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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2299/2965

2299. イーアンの相談・要素傾向・フォラヴ帰宅・夕餉の報告①

 

 ドルドレンが、シャンガマックたちと話す午後。

 イーアンは力尽きて・・・というのではなく、猛烈な眠気に勝てず、部屋で熟睡していた。



 フォラヴたちと同様で、分担の魔物退治に出ていた数日間。前日の魔物退治後は、スヴァウティヤッシュの解除を終えて戻ったのが夜。食事を貰って少し休んだが、真夜中にフォラヴの援護でまた出かけてほぼ眠っていなかった。


 詰め込むように寝るだけ寝たイーアンは、夕方近くにふっと目が開いた。


 伴侶はまだ帰っておらず・・・出ている仲間たちも戻っていない様子。館は広いので、召使さんたちが部屋の前の廊下を歩かなければ、人の気配もない。

 大きなベッドで丸まって寝ていたイーアンは、目が開いて何度か瞬きした後、気になっていたことが真っ先に浮かんだ。



「何で。私、見抜けないのか」


 化け影・・・だけじゃない。リテンベグの町も、センダラはあっさり見抜いた敵を、私は見抜けなかった。


「致命的。()()で済ませている場合ではありません」


 見抜けないと、犠牲者が深刻な数に上る。ここから先、もっと多くなると思うと、早く解決したい。解決できるなら。

 体を起こし、目をこすって少し考える。魔法も中途半端だったことを・・・思い出し、ふーっと息を吐いた。見抜いていたら、もう少し違ったのだろうか。


 アイエラダハッドのこの辺りは、夕方時になると灰色の空に、やや茜色が差す時もある。

 北部と違って空の色が青や茜になることが多い。窓の外は橙色の穏やかな空に変わっており、大きな窓から差し込む空の暖色だけが部屋の明るさで、窓辺側の壁を対照的に黒い影を作る。


 じっと影を見つめて、イーアンはあっという間に夜になった今日を振り返り、やっぱり誰かに相談しようと思った。その誰かは、イーアンが()()()()()()をしたい時、いつも話を聞いてくれる―――



『イーアン。呼ぶ?した?』


『はい。明るいのにごめんなさい』


 部屋の暗がり、一番濃い影にそっと青い霧が揺れ、イーアンはそそくさとそちらへ行った。呼んだらコルステインは来てくれて、イーアンは謝りながらお礼も言う。どうした、と聞かれて、イーアンは相談したいと答えた。


 リテンベグの町も、赤い水の地域も、漁村も、龍の私が、なぜか見抜けなかった(※2291話参照)。私も、ある程度は気配も見抜くようになったし、私が幻に掛からないことも増えたのに、と話す。


 フムフム、聞いてくれる青い霧は、イーアンが話し終えてじっと見ているので、自分が気が付いたことを教えた。多分、これが理由・・・コルステインはすぐピンと来た。


『町。妖精。お前。一緒。戦う。した。()()()。サブパメントゥ。いた』


 まずは、イーアンが知らなそうなことを教える。リテンベグの町も、()()()()()()()()()はいたよ、と。そいつ(※一つ目)が地下で、あの日魔導士の雷撃に遭い、消えたのだ。

 あっち、とは、古代サブパメントゥのこと、と理解したイーアンはびっくりしていた。


『あの時もいたのですか?では私は、今回もその前も・・・古代サブパメントゥの幻に、引っかかっていたのでしょうか』


 コルステインは『龍。見る。無い。イーアン。これ。分かる。する?』と教えた。何のことかとイーアンが顔を上げると、コルステインがいつもの姿に一瞬で変わる。


 イーアンは『はい。あなたはいつもの姿。翼とお顔とお体が』と答えると、コルステインの黒い鉤爪がぴょいと伸びて、イーアンの肩に触った。え?と左肩に掛かった黒い鉤爪に視線が向くと、また一瞬で、再び姿は霧に変わる。



『イーアン。違う。サブパメントゥ。見える。ない。イーアン。サブパメントゥ。似る。だから』


『・・・私が、もしかして。私があなたたちに()()ために?幻で見えていないことがある、と言っていますか』


 そう、と頷くコルステインが、今、自分は姿を変えていなかったと教えた。

 目を丸くするイーアンに、違う姿の映しを見せただけだ、と説明。『形。変わる。違う。する。イーアン。間違い。ある』と・・・要は、()()が足を引っ張っていると、コルステインは教えてくれた。


 親和性? そっち? そんなのあるの? イーアンは開いた口が塞がらない。


 これもその場のケースで変わってしまいそうで、決めつけたら危険な気がするが、一例『龍だけど、幻が見破れなかった理由=イーアンがサブパメントゥ寄りだから』の答え・・・・・



 でも――― あり得る。大いに、あり得る。イーアンは視線をさっと落とし、記憶を探る。


 だってリテンベグも漁村も、私一人。もし龍を連れていたら・・・で、ハッとする。赤い水の時はショレイヤがいたのよね、と。そしてすぐに思い直した。ショレイヤは、()()()余計なことは言わない・・・(※気遣う龍)。


 あー、と額に手を乗せて参るイーアン。ショレイヤはそうだった、気付いていたんだった!と、伴侶と龍の会話で思い出す。それ指摘したのも私じゃないのよ、と嫌になる。一人でうーんうーん悩む女龍に、青い霧は話しかける。


『イーアン。コルステイン。呼ぶ。する。大丈夫』


 分からない時は呼んでもいいよ、と手伝う意思を伝える霧に、イーアンは首を横に振って、そこまでは、と断る。まだ、何となく引っかかっている疑問もあるし。


『コルステインが留守を守って下さるから、私が動けていますし』


『いい。見る。する。だけ。倒す。イーアン。する』


 コルステインは、古代サブパメントゥに関わろうとしない。

 ドゥージにさえ怨念付きということで側へ行かないのだから、これは当然。非常に慎重なのは知っているので、イーアンはもう一度『自分が見られるようにしたい』と断る形をとったが、コルステインは『大丈夫』と、頼るように言う。


 コルステインの申し出にすまなく思いつつ、ありがとうとお礼を言い、イーアンは素直に頼ることにした。次は呼びますと答えると、コルステインはすぅっと人の姿に変わり、猫のような目を緩ませてニコッと笑い、イーアンの胸に鉤爪の背を上下に滑らせて『よしよし』する。


『この姿は、幻では・・・()()ですか?』


『違う。コルステイン。変わる。した』


 これは変化していると教えるサブパメントゥに、ちょっと笑った女龍。コルステインも笑顔で『呼ぶ。する』ともう一度言うと、相談はこれで終了・・・なのか。影の中へ戻って行った。



 *****



 夕暮れ近くなると、仲間もちらほら戻り、タンクラッド以外は館に帰ってきた。ドルドレンが最初で『シャンガマックたちは、まだ町の外に』と言ったが、彼らは合流する気はなさそうだとも感じた様子。迎えが来なければ(※ファニバスクワン)朝にまた会う約束をした。


 イーアンとドルドレンが話している間に、職人たちとロゼールとザッカリアも揃う。

 ドゥージとオーリンが先で、騎士二人、少し遅れてミレイオ。ミレイオは、剣工房で聞き取りもするので、いつも少し遅れる。

 すぐに扉が叩かれ、『夕食へどうぞ』と執事のサヌフが招く。館の主ゴルダーズの欠席も同時に伝えられ、彼は『仕事が詰まっていて、別に食べる』そうで、この日も―― 数日ずっと ――旅の一行だけの食卓。


 食堂へ移動する途中で、フォラヴが戻り、皆で労いの挨拶を交わして着席。

 召使さんたちは、彼ら客人が()()()()()ことを好むのを熟知しているので、料理を順番に運ぶことはなく、食卓に目一杯、料理を並べて退室する。



「まずは食べよう」


 食べながら報告を、と食事を促したドルドレンは、久しぶりに容器に酒を少し注ぎ、それを飲んだ。ドルドレンが最初にお酒を飲むのは珍しい、と思うイーアンは、彼が緊張の中にいるのを理解する。シャンガマック親子と、何の話をしたのか・・・・・


 気にしていそうな女龍の視線に気づき、ドルドレンが微笑む。イーアンも微笑み返すが、どことなくその表情・・・私に気を遣っていそうな予感(※当)。


「フォラヴ。具合は?」


 イーアンの不安が過った一瞬を見ず、ドルドレンはフォラヴに体調を聞く。フォラヴは妖精の国へ行って回復し、その後、現地へ行っていた。

 ドルドレンと連絡を取ろうとしなかったのは、時間が経ち過ぎたと思ったからで、もう対処はされたかと見に行き、衝撃を受けたと話す。一人で現地へ行ってから、館に戻ったと知って、ドルドレンも辛い思いが顔に出る。


「あれは。私のせいですか」


「違う、フォラヴ。今回は分からないことだらけだ。自分のせいにしてはいけない」


 妖精の国から戻ったと思い込んでいたのが、そうではなかったと聞いたので、場はしんとした。


 イーアンも目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。溜息をあからさまについては気遣わせると思ってだが、ドルドレンは彼女にも『イーアンも自分を責めないで』と頼んだ。


 ミレイオたちは、自分らの仕事については順調に運んでいるから、戦闘の状況を話すよう頼み、ドルドレンがシャンガマックたちと会ったことも、併せて聞かせてもらう。


 一通り、昨晩の最初から最後までを流れで知り、イーアンの海岸線の戦闘も合間に入り、暫し、言葉が出ないミレイオ、オーリン、ドゥージ。目を見合わせて思うことは一緒。それは、並ぶ席で食事をするロゼールとザッカリアも同じ。



「呼んでくれよ」


 オーリンの一声が代弁する皆の気持ち。どうして呼ばなかったの?とミレイオも眉根を寄せる。赤ん坊に肉を食べさせながら『時間とか関係ないでしょ?』とイーアンを見た。


「今回は、戦う担当と製作担当が分かれているから、イーアンも呼ばないのだ」


 イーアンが答えようとするのを横から止めた形で、ドルドレンがミレイオに答える。それはフォラヴも同意で、自分たちは分担で動くと決めている以上、一刻も早く装備を揃えようとするミレイオたち職人を呼ぶのは控えている、と添えた。


「分かるけどさ。でも」


「もう一つ、難題があるのだ。これまでと何かが違う。全員で挑んでは、()()()()()()()()()事態になりかねない。ミレイオたちは客観視する位置にいてほしい、と思う」


 何かが違う、そのために惨敗だった。黒髪の騎士の言葉に、ドゥージが『敵が変わったのか』と訊ね、これにはイーアンが答えた。

 敵の様子がつかめず、敵ではないと思っていた相手も加わること。今回、セイレーンは異界の精霊の一人だったが、『人間を殺す側』を選んでいた。


 そして、連続して古代サブパメントゥが側にいた―――



「見抜けなかったのです。コルステインに相談したばかりで、次は呼んでも良いと」


「コルステイン?さっき会ったの?」


「そうです。暗くなっていたので、来て頂いて相談しました。すると、古代サブパメントゥの幻が混ざったのか、私はそれに引っかかったような答えでした」


「・・・でも。あんたってもう、そういうの大丈夫じゃなかった?」


 コルステインまで呼んで確認するほど、イーアンは切羽詰まっているのかと、ミレイオが声を潜めるように尋ねると、イーアンはじっと見つめて首を横に振った。


 自分でもそう思っていたが、属性がサブパメントゥ寄りだから、波長やそうしたものが合ってしまうのかもと、解釈を話した。ミレイオは怪訝そうに聞き、首を傾げる。


「おかしいわね。そうなの?でもまぁ、あんた確かに、最初の内はヒョルドやコルステイン相手、夢に侵入もあったみたいだし、龍気が上がるだけじゃ片付かない理由が、まだ残ってるのかもね」


 ミレイオはフォラヴを見て『テイワグナの、ハディファ・イスカン』と呟く。ハッとしたフォラヴは『あ。同じでは』と気づき、皆の視線が集まった。

お読み頂き有難うございます。

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