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魔物資源活用機構  作者: Ichen
秤の備え
2211/2965

2211. 精霊の祭殿と十人の仲間 ~③新たな面・面拝領ドルドレン、イーアン


 コルステインの次に呼ばれたイーアン。お手本を見たので、同じように蓮池に出る。


 床は、ガラス張りの水上の状態で、金色の蓮が直径10mほどで密集。これが輝きと芳香を柔らかく振りまき、見ているだけで癒される。イーアンは、自分はここで何するんだろうと少し気が引けた(※破壊の象徴と呼ばれる自分)。


 女龍の黒と白の姿は、金色の光に照らされ、小さな体でも龍らしい威厳を持つ。ファニバスクワンは何やら納得の頷きをし、イーアンの下に一輪の蓮を立ち上がらせる。


『龍気を託しなさい』


「どのくらい・・・でしょうか」


 龍気なくなると困ると思ったイーアンが尋ねると、『たくさん』と返事は戻る。たくさんを求められ、イーアンは精霊を上目遣いに見て『龍気がないと飛べないのです』と小声で相談。注いだ直後に落ちたら嫌。でもファニバスクワンは『たくさん、注ぎなさい』としっかり言い聞かせた(※聞いてない)。


 仕方なし、イーアンは頑張ることにする。コルステインはどうして大丈夫だったのか。元が違うからか。そんなことを往生際悪く考えつつ、ぐわッと龍気を引き上げる。


 呼応がなくてもこのくらいなら。呼応はないが、『小石』は腰袋にある。飛べないほど龍気を出すのもどうかな、と思うけれど、万が一の『小石』頼み。

 言われるとまっすぐ受け止めてしまうイーアンは、ファニバスクワンが命じたので、この場で出来るだけの龍気を出す。


 ニヌルタ・シム系の龍気の膨張は、周囲に漏らすことなく密閉して高める力。ぐんぐん上がる龍気で、イーアンは白い星の輝きさながら。螺旋の髪もクロークも龍気で浮かび、翼も角も煌々と光を放つ。龍気はパッツパツ。パンパンに張った龍気は女龍の両翼の直径で、頭打ちなど知らないよう膨れ続ける。

 精霊の色踊り、風が奏でる祭の空間に、龍気の振動が伝い出す。地鳴りに似た、破壊の全てを引き受ける龍の呼応が、精霊の領域にあっても、ドン、ドン、ドン、と空気に漏れて脈を打つよう。


 ヤロペウクはこの様子をじっと見つめ、これが三代目かと少なからず驚く。始祖の龍に近づく勢いとは聞いていたが、これなら時間の問題だと心で褒めた。

 コルステインは大精霊に保護されている状態なので、イーアンの眩しさも今回だけは無事。初めて見る、イーアンの龍気。目を丸くするコルステインは、よく頑張っていると思った。



『そこで止め、龍気を上に放ちなさい』


 思ったより龍気が濃いと(※嫌な予感)判断したファニバスクワンが指示し、イーアンは膨張を止める。

 龍気が花に吸い込まれるのかなとさっきを思い出し天井を見上げ、集中して龍気を解き放つ。地表も山塊も抉る爆発量の龍気。


 女龍の体から白い閃光が弾けた途端、アンガコックチャックの風が同時に飛び、真っ白い龍気は目にも止まらぬ速さで空間を白に包む。イーアンがハッとしたのも束の間、白い一瞬は消え、花がパッと輝き、半透明の白と金と琥珀色の階調で、雲に似た模様を表面に浮かばせた。


 アンガコックチャックの風は一体。唖然とするイーアンの頭の中は『私は()()()やってしまったのでは』の恐れに囚われる。誰も消えていないし、何も壊してないはず・・・目を合わせるのが怖いが、そっとファニバスクワンを見るとこっちを見ていた。少し真顔のような(※さっき微笑)。


『龍の力』


 精霊はイーアンに何を言うこともなく業務的に進める。アンガコックチャックが精霊の気を増やしたから、龍気が戻ってきたが。あんなに大きいとはとファニバスクワンは顔に出さずに、(イーアン)の気に苦いものを感じた。


 でも、お面は無事に出来、派手なくらいに輝く白と金と琥珀のお面は、回転して浮かび上がり、サブパメントゥの面の横で止まった。



 離れた場所から見守る仲間は、驚いたり怯えたり忙しいが、獅子とシャンガマックはこの様子に『ファニバスクワンが()()()()()』と思った。

 ファニバスクワンが大昔、龍に嫌な目に遭わされた話を聞かされたことがあり、きっとイーアンの龍気でそれを思い出したのかもしれないと、二人は解釈(※1186話後半に詳細)。

 目を見合わせ、獅子は『今日は機嫌が悪いぞ(←ファニバスクワン)』と息子に忠告した(※息子、帰ったら練習)。



 外野が気付いたことはイーアンに伝わらず、イーアンは精霊にちょっと鰭を向けられて(※下がって良いの合図)用は終わる。態度が冷たい精霊に、やっぱり何かしてしまったんだと気落ちしながら、イーアンは引っ込んだ。

 そんなイーアンの頭の中に、コルステインは『お前。悪い。ない。大丈夫』と励ましの声をかけてあげた。


 そして、ヤロペウク。『ここへ』と命じられ、ヤロペウクも浮かぶ。人間なのに飛べてしまう彼の正体が気になるが、何の説明もない彼は謎のまま・・・・・ 精霊はヤロペウクに『()()()()()を』と命じた。


 頷いたヤロペウクがどこまで知っているのか。彼は聞き返すことも躊躇う事もない。ファニバスクワンもそれ以上言わず、花を立ち上がらせる。ヤロペウクの力は、見て分かる『形』?とイーアンが見つめると、そうではなかった。


 前に出された金色の花に、ヤロペウクは近づき、額に片手の指を当て、もう片手を花の上にかざす。

 すると彼から伝う、何か・・・靄が出て、それは蜃気楼に似て揺れながら花を覆う。注がれる花は目まぐるしく色を変え、彼の手が花から外れると、花弁はモザイクタイルのような複雑な色を抱えた。



 呆気にとられるイーアン。領域の緩和、の意味も気になるが、彼は何を与えたのか。そして、彼に求められたものは、精霊たちの力とは別なのだろうか。精霊にもない力・・・?


 静かに完了したヤロペウクは、ファニバスクワンの長い鰭が花に伸びたので、自分も元の場所に戻る。


『領域を跨ぐ力』


 精霊はそれを告げて、モザイクタイルの面を、先の二つの面の近くに浮かばせた。この三つの面が加わり、精霊の力が与えられる時間に移る。




『勇者。前へ』


 精霊の祭殿に、再び虹の風と合奏の音色が大きくなり、ドルドレンは精霊の並ぶ円に歩いた。




 ――【ドルドレン】 ~『トラと鳥の面』


 ドルドレンが精霊たちの輪の側に来ると、精霊は彼を金の花の咲く場所へ・・・は、入れず。


 そこで止まるようにと、ドルドレンは言われ、精霊と共に並ぶ。全く人間と異なる姿大きさだけに、人間とはいかに小さいかを考える真面目なドルドレン。


『龍の祝福を受け、()()()()()も受ける勇者よ』


 金の蓮池の上で、ファニバスクワンが話しかける。精霊に視線を定めたまま『加護?』と思うドルドレンだが、何のことだか分からないなりに、頷いておく。

 精霊の加護・・・とは、シャンガマックが以前、首と腕に付けていたああいうのでは?と過ったところで、『加護を出しなさい』と命じられる。



「加護とは、何だろうか?龍の祝福は受けた覚えがあるが、加護は」


 言いかけて視線を感じ、ドルドレンは止まる。視線の方を見ると、橙色のトラが寂しそうに見つめている・・・ハッとしたドルドレンは、慌てて『赤いトラの面か?』と訊き、ファニバスクワンとポルトカリフティグが同時に頷いたので、急いで腰袋から取り出した。


 赤いトラの面を見せると、ポルトカリフティグは離れた所にいるのに溜息が聞こえた(※ショック)。すごく罪悪感を感じるドルドレンは、ファニバスクワンが何か言おうとしたのを遮り、『聞いてほしい』と訴える。


「この面だけは。勝手な願いかも知れないが、俺に持たせてくれないだろうか。戻す場所なのかと思い、ここへ持ち込んだが、俺は」


()()()()()だった』


 ザクっと遮り返したファニバスクワン。ぴたっと止まるドルドレン。ちらっとトラに顔を向けると、じーっとこっちを見ている緑の目と目が合った。


 ファニバスクワンは、あんまり細かいことは気にしないが、さっきちょっと嫌な思いをしたので(※イーアン龍気で思い出す過去)、ドルドレンが話を遮ったのも面白くない。


 なので、『勇者戴冠式並みの予定』は消え、とっとと赤いトラの面と白い鳥の面(※説明ない)を融合させ、『お前はポルトカリフティグと地を行き、ムンクウォンの翼で空を動く』と使い道を教えて、あっさり勇者を下がらせた。

 面は、赤かったトラの表面に真っ白な帯が入り、元から複数の目模様を持つ額に、はっきりとしたムンクウォンの目も入っていた。ドルドレンはそれを受け取り、大精霊の機嫌を損ねたらしきことを反省して、その場を後にする。


 イーアンはこれを池の縁で見ていたため、伴侶に冷たい精霊は、きっと自分のせいだと心で謝った。

 でも、戸惑いつつも下がったドルドレンは、輪から外れるとすぐにトラちゃん(※ポルトカリフティグ)が彼の側に来て、嬉しそうに話していたから少し安心した。




 ――【イーアン】 ~『青い布・アウマンネル』


 次は誰かなとイーアンは仲間たちを見る。が、ファニバスクワンは振り向き長い鰭で女龍に手招き。怒らせた気がしているので、自分は何かするのだろうかとイーアンが前へ出ると。



『アウマンネル。女龍の肩にかかる姿を現せ』


 自分に話しかけられたイーアンは、きょとんとした。アウマンネル・・・って、視線を衣服に落とすと、クロークの内側の青い布が明るく光り出し、もしやとイーアンが黒いクロークを外すと、留め具で押さえていた青い布は留め具を消して、イーアンからすっぽ抜けた。


 凝視するイーアンの前で、青い布は輝きながら鱗粉のようにきらめいて分解し、それから大きな・・・『クジラちゃん』思わず呟いてしまったイーアンの前に、大きな大きな紺色のクジラが浮かんだ。だが見た目クジラ的な姿は一瞬で消え、解けた粒子は形を変えて、赤い肌の男性に変わる。


「あ。あなたは」


 今度こそ、仰天。あの時の、あの夢の(※83話参照)。夢の中で一度だけしか話さなかった精霊が、目の前に立つ。


『イーアン。成長した。今、あなたに必要な力は、私の力』


「あなたが・・・青い布で、アウマンネル?」


 赤い肌の精霊はにっこり微笑む。黒目のない精霊の輝く黄緑の目に、タムズみたいな赤銅色の肌。高い鼻に細面、どこかインディオを思い出す雰囲気。優し気なおじさん(※大精霊)の笑顔に、イーアンも思いっきり笑顔。


「ずっと守って下さいました!本当にありがとうございます!」


『これからはもっと力を与えよう。私の力は、女龍を包む守る力』


 攻撃や特別な技ではなく、包んで守る力と言われ、イーアンはポカンとしながら頷く。

 青い布の()()・・・そんな印象を受けた。この間、ファニバスクワンは喋らず、アウマンネルが自ら『女龍の力に』と教え、また一緒に動くのは変わらないため、アウマンネルは一旦青い布に戻ってイーアンの肩にかかった。


 青い布を見つめるイーアン。あのクジラちゃんは何だったのか(※誰も言わない)・・・驚くことばかりで聞きそびれたが、帰ったら、クジラちゃんの理由を教えてもらおうとイーアンは思った。



 そして、拝領は続く。ファニバスクワンは次の名前を呼んだ。


『精霊の鍵。扉を開けるドーナル。ここへ』

お読み頂き有難うございます。

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