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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2286/2965

2286. 中南部襲撃 ~1③静かな参戦

 

 精霊ポルトカリフティグの情報が加わり、イーアンは推測から行動に移すことにする。

 敵を魔法で分離させたら、()()()生きている人々だけを保護してほしいと、ドルドレンたちに頼んだ。


 それともう一つ、『もし攻撃後に動いている魔物がいたら。それは手を出さないで下さい』と強く念を押した。


 二人は、妙なことを言う女龍に『どう扱えばいいか』と聞き、イーアンは『出来るだけ早く自分が行く』と答え、人々の恐れがその魔物に向かないよう、自分が行くまで保ってほしい、とも付け加えた。



「では。行ってきます」


「イーアン、何かあればすぐに教えてくれ」


「はい。良くも悪くも、変化・変更はすぐに」


 ドルドレンに了解し、イーアンはあっという間にその場から飛んで消える。

 その速度は、日に日に速さを増している気がして、ドルドレンもフォラヴも、彼女は常に自分たちを引き離して成長していると・・・この場に関係ない気持ち、出遅れて追いつけない、そんな開きを感じた。



「聞けて良かった」


 伴侶とフォラヴが何を思ったかなど気に留める暇もないイーアンは、黒い山影の真ん前で止まる。精霊のアドバイスは、裏付けになった。



 ―――『影が伸びる方に、元はいないもの。元は影濃く、前に人間、後ろは何もない』


 真っ暗な山の麓、民家も何もあったものではないが、少し麓が平地に変わる辺りから村が並ぶ。ちらっとそちらを見た鳶色の目。『()()は、村を造らないわよね』と赤い水で覆われた場所に呟く。村の隣り合う距離が短すぎる。


「前に人間。後ろは()()。となれば、ここです。ここいらに恐らく」


 龍気を引っ込めてイーアンは低空飛行し、麓の林と小岩の連続する上を飛ぶ。イーアンの想像するに、魔物を呼びこんだサブパメントゥの印、そして、古代種『化け影』大元がここに在る。



 どれだろう・・・サブパメントゥの絵柄の方は、気配をビシバシ放つわけではないので見つけにくいが、古代種は少なからず邪気が分かる。ただ、これまでと違って『弱そうではある』不安の要素である。


 幽鬼もそうだが、古代種は強くはない印象。そして気配も魔物と比べると、紛れやすい気がする。数が多ければさすがに邪気も強まるが、今回の正体不明の幻影も、何となく弱いように思う。


 とはいえ、被害が広いし早く倒して早く土地や人々の浄化をしないと、魔物混じりはマズい。他でも出ているかも知れないし、イーアンは集中して下方を調べた。赤いのを消すのは、根源を断ってから。



「イーアン」


「はい。え。はい?」


 名を呼ばれて、下に注意が向いていたイーアンは返事をし、それからハッとして頭を上げる。黒土の匂いと、大きなダルナが少し離れた空中に浮かんでいた。


「スヴァウティヤッシュ。どうしてここに。あ、魔物が?」


 彼も自我のある魔物を見つけに来たのかと思ったイーアンに、ダルナは一度首を横に振って『手伝いだ』と意外な訂正。


「私を手伝うのですか」


「邪魔じゃなければ」


「邪魔なわけありません。丁度困っていました。スヴァウティヤッシュに、どう頼っていいか分からないけれど、今ここで」


 イーアンはスヴァウティヤッシュの気遣いに感謝して、すぐに事情と状況を伝えた。自分たちはこうしたい、状況はこうだと思う、と掻い摘んだ説明でダルナは理解し、『じゃあ』と真横の山腹に、青と赤の渦巻く瞳を向ける。


()()。解いてやろう」


()()


 理解しづらい提案を棒読みで繰り返した女龍に、スヴァウティヤッシュは『土の記憶は、俺の領分』そう、余裕気に硬質の口元を歪ませた。



 黒いダルナはそこから黙り、左右に黒い影を引く山の連なりをゆっくり眺めた。もう始まっているのかもと、イーアンも黙って待つ。スヴァウティヤッシュは、闇夜の山を舐めるように見た後で、首を下に垂らし、後ろを向いた。


 大きな黒い背中越し、イーアンの視界が別の景色にガラッと変わった。ギョッとした女龍を振り返り、ダルナは『これが、ここ』と。まず一回目・・・よく見てくれと教える。


 夜であることには違いないし、山もあるが。山腹から山麓までの傾斜の続きは崖だった。


 大きな崖が溝のように大地を裂いており、谷は奥と手前に流れる幅広の川に向かってすり鉢状に上がり、上がった続き、つまり平野と思っていた場所は全て沼地だった。


 ぱっと見、思い出したのは、以前の世界スペインのバイア・デ・カディス。だが、海に近い場所でもないここに、あの雰囲気と似た自然があるとは。奇妙を通り越して不思議しかない。


 人里なんて・・・どこにもないような場所。

 だが、沼地を辿ると、ドルドレンたちが待っている方は沼も途切れ、少しだが人里らしき影が川沿いに見えた。


 口を開けて目を皿にするイーアン。ここまで違うなんて、と驚き過ぎて声が出ない。『化け影』は、単なる幻影と侮れない相手であることを認める。



土地の邪(こいつら)、広がってるだけでそこまで気配はないんだ。薄っぺらいのか。こいつの取っ掛かりが、この真下。()()()()がそれっぽいな」


 それっぽい、と黒い鉤爪が示した先に、イーアンもはっきり見つけた。浮き上がる、邪気。

 人の姿を焼き付けた大きな岩絵に似て、ピクリともしないが、崖に貼りつく人型のアウトラインは、赤い染みが広がっていた方を向いていた。



 黒いダルナは『一回目』とこれを呼び、まやかしを解いた。二回目は、とイーアンが彼を見ると、続く二回目の変化もゆっくり生じる。夜の沼地に、点々と赤い粒が浮き上がり、松明でも燃しているような、赤が滲む。


「これが、魔物だろうな。動きはないが、『土を侵す毒』がある。イーアンが魔法で反応を確かめた、鉄とかそうしたのが、あの魔物の毒だろう。で、イーアンが探していた元凶・・・は、()()だ」


 見えるか?とスヴァウティヤッシュが腕を伸ばし、イーアンに手に乗るように手招きする。イーアンは彼の大きな手に寄って、そっと掴んだダルナに『()()じゃないのか』と同じ視線に持ち上げてもらい、対象を確認した。


()()です」


 イーアンはまっすぐ前を見て頷く。ダルナは女龍を掴んでいた指を離し、彼女を促す。


「ここからはイーアンの仕事だ」


「有難う、スヴァウティヤッシュ」


 ニコッとした女龍に、黒いダルナは何か気付いてさっと腕を伸ばして止める。クロークに引っ掛けた爪に、『どうしました』とイーアンが彼を見ると、黒いダルナは『俺は倒してないんだ』と短く注意。瞬き一回、イーアンはその意味を理解し、ささっと下を見る。


「ということは、今、幻影が解かれているのを、私が見ているとしても」


「そう。実際、まだ混ざっている」


「仲間が向こうにいます。彼らにも見えていますか?」


「いや、どうだろうな。俺とお前だけかも」


 そういう設定じゃないとか何とか、ダルナはもごもごッと口ごもり、イーアンは了解する。


「分かりました。教えて下さって有難うございます。では、まずは元凶を潰し、それから私がこれを分離して倒します」


「分離・・・の後は、()()が」


 気にしたスヴァウティヤッシュの質問は聞かずとも分かる。イーアンは『仲間にも、()()()()()を攻撃しないでと頼んだ』話をし、黒いダルナに『連れて帰って下さい』とお願いした。



 イーアンはここで白い龍に変わり、サブパメントゥの絵柄付きが埋まる谷、その一部を壊した。咆哮を上げただけで、そこは粉砕し、周囲も道連れに壊れたようだった。


 これによって、龍の攻撃に気づいた魔物の赤が一斉に動く。赤い点から、びゅっと八方に赤い飛沫が撒かれ、スヴァウティヤッシュの察した『毒』が、踏まれたトマトのように散る。


 散った魔物の静かな攻撃に、即、対処する白い龍の指は、魔物の派生した金属の質を沈める条件を魔法で付け、指定した一帯を対象に龍気の膜を落とした。


 赤水は、利水上問題大ありである。夜で判別は確かではないが、ここの沼の緑らしきものは、鉄の養分で藻類が増えたからではとイーアンは思う。環境がもとからこれなら、ある程度は鉄のような影響があっても、この土地に暮らす人々は大丈夫なのかもしれないが、魔物が毒に変える量では致死量のはず。


 紋を組んだ爪を抜け、イーアンのかけた魔法の条件を帯びた白い龍気が飛ぶ。何層にも飛び、重ねながらイーアンはどこにも浮かぶ隙を与えず、魔物を膜の下に押さえる。当然、ドルドレンたちは『見た目は町や村』も一緒に閉ざされているように見えるだろう、と思う。


 魔法の条件に触れた側から、白い龍気の膜を張った一帯は、不透明な変化が始まる。膜の下で赤い水から色素が薄れ、たくさん在った人里も次々に消失する。その中に、残る人里もちらほら見られ、そこには縮まった赤い玉が、一つ二つ転がった。これが、自我を持つ魔物と呼べる、残り。



 ドルドレンとフォラヴは、白い膜が張った広い一面を見守り、それが消え去った後、共に消えた赤い水と町や村に驚いたが、残った場所へすぐに向かった。あれだけあった人里は数える程度しかなく、またそこで暮らしていた人々も、非常に人数が少なかったと知った。


 この中に、赤い玉が動いており、これは魔物と判断したものの、イーアンが話していた『手を出せない対象』と思い、害がないよう付かず触れずの距離で見張った。


 間もなくして、黒い大きな龍に似た者が来て、その後ろに人の姿に戻ったイーアンも続き、二人の騎士に『これがそう』と言うなり、黒いダルナは赤い玉を拾って消えた。



「イーアン。終わったのか」


「いえ。あと一仕事」


 だから戻ってきた、とイーアンはフォラヴを見る。この続きは、龍ではなくて妖精が良いと伝え、それからドルドレンには『確認ですが、ポルトカリフティグか精霊のお面で』古代種が完全に片付いたか、確かめてもらいたいことを頼んだ。


『あと一仕事』の意味は、懸念していた土壌と水の汚染対処であり、もう一つは古代種『化け影』の、度肝を抜く幻影の威力への警戒だった。


 二人はそれぞれの仕事を了解し、一度全体の状況を確認で回る。

 人の住処は、本当に川に沿っての一線しかないし、他に集落や離れの民家もない地域で、イーアンも話していたように『川から離れた場所に道もない』と分かり、川を中心に浄化を始めることに決めた。


 二人で手分けし、人々に『魔物を退治したので、これから水と土を清める。浄化するまで、辛くても水を飲んだりしないで待ってくれ』と注意してから、フォラヴは浄化に取り掛かった。イーアンはこの時、既に中南部の横ライン・海側へ飛んでいた。


お読み頂き有難うございます。

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