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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2303/2964

2303. サブパメントゥの鎖・錠前ラファルへの配慮

 

 ―――『俺の用は、そこに巻いてあるやつだ』



 緋色の魔導士の鋭い目つきが、獅子の前脚の片方に向けられた。サブパメントゥの鎖と呼ばれる、サブパメントゥの気を引き込む代物。ずっとではないが、地下の国に入らなくても受け取れる。


 今や、ヨーマイテスにこれが必要かどうかは判り難い。精霊と共にいて、サブパメントゥに戻らずに過ごす、期日未定の拘束の日々。

 随分前、テイワグナはカロッカンの町で、コルステインがヨーマイテスを気遣って渡してやったもの(※1392話参照)。


 コルステインはこれを覚えており、獅子に持たせた『鎖』を、今度はラファルに持たせようと考えた―――



 鎖があれば、ラファルに何かあっても気づける。サブパメントゥから鎖に流れている気が揺らぐと、コルステインたちには伝わる。その揺れ方が、残党サブパメントゥによるものなら、尚一層。


 この前の、『巻き煙草の一件』・・・コルステインは、ラファルに手をかけられることが、自分たちサブパメントゥの紛争勃発に繋がる懸念を重要視し『鎖を持たせたい』と精霊に伝えた。


 ラファルがアイエラダハッドから、自分たちより()()出ていく可能性も大いにある。それを止めるには、彼が倒されるか、倒れるかを早めることになり、どちらにしろ、古代サブパメントゥを増やす羽目に陥る。


 懸命に伝えるコルステインの想いに、静かに耳を傾けていた精霊は、コルステインが要求する理由を受け止めた。



 ラファルのためではなく、サブパメントゥのため。

 コルステインの意思は、はっきりしている。精霊が呼びこんだラファルだけに、コルステインとしては、精霊の計画を邪魔する気もないし、遅らせるつもりもない。だが、()()止してくれと頼んだ。


 現時点でサブパメントゥが二極化し対立して、紛争開始になろうものなら、自分は世界の旅路の場を()()動きしか取れないと言うコルステインは、それを避けたい。


 二度目の旅路が、そうだった。行く先々で、魔物ではない障害―― 古代サブパメントゥ襲撃 ――が邪魔し、どれほど犠牲が増えたか。そして自分が倒しに関わることで、誤解も手遅れも山のように生じた。



 この訴えの場にいた魔導士は、精霊ナシャウニットが『鎖の所持者をラファルにする』許可を出したことに、重きはラファルの保証ではなく、コルステインの声と知る。


 これにより、コルステインは彼を守護するほどではないにしろ、ラファルがこの世界に存在する意味―― サブパメントゥの言伝を動かす ――に接触されそうな時、()()ことを許可されたに等しい。


 精霊が選んだ時機を、一種族の主による訴えで『ずらす』なんてこともあるのかと、魔導士は珍しい場面に居合わせた気がした。


 そして、許可の続きは、バニザットへ回される。


 獅子が()()()()()()に来た場合、鎖を譲与するよう伝え、鎖を引き取る役目・・・ 使われている感がひしひしと来たが、これは魔導士にしても『ラファルのためになる』動き。ラファルを預けられたのに、彼に近づく危険を見逃してしまう失敗も憂慮していたので、引き受けた次第―――



「兵器の・・・男。()()か」


 答えた獅子は思い出す。宝鈴の塔で助け出した、あの男。獅子の碧色の瞳に、月光が細く差し込み、その明るさに金色が宿る。黄を薄く帯びた瞳の色に、魔導士は自分が世話する、薄茶色の目の数奇な男を思い、静かに頷く。


「精霊を介した運びだ。よこせ」


「断るわけにいかないのに、何が『貸し』だ」


 ぶつくさ言いながら、獅子は体をメキメキと、焦げ茶色の金属質の肉体の大男に変化させ、腕に巻いた細い鎖を外して、魔導士に放った。

 魔導士の指一本が持ち上がり、宙に弧を描いて飛んだ鎖は、指に向かって吸い寄せられ、そのまま巻き付く。


「貸し、を使えば減るんだから、()()()()()だろ?」


 ふんと鼻を鳴らした魔導士に、焦げ茶色の大男は迷惑気。首を傾け『どっちにしろ、貸し借りなんざない』と憎まれ口で返した。



 *****



 真夜中に戻った魔導士は、コルステインには明日伝えることにして・・・『でも。これをラファルが持てば、その時点であいつにも伝わるのか』だよな?と一人問答しながら、ラファルの眠る部屋へ入る。

 ()()()()()()が眠っている、ベッド。 毎度、魔導士にはそう見える。


 過去に生きた自分たちが、存在の形は異なれど、同じ空間にまた揃っている、現在、現実。

 変なもんだと苦笑し、メーウィック姿の男に近寄り、サブパメントゥの鎖を出した。ラファルに()()()()()()()だが、実際はどうなのやら。若干、心配は残る(※気配り細かい)。


 ・・・少し考え。ちょっと待てよ、と止まる手。鎖はラファルに接触する手前。魔導士はじっと眠る男を見つめた後、気になることがあり部屋を出た。


「あいつの体には・・・『面倒』が()()()()()だろ?」



 ―――『言伝』と称する、仕組み。仕掛けられた錠。ラファルは、錠を開ける鍵。


 錠は外に転がっており、ラファルを使う・もしくはラファルが近づくと、錠を開けるために彼の体から『鍵』が出て、開けたらまたラファルの体に戻る(※1966話参照)。


 ラファル自体は、『鍵を運んでいる』具合だが、彼に押し込まれた『発動の引き金』が来ない以上、錠は作動せずにずっとそのままであるため、嫌な言い方をすれば『ラファルが錠前』と言えなくもない。

 彼は、自分をそう自覚しているらしいが、間違えていない。彼は鍵であり、錠を錠として機能させる――― 


 ただ言伝は、『存在を持つ何某か』ではなく、『念』でもなく、単に『仕掛け』であり、道具みたいなものと魔導士は解釈している。


 ラファルが、コルステインの羽を所持したり、側に俺やザッカリア、以前は狼男も、そう・・・女龍(イーアン)とも距離を置かずに付き合うことが出来るのは、彼がサブパメントゥの念に憑かれている訳ではなく、『道具の入れ物』だからだ。


 そこへ行くと、ドゥージ(弓引き)はもろに怨霊を背負い、数を増やす運び屋状態のため、彼は、人付き合いに制限が当然増える。



「分別が、ややこしいんだよな。ラファルに入り込んでいるのは、()()()()の類で、それ単体に思考や存在の残るものじゃない。とはいえ、『サブパメントゥ産の両者』が揃う・・・のは、反応、大丈夫なのか?」


 ・・・ラファルに安全で、何も問題ない保証、がない。これは魔導士を悩ませる。


 コルステインも大まかな性格だから、後々『あれ?』と本人が小首を傾げることもある(※大問題)。持たせた羽では役不足と判断したから、鎖なら確実とラファルに持たせるよう、今回強く要求していたようだが。


「どこまで分っているやら、だな。コルステインにその辺は聞いてないんだよな。聞くとあれも、機嫌が悪くなるから」


 リリューも細かいことは知らないだろうし、本当に鎖がラファルに安全かどうか、確認する方法がない。精霊ナシャウニットが『良いだろう』と許可したところで、精霊も別に含むものを持つ時がある以上、安全だから許可したとは限らない。


 魔導士としては、常に翻弄される『ラファルの立場』で考えてやりたいところ。

 やれやれ、と黒髪をかき上げ、仕方ないので自分で調べられる範囲は探ることにした。


「ラファルは、サブパメントゥそのものに因む・・・わけじゃ、ないからな。迂闊に渡して、この上、あいつに負荷があってもたまらん」


 せっかくリリューと、人らしい感覚で楽し気なのに・・・ リリューは人間ではないし、ラファルも既に人間枠ではないのだが、魔導士は(※この人も死んでる)残酷な運命を無表情で受け入れる男に、良い思いもさせたい。



()()()なんて、あっちゃ困るんだよ」


 素でぼやく、元僧侶。人助けの一面は死後も変らず、一人の男の心配に注がれる。魔方陣を部屋に張り、金の糸が銀の盤の上で輝きながら示す、求めた問いの答に目を眇めて考えた。


「いけそうか・・・? ふむ。ただ、ここが引っ掛かるな。こりゃ何だ。俺には、『地下の連中のエサ』・・・って具合に見えるんだがなぁ」


 それはまずいんじゃないのか、とブツブツ呟き、顎髭に手を添えて眉根を寄せ、魔導士は魔方陣の前から動かない。


 ここまでも、ラファルが充分『美味しいエサ』状態で目立っているのは確かだから、そう気にすることもないだろうが。そもそも、『鎖』の効果と機能も、大雑把にしか知らないので(※コルステインの説明)魔導士はもう少し情報が欲しい。



「ヨーマイテスが持ち歩くのと、訳が違うな。あいつは生粋のサブパメントゥだから、あいつに向かって()()()()が動いていようが、別に古代サブパメントゥが目をつけることはなかっただろうが。

 ラファルが鎖を持つとすると、気の流れが彼の居場所を教えるのは、間違いないことだ。加えて、ラファルが『鎖』を持っていると分かったら。

 この前、ミレイオが使った回復穴(※サブパメントゥの沈黙の石)の()()()とうろついている、と思うわけだろ?・・・『エサ』、だよな。ラファルの状態が、『さらに美味しいエサになる』ようにしか見えん」


 好ましくない状況が待っていそうで、顎を掴んで唸る魔導士は、ちょいちょい指を動かして、幾つかの質問を変更し、同じ条件で模擬実験(※魔法シミュレーション)。


 幾つかの場合を出してみたが、どれも魔導士の眉根が、くっ付きそうなほど寄せられる結果だった。


「大丈夫なのか?本当に」


 片手に鎖、片手で黒い髭の顎を掴み、魔導士は金色の糸が動く銀の盤を睨みつける。結局、ラファルへの安全が妙な方向で崩れそうな印象が残り、鎖を受け取ったものの躊躇は続き、魔導士はこの晩、彼に鎖をつけるのをやめた。

お読み頂き有難うございます。

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