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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
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191. 空中の魔物・夜戦

 

 焚き火の側で、ザッカリアとイーアンは食事を一緒にした。イーアンはザッカリアに、小さく切った布を渡し、『皆とテントに入ったら、これを丸めて耳に詰めて』と教えた。見ている前で丸めて見せて、耳に試しに当てる。


「これなに?」 「耳栓よ」 「これ使ったら聞こえないよ」「そうなの。大きな音がするから使って」


 そうなんだ、とザッカリアはイーアンを見上げる。『ギアッチにもあげて』と言われて、イーアンは皆に話しましょうと微笑んだ。


 ドルドレンが来たので、ザッカリアは耳栓を見せて、今の話をした。ドルドレンは灰色の瞳を優しげに微笑ませて『良かったな。俺たちも用意しよう』と頭を撫でた。そんなドルドレンを見て、イーアンはとても幸せだった。



「イーアン。君は最初から・・・火を焚くつもりでいたのか」


 ヨドクスの馬車が5台、それは遊びに行くのかと思ったくらいだったが、内2台が干し藁と油を入れているとは思わなかった。そうです、とイーアンは頷いて『帰りはイオライセオダにも行きたい』と話した。


 ああ、そうだな、とドルドレンも思い出し、『じゃあ、俺たちだけで行くか』と提案すると、イーアンは馬車とドルドレンの隊の皆で、とお願いした。


「帰りたい方は帰って下さっても良いのですが。ダビは剣の説明で必要ですし。ロゼールは馬車を操るでしょう?ギアッチも馬車の手綱を取れる人で、イオライセオダからだと馬車を動かす交代が入用です。ギアッチが一緒と言うと、勿論この子も一緒ですし。

 フォラヴとトゥートリクスは、絶対一緒に来ると言うはずです。そうすると、スウィーニーやアティクは自由ですが、この二人だけ外すのもちょっと」



 あー・・・・・ そうね。ドルドレンは頭に手を当てる。そうだな。仲間はずれみたいになってしまうのは良くない。『分かった』一言そう答えて、イオライセオダの委託を急遽設定する。


「一応、執務の方にはお伝えしました。馬車一台には、剣や魔物の材料を積んであります。ドルドレンの部隊が同行する可能性もお話しています。

 お話した時間で、用件と予めの行動設定をしましたから、帰ったら報告だけでしょう。資料は最初から作らないで済むと思います」



 ――君はいつの間に。そんなに手筈を整えて遠征を使うようになったんだ・・・・・ それは俺の仕事では(でも仕事が減った)。

 それで3日遠征に、馬車5台。納得。 戦法実行用の道具に2台。自分の委託用に1台。残り2台が遠征用。彼女は前日に確認したから、こうして・・・・・ 俺が思いつかなかったから仕方ないか。うーん。立場が薄くなったもんだなー(夜に意識使い過ぎ)・・・・・



 職務の緊張感が随分軽減したことに、嬉しいのと微妙なのと、心の動きに翻弄されるドルドレン。総長の思いなど誰も気にせず、夕食が終わると同時に号令が掛かり、留守番の料理担当を残して他全員が馬に乗った。


「では。各隊の長より食事中に聞いたと思うが、復唱する」


 自分たちの行動をポドリックが大きく分けて復唱し、それを騎士たちが理解し、戻って馬を繋ぐまでを確認した。


 クローハルが繋いで、テントに避難した後、魔物が空から落ちてきたら、魔物の攻撃によく注意して、首を落とすことを伝える。首が落としにくくても、翼だけでも取れば倒しやすいと、以前の空中の魔物の時を思い出させた。


「以上だ。出発」



 イーアンを残し、ドルドレンは彼女の頭にキスをすると『気をつけて』と心配そうに言いながら谷へ進んだ。

 ギアッチは、ザッカリアが同行しているので戦闘免除。料理担当の騎士たちと一緒に残った。


「どこへ行くんです」 「イーアン。どこかに行くの」


 心配してくれる二人に微笑んで、『ちょっとそこまで・・・・・ 』とイーアンは手を振った。


『ギアッチ。上に風が出てきました。もし雨ではなく雹だった場合、テントを捨てて、馬車と馬を連れて上空の()から逃げて下さい。皆を誘導して』ふと思い出したように、イーアンは振り返りながら伝えた。



「雹・・・・・ 上空の。まさか」


 ギアッチは気がつき、夜の空を見上げた。一面を覆う細かい雲の群れ。細かいが、大きさは空にむけて(かざ)した指先程度。ってことは。範囲が―― 慌てて上空と谷までの距離を計算する。


「あの人。いや、じゃ。まずいぞ。雹だったら逆側へ」


 谷と自分たちの野営地から、反対方向を見る。だだっ広い土地の向こうに、小さな小さな民家の明かりが見える。そこまでの移動時間を想像し、『あっちは狙わないってことか』ギアッチは頷く。不思議そうに見上げるザッカリアに微笑みかけた。


「初遠征は、かなり見応えあるかもしれませんよ」


 遠ざかる青いマントのような布を見つめ、ギアッチは頭を振りながらフフ、と笑った。



 イーアンは、ドルドレンたちを反対方向へ向かって歩いていた。少し経ってから、目印の何もない・・・だだっ広すぎて、かえって自分が見つけやすそうな場所まで来ると、笛を吹いた。


 すぐに龍が来て、イーアンは龍の頭を両手で挟んで頬ずりした。


「あのね。ちょっと乗ります。それでとても高い場所から谷を見たいの」


 龍はイーアンを摘み、背中に乗せて浮上した。


 イーアンは龍に『谷へ行くけど、上から見てるだけ。私がお願いしたら、大きな声で・・・谷の魔物が驚いて出てくるくらい、大きな声で吼えて欲しいの。その後は、私をさっきの場所に急いで連れて帰って』長いけど覚えられるかな~と思いつつ、とりあえず話してみた。


 龍はちらっとイーアンを見て首をゆらゆら振り、谷へ進んだ。多分この仔は分かっている。お互いが通じていると感じることも、イーアンは嬉しかった。



 谷へ着いた全体は、二手に分かれた。ドルドレンとポドリック、コーニスとヨドクスの馬車一台。ブラスケッドとクローハル、パドリックと、ヨドクス隊のもう一台の馬車。今回の遠征は、細かい班や隊がなく、大きく7つに分けている。左右30~40人で分かれ、馬車から干し藁を下ろして谷の縁に並べた。


 谷間際くらいで並べてから、積んできた油を藁の手前側にざぶざぶ掛けて注ぎ、それが終わると、全員馬に乗るように指示した。

 左右で、ドルドレンとブラスケッドが馬の上から、イオライの石を藁に乗せて、端から端へ移動した。



「よし。では弓が届く位置まで下がる」



 ドルドレンの一声で、先に馬車が動き、それに全体が続く。馬車は先に野営地へ戻り、他の隊も野営地へ一足先に進む。

 弓部隊とドルドレンが残り、馬車に下ろしてもらっておいた火矢用の矢と、油の缶を出して火矢の準備を整えた。


「後はイーアンの合図を待つだけだ」



 上空から見ていたイーアンと龍は。馬車と幾つかの隊が動き出して、野営地近くなるまでを見つめていた。その間に、矢が届く範囲で残っている隊が、小さな火をつけたのを見つけ、準備が整ったことを知る。



「今からすることを話します。お前にしか出来ないの。

 私が鳴いて、と頼んだら、大声で吼えて頂戴。まだよ。その後、谷に火がつくでしょう。多分魔物がたくさん出てくる。それを見たらすぐ、さっきの場所に私を連れて行って下ろして。


 それから、お前はあの雲の中へ飛んで、出来るだけ大きな声で吼えながら、野営地と谷までの距離を目一杯、一番速い速度で往復してほしいの。私が笛を吹いたら戻ってきて」


 覚えた?とイーアンが言うと、龍は首を振り振り、谷間を見下ろし、次に来た道に頭を向け、それからイーアンを見て、その後に天を見つめた。そして野営地と谷を交互に見てから、最後にイーアンの顔を見る。


「何て頭の良い仔なの!!!」


 イーアンは首に抱きついて誉める。龍も嬉しそうで尻尾がぶんぶん振れていた。


『それじゃ、始めましょう。耳を押さえてるから目一杯大きな声で、谷の魔物を威嚇して』イーアンが言い終わらないうちに、筋肉がぶるっと震えた龍は、ひっくり返りそうな声で吼えた。 



「うわっ」


 ドルドレン他、全員がびくーっと体を丸めた。急いで『合図だ、火を』ドルドレンがコーニスに手で示す。即、谷の縁に向かってコーニスの隊が矢を放った後、パドリックの隊も放つ。


 目の前でワーワーギャーギャー騒ぎながら、地上の割れ目から次々飛び立つ魔物の姿に、弓部隊は(おのの)きながらも、藁に火が燃え上がるまで矢を放ち続ける。


 火は見る見るうちに大きく広がり、少しすると油の発火点で一気に炎が立ち上がる。耳を(つんざ)きそうな魔物の声に頭を痛めながら、『もう良いだろう』とドルドレンがかけた一声で、油の缶を消し、全員大急ぎで野営地へ走った。


 後ろでさらに炎が大きく上がる音がした。ドルドレンが振り返ると、イオライの石に火が移り、火柱が立ち上がったところだった。

 地獄の蓋でも開いたように、黒い魔物の影が信じられないほどの数で、地下から止むことなく吹き上げているようだった。



お読み頂き有難うございます。

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