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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2302/2964

2302. メーウィックのヒントを届けに・指輪話と魔導士と女龍・獅子の鎖

 

 報告の終わった夜。 翌日はイーアンも、指輪探しに同行することに決まっていたので、魔物退治に出るのを控えて部屋で眠った。力を戻したばかりのフォラヴは、引き続き、単独退治へ。



 イーアンは久しぶりに、夢で魔導士と会う。夢じゃなくても良さそうなものだが、この日は夢だった。


 イーアンにとっても、魔導士にとっても、時間が短縮される『夢接触』が、都合良いのは確かである。これはついでに、うなされる女龍の負担も減らす。



 夢の中。追う立場に立ったイーアンは、苦渋の選択で異界の精霊を消していた。

 立て続けに何人も見つけ出しては消し去り、こんなことは嫌なんだと怒鳴りながら、最後に隠れた精霊を見つけ出し、涙ながらに消す手前で、『おい』と背中から止めた嗄れ声。


 振り向いた女龍に、緋色の僧服を着た男が腕組みする姿。空に浮かぶ二人のシルエットが、夢で拡大された途端、追い詰められた異界の精霊の怯える姿、どん底にふさわしい断崖絶壁の亀裂は薄れ、『()だろ?』と魔導士が呆れたように呟いたのを合図に、景色が変わる。


『バニザット。夢・・・って』


『俺は用事だ。来てみりゃ、何だ。夢でも退治かよ。気負い過ぎている』



 うるさいなぁ、と顔を背ける嫌そうな女龍。辛かった気持ちはまだ強烈だが、現実ではないから気分が変化するのは早い。


 魔導士は側に寄って、そっぽを向いた女龍の白い角をちょっと押す。顔が上に向いたイーアンを見下ろし、『異界のやつらは()()()()()()()だろ』と・・・彼女の不安らしき部分を、まずは払拭。何かしら、事情が出てきたのは分かるが、遣りきれない表情で視線を外す女龍に、あれこれ聞くつもりもない。


『今は別件で来た』と話を変え、魔導士はイーアンに、大切な情報『メーウィックの示唆』を早速教えてやった。



 ―――実のところは、魔導士も詳細など知らない話。


 ドルドレンが指輪を集めて、国内に旅する馬車の民を探したのは聞いていたから、それは知っているものの。


 夜に戻って急に聞いた『メーウィックがラファルの夢で』の内容と、馬車歌の隠された指輪情報と、ミレイオの秘境の菓子と、これらが()()で繋がった魔導士は、『指輪関連』と見当をつけた。


 ラファルを通してまで、メーウィック(あの男)が場所(※だけ)の示唆を与えたのは、どうも馬車歌の内容で難儀しているからだろう。


 メーウィックが指輪に絡んでいるのも、魔導士としては『あいつはしょっちゅう、世界を飛び回っている』印象だけに、一々、何の用事かなんて気にしなかったこと。どこかで聞いたこともあったかもしれないが、そうじゃないかもしれない・・・程度のうろ覚え。



 ラファルが頼まれた内容のとおり、女龍に伝えると、案の定、空白部分がイーアンの口からあっさり出た。


『指輪の巌・・・ メーウィックが直に教えてくれたの』


『あいつは、そんな意味の分からん物を持って、動き回って』


 あれ?と思うイーアン。魔導士の反応が、指輪の話を知らないようで、首を傾げた。



『バニザットは知らないの?知ってるよね?ドルドレンが魔法陣でお世話になったから(※指輪探し中)』


『何を』


『指輪。メーウィックから、聞いていそうなのに』


『何でもかんでも喋るもんじゃない。俺が、別のことで動いていた時期と重なっていれば、話も適当だ』


 この人が知らないとはと、意外なイーアンだが、考えてみれば魔導士は、魔法に関する情報、自分の役に立つ知識でもなければ、どうでも良い人だった・・・と思い出す。指輪は彼の狙いや関心から、それほど近くなかったのだろう。


 全知に似た、博識なイメージが魔導士にあるから、つい・・・ そうなんだと頷いて、伝言を届けてくれた礼を言う。魔導士は頷き、指をちょいと女龍に向けて尋ねる。



『指輪の在り処に難航しているのか?どうなっている』


 やんわり探る質問に、イーアンは彼を見つめ『ドルドレンが得た馬車歌に残る情報で、指輪を探している。指輪が全部集まると、アイエラダハッドの民を精霊に預けて守ってもらえる。ズィーリーの像がある治癒場で、民を保護できる』と話した。


 ・・・探らなくても、バニザットは民を守る意識が強いので、この辺は正直に教えておく(※他の話は慎重でも)。まずはこれが前提ね、と言うと、魔導士は続きを促した。


『指輪が全部集まると~』の件は、馬車歌ではなく、精霊の祭殿と、その後に聞いた未来予告で助言されたこと。

 それで、急いで集め出したのだが、馬車歌の示した以外に、まだ指輪がある、と気づいたのは最近だった。


 数の勘違い。奇妙なことに、精霊の祭殿でも、精霊やヤロペウク、自分たちの交わす言葉でも『個数は変化』していたのに、ドルドレンに指摘されるまで気づいていなかった。



『幾つなんだ。実際の数は』


『歌では、6個。実は8個』


『馬車歌の分は集めた、って具合だな。残り2つに手間取ってるわけだ。メーウィックがわざわざ夢で伝えた理由は、お前たちが見つけ出せない、と』


『今日、私も探しに行くんだけど・・・まやかしで近づけないから、その一地帯を少しずつ消す案も出ていて』


『あー、それでか!やめろ、やめろ。何つー、()()()な流れになってんだ。お前が行くからには、そこまで()()な事態にはならんだろうが、それを言い出したのはタンクラッドか?』



 思慮のありそうな男なのに、変なところで浅はか。もうちょっと考えろよと呆れる魔導士は、イーアンが『そこまでするつもりはない』と断るのを、横目に見て溜め息を吐く。


『慎重にやれ。消す消さないは、魔物だ、敵だ、そんなのが詰めてきてるなら、即決もいざ知らず。精霊が関わることに、消去は』


『もしも、だよ。もしも、消すって決まっても、私は先にアウマンネルに訊くもの』


『・・・お前は、まぁ。そうだな。決まれば動きは速いが、決めるまでは()()()()から』


 ブスッとする女龍の頭に手を置き、なんだよ!と手を払おうと頭を振ったのを、ぐっと押さえつける。顔を覗き込んで『タンクラッドに、()()()()()()()を知らない内は、勝手な打撃を起こすのはよせ、と伝えろ』と命じた。


『分かってんよ』


『お前はタンクラッドに強く出ない。何やら、親方とかそんな呼びも聞いたことあるしな。だが、言っておけ。俺の忠告だ。とんでもない羽目になるぞ』


『タンクラッドなりに、下調べは』


『それが通用しない場所だから、メーウィック(死んだ男)がわざわざ、助言を間に合わせているんだ』


 黙って睨む女龍に、いいな?と言い聞かせて、頭を押さえていた手を離す。



『俺も、助言に助言、なんて、意味のないことは馬鹿々々しいが。お前たちの浅慮の末を思うと、一言二言』


『不要』


『聞け(※命令)。今決めた。お前には絶対、必要だ。メーウィックは、上級編の隠し場所に解き方を示した。これまで()()()()、いいか?()()()()、だぞ?重複するのは、ここが重要だからだ。

 嫌そうな顔をするな。壊さずに(※三度目)くぐってきた場所の特徴を、当てはめて考えろ。

 全く同じ条件ではないだろうが、一つの条件に、糸口はくっついているはずだ。メーウィックは必ず()()()()()()()を用意している』


『・・・それって。共通する条件がある、と言っているの』


『そーだ。よく解ったな(※嫌味)』


 ポンポンと巻き毛の頭を叩く魔導士を、睨み上げる女龍。その顔に、意地悪な笑みを浮かべ『つまり、ぶっ壊さなくて済むんだ』と皮肉たっぷりの一言を与える。


『壊さねぇ、って言ったろ』


『口の利き方(※注意)。万が一、でも困るんだ。お前らが焦ってドジ踏むのはな』


 はー、と大振りに溜息を落とし、女龍は髪をかき上げる。『ホーミットが、ドルドレンに忠告したばっかだ。あんたにまで言われたくない』と吐き捨てた。

 これを聞いて、魔導士の皮肉な笑みが引っ込む。


『ホーミット?いつ』


『え?今日。って言うか、昨日って言うか』


『あいつはまだ、若造(※シャンガマック)と拘束中だろ』


『いろいろあって、ちょっとだけ釈放なんだよ。すぐ戻るらしいし』


 ちらっと見た鳶色の目に視線を返した、漆黒の瞳。じーっと見て『奴らは()()だ』と訊ねた。



 *****



「いるか。ヨーマイテス」


「何の用だ」


 子牛の外に出てきた獅子は、気怠そうに緋色の布に首を傾げた。金茶色の鬣が揺れ、千切れ雲に見え隠れする月明りに煌めく。


 林の中で休んでいた獅子とシャンガマックは、明朝にでも近隣の状況を見に行く予定だった。勝手に行動を取れないため、魔物退治などの動きは自粛するものの、『状況把握のために見るだけ』のつもりで。


 久々に拘束から解放されて、息子と二人で表の世界(※ファニバスクワンいない)でのんびりしていた夜に・・・・・



「何の用かって?大したことじゃない。お前に貸しがあったからな」


「その『貸し』は疾うに消えたぞ」


 両腕の至宝が消されて、元に戻った獅子の前脚。至宝を受け取る際には手を貸したもらったが、無くなったら、貸しもないと言い切るヨーマイテスらしい都合の付け方。布はそんなこと取り合わず、『他にもあるだろ』と、あれもこれも手伝ってやったことを並べ立てる。


「うるさい。俺に構うな。お前も知ってのとおりだ。俺は息子と、余計な動きを制限されて」


()()()()()()。お前が出てきたら受け取って良い、とナシャウニットに許可を出されている」


「何の話だ」


「こんな話だ」



 ぐるっと翻った布が魔導士に変わる。月明かりが忙しい雲に遮られて落ちる林に、魔導士と獅子が向かい合う。黒い長髪を寒風になびかせた魔導士は、片手を軽く振って『お前が持ってるだろう』と、ある品物の映像を見せた。



「『それ』をどうする」


 碧の瞳はほんの一瞬だけ、映像を見て呟く。映し出された『それ』は、()()()()()


「兵器扱いの男に渡す」


 魔導士が腕を下げて、映像が消え、漆黒の目がヨーマイテスの前脚を見た。毛に埋もれた、何重かに巻かれた細い鎖。


「俺の用は、そこに巻いてあるやつだ」

お読み頂き有難うございます。

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