2300. 夕餉の報告 ~②属性の複雑・7つめ指輪の難航
古代サブパメントゥが関わったことで、属性の偏りが影響を出しているのでは、とコルステインが見つけた点。イーアンがそれを話し、皆も『妙だね』と納得いかない首の傾げ方。
だが、なくもないか、とミレイオは少し思い出した。それが、テイワグナのハディファ・イスカン遺跡。
「イーアンは、あの時、留守だったのよね。センダラのいた跡地っていうか・・・蛇のサブパメントゥ(※ミルトバン)だけがいたの。私とフォラヴで出かけて、変な話だけど・・・私もフォラヴも幻覚を最初見ていたのよ。不安定で、ちらちら実際の荒れ地も見えたんだけど(※1218話参照)。
それは、あの場所が『妖精とサブパメントゥ』のいた場所で、自分たちの組み合わせもそれだから、馴染んだのかな・・・って話。龍なら見破ったかも、と話してたのよね(※1219話参照)」
フォラヴに振ったミレイオの言葉に、妖精の騎士も『そうです』と頷く。
イーアンは龍だが、サブパメントゥにも入れて、触ることも出来る龍。もしかすると、古代サブパメントゥの強制的な忍び方に馴染んでしまう時もあるかも、と。
「グィードと初めて会った、テイワグナの開始の時も。私一人だけ、グィードの龍気にピンと来ていませんでした。それで、男龍が驚いたのです。不鮮明な部分で、私は気を付けないといけないのか」
イーアンは記憶を探って、グィードの龍気に何ともなかった自分に、ルガルバンダが『ズィーリーは、グィードが苦手だった』と言っていた(※767話後半参照)。
それと、関係はないけれど・・・モティアサスの町では、魔導士にわざわざ魔法を使ってもらって、今と逆―― 幻覚の状態 ――を見せてもらったのだ(※1924話後半参照)。
あの場所は、土地が不可思議なまやかし持ちらしいが、『古代サブパメントゥ関係がない』から、真実の姿が目に映っていたのかも、と思える。
「簡単に条件付けはいけないけれど。でも『サブパメントゥ寄り』がまやかしの可能性にあるなら、気にしておきます」
「気を付けた方が良い。イーアンの敵ではない相手にさえも、古代サブパメントゥが絡んだら、煙に巻かれる可能性がある」
呟いた女龍に、ドルドレンも促す。イーアンも『本当に煙に巻かれている感じです』と嫌そうに目を瞑った。
嫌そうなイーアンの胸懐。同じような境遇での退治の後、その重さが伝わるだけに、ドルドレンは言い難かった。でも・・・ふぅ、と一息こぼして、ドルドレンは食事の手を止める。
「ホーミットが。今回の敵の話を聞いた彼は、『白い筒と魔物の門も、いつ起こるか分からない』と注意を促した」
イーアンは閉じていた目を開けたと思ったら、その話に殴られた感じ。また目を閉じ、背凭れに上に向けた頭を乗せた(※ぐったり)。
ミレイオが驚き『大丈夫?』と席を立ち、側へ行く。今のイーアンにすぐ言わなくても、と目でドルドレンを非難するミレイオに、ドルドレンも何度か頷くが、しかしいつ起こるか分からない以上、今、伝えねばと思う。
ホーミットの言葉そのまま・・・忘れていたから『足をすくわれた』では済まない、大惨事に繋がるのだ。
場は、溜息と沈黙。カチャカチャと食器に当たる音も消え、一秒後にオーリンが『装備だが』と口を開く。
「もうじき、最初の普及が可能だ」
「何?もう」
「今日、検品と試験で製品は問題なかった。早ければ数日中に、デネヴォーグの町民から希望者に渡すだろう」
オーリンの言葉に、イーアンの目が開く。頭を起こして弓職人を見た女龍に、オーリンの黄色い瞳が向いて『問題ない』と微笑んだ。
「魔物製品だからって、怖がる連中ばかりでもないしね。ここは隊商軍が率先して使っているから、町民も受け入れは早い。ロゼール、普及の許可はどこが最初だ?」
「とりあえず、ゴルダーズ公です。忙しそうだからサヌフさんに、書類を渡しましたが。ゴルダーズ公が出資者ですから・・・って、隊商軍はもう知っていますし、書類の手続き上、一番はゴルダーズ公ですね。次が隊商軍に」
「だそうだ。許可が降りたらすぐだよ」
『良かった』イーアンはこれだけも違う、と安堵する。魔物はこの辺から南へ移動しているが、絶対に出ないとは言えない。指輪を集めるまで本当の安心は遠いとしても、自衛の範囲が広がるのは、イーアンにとっても心強い。
「工場にも回しているから、材料がある内は、数も作れると思うわ」
イーアンの横に椅子を置いたミレイオも励ます。有難う、とミレイオの手を両手で握るイーアンに、『数が作れれば、別の町にも配る』とミレイオは言う。オーリンもそのつもり。
ドゥージはひたすら通訳だが、製品は細かい説明が物を言うので、自分が側にいる重要さを思う。・・・人知れず、頃合いを見て離れようとは考えているものの、それは今ではない。
「で、だ。イーアン。配るとなったら、『王冠』に移動を頼むのが早いだろうが、タンクラッドが王冠を持ったままか?」
オーリンは、所持者を確認する。最後に王冠を使った時は、国内に材料と製品を配分した日(※2254話前半参照)。イーアンは頷き、『王冠』は持っておらず、他のダルナに会っても特に何も言われていないと答えた。
「そうか。じゃ、タンクラッドに話しておくよ。彼は」
オーリンが『彼は指輪探しで』と言おうとしたところで、その『彼』が食堂の扉を開ける。
「呼んだか」
「おかえり」
ハハッと笑ったミレイオが立ち上がって迎え、苦笑いの疲れ切った友達の側へ行く。『腹が減って死にかける』とタンクラッドが言うので、背中を押して椅子に座らせ『どうよ』と成果を聞いた。
「ああ~。疲れただけだな。今日も無理だったが。ところで『王冠』か?廊下まで聞こえるぞ」
「そんな大声かよ。あんた、地獄耳だからね」
『王冠だ』と笑う弓職人に、タンクラッドも疲れ切った顔で笑い返して親指で廊下を示すと『筒抜けみたいな壁の薄さ』と家の造りのせいにした。
「あるぞ、ほら。もう製品配給か」
タンクラッドは腰にある王冠に顎をしゃくり、ちょっと体を逸らし、片腕を脇から離し、煌めく金属の輪を見せる。
「話が早いな。そうだ。剣は少し出遅れてる。嫌味じゃないぞ」
「嫌味に思ってない。で?いつだ」
サクサク進む職人の話題は、ドルドレンたちに口を挟む余裕もない。再び食事を始め、イーアンも二人の話の流れを耳に入れつつ、料理を口へ運ぶ。タンクラッドはあの後、王冠を使っていない様子、なのだが。
「丁度な。今日、もうこりゃ『王冠』使うか、と思ったところだ」
何やら不穏な一言が飛び出て、ちらっと親方を見ると、数席挟んで食事するタンクラッドもイーアンを見て頷く。
「お前がいれば。王冠に頼らないで済みそうかもな。ダルナに頼むには少々不安だ」
「それは。もしや壊滅、の目的」
「そうだ。その必要がありそうな状況」
親方は、ミレイオの取り分ける焼き皿の料理を受け取ると、大振りに匙に乗せて口に入れる。あち、と火傷しながら『広範囲消滅しないと』と恐ろしいことをサラッと言う。
「・・・その、そんなに?消さないでも」
「『王冠』にどこまで命じていいもんか。俺も悩まないでもないが。ダルナにこれを言えば『見える範囲を消してやろう』と言い出すしな。それはさすがに俺の」
「待って下さい。ダルナって、イングでしょう?イングに頼んだら」
「イングだけじゃないんだ、今は。お前も見たスヴァドがいる。魔物が南にも出ているから、魔物退治で自分から来ているんだ。
あいつもなぁ・・・極端じゃないんだが、解除したからか。計り知れないって言うかな。とんでもない力があるようだ」
自ら魔物退治を引き受けて、タンクラッドとイングに同行するダルナ・スヴァド。精霊の指輪がある7つめの場所で解除するダルナは、まだ側にいないらしく、巌を見つけたらイングが呼び出す話が付いているという。
「ああ゛~・・・ うーん。私も何て言えばいいか。私が行った方が安全なら、私が行きます」
イーアンの絞り出す言葉に、タンクラッドはちらりと視線を投げて、それが無難に思うと伝えた。
―――現時点。南に戻って探している、7つ目の指輪。イングが南と言ったので、出かけているが一筋縄ではいかない。
話を聞けば、この前の『雲間の村』と印象は似る。
周辺を上空から探ろうにも阻まれ、何が邪魔しているか不明。邪魔が入る地域と、それだけでも『そこに指輪あり』とは思ったらしいが。
ただ、タンクラッドの感覚では邪ではないので、土地に掛かった霊力だろうと踏んでいる。となれば、何かしらで手を打たないとならず、精霊の範囲かどうかも確かめた上で、辺りの状態を『消滅・消去』の接触で変化させたいらしい。
『精霊の範囲を確かめた』部分で、イーアンが『どうやって・誰に聞いて』と問い返したが、タンクラッド曰く、近づけるギリギリまで寄って、周辺をダルナと分担して、精霊の気配を探り、・・・反応がないことで『確認』、としたらしかった。
タンクラッドは、イグリヤックで鉱山の祠を開けてしまった失態から、慎重に配慮したつもり。
「でも。ホントに精霊がいないかどうかは、分からないですよね。小さな精霊もいますし」
「そうだな」
そうだな、と・・・イーアンを見る。はぁぁぁぁ、の溜息と共に、イーアンは頷いて『一緒に行きます』と決めた。
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