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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台始まり
2335/2964

2335. ドゥージの行方 ~①精霊の子・頼れる人

☆始まったあの日から数日経過。馬車を出た仲間が一向に戻ってこないまま、ドゥージの行方もつかめず、馬車は船へ。今回は、夜の森から始まります。

※しばらくドゥージの話が続きます。ちょっと長いのですが、大事なのでご理解頂けますように。

 

 ロゼールが、各地から集めた装備を、アイエラダハッドに運んでいる間―――


 ミレイオから伝言を聞いたイーアンが、引っ切り無しの魔物との戦闘を、味方のダルナに任せて頼み、船へ向かった夜。


 動き続ける憔悴したドルドレンを、ポルトカリフティグが休ませて、一日出ていたザッカリアとフォラヴも船へ入り、ミレイオは入れ替わりで魔導士を呼ぶために地下へ行き、西の山に行ったきりのタンクラッドが、何日経過しているかも忘れて指輪を探している頃。



 ―――弓引きは、一人。壊れた町の外れにある、森の片隅にいた。


 大岩のあったそこは、岩が退かされた場所に穴があり、短い洞窟の入り口に続いていた。森にはブルーラ(※馬)を残し、そのブルーラは、周囲に邪悪なサブパメントゥがいる中で、日の光のように輝く精霊の子と一緒―――



 馬車を出た日から、ずっとドゥージを探していたシュンディーンは、水に棲む精霊たちに頼んでいた情報を受け取り、山深い小さな町へ向かった。これが、オーリンと会った午後、そのすぐ後の話。


 ドゥージがいると聞いた山中の森へ行き、側を流れる小川の水霊に状況を聞き、シュンディーンは目印を見つけてそこへ降りた。

 精霊の祭殿でドゥージがもらった、()()()()が円を描いて散らばる場所。中心に、ずれた大岩、穴、そして彼の馬が立ち、礫の光放つ外側の闇には、サブパメントゥがいた。


 シュンディーンが風を起こし、水を引き上げて叩き落すと、光と精霊の攻撃に驚いたサブパメントゥは一瞬消える。


 その隙に、シュンディーンは礫の輪に守られた馬に寄り、『僕だ、シュンディーンだ』と馬を労うと、馬もちゃんと理解しており、安心して精霊の子に頭をつけた。


 ドゥージはこの中・・・と示すように、馬は地面に空いた穴を見て教えたが、シュンディーンは自分が穴には入れないと気づいた。穴からは精霊の気配も感じるのだが、ドゥージや怨霊のことを考えると、自分が入ってどうなるか心配ではある。



 初めて、一人だけで難題に向かい合うシュンディーン。


 ドゥージを救い出したいが、サブパメントゥが相手。こんな時はどうするべきなのか。

 どうすることが一番か、教えてくれる誰かも、一緒に考える仲間もいない。一つ幸運だったのは、『自分が精霊の子』であり、邪悪なサブパメントゥが青年の姿(この状態)の自分には近寄れないことだった。



 結界は張ってある。精霊の礫も強力なので、シュンディーンが消耗するほど、力は使わずに済んでいる。とは言え、このままずっと・・・動けないのも。


 辿り着いたは良いが、考え続けてあっという間に数時間が過ぎた――


 ドゥージの状態も全く分からない。中に居ると思うが、そこ止まり。感知は最小限。

 結界の外に待つサブパメントゥたちが、なぜ入らないのか不思議だが、とにかく敵もこの下にいないのは解る。


 ・・・ここに来る際、ちょっと見たのだが、近くに破壊された後の町があった。斜面を削った狭い平地に小さい町があり、既に人が息絶えて、静まり返っている。

 誰が騒ぐこともないから、サブパメントゥも、ドゥージが逃げ込んだこの場から動かないのか。



 経験値のほぼないシュンディーンには、何一つ、ピンと来る判断は出来ないが、はっきりしているものと言えば、単に自分が来たことで、精霊の守りが()()()()()()事実のみ。


 シュンディーンを襲う者もいないため、状況が好転することも悪化することもなく時間が流れるのを、精霊の子は解決するべく懸命に考える。



 ―――目的は、『ドゥージを救い出して、馬車に帰らせたい』。


 ここで、精霊の力による突破は悩む。ドゥージに及ぶ影響・・・馬車でもそれを気遣っていた。自分が結界を張る時は、ドゥージは常に離れていたのだ。

 山脈越え前。西で襲撃があった後、魔導士の魔法でドゥージにも大丈夫な結界が張られたことがあったが(※2144話参照)、()()()()は自分に使えない。


 ちらっと自分の張った結界に、視線を向ける。精霊の礫の『強化』くらいに留めているから、洞窟内の彼に問題ないはず、と少し不安も生まれる。


 救い出そうにも、触れない。触れたとしても、何が負担になるか知らない。

 どうしよう・・・ この堂々巡りから抜けられず、精霊の子は新たな展開を起こすには、自分では無理かもと気づいた。



『精霊がなぜ、サブパメントゥの都合に手を出す』


 いい加減、時間が経過したからか。考え続けて身動きを取れなかったシュンディーンに、誰かが話しかけた。頭の中に響いた声に対し、シュンディーンは発声で返す。


「お前は誰か」


『お前こそ何だ。精霊のくせに、何かが精霊とも違う。中途半端にサブパメントゥの匂いもするお前は、洞窟()の男に何の用でここに来た』


 この現場で話しかけているのだから、相手はサブパメントゥ、とシュンディーンもすぐに分かったが、最近ミレイオやイーアンたちが気にしていた面倒なやつかもしれない、と警戒が高まる。

 普通のサブパメントゥの強さではない様子、相手の威嚇がじわじわとシュンディーンの肌に伝わって、金色の髪と茶色の耳がフッと逆立った。


「サブパメントゥの用事なんて、僕には関係ない。僕は彼を連れて行く。お前たちこそ消えろ」


『連れて行く?精霊が?その男が人間だとでも思っているのか?どんな用事か気の毒なもんだ。そいつは人間じゃない、サブパメントゥの億の霊を背負う男だ。お前が触ったらどうなるやら』


 はっきり教えられて、シュンディーンは意外に感じる。近づけば分かることだから、ドゥージの正体を言ったのだろうか。何かよく分からないな、と眉根を寄せて言い返した。


「何であれ、()()連れて行く。それに、彼は人間だ。霊を背負っていようが、人間に変わりない。お前たちが帰れ!」



 真夜中の山に、焼けた臭いを運ぶ風が抜ける。町も壊され、暗さしかない森で、精霊の薄い青と黄緑の穏やかな光が森を照らす。その光にかからない影の内側、古代サブパメントゥが距離を取って囲み、精霊がいなくなるのを待っている。


 早い雲の流れが星明かりを遮りながら、雪をちらつかせては、風に押されて去って行く。

 肩から腰周りに布を巻いただけの精霊の子は、本当なら寒さも特に感じないはずなのだが、普段からミレイオに、毛皮やら衣服やらで包まれている慣れのためか、若干、肌寒い。真横に馬がいるのでどうにかなっているが、早いところ、方をつけたいのも本音。


 でも。一人では、本当にどうしていいか。誰かが応援で手伝ってくれないと、自分だけでドゥージを連れ出すのは無理かも、と気づいたばかり。

 痺れを切らしたらしいサブパメントゥも、直接退くように命じてきた。上手く動かないと・・・ 戸惑う精霊の青年、その思考は残念なくらい、サブパメントゥに()()()



『ふーむ?お前は、自分一人でどうにもならないと分かっているのに、動く気がないのか?その男に何の意味がある。お前に関係ないぞ』


 またあの声がが聞こえ、同情気味にからかわれる。完全になめられている・・・・・


「うるさい。僕の都合だ」


『誰かに頼まれたか?それなら選ぶ相手を間違えたってところか。精霊、お前じゃ手に余るぞ。精霊()()()()、か?どうもお前は』


「うるさい!」


 シュンディーンはイライラする。煽られているのが分からず、成り立てまで見抜かれた。結界の力を引き上げて、地表を覆う半球の光に幅を増やす。グーッと半径を広げた結界に、相手は驚いたのか、声も気配も消えた。


 気配が引いたので、一先ずホッとする。サブパメントゥに夜の時間は、どこでも忍べるだろうが、近くから消えればいい。


 にしても、ドゥージを救出するには、と振り出しに戻る。彼は生きているが、声もしない。感じ取るのは怨霊が増えた・・・恐らくそれは正しくて、度々話に聞いた『怨霊が増えると気絶するほど苦しい』状態で、彼は気を失っているのかも知れない。


 地中を移動せず、地上で待機する古代サブパメントゥが、何を考えているのかも気になる。


 ドゥージは、首にかけていた、精霊の礫を地面に撒いてから洞窟の中に入ったのだろう。もしかしたら、一粒でも握りしめて中に入ったのだろうか。


 でも、だとしたら。背負ってしまっている怨霊が動けないのはいざ知らず、新しく怨霊が彼に取り憑くものだろうか。

 精霊の礫を持っていても、所有者(ドゥージ)が使おうとしなければ、怨霊は増えてしまうのか。

 道具としての『精霊の礫』だから、そうしたこともあるかも、と精霊の子はそこで納得する。


 とにかく。シュンディーンだって()()()のだ。中で倒れている可能性から、ドゥージもこの寒さは危ない。どれくらい前からその状態でいるのかを考えると怖くなった。



 ぎゅっと拳を握って、『ミレイオ』と一番慕う人の名を呟く。ミレイオに、どうしたらいい?と聞きたい。僕はいつも一緒にいたのに、彼の経験の一握りにも及ばない。なんて非力なんだろうと、悲しさが込み上げる。


 この場を離れるわけにもいかず、手も打てず、誰かに連絡を取るなら・・・視線を離れた小川に向け、それから空に吹く風を見上げた。水霊に伝言を頼むか・・・この為だけに、親の精霊は呼べない。せめて、水霊伝いで馬車の仲間に応援を頼めたら。


 経験値が無さすぎて、皮肉にもサブパメントゥに言われたまんま、事態が手に余ってしまうシュンディーンは『水霊に頼もう』と決める。



 広げた結界から、少しずつ光の帯を作り、それを小川に伸ばす。美しい細いリボンのように、夜の暗がりをシュンディーンの思いが小川に向かう。


『ははぁ!やっぱりな。その程度!』


 聞こえた声に、ピクッと止まる。シュンディーンが辺りを見回すと、精霊の結界の外で何かが大きな影を揺らした。結界に近づけるはずがない、と目を見開くシュンディーンに、相手はその姿を光の壁越しに見せつける。


 まさか、と精霊の力に動じないサブパメントゥに、精霊の子は驚く。向かい合った相手は彼の顔を見て、ぶはっと笑い、頭らしき場所が揺れた。


『精霊に()()()()!本当にそんなのもいるんだな!俺も驚かされた』


 ゲラゲラ笑う声が頭に響き、シュンディーンはたじろぐ。そんな馬鹿な、と信じられず、思わず馬に体を寄せた。そのシュンディーンの驚きと不安は、結界を緩め、緩んで薄れることも気づかせない。


 相手の影はどんどん濃くなり、シュンディーンの青い目に、大きな虫の胴体を垂れる相手がくっきりと映った。



「そんなわけが」


 精霊の力が払われるなんて、あり得ないのに。人間の腕や虫の腕を揺らすサブパメントゥが、結界の薄れる壁を面白そうに覗き込む。余裕の態度に、ますますシュンディーンの不安が膨れる。


『さて。お前はどっか行ってろ・・・坊主』


「お前が、お前たちが消えろ」


『分かってないだろう?自分がサブパメントゥに、()()されているのを』


「侵食・・・って」


 難しい言葉がまだ分からないシュンディーンは、それが何を意味しているか理解できない。だが、自分が相手より下に立ってしまったことは感じる。


『穴にいる男は、お前には無理だぞ。帰らないなら、そろそろ面倒だ。男もお前も』


 言いかけて止めた言葉。何かされると危機を察し、困惑で息が上がるシュンディーンに、虫の胴体の相手が近寄る。不安に駆られたシュンディーンが、精霊の気を急いで増やしかけたその時―― ぐわっ、と叫ぶ声が夜の空気を劈いた。 叫ぶ声は少し遠くで聞こえたのに、向かい合っていた虫の相手が、ぶしゃっと音立てて崩れる。



 ビクッとしたシュンディーンは、一歩下がる。何事だと慄く目の前・・・さっと吹き抜けた真緑の風。風はぐるりと向きを返して戻り、真緑の旋風が結界の外に降りる。

 風は翻り、緋色の布がはためき、それはもう一度翻って、あっという間に男の姿に変わった。


 凝視する精霊の子を守るように、背を向けて立った魔導士が、次の呪文を口にする。

 これと同時に、結界の外周を、輝く緑の光がびゅっと一周。光は、幾百の槍に変わり、空中に現れた緑の槍は、打撃音と共に真下へ落とされる。槍の穂先に次々と突き刺されたサブパメントゥの叫びが連続し、衝撃の展開は数秒で終わった。



 緑の槍が、星屑のように霧散する。片付いたと確認し、振り向いた魔導士。その漆黒の鋭い眼差しを向けられ、シュンディーンは声が出ない。魔導士は少し眉を寄せて、精霊の子に呟く。


「馬鹿。お前がそれ以上、力を増したら、ドゥージもやばかったぞ」


 いきなり、叱られた。凹むシュンディーンの表情が分かりやすいのか、長身の魔導士は、結界を面倒そうに左右見て、ちょいと指を鳴らす。なぜか、結界を張った本人でもないのに、結界はすんなり消えてしまい、それもシュンディーンにはショックだった。


「なんで?さっきもサブパメントゥが僕の結界に近づいた」


「ああ?あんなのと一緒にするな。あれは、お前に近づいたように()()()()()だ。俺は『実力』だ」


 側に来た魔導士は、精霊の子を見下ろす。見上げるシュンディーンは、とりあえずお礼を言った。腕組みして、出来の悪い生徒を睨むような魔導士が首を傾げる。


「シュンディーン、だな?」


「そう」


「全く・・・自分の()()も知らんくせに。退いてろ、俺が片付ける」


「あ、でも」


「お前はそこで見ていろ。コルステインが俺に教えなかったら、どんな惨事に繋がったやら分からん」


 コルステインの名が出て、キョトンとするシュンディーンを見ず、ぶつぶつぼやきながら、魔導士は対処を始めた。しかし対処し始めてすぐ、ちっと舌打ちが聞こえ、穴の際に屈みこんだ膝を戻した魔導士が、黒い長髪をかき上げた。



「やられた。ドゥージは連れて行かれた」

お読み頂き有難うございます。

今回のサブパメントゥに合う絵があるのでご紹介です。




挿絵(By みてみん)


魔物と言われても、間違っていない見た目。

サブパメントゥはいろんな形があるので、こういったタイプは紛らわしいです。

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