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魔物資源活用機構  作者: Ichen
秤の備え
2206/2965

2206. 祭殿内 ~②フォラヴとドゥージ・ビーファライ予言回想・イーアン解除後

 

「同行()()の俺と、フォラヴが一緒とはな」


「そんな言い方しないで下さい」



 困った顔を向けるドゥージに、更に困った顔で窘める妖精の騎士。通路に降りてすぐ、フォラヴは姿を人に戻したその後、二人は暗く幅のない通路をひたひたと進み、全然出口の気配もない状況に不安を感じている最中。


「俺は()()()()()付きだ。お前の迷惑に」


「なりません。それ以上、ご自分を卑下されると口を利きません」


「・・・・・ 」


 何度も言わせないで下さいと叱られて、ドゥージは黙る。フォラヴはドゥージに触れないようにしているが、それは彼に何かあっても困るからであり、自分は既にドゥージの背負う怨霊に負けない自信はある。

 とはいえ、弓引きも、自分自身がいつどうなるか分からないだけに、彼が悪いわけでもないのに一緒にいることを謝り続けていた。



「総長たちはもう着いたのかな」


「さぁ。総長の知り合いの精霊(※ムンクウォン)だったようですし、次の地点には到着しているかも知れませんが。でも一筋縄で目的地行、ではなさそう」


「まだ。何かあるのか」


 ああ、と溜息を吐くドゥージは腰を摩る(※打った)。暗いが、とりあえず見えないことはない。彼が腰を痛めた仕草に、フォラヴは気になる。ドゥージの体は人間であり、癒せるものなら治してあげたいのは山々。でも妖精の力が使える相手とは思えない。


「ドゥージのためにも。早く出口を見つけなければ」


 ボソッと呟いた騎士に振り向いて、ドゥージは『俺のため?』と聞き返し、フォラヴはちょっと指差して『腰を痛められたでしょう』と気の毒そうに答える。自分が治してあげられたらすぐ痛みは引くのに、と続けた騎士に、ドゥージは前を向いて『気にするな』と素っ気なく言い、背に親指を向ける。


背中の荷物(これ)に小突き回されていた時、何度も死にかけた。今はなんてこたないよ」


「はい・・・でも気になります」


「有難う」


 短い礼は冷たく響くが、ドゥージはちょっと微笑んでいた。ザッカリアもそうだが、この旅の仲間は誰もが温かい。近い内に自分は動き出さないといけない、と考えているが・・・この温かさを忘れないよう、覚えておこうと思う。



「それにしても、出口がないのはいい加減、おかしいぞ」


 先に歩くドゥージは、ずっと同じような通路が続くことに嫌な予感。これは堂々巡りではと、けったいな遺跡でたまにある現象を思い出した。

 それをフォラヴに言うと、フォラヴは暗い前方を眺め『大いにある』と肯定。普段なら、そうした何かに気付くものの、精霊の陣地(※祭殿内)では、私は分からないかもと考える。


「呼ばれた割に。戦わせるし、迷宮仕掛けだし、だな」


 どうするんだこれはと、下手に動けないドゥージは立ち止まり、フォラヴも足を止め、自分に出来ることを探す。で、思いつくが。うーん、と眉を寄せ唸るフォラヴ。


「駄目か・・・それこそ、ドゥージが危ない・・・でも。うーん」


「なんだ。俺に気を遣うのか。距離を取ってどうにかなるなら、離れるが」


 そうじゃなくて、と片手を少し上げたまま、フォラヴはまた悩む。

 センダラを思いついてしまった自分・・・(※『呼んでいい』と言われた)だが、ここで呼んだとして、彼女の妖精の気にドゥージが心配である。

 誰かを呼ぶ発想は、コルステインが扉を開けてくれた印象から。来ていない仲間、他五名。ヤロペウクは面識なし。シャンガマック親子は精霊の求めで来るはず。こうなると、イーアンかセンダラが残るのだが、イーアンはどこにいるのやら。


「だけどセンダラ・・・は、さすがに無理かも」


 一人悩み続ける妖精の騎士を見守るドゥージは、独り言から『彼が誰かに頼るつもり』と理解する。

 自分たちは、総長のように『必須な道具(※仮面)』もなく、この状態では進みようもない。通路自体も、素朴なただの石が使われた床や壁。絵柄も文字もないから、読み解いてどうする・・・といった手段が、端からないのだ。


 立往生とは、このことか。参ったなと、頭を掻くドゥージ。だからと言って、入り口に戻るのは違う。精霊は進めと言った。


「こういう時。魔導士がいればな」


 顎髭に手を添えた弓引きの一言に、フォラヴは苦笑して頷く。『彼なら難なくどこでも来そう』と、自由な出現をする男を羨む。


「自由に移動、か。神出鬼没って感じだものな。コルステインもそうだが、物質の妨げが関係ない体は・・・あ、あいつもだ」


 言いかけてドゥージは、もう一人を思い出す。物質の妨げがあるかないか、は知らないが。神出鬼没―――



「ビーファライ」


 不意に過ったその名前。するっと口から零れ、暗い通路に響く。赤毛のビーファライ。茶色い狼。俺を助けた狼男(※1879・1886話中半参照)。


「ビーファライ・・・狼男の?」


 意外な名前にフォラヴが聞き返し、ドゥージは薄青い目を向けて『どこからともなく現れるから』思い出し序だ、と少し笑って頷く。



()()()()()か」


 二人の耳に、不意に届いた耳慣れぬ声。ハッとした二人が急いで身構えると、何の気配も臭いもなく、一頭の狼が前方の暗がりから歩いてきた。


「まさか」


 目を丸くする信じられないドゥージに、茶色い狼は近づいて顔を見上げる。茶色い毛の額に、大きな傷跡、緑の目。


「ビーファライ、どうしてここに」


「俺が聞きたい。全然、関係ない地上にいた。急に地面が抜けたと思ったら、()()が俺の名前を(※誰か=ドゥージ)」


 ふーっと狼も分からなさそうに息を吐いて、ちらっと妖精の騎士を見る。ドキッとしたフォラヴに『人間じゃないのか』と見抜き、少し黙って考えた狼は、来た方―― 前方 ――に首を向け『()()()()()風が来る』と、鼻を上に向ける。



「こんな形で、『問われる場』に引き寄せられるとは」


 茶色い狼の不思議な呟き。問われる?とおうむ返しに聞いた二人を振り向かず、狼は歩き出す。顔を見合わせたドゥージとフォラヴはこれが展開だろうかと願いながら、唐突に現れた狼の後ろについて行った。



 ―――獅子を探して、地上絵に今日も来てみれば。


 ビーファライは、エサイと共に『獅子探し』を続けていて、諦めずに地上絵を回っていた。今日。魔物を退治した後、エサイはダルナの解放に向かい、ビーファライは地上絵へ向かった。地上絵の上を歩き回っていたところ、急に引き込まれて出てきたのが、通路(ここ)



 驚きはしたが、ビーファライの脳裏に、あの日の言葉がすぐに浮かんだ(※2142話最後参照)。


 ザッカリアは予言した。精霊が招く時、引き寄せられて『続きを問う場所』に立つだろう、と。それはそう遅い日ではなく、ダルナの解放が全て終わってからかどうかは、目安にならない、とも。

 ザッカリアに見えていたのは、彼らがそれぞれ、精霊の質問に答える場面であり、望んだ形を手に入れている・・・と。それが人間に戻ることを意味するのか。ビーファライが問い詰めると、ザッカリアは『一人はそうだ』と答えた。


『どちらが人間になるか分からない』―― 頭を殴られたような衝撃と、悲しさと、どこか分かっていたような諦念が混じった。

 だがザッカリアは、言葉を失ったビーファライに微笑み、小さく首を横に振って『ビーファライ()()()()は』と濁した。


 一瞬。期待はした。ザッカリアは全てを伝えたと言い、隠している訳ではなさそうだった。

 彼の主観は含まれず、それで『どちらがそうなるか』と口にしたようだが、賢い少年は・・・エサイが人間に戻れないような、そんな視線の彷徨わせ方をした。



 いずれにしろ。俺は今、ここに来た。これがそうだろう。 

 ビーファライは地上絵から入り込んだこの場所を、精霊の場所と理解する。どこかと探るまでもなく、暗がりのほんの先にいた、ドゥージと彼の仲間を見て、間違いなく、()()()()()()()が訪れたと知った。


 二人と少し言葉を交わし、すぐに空気が変わったことも、導かれている証明に一つ足す。


 黒い鼻に感じ取る、水の匂い。かび臭いのではなく、流れる水の力強い匂いが、茶色い狼を招くように空気に混じる。匂いの濃くなる方へ歩く狼は、少し進んで立ち止まり、上を見上げた。天井は高く、組んだ石の欠けた隙間から、匂いは届く・・・・・


 ついてきた二人を振り返って『この上へ行く』と伝え、二人もここを出たい様子から、ビーファライは一肌脱ぐことにした。もう、『世界の旅人の補佐』は終了するのだ。最後くらい、と思えば。



 他の種族に影響しない、狼男だから出来ること。


 すっと息を吸い、ビーファライの狼の口が開く。それを窄めて狼は遠吠えを始めた。遠吠えで、精霊にここへ来たことを宣言する。響き渡る狼の声。粟立つ幻想的な姿に、フォラヴは感動。ドゥージは、狼が何をしているのかと戸惑うばかりだが、狼は確実に()()()()()()()()


 どうなるかと見守る、一頭の狼の遠吠え。狼は遠吠えを繰り返し、数回して息を吸い込んだ時、天井の隙間が円を描いて広がった。まるで、月のように。


「出られる」


 口に手を当てて感謝するフォラヴ。ドゥージも魂消て『なんてこった』と見上げた光に呟き、狼を見た。狼は緑の目を弓引きに向け『背中に乗れ』と命じた。



「上に運んでやる」



 *****



 ビーファライが通路に現れた時と同じ頃。


 レイカルシ・リフセンスの解除を終えたイーアンは、次の約束をした二頭のダルナを見送り、赤いダルナの力が封じられていた巌へ降りて、少し調べていた。



「ここはないんだわ。そうよね。馬車歌での『精霊の指輪』の在り処はもう少し」


 巌の横や側に、背を屈めてじっくり見ながら『白い指輪』を探す。馬車歌に遺った情報と、少し被った位置だっただけに、一応調べておこうと確認。でもやはり、ここではないと分かる。


 背を起こして、巌の絵を見つめ『これも始祖の龍の記憶・・・かな』と魔法の一種である文字というか、文様というか、その意味を考えた。が、イーアンはゆっくり考えている時間はない。



「皆を探さないと」


 連絡珠がもはや使える気がしない。ちらっと腰袋に視線を落としたが、精霊の領域―― 祭殿に続く町 ――にいると分かっているので、通信不可能と決め込んで、イーアンは連絡珠は当てにせず・・・こうなると、使う手段は。


「もう一回。あの地上絵でナシャウニットに呼び掛けてみましょう。この国の地上絵は、ノバルマク島しか知らない。あそこで呼んだら、少し前の出来事だし、ナシャウニットが現れてくれるかも」


 誰に頼るって、自分を外に出した相手(※ナシャウニット)。ほっぽり出されて、まんまと観戦していたが、『見守った後』はどうするのよと気づいて悩んだ。

 観戦が終わってすぐ、ダルナの解除が入ったから後回しにしてしまったけれど、まだ間に合うかな~と、精霊頼みで旅の馬車が向かった町を聞くことにする。



 そしてイーアンは、ぎゅーん・・・とノバルマク島へ飛んだ。そこで、精霊ではない相手に会うとも思わず。

お読み頂き有難うございます。

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