2284. 中南部襲撃 ~1①平野の赤の幻
※明日21(木)の投稿を、仕事の都合でお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。
フォラヴと深夜の中南部へ出たドルドレンとイーアンは、近づくにつれて邪気どころか、見て分かる地上の色に慌てた。
『連絡珠で呼んでは、場所も曖昧です』出発時に、フォラヴがそう言った意味が分かった。夜の大地は、水玉状の赤い点だらけで、あの赤い部分が魔物であり、そして『頭数』とした分け方が出来ないとフォラヴは話した。
「水のように染みて見えます。飲み込んでいるのかどうか。一気に潰すには、あの中に」
「人里か」
そうです、と総長に答えた妖精の騎士は、単独行動でどう対処していたかを手短に伝えた。それは、簡単に言えば『考えるより早く倒すこと』だったが、規模による。
一つの町、一つの村であれば、フォラヴも人間や家畜だけに、配慮して魔物退治をしていたが、同時に幾つもの町村が巻き込まれている状態では、退治にバラつきも出るだろうし、人や家畜への衝撃もヌケが出かねないと気にした。
「無理すれば、その結果、半端な退治が長引きます」
「一旦戻ってでも、案内して応援を連れて来た方が早く、正確・・・と」
フォラヴの言いたいことを続けたイーアンに、フォラヴは頷いて『あなたなら一発だろうけれど』と引け目がちに答える。イーアンもドルドレンも『そんなことはない』と彼に言い、さてどう分担するか、と顔を見合わせた。
「今も、被害が出ています。死傷者が」
「うむ。相談の時間も惜しい。イーアン、君は一番範囲が広く動けるだろう。この赤い点以外、他にもいるかどうか、まず見てきてほしい。視野のほとんどがこれだが・・・ここは、俺とフォラヴで半々だ。左は、向こうの裾野まで広がっているし、右はどこまで続いているのか、見当もつかない。
土地の邪が混じっているなら、俺はショレイヤを降りて、精霊の力に変更した方が良さそうに思う。人里は、ざっと見て15~以上か。フォラヴ、俺は左の山裾側へ行く。お前は広範囲で済まないが、右へ」
妖精の力で出来ることは、ドルドレンにはまだ未知多く思う。フォラヴは数日一人で動いたので、要領を得ているし、彼に動きやすい広がり・右の平野を頼んだ。妖精の騎士は了解し、イーアンも『急ぎます』と、すぐに飛んだ。
*****
イーアンは、向かいがどこまで続くかを、まず確認。
飛びながら『何でだろう』と、最初の疑問が浮上した。なぜこの・・・田舎に思える地域に、ここまで町村が集合しているのだろう。
東一番の都市デネヴォーグさえ、近郊にここまで隙間ない配置の町はない。
この世界の特徴なのか、町や村は大体くっ付いていない場合が多い。たまにくっ付いて成り立っているところもあるが、多くは道で繋がっており、人里には間があるのだ。
それに気づくと、今度は道の無さも不審に感じた。横切る形で連結する町や村の上を飛んでいるイーアンは、ちょっと離れた場所でまた固まっているような人里集合地に目を向ける。道、ゼロ。
街道も農道もないのか、と思うくらい、道らしい道がない不自然。
人里の距離の無さ、道のない地域。この二つの点は気になるので、これはこれとして仮説の材料に覚えておくことにした。
ドルドレンたちと話した空中から数分ほど、そこそこの飛行速度で下方を見ながら突き抜けた、広がりの終わり。赤い水玉の最後は疎らに散り、その先は森林。森林から出てきたわけではなさそうで、ここで一先ず取って返す。
これは魔物、とは思うが、魔物だけではない。
古代種と混じっているのかと近づくと、一番端にあった赤い広がりが動いた。巨大な赤い水溜まり、といった具合のそれは、龍気に反応している。とはいえ、『水溜まり』にしか例えようのない形が変化するわけでもない。
「・・・アメーバみたいな感じ?」
来た方を見て、端から臨む広範囲に『異質な魔物』はいないか、イーアンは確認する。こんな形状の魔物でも、自我を持つことはあるだろうが、見える範囲に感じ取れないのでここにはいない。
しかし、この魔物。何の古代種と混じったのか、奇妙な相手に眉根を寄せて、ここでまたエカンキを思い出した。あの時は、気体の魔物が地上へ出て、物体化した。
「その類」
エカンキの魔物は人畜を取り込んで襲った。だとすると、ドルドレンたちの対処は、既に町や村が全体的に飲まれている状態から救うことになる。
そんな状態から救うなど・・・出来るだろうか―――
幽鬼、邪臭、あとは?イーアンは、この二つしか今のところ知らない。
エカンキは、魔導士の解説だと幽鬼の溜まり場が近くにあり、力の幅がある幽鬼がとり憑くことで、ああなった(※1886話参照)。
「なんだっけ、何て言ってたっけ・・・魔物でも、性質が似ていると幽鬼はとり憑くから、数が多ければあの状態は起こる。でもあの時は、サブパメントゥの『言伝』で混ざったとは、バニザットもそこまでは考えていなかったから」
独り言で整理しながら、この近くにも古代サブパメントゥの石碑や石柱、魔物を集めて融合へ持ち込む、誘導素材があるのではと、イーアンは気付く。あるならそれを、先に潰した方が良いのは勿論だが。
「でも、あれ。気配あるような無いような」
ぽつん、とある分には気付かないことが多い、古代サブパメントゥの絵模様。
探す時間もないし、イーアンは取り敢えず『魔法、使おう』うん、と頷いて、分解がてらここで試す決定。
分離の魔法を使うことで、古代サブパメントゥの操りやその他、面倒が掛かった状態は粉砕する。それに、土地の邪と魔物の、異なる魔性の繋ぎ目をほどく。解かれない、残った魔物は救う対象だが――
「どうなるか」
デネヴォーグで使った技は、龍気の都合で控える(※2241話参照)。あれは、相手の派生元関係なく分離させる、細かな注文をこなしたが、そのために龍気の維持も大事だった。
ここの魔物は何が元か、それに合わせ条件を絞る(※龍気削減)。
いくつかのあたりを付けたイーアンは、推測の反応を起こしそうな要素をぶつけることに決め、鎌首をもたげ龍気を高める。大きな白い爪を紋の形に組み、特性の条件を魔法で足して、組んだ爪に向かって龍気を放出。
その白い大風は、瞬く間に闇夜に広がり、森林を背にして広がる方―― 赤の水玉で埋まる大地 ――へ、地を滑り駆け抜ける。赤い水に触れるや否や、次々に赤は色を失い、急に土くれのように割れて砂に変わり崩れた。
『当たった』
白い龍は声の出ない喉奥で呟く。一発で勘が当たるとは思っていなかったが、赤い水は悉く反応して壊れて行く。さっと、別の方を見て龍は移動する。
―――今の状態で、分かった。見えてるのが全部じゃないってことか。
魔法を使った結果で、イーアンはもう一つ気付いた。魔物に混じった古代種は、幽鬼とも邪臭とも違うような。
そして、この赤い水溜まりは実際はもっと、小ぢんまりしているだろうし、魔物自体は『リテンベグと似ているのか(※2262話参照)。もっと前で言えば、テイワグナの話だけで聞いた、あの村の(※856話参照)』ゴゴゴ・・・と呟き代わりの唸り声を喉の奥で鳴らし、イーアンの鳶色の目は赤い水の広がる際を辿る。
ドルドレンは、赤い状態の範囲を調べるように言ったので、ぐるっと全体を回りながら考えるイーアン。
報告した後、先ほどの技で広範囲を早めに片付けて・・・多分、そこからが正念場だな、と魔物の発生場所も気にしながら、赤い水溜まりの外側を動いた。
これを、少し距離を置いた場所から、黒いダルナが見つめていた。
「回りくどい方法を使う。・・・イーアンは助ける魔物に気遣っているのか」
にしても、凄い大きさだ、と黒いダルナは女龍の姿に肩を竦め、白い龍の後を付かず離れず追う。もう少し、イーアンの戦いへの姿勢を見ておこうと考えて。
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