確認。どこでも良いと言われ、落ちなさそうな部分、首と肩甲骨の間くらいに跨った。


「とりあえず、イーアンに会わなければならん。イーアンが持っている道具と」


「イーアン。女龍だな?場所はどこだ」


「知らん・・・あ。もう、連絡珠は使えるんだった。ちょっと待ってろ」


 読むなよ!と念を押し、そっぽを向いている双頭を睨みつけながら、連絡珠を出してイーアンを呼ぶ。夜と言っても時間が正確に分からないから、彼女がどうしているか。繋がればいいが、と思っていると、応答した。


『タンクラッド!どこですか』


 懐かしいイーアンの反応。ホッとして、タンクラッドは指輪を全て手に入れて、指輪の精霊を呼ぶと短く伝える。イーアンはすぐに理解して『私も行きたいけれど、ちょっと動きが難しくて』と答え、せめてタンクラッドに道具を渡せればと悩む。


『お前はどこなんだ』


『船にいます。ゴルダーズ公の船が南東へ向かっていまして、私も用事で一旦戻っただけですから、もう少ししたら出るつもりでした』


 地名を言っても解らないだろうから、とイーアンは自分がこれから山脈の西へ向かうとも添え、首都に用事が出来たことまで話すと、タンクラッドは『俺も西にいる』として、首都の上空で落ち合おうと決まる。



『時間、かかるかも。出来るだけ急ぎます』


『分かった。首都の上空、だ。待て待て、まだ話がある。驚かせたくないから先に言うが、俺は双頭のダルナと一緒だ』


『・・・はい?』


『それだけ覚えておいてくれ。ダルナ、だぞ。龍じゃない。ダルナだ』


 念を押して、まずは女龍にダルナの存在を伝えておく。イーアンは突拍子もない一言に驚いたようだったが『分かりました』と答えて連絡を終えた。


 連絡珠を腰袋にしまい、タンクラッドは恐らく()()()()()()()()ダルナに『西の首都へ』と行き先を告げる。双頭の龍は、掴まれとも何とも云わない内に・・・ ブゥンと不思議なうねりの音を立てて移動した。


 それは、『王冠』と同じような現象。


 タンクラッドが瞬きする間に、風景は変化し、同じ夜とは言え明るい首都の上にいた。首都は魔物に襲われていなかったが、襲われた数日後には見えた。明るさは災害用の松明や、荒らされた後の始末で夜も燃える炎の明かり。



「ここで待つんだな。することはあるか」


 瞬間移動をしたダルナは、一つの首を乗り手に向けて尋ねる。タンクラッドは考え、今はノクワボの水もないし、首都の救助に手伝えることはないと判断。それが伝わるトゥも、『何もないか』と短く呟いて、二人は空に佇み、女龍を待った。



 *****



 イーアンは胸中に幾つもの不安があった。ただそれは、現地へ行けば即、答えが分かることばかり。


 タンクラッドが戻ってきたと皆に伝え、ミレイオやフォラヴが安堵した後、イーアンはゴルダーズ公の手紙を持って首都へ向かう。

『首都の騎士たちに呼びかける』とゴルダーズは熱意を籠めて話していたが、騎士は全員貴族で、国を守る意識が薄そうな印象しかない。上手くいくのか・・・この、一刻の猶予もない状況で、頼まれ事を引き受けたが。


 ロゼールが各地へ装備を配って回っている話も聞いた。ミレイオは魔導士と会い、戻ってきてすぐ『ロゼールはアイエラダハッド各地に』とコルステイン発魔導士経由情報を教えてくれた。

 それが首都の隊商軍にも届いているなら、騎士ももしかすると、奮い立たせる心があるかも知れないが、その辺はイーアンに全く分からない。戦法って言ったって、ハイザンジェルと状況が違うのだ。


 高速飛行で飛びながら、待っている親方も思う。ダルナ・・・双頭と言っていた。


 過ったザハージャングのことを、タンクラッドも『それじゃない』と先に押さえた感じ。似ているのかな、と思うと、イーアンはザハージャングに嫌な印象がないだけ、そのダルナがなぜタンクラッドと一緒なのか、もっと深い事情がある気がして、落ち着かない。



 そして、イーアンは首都の見える空まで来て、すぐに分かった。あれだ、と遠目からでも影で分かる姿。


 夜はもう明け始めており、少しずつ暗さが引く背景に黒く浮かび上がる二本の首。本当に双頭なんだわ、と速度を緩めず進み、タンクラッドとドラゴンが振り返る距離まで行った。


「イーアン」


「よく頑張って下さいました。無事で良かった」


 お互いを見て笑顔が溢れる。ホッとする、心底安心を得る、この温もりの通う瞬間。じっと見ている銀色のダルナは、解除の後だとイーアンは感じた。体つきが、解除したてのダルナの形。


「彼は、解除を」


「そうだ、8つめの指輪の巌のダルナだ。名前は・・・ちょっと伏せとくな」


「トゥと呼べ」


 ダルナが自分から名を言うまで待とうと配慮した親方を、丸ッとひっくり返すダルナ。イーアンは、うん、と頷き、タンクラッドの目が据わる。


「トゥ。私はイーアンです。龍族の女龍」


「知っている。指輪の精霊を呼ぶのに、イーアンが必要か」


「誰が必要、ではないと思います。私は道具を持っていますから、渡そうと」


「イーアンも一緒に行け。タンクラッド、どこがいい。その辺の一番近い山で良いか」


 遮る率が高いトゥは、押し切るように話を飛ばし、タンクラッドに確認。一応、決定は任せている気遣いに、そこだけは認めて、疲れる相手に『そうだな』とタンクラッドは言い返さずに頷く。


 イーアンは何が何だか・・・ダルナはなぜ、場所を決めているのか。なぜ、私が一緒というのか。何でタンクラッドが言い返さないのか。勝手に決めている印象しかないし、ダルナは何だか色々と聞いた後のように、行動をてきぱきと指示する。

 ぽかんとする女龍を見て、タンクラッドは乗っている相手を指差して教える。


「イーアン。こいつはお前のことを・・・あー、上手く言えないが(※濁す)話が早いんだ。先走るのではなく、熟知している」


「熟知。私、初対面ですが、もしかして心を読むダルナ?」


「そ、そうだな(※それ以上とは言えない)」


 あ、それなら、と合点が言ったイーアンは頷いて、自分を見る巨体のダルナに『私が思う事とか、悩んでいることを読んでいますか』と直接質問。頷く二つの頭に、イーアンも微笑んで頷き返す。


「ダルナは、よくいますね。あなたもそうなのであれば、私たちが一緒の方が良いと。分かりました」


 何だかあっさり受け入れた女龍に、タンクラッドはイーアンらしいと思い、トゥは女龍に『近くで』と話を続けた。

 そして三者は、近くの山へ移動する。トゥは、イーアンの記憶を読み、精霊の呼び出しは場所を定めないと知ったので、無難な岩壁のある辺りを探し、そこで行う。ここまでは普通に飛んだので、瞬間移動もなく、夜は明け始めていた。



「では。呼びますよ」


 道具を揃え、設置したイーアンは、朝日の当たる岩壁に精霊の棒が向くように整えた。どう使うのか知らなかったが、指輪8個分・・・不格好にも思えるけれど、ナイフと棒の合間に挟んで、ちょっとくらくらする棒を押さえながらの、瞬間。


『民を守るのか』


 岩壁のモニターにふわっと浮かび上がった、精霊はイーアンに話しかけた。後ろのタンクラッドとトゥにも視線を投げたが、それは僅か。女龍は『はい』と強く答え、精霊も頷いた。



『では。二人の祈祷師を呼びなさい』

お読み頂き有難うございます。

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