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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新しい年へ
222/2944

222. 2日目の午後

 

「またイーアンに絡みやがって」


「女共から解放してやっただけだ」


「さっき嫌われたのにしつこい奴め」


「お前はどうしてそう、親に向かって口が悪いんだ」


 そっくりな二人が言い争う中、イーアンはドルドレンの背中にくっ付いて、この言い合いが終わるのを待った。仲間はちょっと笑って見ていたが、前からこんな具合なのか、それほど気に留めていなかった。


「彼女が肩を出されて、寒そうだったから温めてやった」


 なにおうっ?!くわっと目を見開くドルドレンに、イーアンが慌てて否定する。『肩の絵を女性に見せていたら、この人が肩に触れて』それだけです、と言いかけたが、パパが挑発した。


「細い肩だ。それなのに筋肉がしっかりある。他の女と触り心地が違う」


 息子がきーきー怒って親父を(けな)し、親父は不適な笑みで息子をからかい続ける。イーアンの中で、このパパと一緒に生活するのが嫌で、ドルドレンは早くここを出たのかもと過ぎった。


「行こう、イーアン。こんな鬼畜で下衆な男といたら、こっちの脳までやられてしまう」


 気が狂いそうだと吐き捨て、ドルドレンはイーアンをしっかり引き寄せてから、パパに背中を向ける。パパは頼んでもいないのに『そこまで送ってやる』と付いて来る。



 パパの図々しいくらいの自己中心さと、ドルドレンの周囲を気にしないでいちゃつける性質が、何となし似ている気がした。変なところは遺伝するのか。イーアンはドルドレンの脇に収まりながら歩く。


「明日も来い」


「明日は仕事だ。アジーズの件の魔物を調べに行く」


 息子の返事に、パパが一瞬言葉を切った。『倒せるのか』少し気がかりそうに息子を見つめた。息子は無視。『それが仕事だ』仕事とはそういうものだとパパを切り捨てた。


 パパはイーアンを見下ろし(※イーアンも無視)『イーアン。お前も行くのか』気になるようで静かに問いかける。パパを見上げて『もちろんです。家族のために倒します』そう言ってちょっとだけ微笑むイーアンは、食事を一緒にしたもの、と思ったからの一言。


 その後のパパは黙り、二人を見ながら歩いていた。二人に無視されつつも、それはパパには気にならないようで、穴が開くほど見つめている感じだった。


「イーアンはソカを使うのか」


 町の通りに入りかける所で、パパが訊ねた。ドルドレンが代わりに答える。


「ソカも使う。彼女はまず武器で戦わない。知恵を使って勝つ」


「魔封師だからか」


 息子とイーアンの足が止まった。パパは何てことなさそうに片方の眉を上げて『イーアンは龍を使うのか』と質問を続けた。


「なぜそれを」


「さっき肩を触ったと言っただろう」


 ドルドレンの中で複雑な感情が動いている。愛妻に触られたのはぶった切りたいくらい。魔封師に龍とくれば、また何かの展開を予感するから話を聞きたい。銀色の瞳が真っ直ぐ、パパに注がれる。


「まあいい。俺たちは年末までここにいる予定だが、年始になると移動する。北西へ向かおう」


「来るなっ」


「西の道を戻るのは厄介だ。街道で北西を通過して北の町へ行く。年始にまたな」


「来るなって」


 お前の命令は受けない、パパはそう言って高らかに笑う。吼えるドルドレンがどれほど威圧しても、パパには無効だった。


「風の噂だ。ベルとハールがお前の所に居るだろう。石の家に暮らす、あいつらの情けない顔を見ていく」


 そしてパパは『魔物を倒せ。仇を取れ。結果を知らせろ』と息子に命じた。通りの煉瓦の色が変わったところで足を止めたパパは、そこから先が自分たちの世界ではないように動かなかった。


 言い方がドルドレンっぽいなーとイーアンは思う。3つくらいまとめて要件を言う辺りが、親子なのねと感じさせる。

 息子はパパを一瞥し、『魔封師について口外するな』と命じてからイーアンの肩を引き寄せて、町の通りを進んだ。



 宿に行く前に、時間がまだ3時前だと知り、モイラと一緒に食べた美味しいお菓子の店へ寄った。昨日と同じように表に出してある椅子に座って、熱くて甘いお菓子を頼んだ。


「昨日はモイラが(おご)ってくれました」


 とても美味しいのです・・・イーアンは運ばれてきたお菓子を見つめて、嬉しそうにした。艶やかな湯気の立つ菓子に、ドルドレンも感心して一口食べた。目をふっと開いて『こんな菓子もあるのか』と驚いている。

 イーアンは匙に掬った菓子を、ドルドレンに食べさせる。幸せそうに目を細めて愛妻(※未婚)を見つめ、ぱくっと食べるドルドレン。ふーんと唸り、軽く悶える。彼も悶えるのね・・・イーアンは見守る。


「こうなると、もっと美味いと思う」


 笑うイーアンに『本当にそうなんだよ』とドルドレンも笑った。二人で年末のウィブエアハを満喫して・・・・・ そういう流れになるには、日数も削られたし(←南支部の宴会)奇妙な相手に捕まるし(←パパ)無理だったが。それでもこの2日間はいつにない、二人のデートみたいで、ドルドレンは幸せだった。


 大事な愛妻が冷えては大変と、贅沢な菓子を食べ終わってすぐに宿へ戻った。夕方近くに戻った二人に、主人とモイラが近寄って『とても心配した』と伝え、無事に戻ってくれて本当に良かったと喜んでくれた。


 ドルドレンの家族の話をして良いか分からないイーアンは、ドルドレンをちょっと見上げた。ドルドレンは首を振って『少し遠くまで歩いてから、町の中を楽しんだ』そういう内容として、モイラと主人に話した。心配させて悪かったと謝り、夕食まで部屋にいることにした。



 部屋で暫く寛ぎ、今日のあれこれを話し合っていると、夕食の誘いが戸の向こうから掛かったので、二人は下へ降りた。


 昨日同様の、たくさんの肉と野菜と練り生地に、漬物や乳製品が食卓に並び、運んできたモイラは寂しそうに言う。『明日からまた大変だと思う』だから今夜は一杯栄養摂ってねとイーアンの肩に手を置いた。


 有難く美味しい夕食をたらふく頂き、二人はまたちょっと余った夕食を包んでもらって、おやすみの挨拶をして部屋へ戻った。



「ちょっと休んだら。寝ようか」


 寝る。寝てくれるのかな。イーアンは少し期待(※しないほうに①票)して伴侶を見つめる。伴侶は甘く輝く笑顔で『楽しく寝よう』と言い添えた。イーアンの期待は塵となる。



 夜は早かった。ちょっと休んだら・・・の時間が30分くらいだった。部屋は暗くなり、イーアンは自分が交渉した約束を守る。そそくさ服を脱ぐドルドレンに、さっさと服を剥ぎ取られて『寒いと可哀相だ』とか何とか言われながら、ベッドに連れ込まれた。


 結局、寒いと何たらという割には、上掛けがある状態で大人しくいちゃつく人ではないので、暖かいのは背中だけ。ドルドレンが乗っかってくると、その部分だけは体温があるが、他は寒い。

 傷や痣が治りつつあるため、少しずつ『まっすぐ入る体勢』の振り幅が広がっていき、角度の気持ち良い体勢も取り入れられていた。


 それでもさすがに。パパが相手で今日は精神的に疲労したのか、ドルドレンにしては意外と早めに完了した。1時間半。終わった後に包んでもらった夕食を食べていたので、これは休憩か?と懸念があったが、それはなかった。単に小腹が空いたらしかった。



「毎晩だから。毎晩だと適度がいいね」


 何だかよく分からない匙加減で、ドルドレンは自分の大人さを誇っていた。1時間半の夜が、一体何日守られるのか。約束でもさせないとあっさり覆されそうな気がするが、今夜はこれで良いらしいので、イーアンは有難く1時間半に感謝して眠った。




お読み頂き有難うございます。

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