表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2317/2964

2317. 武神アシァクの星・ゴルダーズ公と南東の目的『誓いの板』

 

『白い遺跡』について、()()()()()()()()()()も含め。

 求めた情報『遺跡の在る場所』を大方把握したイーアンが書庫を出て、男龍にも話しておくため、イヌァエル・テレンへ向かった頃。



 精霊アシァクは、大地の精霊アガンガルネと話し、アガンガルネの許可を得て、一つのことを実行に移していた。


 それは、もうすぐ始まる、民を削る訪れの備え―― アシァクは古来から武神として、海に続く群島から森林まで、この国の人間の側にいた。


 迎える恐れの時間は、必要で生じる一環ではあるが、余計を加えた『原初の悪』のために、他の精霊も動きを変えている。


『原初の悪』が()()()をする範囲は、決して限度を飛び出すことはないが、その()()が限度を飛び出すことは大いにある。その場合、『原初の悪』が責められることはない。なぜなら彼の役目が、混乱と痛みを司る、原因の発生そのものだから。


 その関与は、創世の時代から自由であったが、気紛れで状況悪化、延長する拍車もかける。これから起こる時間も、『原初の悪』は大きな要因を作った。


 アシァクは、自ら人間を助けることが少なくない精霊で、武神と慕われてきた理由がそこにある。過剰な保護はないが、人々の戦う力を支え、導く。


 今も、アシァクは『原初の悪が大きな動きをとったため、()()よりも著しく民が消される』と見越し、民への援助を決めた。自分の上に立つ大精霊アガンガルネに話し、承諾を受け取ったアシァクは、夜の草原に現れる。



 上半身は人の女性、腰から下は馬の姿、鎧を身に着け、顔に大きな模様を描いた精霊は、右手に剣、左手に大型の盾を持ち、枯れ草のなびく草原を進む。


 ある地点まで来たアシァクは立ち止まり、強い風に流される、ひっきりなしの雲の波間を見上げ、剣を空へ向けた。精霊の剣先が真上を示すと、応じるように雲の流れに切れ間が出来、そこに瞬く星が見えた。



「私の剣の刃を与える。私の蹄の速さを与える。私の盾の守りを与える。民よ、立ち上がれ。恐れに勝て。お前たちが手にする武器に、私の勢いを分ける。お前たちが手にする防具に、私の守護を分ける。私はお前たちを、常に見ている」


 共に戦うには、()()時期ではない。民を保護するのは、自分ではない。


 武神は、民に勇気を与え、手に取る武器と防具に力を分け与えるが、関与する範囲を守り、それ以上は出ない。

 剣身に輝きを含ませ、空に一閃を放つと、精霊の(めい)を受けた星が煌々と輝き出し、その光はアイエラダハッドの空に浮かぶ星全てに渡った。


 一斉に光を増した星々は、アシァクの瞬きと共に、流れ星のような光を落とす。本物の星は動かず、光だけが地上へ。精霊の祈りは、民の持つ武器防具に、淡い光を走らせて吸い込まれた。



 その一部に、あの曰く付きの剣―― イーアンが抑えた、サブパメントゥ()()()の剣 ――も。



 *****



 ブージルの宿で、朝まで数時間しかない短い眠りに就いたばかりのドルドレンは、その眠りも半ば、イーアンから連絡が入り、枕元で光った連絡珠を手にして数十秒後に飛び起きる。


 イーアンは『用を済ませ次第戻るので、それまでに準備を』とドルドレンに急いで伝えた。連絡珠を腰袋にしまい、ドルドレンはすぐさま、ゴルダーズ公の部屋へ行き扉を叩く。ゴルダーズ公も眠りが浅かったのか、三回目のノックと同時に足音が聞こえ、扉が開けられる。



「どうしましたか」


 扉を叩かれて開けたそこに、血相を変えた総長を見て、ゴルダーズは不吉な予感がした。さっと恐れが顔に出た貴族に、ドルドレンは『夜明けに、魔物の襲撃が始まる』と小声で伝え、目を見開いたゴルダーズ公が質問するより早く『すぐに出発できるよう、身支度を』まで伝えたが、続きはゴルダーズ公が遮った。


「総長。私たちは、離れ離れになる可能性が高い、そうですか?」


「その可能性は大いにある。だが、あなたやあなたの従者、また俺たちの馬車の守りは、仲間に頼むつもりだ」


「有難うございます。少しだけ・・・入って頂く時間はあるでしょうか。夜明けには、というなら、もう時間がありません。総長にも皆さんにも、行く道でお話ししようと思っていたことがあります」


 それを今話しておく、とゴルダーズは言い、ドルドレンは部屋に入った。ゴルダーズ公は扉をそっと閉めると、振り返って『()()()です』と単刀直入、手短に話し始める。



 ―――それは、ゴルダーズ公の()()()あった。


 目的地は、エルー・ウィンダル公の館。クレイダル卿の遠縁の親戚で、彼からウィンダル公を頼るように手配され、旅の仲間の訪問相手。そこまでは、ドルドレンたちも承知している。これ以外の事情を、ゴルダーズ公は手短に打ち明けた。


 ウィンダル家は、アーエイカッダ時代に建てられた、古王宮を管理する一族で、古王宮が『知恵の還元』の舞台ではないかとゴルダーズ公は考えていた。


「以前もお話したかもしれませんが、東に手を広げた貴族は、神秘と現実・・・つまり、()()に非常に関心が高かった人たちでした。僧院が多い東で、彼ら僧を支え、貿易で世界の知恵を集めることに、資産を費やしました」


 その動きの中心になった場所が古王宮で、貴族が知恵と呼び、認めたものを、我が物に変えて行った歴史は、全て詰め込まれていると言って過言ではない。


 しかし時代が流れ、首都が西に移り、東の北部寄りにあるデネヴォーグが大都市に成長したことで、現在は、特別な国事や、ウィンダル家の都合で鍵を開ける以外の、古王宮の利用はほぼない。


「でも、そこに。私は貴族だからこそ思うのですが、知恵の還元の舞台があると思います」


 ウィンダル公に事情を伝え、古王宮の鍵を開けてもらう。古王宮の『誓いの板』を、書き換える日が来たことを話すつもりだと、ゴルダーズ公は言った。



 ドルドレンは彼の話を聞き、リチアリが行先を告げずに姿を晦ましたのも、誘導する役目を、知らずの内にゴルダーズ公が荷負ったからか、と気づく。


 クレイダル卿が『戦旗の駒』を通行手形代わりに持たせた時点で―― 『この駒一つで、古王宮も入れます。入り、もてなされ、贅沢に過ごして、好きなだけ理由もなく滞在し、好きな時に帰る権利を持つ程度には使えます(※2068話参照)』 ――自分たちの向かう要は、古王宮だったのかもしれない。


 頭の中で繋がる数々の連鎖にドルドレンは納得する。打ち明け話の大きさは、ゴルダーズ公にとって、覚悟や決意を伴う内容ばかりで、彼は緊張で張りつめた表情を向ける。


「・・・私でなければ、ウィンダル公は頷かないでしょう。私たちの時代の終わり、誇りと、譲る決意は、同じ貴族の言葉を介さなければ、すぐに受け入れられるものではありません」


 だから、自分も一緒に行くと決めていた・・・言い難いことだったか、ゴルダーズ公は息を大きく吐き出して、ここに真意を続けた。



「リチアリと関係しています。貴族がアイエラダハッドを統べた知恵の交代、その場所こそ、古王宮。リチアリはどこへ行くともはっきり言いませんでしたが、『伝説が事実を伴う場所で呼びかける』それだけは教えてくれました。

 彼は賢い。きっと、自分だけが辿り着いても、おいそれと事が運ぶとは思っていなかったでしょう。ですが、もし古王宮へ行くと教えたら、()()()()()とも思ったはずです。古王宮に、貴族と王族以外は入ることが出来ないから」


「ああ・・・そんなところで差別が邪魔をするのか。つまりあなたは、リチアリの臭わせた言葉も、仮定した古王宮への後押しになったわけだな?」


「そうです。総長、古王宮へ向かう理由は、クレイダル卿の導きが偶然かどうか、私にももう分かりません。私たちの思惑など、疾うに超えている気がしてなりません。でも、出来れば。あなた方を連れて行き、ウィンダル公にちゃんと理解してもらった上で、私はリチアリに『交代』の声を・・・民に、この土壇場で、届けてほしいと考えています」


「ゴルダーズ公。あなたは奇特な人だ。大貴族と呼ばれるにふさわしい。分かった。夜明けに襲撃が始まれば、俺も側を離れる時があるだろう。だが、あなた方が無事に着けるよう、確実に仲間を側に置く。足を止めず、南東へ急いでほしい」


 ドルドレンの約束に、はい、とゴルダーズ公も必死な面持ちで答える。ドルドレンは彼に身支度を整えるよう、もう一度言ってから廊下に出ると、丁度戻ってきたフォラヴと鉢合わせた。


 フォラヴに『準備を急ぐ』と言い、目を丸くして『何が起こりました?』と聞き返す妖精の騎士に、『皆にも伝える』と答えて、二人で眠っていた全員を起こした。


 聞いたばかりの、ゴルダーズ公の話も要約して仲間に伝え、この場にいる全員が理由を理解する。


 リチアリがどう動くか、目的地ウィンダル家の繋がり、中南部中心に襲われる予告、知恵の還元がこの時機に同時進行すること。全てがまだ見えてこない糸の見え隠れで通じている。


 予言者と次の予告は、手を離れたわけではなく、そこへ行けと、暗に示唆が出ているのだと察する。


 部屋を出て馬車へ行き、全員がアオファの鱗、ノクワボの水を携帯。騎士たちは急いで鎧を着け、ミレイオたちも武器を引っ張り出した。馬車とゴルダーズ公たちを守るのは、この場でミレイオとシュンディーンに決定。


「どうせ私は、()()()()()()()な制限付きだから。どこでご法度か分からないし、ゴルダーズ公たちと南へ向かうわ」


「そうしてくれ、頼もしい。出来れば、あと一人いてほしいが」


「俺も残るよ」


 オーリンが引き受けてくれたので、ドルドレンは二人に後を頼む。『旅の仲間十人』は、何かあれば確実に引っ張り出される。それを知っているから、オーリンとミレイオは彼らが、守りを気にせず動けるよう、貴族の護衛を引き受けた。



 ・・・この時、誰も口にしなかったが、脳裏に過ったのは一つ。移動先まで、『王冠』で動けないのかどうか。


『王冠』は、使用回数に限度があり、魔力の補充のためダルナに返却したばかり。朝の時点でそれを知ったミレイオたちから、ドルドレンたちにも話は届いているが、こんな切羽詰まった時こそ『王冠』に頼るべきでは、と。イーアンが戻ってきたら、それを話してみようとドルドレンは思ったのだが。



 この時、夜明けまで2時間。それぞれが次に顔を合わせるまで、どれほど空くか。ドルドレンたちが予想できるわけもなく―――

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ