表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台前兆
2266/2965

2266. 墓標『沈黙の石』・『一つ目』終了

 

 ヨーマイテスが気付いたのは、ミレイオの耳金具を通してだった。


 精霊の界隈にいても通じるらしく、ミレイオの危機が一瞬で頭に流れ込んだ獅子は、これをコルステインに伝えた。


 と言っても、コルステインを呼び出すのは、一旦精霊ファニバスクワンの許可を得なければならず、そうなると、同じ場所にいる息子バニザットにも知れるので悩んだが、ミレイオが食らった『危機』が奇妙な印象から、心境の複雑を後ろに回し、まずはファニバスクワン、それからコルステインに通してもらった。


 手短に内容をコルステインに伝えると、何か知っていたのか、すぐに動くと答えた。



 ここまでが、ヨーマイテス。続くコルステインは、老魔導士に会いに行き、呼び出して事情を説明。魔導士は話を聞いて『良いだろう』と二つ返事で引き受けた。


 相手が残党のサブパメントゥ、とコルステインは教えた。コルステインはまだ、自分たち側から接触する時期とは思わないので、ミレイオの状態に関与することで『攻撃者』に関わるのは避ける。


 ミレイオの一件は深刻だが、『ミレイオに?』と感じたのもある。ミレイオが、古代サブパメントゥの技に斃れるのは()()()()()に近い。何か意味があると察したコルステインは、そう思ったことも全て伝え、魔導士も了解した。

 なぜミレイオがこの状態になったのか。コルステインじゃなくても、引っかかる。バニザットはそれに気付いていた。



 そして、ミレイオの前に今、魔導士。コルステインから状況を預かって、ミレイオに掛けられた錠を外した後。


『お前は参戦するな、って話だろう』


『どういう意味?これからアイエラダハッドは荒れるのよ。人手が』


『そっちじゃない。サブパメントゥ同士のやり取りに、()()()関わるなって意味だ』


『それ・・・()()言ったの?』


 老魔導士はこれに対しては答えがない。別に言われた話じゃないからだ。だが、『ミレイオを創るきっかけの魔導士(自分)』からすれば、精霊がミレイオの扱いにどう求めるかは、大体読める。


 答えない魔導士に、ミレイオは息を大振りに吐き、『まぁいいわ。で』と先に進む。誘導で意識が戻るなら早いとこそうしてくれ、と言うと、魔導士の漆黒の目が下を見た。


『本当のサブパメントゥなら、確かに()()()は回復させる場所っぽいけど・・・ホント、こんな事情も知ってるのね。でも今は私の意識の内側なんでしょ?』


 ミレイオは、魔導士が何でも知っていると驚き呆れる。が、魔導士はこれには答えず、そこはすっ飛ばす。



()()が来そうだな』


 何やら感じ取った魔導士の思わせぶりな言葉に、ミレイオの眉が寄る。


 ・・・先客とは誰か。自分に他の気配は感じ取れない。って当たり前か、ここ私の意識なんだし、とややこしい状態に自分で突っ込むミレイオは、展開のない遅さに苛々し始める。



『どうするの。私、外では寝てるわけでしょ?いつまでも寝たきりなんて』


『ちょっと黙れよ・・・面倒だな。今回は俺が関わったから、俺が相手してやる』


 誰に言っているのか分からない、足元に目を向けた魔導士の言葉。ちんぷんかんぷんのミレイオに説明はなく、魔導士は『少し待ってろ』と命じ、姿を消した。


 意識の中の風景。ミレイオは、ヨーマイテスの墓標の前に立つ。意識ではなく本場なら、サブパメントゥの気が一番濃く強く溜まる場所(※1387話参照)――― 



 ミレイオは溜息を吐いて、頭痛の残る頭を支えながら『何が起こったの』と呟く。この後も魔導士は戻らず、返事のない時間をただ待つだけだった。



 *****



 サブパメントゥでは、コルステインが本物の『沈黙の石』近くにいた。コルステインは魔導士が地上()で呼ぶのに気付き、メドロッドに代わりに見張らせると、地上に出た。


 どうしたのかと思えば。

 魔導士は、コルステインの警戒した相手の接近を察知したから、コルステインを呼び出した。

 彼の懸念は『ミレイオの意識が不安定なまま、意識下で回復場所を使用すると、現実で近づいた敵に、また意識に入り込まれたりするか・・・』だった。が。


 言われていることが難しすぎて、理解不可のコルステインは、何度も魔導士に説明させ、少し経ってから理解した。


『ダメ。ミレイオ。危ない。する』


『だよな。俺もそう思う。どうするのが良いんだ。お前たち、攻撃したくないんだろ?俺がやるか』


『うーん・・・そう。どう?』


『どう、って』


 コルステインの反応が丸投げなので、苦笑いする魔導士は、()()()()()()古代サブパメントゥの『退治』、もしくは『撃退』を引き受ける。


『ただ、俺がサブパメントゥに入るのも、良くないだろうが』


『そう。ダメ(※お断り)。でも。どう?バニザット。出来る。する?』


『それは、俺が入らない状態で相手を()()()を、聞いてるのか?』


 うん、と頷く素朴なコルステインに、つい笑ってしまう魔導士は、そりゃ無理だろと返すが、真っ青な大きな目がじっと期待して見ているので、溜息一つ落とし『倒せないかもしれないぞ』と真面目に答えた。



『コルステイン。俺の魔法は届く場所が限られる。届いても、弱いかも知れない。意味が解るな?

 仕組みの異なるお前たちの国で、俺の魔法を使うには、本当なら俺自体がそこにいた方が良い。それが無理なら、地上からサブパメントゥに魔法を使う分、何が遮断になるか分からん。だから、弱くなるかもしれない、と俺は言っている』


 分かり難いコルステインは、もう一度説明するように言い、魔導士の根気よく噛み砕いてくれた説明で了解する。


 追い払うだけでも良い。自分たちは、まだ手を出したくない。だがミレイオが場所を使うに、()()サブパメントゥが近くにいるのはダメ。



『・・・近づいてきた、ってのもな。古代サブパメントゥは、いつもお前たちの側に来ないだろ?こんな近くまで来るとは』


『そう。でも。形。壊れる。する。直す。したい。来る』


 コルステインの返事で理解したバニザットは、『自分が魔法を使う間だけ、精霊の刺激が起こる』と先に伝えた。他のサブパメントゥに影響しないよう、離れているように注意し、コルステインは承諾して戻った。



「ヨーマイテスの墓標・・・か。あの場所は特殊で、ミレイオを回復させるために使うよう、コルステインが教えてくれたが。ミレイオもそう言っていたし、サブパメントゥの種族なら()()()回復するんだな」


 死んでから知ることが多い、と(※死んでる人)呟きながら、バニザットは早速呪文を唱え始める。


 どうやら、こっぴどく怪我でもしたらしき、残党サブパメントゥが、コルステインたちの領域に『回復』目当てでやってくる・・・と見当をつける。

 ミレイオとそいつの関連性まで分らないが、残党の気配自体は、嫌ってくらい生前相手にしていたので、近づくのがすぐに分かった。



「生命なんてない種族だろうが。それでも、消えるのは惜しいか。背に腹は代えられぬってな」


 コルステインに見つかって消される可能性を、『ない』方に賭けた動き。姑息で執念深く、現状を利用する。


「だが、そう都合良くはいくと思うな。そこはミレイオ(俺の子供)が使うんだ」


 夜の地上で、精霊の薄緑の光が空気に滲み続ける。

 老魔導士の呪文は、魔導士が独り言を落とす間も別の声で重なり、繰り返す同じ呪文が光を螺旋に走り出す。


 軽快な速度で遊ぶように動く小さな文字が、螺旋を上に上にと・・・円錐状にくるくる駆け上がった輝く文字たちは、呪文だけの声がぴたりと止まるのに合わせて、びゅっと直下。同時に、薄緑の光も引き込まれ、魔法は地面の中に吸い込まれた。


「俺の魔法が、サブパメントゥにどう伝わるやら」


 仕組み自体違うんだよなと、魔導士は腕組みして首を傾げた。

 それは、龍族の空に魔法をかけろと言われるのと一緒。所詮人間()がいじった精霊系の魔法が、まるで違う性質の環境でどう作用するのかなんて。『通過するか・通用するかも知らん』それが正直なところだった。


「まぁな。調整はしたから、()()()、追い払う程度は出来ると思うが」



 *****



 その、()()()は、目的地のすぐ近くまで移動していた。


 これまで・・・このサブパメントゥが生まれてから、何百年経っているだろう。本人も知らない。生まれた時も覚えていなければ、経過した年月もどうでも良い。


 古代サブパメントゥの親に創られた存在は、その遺志を引き継いで―― 見ようによっては ――忠実な動きを取ってきた。


 二度目の旅路と言われる、女龍と魔導士と剣の男に、散々な目に遭わされても、存在に練り込まれた『別種古代サブパメントゥ』の目的はへし折れることもなく、三度目の女龍たちの登場に『これが三回目の機会』と食いついた。


 初代は知らないが、二代目と三代目を追う古代サブパメントゥの一人『一つ目』は、今、消滅手前状態にあり、小石程度の目玉で闇を伝いながら、本体の回復を求めて『沈黙の石』に辿り着いた。



()()しかない。サブパメントゥが、形が失せても意識が残っていれば、戻れる』


 戻れないことはない――― それだけは知っていた。

 この場所に頼るまで壊れたことは、過去一度もなかった。だが、話だけは聞いていた。


 そもそも・・・『沈黙の石』はコルステインたちの領域で、使う使わない以前の話、側へ行く自体が既に危険。()()()として初代から分かれた自分たちが、形の再生を求められなかったのは、それが理由にある。


 形を留める経過は手段として毛頭なく、形も意識も消えた『個別』の状態が終わり、怨霊と化すのが普通だった。



『俺は違う。俺はまだくたばるわけにいかない。()()()コルステインたちも、俺たちを避けている・・・沈黙の石に他のやつが入ってなければ、さっさと入って()()()()()()()()に出る』


 どれくらいの速度で回復するのか。期待外れだとしても、消滅手前よりはマシだろう。地味に回復を待つなんてなったら、三代目の時期が終わるまで掛かる・・・形が戻る時には、好機も逃がしている状況。


 何が何でも――― 『一つ目』は、三度目の機会以降、続きがないのを知っている。それは親が、埋め込んだ知識。



 どうにか辿り着いた、『沈黙の石』のすぐ近くで、石ころ程度の目になった『一つ目』は、形と共に失った力の残りで、出来るだけ周囲の気配を感じとる。少しはヌケがあるかも知れないが、感じ取れる範囲に誰もいない・・・・・


 今だなと闇の中を這い、石ころは墓標の立つ足元へ出て、ぽかっと開いた蓋のない箱状の場所に転がり落ちる。


 石が落ちたのとほぼ同じ瞬間、真緑の光が雷を轟かせ、一度きりの精霊の雷は掻き消えた。

お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ