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魔物資源活用機構  作者: Ichen
秤の備え
2248/2965

2248. 宿出発・輸送の相談・タンクラッドの報告~ダルナへの約束

 

 連絡を入れず戻ったイーアンに、ドルドレンは『来てくれて良かった』と迎え、これから出発するものの、行き先までの道がどういった状態になっているか分からないため・・・と、イーアンを見た。

 イーアンはクロークに集めた鱗と丸めた皮膜を荷台に置きながら、伴侶の言いたいことを察して向き直る。



「ああ。それは、はい。大丈夫。私が()()()()()()します」


「すまないね。頼もしいのだ」


「消したり(※瓦礫)渡ったり(※亀裂)は、私の範囲です」


 じゃ、イーアンは荷台じゃなくて御者台で、とドルドレンに促され、イーアンは荷馬車の御者台に乗る。ミレイオが来て『私が消しても良いんだけどさ』と苦笑い。イーアンは『ミレイオの力を、この状況で見せない方が良いです』と理解する。


「なのよね。ドルドレンでさえ、あんな言われ方されちゃって・・・あれ?あんた、それ知って戻ってきたの?」


「はい。オーリンが解決したと連絡下さいましたが、移動するとも聞いたし、また道々何かあっても嫌です。私がいる分には、そういうの片っ端から潰します」


「イーアンは心強いわ。龍だからね、さすがに龍にはケチ付けないわね」


 そう願います、と答えたイーアンの膝をポンと叩いて、ミレイオは後ろを指差し『私、荷台にいるから』と後ろへ行った。

 ドルドレンが主人に挨拶している間、タンクラッドも側へ来て『ドルドレンと話が終わったら、俺の横へ』と寝台馬車を見たので、イーアンはそれも了解。


「ダルナは」


「その話と、諸々。お前に伝えておくことが」


 後でなとタンクラッドは寝台馬車に行き、オーリンが御者をする食糧馬車が並ぶ。オーリン、とちょっと手を上げた女龍に、弓職人は少し笑って『待ってられなかったな』冗談めかした。


「移動中に何かあったら、次は私が相手です」


「君が相手で歯向かう奴がいるわけない」


 イーアンはフードを下ろしていて、角は堂々、朝の光に輝く。うん、と頷くイーアンに声を出さずに笑うオーリンの横、馬を進めたドゥージが微笑んで『俺は並ばせてくれ』とイーアンに言う。


 どうぞ、と笑顔で返した女龍に『サブパメントゥの()()()()()()()かも知れないから』と・・・昨夜、コルステインに告げられたことを話すと、イーアンの表情が硬く変わった。


「イーアンの側で、精霊の礫紐もあれば、な。もう大丈夫だ」


「でも。一緒に御者台に乗ります?ブルーラは、フォラヴかロゼールに乗ってもらって」


「いや。そこまで必要ないだろう・・・とりあえず、イーアン側の横を歩くようにする」


 心配する女龍は、彼にすぐ横にいて下さいとお願いし、弓引きもそうすることで安心する。

 こうして話していると、ドルドレンが戻り、その後ろに主人が続き、手に持った女龍の尾の鱗を見せ『また立ち寄る時はいつでも』と挨拶。


 イーアンも微笑んで頷き『お世話になりました』と挨拶を返す。主人は『鱗を使わずに済んだ』と、怪我もなかった無事を感謝する。戦い、癒してくれた旅人に心から礼を伝える。

 イーアンは小袋に分けたアオファの鱗を一つ出し、主人に使い方を教え、使い切りだけど魔物退治に、と渡した。主人は感動して目を伏せ少し黙り、近隣にも分けると答えた。


 そして馬車は動き出す。主人に見送られ、裏庭から三台の馬車は出て、ドゥージの馬は先頭より少し下がった位置を歩く。



 通りに出て、ゴルダーズの家の方面へ向かうが、どこもかしこも馬車がすぐに通れる状態ではなく、初っ端からイーアンは何度も馬車を下りて、周囲の人に了解を取りながら、場所に適した対処を続けることになった。



 *****



「この道は朝方片付けたので、ここを真っ直ぐ行って」


「大型の倉庫が、三棟ある角を右」


 そうそう、と町の人は手振りで続きを示し、ドゥージも案内の指が動く方を見て、続く先をもう一度確認してから、総長に伝えた。町民に礼を言い、馬車は町外れへ出る道を進む。


「遠回りだとは言うが、馬車が通れる以上はこの現状、近道だ」


 ドルドレンは横に座るイーアンに『お疲れさま』と労う。疲れていませんよと微笑む女龍だが、ここまでずっと働きっぱなし。

 障害物が連続する道は、人が多い。町外れへ逸れた道は人が減るので、ドルドレンは大回りで町を出る形を取ってでも、今はゴルダーズの家へ向かうことを選んだ。



「君が龍だから、感謝と頼みが止まらないのは仕方ないが」


 イーアンの背を撫でて、ドルドレンは仕方ないと思うものの。

 町民は、夜に飛び交ったあの白い龍の風で救われた感謝を伝えようと集まり、イーアンが道を阻む不要なものを消滅させると知れば、こっちもあっちもと頼んだ。


 また、怪我を治してほしいと、昨晩イーアンが治していたのを噂で聞いた人が願い、それに対処し、馬車を進めれば、また後ろから呼び止められて、この人も治して、家まで来てほしいと・・・あっという間に身動きが取れなくなった。


 一刻も早く治さないと危険・骨折や打撲で動けない人、といった状態はなく、そうした状態の人は既に避難場所に運ばれた後ということもあり、ドルドレンはあまりにも続くイーアンへの頼み込みに、ゴルダーズの木札を使った。


 こんな場面で使うのも心苦しいが、立ち往生にもなってしまう。今はゴルダーズ公に呼ばれたから行かせてもらいたい、と木札を見せたところ、押し寄せた人々は一瞬固まり、慌てて謝ると馬車から離れた。


 目の前で障害物を消す・目の前で負傷者を癒す女龍を見て、こんな事態で張り詰めていた人たちが、今すぐ全てを解決してもらいたいと訴えるのも理解できるが。



 朝方に片付けられた少し広い道に馬を進めながら、ドルドレンは『ゴルダーズの道具をこんな形で使うとは』と呟く。


 ズィーリーもこうだったろうな、とイーアンは思う。彼女は断らない人と聞いている。きっと全部に対応したかも・・・の想像をしてすぐ、『バニザットがそれを良いとするわけはない』ことに気づき、ズィーリーを親のように守った男(※魔導士)が片っ端から対応を代わった気がした(※当)。


「それでは・・・先に報告を」


 ドルドレンは人がいない道で、二度めの報告を始める。最初の報告は、イーアンが白い風を使う前に話してある。ポルトカリフティグとムンクウォンの面の力は、イーアンも直に見たので、ここは省略。


 二度めの報告は、これから向かうゴルダーズの館その経緯と、隊商軍からの魔物製品の早い購入について。昨日の今日で話すには気が重かったが、軍の死者の数も伝えて、防具が圧倒的に足りない心細さを話した。


 ドルドレンは今回、鎧をつける時間がなく、戦闘が終わった後、普段着状態で隊商軍に出向いたため、軍の彼らも魔物製鎧を見ることはなかったが、もし彼らがあの鎧を知ったら、もっと必要を感じるだろうとドルドレンは思う。


 戦い方も覚束なかった西の隊商軍とは違い、東の彼らは既に剣を取って魔物退治に動いていた。騎士団がいないからかもしれないが、戦う姿勢を持つ彼らに、ドルドレンも逸早く防具を用意してあげたい。


 話すだけ話して、イーアンの反応を気にする。イーアンは少し考えているようで、『私もそれが良いと思う』と答えた後は続かなかった。



 無理強いはしたくないが、イーアンにしか出来ない輸送・・・イーアンもまた、民間に普及を急がないとならない事態を、誰より考えていたため、しばしの考慮の後で早めに動くことを伝えた。


 こう話をしている間に、曲がり角が視界に入る。角を折れた続きは道なりで、右手に林が見えたらそこが貴族の館。ここからがまた長いのだが、民家もほぼない町外れを伝うことで、進む時間は止められなくて済む。


 イーアンは伴侶に『タンクラッドにも話を聞いてきます』と御者台を立った。翼を二枚出して後ろへ移動したイーアンに、ドゥージも『俺も身の安全があるから』と、先頭を総長に任せ、後ろへ行く。


 ドルドレンは一人になったので、手綱を取りながらザッカリアに連絡を取った。彼は龍と一緒だから大丈夫だろうと思って、うっかりしていたのを思い出し、現在どこかと交信を試みてみれば。



 ***



 親方の横に座ったイーアンは、あの後から宿に戻るまでの、彼の時間を全部聞いた。


 驚いたのは、早速精霊の指輪を入手したこともだが、彼がダルナ相手に、主従でも信頼でもなく(※信頼はない)有利に立っているらしき状態。


 親方曰く、言葉が通じればどうにかなる(※親方理論)相手で、イングの問答も押さえ込んでいる。頭ごなしではなく、理屈で通ったそうな。さすが・・・と呆れたような顔を向けるイーアンに、親方は『お前は親身になりすぎるんだ』と注意した。


「ほら。とりあえず、これだ」


「指輪・・・ホントにすぐ、手に入れて」


 腰袋から出された、人間には大きなサイズの輪っかを渡され、イーアンはホッとする。両手の平に乗ったそれを見つめ、親方を見上げると彼もイーアンを見ていた。


「精霊の、あの道具。白いナイフと箱は・・・タンクラッドが所持します?」


「俺もそれを考えた。だが、白いナイフはお前の持ち物だ。剣の柄が鞘だしな」


「では、どうしましょう。いざ治癒場へ行くとなったら」


「お前に余裕があれば、それは一緒でも」


 そうですね、とイーアンも頷く。私がその時、他の用事で動けないとかじゃなければ、人々を治癒場へ連れて行く際、一緒に行った方が良い。タンクラッドに任せることも出来そうだが、と腰に下げた白い剣に視線を向ける。女龍の視線を追い、タンクラッドも剣を見つめた。


「それは。お前のものだ。俺が持つ剣じゃないだろ」


「はい」


 見上げてニコッと笑った女龍に、タンクラッドも少し笑って彼女の頭を撫でる。『指輪についてはこれくらいだ』そう言って、またダルナの件に話を戻した。



 タンクラッドは『ダルナへの約束』で、『貢献を続けるなら、①怨霊にそそのかされず②この国で魔物終了後は、他国へ移動許可』の二点を伝えたことで、彼らが落ち着いたように感じた。


 だが刺激する気はなかったので、イーアンに預けた『王冠』の扱いに関して触れていない(※2238話)。つまり輸送をどうするかに繋がる内容なので、これはまだダルナ相手に振っておらず、タンクラッドは『下手なこと言うと、そこに食いつくから慎重に』検討中である・・・と話した。


 ふー、と大きな溜め息で俯いた女龍に、タンクラッドは彼女が気にしているのも可哀相で、『今夜また出かけるからダルナに話す』と言った。イーアンは鳶色の目で見上げ、ドルドレンが隊商軍に相談された状況を伝える。


「死者か。騎士修道会でも魔物が出ていた時は、毎日騎士が死んだと聞いている。ドルドレンからすれば、他人事じゃないよな。一日でも早く、生き残る確率を上げたいだろう」


「そう思います。この世界に私が来たばかりの時、私が魔物を使うと提案した最初。彼は驚きはしたけれど、戦闘を有利にするならと、受け入れて下さいました。総長の立場で即決して後押ししたのは、本当に一人の命もこれ以上失いたくない、その必死さの現れでしかなかったでしょう」


「民間の犠牲も凄まじかったからな。・・・今、彼はあの日々と同じように感じている」



 ここは俺だな、と困り顔のイーアンを見て親方は思う。

 王冠を自由に使うこと。ビルガメスに従うよう命じられたダルナだが、タンクラッドはダルナを尊重したい。


 彼らが自ら協力的な思考を持つなら、それが一番。強制する名目はあれ、良好な関係で話し合える状態を作れば、後味の悪いことをしなくて済むのだ。了解済みの納得あってこそ、『自由に使える』ってもんだろうと思う。


「悩むな、イーアン。俺がお前に、知恵比べで負けたことはあるか」


 ない、と即答するイーアンに笑い、『ダルナ相手でも俺は負けん』と、タンクラッドは彼女の垂れ目を覗き込み、『俺に任せておけ』と輸送の悩みを引き取った。お礼を言う女龍に、タンクラッドは話を変え、今回のイーアンの戦闘についても聞いた。



 イーアンはちょっと頷いて、はっきりとした原因が解らずじまいだった『空気の圧力の謎』の疑問を話しておき、それから『倒すには倒した』自分が使った魔法による、魔物退治の一部始終を詳しく説明。タンクラッドはかなり驚いていたが、口を挟むことなく聞き、いくつかのことを頭の中で繋げて考えた。


 イーアンが使った魔法は、空でファドゥが教えた話しと、巌の絵模様、精霊の現れる際に動く流れ、イーアンが空で見た絵模様、それら全てを理解した上で操られた。

 女龍だから使えるのか、人間でも使えるのか・・・そこは見えてこないが、とにかくイーアンは―― 彼女たち女龍が共通で使った ――魔法を得た。



「俺も見たかった」


「今度、見せます」


 ふふっと笑ったイーアンに、タンクラッドはいつも思うことを伝える。


「お前といると飽きない」


 アイエラダハッドの冬の空は、破壊された町の煙や煤を風に渡す。現状が悲惨でも前進を諦めない力があれば、敗けっぱなしではないことを、タンクラッドもイーアンも知っている。


「貴族の家に着いたら、私は町の手伝いに出ます」


「俺も行こう。お前の龍気の面は、疲れ知らずだから」


 バーハラーを呼ばなくても、と同じ色の瞳を向けた親方に、微笑んで頷くイーアン。

 龍気のお面は無限・・・なわけないだろうけど、『移動に使う』くらいならまだ平気かなと思い、親方と一緒に行動することに決める。


 馬車は徐々に、遠くに黒っぽい木々の群れが見える場所へ近づいていた。

お読み頂き有難うございます。

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