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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
197/2944

197. 帰り道の野営

 

 町を出て4時間後。野営地に着いてから、ロゼールがさっさと焚き火を熾して食事の準備に入った。時間は6時過ぎで、もう辺りは暗くなってきていた。


 イーアンとザッカリアは馬車に残らせて、騎士たちでテントを3つ張る。7時前には夕食が整い、張られたテントにも毛皮や毛布の用意が済んだ。



 焚き火を囲んで全員で食事を取っていると、遠くから馬の嘶きが聞こえた。


「誰だ」 「魔物だろうか」


 それはない、とイーアンは思いつつ、皆が見つめる方をじっと見た。方向的には、進行方向の支部の方面。暗がりに一頭の馬とそれに跨る一人の影が小さく見えている。道から外れたこの場所へ真っ直ぐ近づく人。


「あっ」


 トゥートリクスが笑顔で立ち上がる。近づく人は手をすっと上げた。


「シャンガマック」


 走り出したトゥートリクスに、フォラヴやスウィーニーも立ち上がり、手を振った。ドルドレンは腰を浮かせて、前屈みになって目を凝らす。


「どうした。なぜここが」


 焚き火に異様に妖しく輝く、白い鎧に包まれたシャンガマックが微笑んで近づいた。『やっと帰って来れました』総長に挨拶し、自分の仲間に迎えられて馬を下りた。


「俺の分はありますか」


 珍しく開放的な笑顔で総長に焚き火の食事の残量を訊ね、総長が言うより早く、ロゼールが『あるよ。何か今日は多めに作っててさ』と嬉しそうに皿に食事をよそった。



 イーアンを見たシャンガマックはビックリしていたが、それは突っ込まず。とりあえず、全員が揃っていることを見回して確認し、一人の小さな子供に目を留めた。光そのもののような大きな瞳と、漆黒の瞳の視線が合う。



「この子はね。この前、騎士見習いで入ったんです。私が一緒ですから、うちの隊ですよ」


「そうか。俺はシャンガマックだ。バニザット・ヤンガ・シャンガマックという」


 背が高く、静かで精悍な騎士を前に、ザッカリアは固まっていた。ちょっと怖がっているようだった。


『ほら。名前を言うんだよ。このお兄ちゃんは見た目ほど怖くないよ』爺の優しい助言にシャンガマックは苦笑したが、大人しく子供が名乗るのを待つ。



「俺。俺、ザッカリアです」


「他の名はあるか」


「ハドロウ」


「ザッカリア・ハドロウ。分かった。ようこそクリーガン・イアルツアへ」


 シャンガマックの大きな手が差し伸ばされて、爺に促がされたザッカリアの小さな手は握手した。微笑むシャンガマックに、ザッカリアは目をきょろきょろさせて落ち着かなさそうだった。


 ザッカリアが握手を解いて走り出し、イーアンに抱きつく。『いてっ』声が漏れそうになるのをどうにか堪えたイーアンは『ど。どうしたの』と痛みに強張る笑顔で訊ねる。見上げる金色に光る目が可愛いけれど。何やら不安そうに見える。


「シャンガ・・・・・ あの人、違う人と一緒にいるよ。あの人、後ろに違う人がいるの」



 なーにー??? 私そっち系、無理よ。あっち系でしょ、その『後ろの誰か』って。怖い怖い、やだやめて。うそー。


 そろっとシャンガマックを見るイーアン。ザッカリアの言葉を聞いていた近くの騎士もそろっ・・・とシャンガマックを見る。見られた当人は困惑し『何の話だ』と子供に問う。



「うーんと。えーっと。ザッカリア。どんな人が一緒なのか、格好とか分かるかな?」


 全然怖くない様に取り繕いつつ、鳥肌が立つ中でイーアンは質問した。ザッカリアがじっとシャンガマックを見つめる。周囲も何となくシャンガマックから離れている。総長も離れた。



「茶色い人がいる。でも人じゃないみたい。顔や体に飾りが沢山ある人だよ。その人の周りに金色の風が吹いてるの」


 それを聞いたシャンガマックは、ぱっと嬉しそうな顔をした。


 イーアンもその姿は知っているので、シャンガマックに笑顔を向けた。少し遅れてドルドレンとフォラヴが思い出す。『それは』フォラヴが言いかけ、頷いたイーアンが続きを拾う。『大丈夫よ。その人は彼を守る大きな力なの』ザッカリアの頭を撫でた。


 他の騎士は、何の話か分からずにちんぷんかんぷんで、お互い顔を見合わせていた。アティクは何となく気がついたようにシャンガマックを見た。


「怖い人じゃないの?」 「怖くないの」


「ザッカリア。俺は精霊と共にいる。それが分かって嬉しい」


 シャンガマックはザッカリアに近づいて、ニコッと笑った。イーアンに貼り付く子供の頭を撫でて『お前は祝福されている』と伝えた。ザッカリアはレモン色の瞳で、シャンガマックと後ろの精霊を何度か見て『その人。精霊なの・・・・・ 』小さく呟く。その顔はもう、怖がっていなかった。



 フォラヴがイーアンの視線を捉えて、少し微笑んだ。イーアンは理解した。ザッカリアが昨晩、今と同じようにフォラヴにも何かを感じたことを。

 ただ、フォラヴは、その体に既に妖精の流れを蓄えているから、別々の存在としては見えていなかったのかもしれなかった。



 今日の昼に支部に帰ってきたら、遠征から戻った他の隊の話を聞いたシャンガマック。自分の隊だけはイオライセオダへ行ったと知って、鎧も剣も外さず、そのまますぐに出発しようと決めた。


 馬に跨ったシャンガマック。そこへ来たクローハルが彼を止めて『初日の遠征地の方へ行け』と教えたらしかった。地図を見せて、大体この辺に来るはず・・・と示されて、この方向へ進んだと話した。


「あとは勘の向くまま」


 微笑むシャンガマックに、アティクが大きく頷いて『お前は導かれてここへ』と返した。焚き火を囲む全員が、それぞれの表情に嬉しそうな笑みを湛えていた。『全員揃ったな』総長が皆を見渡した。




 その後。


 夕食の片づけを済ませて就寝時間を迎え、1日の終わりの挨拶と共にそれぞれがテントへ入った。


 ドルドレンとイーアンは、疲れが溜まっているのもあって早々眠った。特にイーアンが。テントの毛皮に横たわるなり、靴を脱いだと思ったらもう寝ていた。


 鎧を外してからイーアンを見つめる。寝顔を見ながら、腫れが引いただけでも本当に良かったと、そっと頬を撫でるドルドレン。



 ――そして思う。暫くお預けだと。 この体が持つであろうか・・・・・ ここのところ、騙し騙し毎日していたからなーと思うが。さすがに、怪我人の愛妻に襲い掛かるなど、変態以前に鬼畜であろう、と自分に言う。まだ変態でいた方が宜しい(?)。愛される夫になるには、変態止まりが良いであろう(?)と納得する。



「ふむ。純愛だな。イーアンが回復するまでは、俺も純愛組に入るか」


 よく分からない言葉を呟いて、うんうんと頷きつつ、自分も毛皮と毛布に包まって大人しく眠った。




 ギアッチたちのテントでは、シャンガマックが加わったので5人でゴロ寝。


 テントの天井を眺めながら、久しぶりに帰った故郷への旅を考えるシャンガマック。

 任務として片付けてきた魔物の植物のこと、長兄の家での宿泊、土地の賢者との時間を思い巡らしていた。支部の不在は、ほんの一週間くらいだったし、故郷にいた時間なんて1日程度だった。懐かしくも思うが、それ以上に思うかと言えば。


 自分の横にいるのはダビとフォラヴ。眠る仲間を見て、自分はここが居場所なのかもな、と小さく笑った。


 ギアッチの横ではぐっすり眠るザッカリア。

 新入りの子供は、何だか不思議な力の持ち主だと感じる。これも運命の紡ぎと解釈した。この時代の動きに紡がれていく必要な存在が、次々に自分の人生に登場することを、そして、自分もその一人であることを。シャンガマックは重く大切に受け止め、瞼を閉じた。



 スウィーニーたちのテントでも、眠りになかなか寝付けない者がいた。


 ロゼール、トゥートリクス、アティク、スウィーニーの4人の内、スウィーニーだけは考え込んでいた。他は寝てる。


 スウィーニーは、いつ叔父さんの宿へ行けるかで眠れなかった。ツィーレインの町は近いから、休暇を取れば良いだけの話だったが、遠征がいつ入るか分からないため休暇も取りにくい。

 シャンガマックが、緊急の用で故郷へ帰ったと知った時は、少し羨ましかった。さっきシャンガマックが律儀にここまでやって来たのもあり、自分もツィーレインへ行くことを再び考え始めた。


 イーアンを連れて来い、とおばさんに命じられているのもあったが、あの時、台所で言われた『紹介』の話が気になっていた。


 イーアンに合う友達がいるから会わせたい・・・とおばさんが話していた女性がいる。昔。自分と同じ学校で学んだ女性だと知り、何とも郷愁の念に駆られた。学生時代にちょっと好きだった人。


 彼女とおばさんは現在も仲が良いらしく、彼女の最近を聞いてみれば。


 一度は結婚したものの上手く行かずに、ツィーレインに帰って来ていて、今は図書館に勤めているという。勤務時間が短い仕事だからと、民宿が急に忙しい時、仕事帰りに積極的に手伝ってくれたこともしばしばあるそうで。


『あの子だったら、イーアンは話しも楽しめるんじゃないの』


 おばさんはなぜかイーアンを気に入り、娘のように月一で家に戻そうと目論んでいた。『友達がツィーレインに出来たら、もっと来易いだろう』とした魂胆のようだった。


 イーアンを連れて行くとなると、必然的にもれなく総長が付いて来る。とはいえ、イーアンに龍で行ってくれとも言えない。龍が降りたらあの町は大混乱だ。特別事態でもないのに、そんなことは出来ない。



 だからおばさんには悪いが、とりあえずイーアンは機を見て連れるとして。その・・・『友達用彼女』に自分だけが会いに行けたら・・・・・ スウィーニーは想いが少しずつ募っていた。



 どうしようかなと思いつつ。スウィーニーは目を閉じた。


 遠征帰りの野営地の夜は、空にうっすら雲がかかり、朧月夜の晩だった。




お読み頂き有難うございます。


先ほど、ブックマークして下さった方。ポイントを入れて下さった方がいらっしゃることに気がつきました。心から感謝します!!有難うございます!!


そして!活動報告にコメントを下さった方に、感謝します!!とても嬉しかったです。有難うございます!!

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