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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2319/2964

2319. タンクラッド VS 解除後ダルナ ~ダルナの構成元・初処刑・知らせと念押し

 

 ブージルの宿に入る前で、指輪を探しに出かけた、タンクラッドの夜―――


 こちらも一筋縄ではいかず、龍気の面を使って空へ上がったすぐ、バーハラーを呼んで乗り換え、8つめの指輪がある西へ向かう途中、イングを呼ぼうとして―― 別のダルナに捕まった。


 このダルナは、以前イーアンと説得していた時(※2051話参照)、話を聞かずに逃げたダルナの・・・曲解した噂を元に、タンクラッドに近づいてきた。このダルナ自体は、初対面。


『解除』について、都合の良いように解釈したダルナは、言葉をあまり喋らず、意識していることも単純に感じる。

 タンクラッドを探して見つけ出し、『解除して力を戻す』ことだけを要求し、解除の際に求められる実質を理解していなさそうで、単に『合わせる(※精霊の問いに)』としか答えない。 


 初めて・・・精霊に嘘をついて、解除を済ませるつもりの、ダルナに会った。


 ダルナは自分の力が封じられている場所を調べてあり、タンクラッドに解除を迫る。

 疑問の残る相手だけに、親方は念のため、『お前が力を戻して危険と判断した場合、俺はおまえを倒す』と伝えると、ダルナはクワッと目を見開き、細かい針状の突起が並ぶ体を膨らませた。


 バーハラーが龍気を増し、相手を威嚇する。バーハラーと同じくらいの大きさのダルナは、この世界の龍の威嚇で動じはせず『お前が俺を倒せるわけがないだろう』と吐き捨て、後に顔を向けた。


「解除だ」


「どうなっても知らんぞ」


 急いでいるのに、と内心は思うが。解除要求を後回しにはしなかった親方は、このダルナと共に北の方角へ飛んだ。


 タンクラッドが、『夜明けには襲撃開始』の情報を知っていたら、このダルナを後回しにしただろうし、その結果は違うものになったのだが。


 ―――これも必然だったと、タンクラッドは感じることになる。



 目的の西から離れ、東西を分ける山脈手前の北東部。


 湖が点々と増える地帯で、一ヶ所、島のような盛り上がった地形に、このダルナの封印場所があった。古代の民族が作ったのか、椀を被せた形状の盛り土は、墳墓のようにも見えた。

 その側面に大きな一枚岩がめり込んでおり、あの赤い絵紋様がくすんだ岩の表面を鮮やかに覆う。


 気が進まないものの。バーハラーを降りず、タンクラッドは面を顔にかけて龍気を上げる。『解除する。精霊が出てくるから、問に答えるんだ』斜め後ろの相手にそれを伝えると、聞いていないように違う方を見ている。


 本当に倒す羽目になりそうだと複雑な心境で、タンクラッドは巌の表面に手を置いた。白い龍気は吸い込まれるようにぎゅうっと引っ張られ、赤い紋様がばらばらと空中に解けて立ち上がる。


 いつものように、解けた赤は再び絡み、大きな精霊が現れる。見下ろす顔は、土の上のダルナに視線を定め『伝えよ。封印を終えた時に。何れを選ぶか』の問いを投げる。ダルナは間髪入れず『残る』と、あっさり答えた。

 タンクラッドの目には、不遜にも見える態度だが、返答に続いて崩壊が始まる。周辺の湖は沸騰し、盛り土は血柱が上がった勢いに弾け飛んだ。


 バーハラーと共に上空へ逃げたタンクラッドは、暫しの間、状況が静まるのと、解除したダルナを待った。急がねばならない用事を気にするため、待つ時間も惜しい。

 まだかまだか、と気にして数十分した時、バーハラーの首がふっと横へ向く。何かと思い、同じ方を見たが何もない。しかし燻し黄金の龍はいきなり翼を広げ、加速した。


「どうした」


 只ならぬ、龍の動き。もしや、と嫌な予感がし、タンクラッドは下ろしていた面を顔にかけ、背中の剣を引き抜く。


「お前が感じ取ったなら、まず間違いないんだろう」


 皮肉なことが起こったのを察したタンクラッドの手に、時の剣。

 あのダルナが本当に『害』を選んだのか確かめる前ではあるが、(バーハラー)が反応した以上、タンクラッドは疑わない。


 バーハラーは夜のアイエラダハッドを、ぐんぐん速度を上げて翔け抜ける。そして、龍が追い付いた相手は、処刑人に気付き、振り返り、攻撃した――


 バチッと激しい音を立てて、巨大な槍を模る光線が出現。槍は、タンクラッドとバーハラー目掛けて放たれ、龍が即かわすと、槍は高熱の礫に変化し飛び散った。飛散した礫も、龍の翼は高速で避け切り、バーハラーは乗り手にさっと金色の目を向ける。その目に『相手は敵』と断定した力強さが籠る。


 真実を射貫く龍の目に、タンクラッドは応じる。龍の背で、ダルナから連発される光線を切り薙ぎ、灼熱の礫を剣で消す。逃げながら攻撃をする相手を追う、燻し黄金の龍と剣職人。

 タンクラッドの剣を振るう腕は、瞬く間にゴウゴウと音を立てる渦を作り出した。


「バーハラー、お前からも龍気を取るかもしれないが。()()()()()()はずだ」


 イーアンの龍気を籠めた面は、真っ白に輝き、龍気の渦が相手の攻撃を呑み始める。あの時、ダルナ相手に四苦八苦した扱いだが(※2051話参照)、今はもう違う。

 タンクラッドは確信していた。西の遺跡下洞窟で読み解いた紋様の意味は(※2281話参照)、『ダルナの質』自体も教えていた。


 それを読み解いた時、ここだけイングに言わなかった。言えば、不安にさせ、ともすればイングの信頼も失う、と懸念したから。



 ―――『決して切り離せない魔力』が別の世界から引き込まれていることで、ダルナはこの世界にいられる―――



 ・・・イーアンと説得に回った日々、ダルナ相手にどうしてもうまく使いこなせなかった。


 それは、彼らがこちらの攻撃の質を見抜いて、自分の魔力を使われないよう()()()()()からだ。


 時の剣は、二つの異なる『気』を混ぜ合わせて中和し、消す力。

 あの時のダルナは、俺の攻撃を何度か避けて気付いたのだろう。彼らにとっての『気』、魔力を俺に吸い込まれることを。対して俺は、気付けなかったし、理由も思い当たらなかった。


 彼らの気配というのは、無い。あるとすれば匂いや温度など、持ち前の特徴で、それは彼らの『気』ではなかった。


 ダルナの『気』=彼らの場合は、存在を構成する土台である、『魔力』。


 だから。 時の剣の性質(こっちの手の内)をダルナに気付かれる前に、魔力を取り、龍気で中和してしまえば・・・・・



「俺の()()だ」


 時の渦は突如膨張し、龍気の面から白い龍の首が伸びる。ゴォッと唸りを上げ、さながらタンクラッドの頭が、龍に変わったかのような瞬間。

 渦の旋回より速く、白い龍の顎が開き、向かい合ったダルナの頭を齧り千切る。千切ると同時、ダルナは粉砕し、肩、翼、背中、手足、尾と連鎖して砕け、あっという間に砂礫と化し、その砂礫すら、白い大渦に呑まれて終わった。



 *****



 夜明けまでに戻る、と言った手前。タンクラッドは時間内で、8つめの指輪入手に気が急いて、バーハラーを西へ向ける。


 時間を食ったし、本当に処刑を実行するとは思いもよらなかったが・・・タンクラッドは、満足もある。ダルナを倒す基本を理解し、実際に通用したことで、その方法が正解と確認した。


 これは、タンクラッドにとって大きな前進。処刑人の代役に立った割には、イーアンほど圧倒的な力を持つわけでもなく、龍気の面を受け取ったからといって、『ダルナを倒すにはどうするか』は想像と考察のみ、肝心の『経験』がなかった。



「倒して気分がいいものではないが、あんなのも当然混じってはいる、と思うだけだ。()()()()()()、上出来だ」


 冷たいタンクラッドの呟きは、冷笑もない。ダルナたちの境遇に全く同情しないわけではなくても、タンクラッドはこちらの世界の住人で、イーアンほど情けに繋がる理由がない。


 自分を信じて役目を引き継がせた龍族・ビルガメス、そして精霊アウマンネルに応えるため、覚悟を決めた以上、敵対を選ぶダルナは、『敵』以外の何ものにも映らなかった。



 倒した内容を反芻し、西へ急ぐ空の道。

 指輪の在り処を正確に知らないので、イングに特定してもらおうと、空の道で青紫のダルナを呼んだ。少しして、あの花の香りが、風切るタンクラッドの顔に当たる。


「イング」


「指輪探しか」


「そうだが・・・()()ダルナたちは」


 黒い夜に、どこからともなく現れた青紫のダルナは、毎度のように落ち着いた態度。ただ、彼の後ろに、他のダルナが何頭もいる。何かあったかと、速度はそのままタンクラッドが尋ねると、イングたちは顔を見合わせ『お前に知らせる』と言う。


 まさか、先ほど処刑したダルナのことを、もう感じ取ったのか?と、タンクラッドの頭に過ったのを見越すように、後の一頭がイングの横に並び『お前がダルナを倒す役目なんだろう?』と訊いた。


 正直に『さっき倒した』と言っていいか迷った親方の返事を待たず、そのダルナは高速飛行を余裕気に、尾をゆらっと振って前へ出る。


「俺は、バニザットの声を聴く、アジャンヴァルティヤ」


「・・・アジャンヴァルティヤ」


 これがそうかと、親方は、報告で最近聞いた名前のダルナを見つめる。イングは気を利かせ少し下がってやり、前を譲る。


 破壊力抜群の見た目。その姿に相応しい力を、内包しているのが伝わる。黒と金に彩られたダルナは、燃えるような赤に涼し気な水色を湛える瞳で、タンクラッドを見据えた。この迫力、バーハラーは気にもしないが、タンクラッドはやや緊張する。


「女龍に聞いたかもしれんが。遠慮なく、はみ出すダルナは倒せ、と言われただろう」


「む・・・聞いている」


「ダルナに限らず、異界の精霊で足を引っ張る輩は、その剣で切り捨てろ。手こずる場合は、お前たちの側についたダルナを呼べ。代わりに倒してやる」


 直に言いに来たダルナ。呆気に取られたタンクラッドは、小さく頷いただけで何と答えていいか。言葉を選んでいる内に、アジャンヴァルティヤは消えた。


「あ。帰っちまったのか」


 驚く剣職人に、イングが横に並び『用件だけだ』と言い、外に連れて来たダルナの用事も教える。


「スヴァドはここに来る前に、魔物を倒しに動いた。お前は指輪を探しているのだろうから、俺が付き添うが。ここにいるダルナは、探し物をする間、俺たちがゆっくり探せるように、魔物を倒す役目だ。『貢献』でな」


「そうなのか。それで・・・こんなに頭数が」


「これで足りれば良い方だ。タンクラッド、夜明けには、この国の南に振り分けられる分が、東西関係なく()()()()()()ぞ」


 イングの静かな言葉に、タンクラッドは一瞬考えてから『夜明けには?』とおうむ返し。青紫のダルナは人の姿に変わり、バーハラーに睨まれながら龍の真横に寄り、念を押す。



「8つめの指輪探しは、()()()ってところだ」


 そうしないと民が殆ど殺されるんだろ?と、イングは小さく呟いた。


 暗い夜空の前方に、大きな西の山脈が視界に入る。西の三ヵ所目は、ヨライデ国境近く・・・ いつだったか、ドゥージがそう言っていた言葉が、タンクラッドの頭に警告のように浮かび上がった。

お読み頂き有難うございます。

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