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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
190/2942

190. 魔物戦の作戦

 

 焚き火の周りに集まる各隊長。夕食はどうするかとそんな話しも出た。イーアンは『すぐに食べることが出来るなら先に食べたほうが』と促がす。


 ちょっと早いけれど・・・では夕食を先に、と決まる。夕食準備を進めて、全体に夕食先行を告げる。



「もう少ししてから。攻撃はもう少し暗くなってからの方が良いです」


 どうせ私たちがここにいると、魔物はそう簡単に出てこないと思いますから・・・イーアンは前置きして、一呼吸してから全員の顔を見た。

 ドルドレンはちょっと思いついたことがあって、イーアンに小声で『ギアッチ呼ぶか?』と訊いた。ああ、彼がいれば楽ですね、とイーアンも頷いたので、ドルドレンはギアッチを呼びに行った。


 ギアッチが来ると、必然的にザッカリアも加わる。ギアッチは『お仕事だから。ちょっとここで見ていらっしゃい』と子供の頭を撫でた。二人を焚き火の側に腰かけさせて、イーアンは話し始めた。


「夜行性の魔物が相手です。数は分かりません。トゥートリクスの話では、何百といるような話でした。


 先ほど、一頭だけ手に入れて体を調べることが出来ました。トゥートリクスとビッカーテに確認しましたら、大体同じような大きさであるそうで、以前、岩山で遭遇した魔物よりも一回りほど小さいです。


 ええと。・・・・・最初に、何をするかを話します。その後説明をします。


 まず、夕食が済んでから。ヨドクスの馬車隊2台と、他全員が亀裂へ向かって下さい。馬車は1台ずつ、亀裂の左右へ分かれます。

 ヨドクスにお願いして積んでもらっている干し藁を、亀裂の縁に両側に、皆さんで縦に並べます。干し藁の幅は量を見て加減して下さい。特に均一ではなくても良いのです。亀裂で魔物が出入りするのに楽な場所を限定すると、藁を敷く長さはせいぜい200mあるか、ないかでした。


 それが済んだら、持ってきた分の油を全て藁にかけて下さい。調理用以外です。亀裂に油が落ちないように、藁にだけかけてもらう方が良いです。


 そうしましたら、ブラスケッド。あなたとドルドレンで左右に分かれ、イオライの石 ――これです。今、お渡ししますので―― これを点々と藁の近くに並べて下さい。

 この役は、イオライの火がどのように燃えるかをご存知の人にお願いします。6個ずつあります。50m程度の間隔で、干し藁の足元に置いて下さい。



 全てが終わったら、皆さんは馬に乗って亀裂から離れて下さい。


 私はそれを見届けてから、合図を出します。龍の咆哮が聞こえたら、コーニスとパドリックの隊に火矢を藁に向かって放ってもらいます。

 亀裂に火矢が落ちても構いません。とにかく藁が燃え上がるように、多く放って下さい。


 藁に火が燃え移ったらすぐ、皆さんは野営地へ戻って、出来れば馬を一箇所にまとめてから、全員テントに入って下さい」



 イーアンが話し終わると、ギアッチが面白そうに見つめていた。『あなたは』と訊かれて、イーアンは微笑んだ。


「私はこの話の、最初から最後までご一緒しません。私は今回、蚊帳の外なのです。私は遠くから藁が燃えるのを確認し、その後は龍に指示を出して龍だけが空へ行きます」


「イーアンはどこにいるんだ」


 ドルドレンが心配そうに訊く。イーアンは困ったように笑って『どこか』と答えた。


「私のことはさておき。馬が怖がるはずですから、逃げ出さないように本当は囲ってあげたいのです。それと、テントにいる皆さんも大きな音が聞こえたら耳を塞いで下さい」


 馬を焚き火付近で繋ごう、とヨドクスが提案し、馬車でその周りを囲むことにした。馬車とテントが壁になれば、馬も逃げはしないのでは、と。ヨドクスや、馬に慣れている者が近くに待機する話で決まった。


 ギアッチはイーアンに質問する。


「龍は何をします?」


「ギアッチ。あなたの授業にもあったかもしれません。龍は雲を雨に変えます」


「もうちょっと意図を伝えてもらうことは出来ますか」


「はい。もう夕食が出来たようなので、かいつまんで説明します。

 魔物は夜目が優れています。それは解体した時に知りました。これ。眼球を見て下さい。球体ではありません」


 イーアンの腰袋から、大きく奇妙な楕円型の卵みたいなものが取り出された。一同は『んぬっ』と妙な声を出したが、頷いてそれを見た。


「私たちの目と違い、これは顔に固定されていました。広い視野を大きな目で隈なく見るのでしょう。それに、この大きさだからこそ、僅かな光を集めて暗い中でも飛行を可能にしているようです。


 私はこの目を使うことにしました。光を大量に浴びれば、目がやられてしまいます。龍の咆哮に驚いた後、亀裂の両側に炎が上がれば、恐らく魔物は出てきます。かなりの数でしょうが、襲われるとは思えません。皆さんは近くにいませんから。


 ほとんどの魔物は目が利かない状態で飛行するため、ぶつかったり方向を間違えたり空中で戸惑うでしょう。


 空中にいる状態で、龍は雨を降らせるはずです。雨に濡れた後、軽い振動がテントに伝わるかもしれません。魔物が落ちてきたら、首を取って下さい。くれぐれも、金切り声や炎を吐き出す口元には気をつけて。


 龍が雨を降らせたら、龍を戻して私が空で魔物を落とします」


「魔物が落ちてくると言うけど。地面に落ちても、剣をかける前に飛び立たれてしまうかもしれないよ」


 心配そうなコーニスがそう言うと、イーアンは『大丈夫でしょう。地面まで一度落ちれば。あれはすぐに飛べない体でしょうから』安心させるように少し笑って答えた。



「もし雨が降らなかったら?」


 ギアッチは少し懸念の様子で訊ねる。イーアンは殊更微笑んで『私が龍と一緒に、空であれらを倒します』大丈夫ですよ、と約束した。



「以前は盾を使ったが。今回は使わないのか」


 今回の方法が大きく違うことに、ブラスケッドが訊ねる。『夜では皆さん、見えないので』イーアンは、昼間であれば同じようにしたかな・・・と答えた。そうか、と納得したブラスケッドは続ける。


「なぜ龍が雨を降らせるのか、聞いてもいいか?龍にそうした力があるのか」


「あの龍にそうした力があるかどうかは、分からないです」



 えっ。全員がビックリする。

 その答えは、言って大丈夫だったの・・・・・? 眼差しが疑惑。彼らの言いたいことが分かるので、皆を見渡したイーアンは笑って頭を振った。



「龍にその力があるかは知りませんが。龍の速度はかなりのもので、それは確認しています。それと変わった声もしています。その2点を利用します。

 でも。これで雨が降らなかったら、信用が一気になくなりそうなので、これ以上は上手く行ってから説明させて下さい。雨が一滴も落ちず、私が龍と共に空にいたら失敗した、と思って、笑って見ててやって下さい」


 皆さんにご迷惑はかけませんから・・・・・ イーアンはそう言うと、『では食事にしましょう』と料理担当のところへ行ってしまった。



 何が何だか分からないが、『責任は最後まで取るから、笑っておけ』と男らしくお母さんが言うので。特に誰も何も言わず、全員がイーアンの発案に従うことにした。


 立ち尽くす各隊長が見送る、男らしいイーアンの背中。それを追いかけたザッカリアに、イーアンは嬉しそうに振り向く。間を歩く騎士を避けたザッカリアが転ぶ。


『あっ』ギアッチが駆け出そうとしたが、クローハルが『待て』と肩を押さえて止めた。イーアンが転んだザッカリアに跪いて顔を覗き込んでいる。心配して、微笑んで、ニッコリ笑う。


 頭を撫でながら一緒に立ち上がり、小さな背中に手を添えて、食事を取りに歩いて行った。



「イーアンはお母さんなんだな」


 クローハルが微笑ましげに呟いた。『俺の奥さんでもある』変なところで口を挟むドルドレン。ポドリックが苦笑いする。『その、奥さんでもお母さんでも良いが、これから龍と一緒に魔物数百頭を叩き潰すぞ』それを聞いて、フフ、と笑って歩き出したブラスケッドが『あんな女が欲しかったな』と呟いたのを・・・ドルドレンは聞こえていなかったが、パドリックは聞こえていた。


「あんなに逞しくなくても」


 横でコーニスが察し、『そうだね。もうちょっと普通でいいかもね』と小さく笑った。



お読み頂き有難うございます。

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