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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
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187. 二人の夜間飛行

 

 チュニック姿に外套と青い布をまとって、持ち物は白いナイフだけ。イーアンの準備が済むと、ドルドレンがクロークを羽織って一緒に裏庭へ出た。


 門番には、門はそのまま施錠で、建物の裏口だけ開けとくように伝える。


 真冬の空の下、笛の音に呼ばれて龍が来る。


 イーアンが龍に乗ると、ドルドレンも少し躊躇うものの、ひらりと飛び乗った。『そのくらい綺麗に乗れると、私も見た目が良いのですが』苦笑しながらイーアンはドルドレンを誉める。ドルドレンも笑いながら『イーアンがよいしょって乗る姿は可愛い』だから良いんじゃない、と慰めた。


 ドルドレンはイーアンの腰に手を回したかったが、背鰭の間に一人ずつ納まるため、龍の場合はいちゃつけないことを知る。

 やはり馬の方が勝手が良い。そんなことを思っていると、自分の胴体に背鰭がぐるっと巻きつき、振り向いたイーアンに『では、行きますよ』と出発準備を告げられた。



「はい。飛んで」



 散歩する犬に『はい、歩いて』とでも言うような、砕けた命令に応じる龍。浮き上がって足を動かすと、速度が上がった。だが足の動きは速度にあまり関係ないとすぐ分かることになる。


 イーアンが目的地を教え、こうしたいの、ああしたいの、どこを見るの、と。お茶飲みながら友達に喋る調子で話すと、龍は長い首をゆらっと動かして、こちらも見ることなく体中の筋肉に力が入った。


 龍が首をぐっと突き出して体を捻ると、突然もの凄い速度で上昇し、夜の空を駆け抜ける。


 落とされないと知っていても、ドルドレンは初体験の上、時は夜。別の意味で震え上がる(余裕0)。イーアンは慣れているので、普通に背鰭に抱きついたまま大人しい。ドルドレンも抱きついたほうが良いのか悩んだが、取りあえず両手が掴むものが欲しかったので、背鰭の根元付近に手を当てた。



 夜空の旅は星が見えるが、今夜は雲が出ていて、何だか空に羊の大群でもいるような雲が浮かび、天地逆転の風景だった。空の牧場を突き抜けているような、そんな気持ちで冷たい空気に晒されている旅。



「ドルドレン。最初の地点へ出ました」


 少し飛んだだけなのに、イーアンが声をかけた。真下を見てもよく見えないが、暫く目を凝らすと川の支流や、せり上がる丘の段差が分かる。


「この辺にはいないのか」


 魔物が見えそうなものなのに、とドルドレンは思った。イーアンは肩越しに微笑む。『龍が来たから、いなくなったかもしれません』こればかりは怖いでしょうね、と魔物の気持ちを代弁した。


 イーアンが言うには、ヨドクスの話の農家と、パドリックの道具屋辺りらしい。暗くて見えないが、明かりが見えるので、下に民家があるのは分かる。広い川沿いではないが支流の幾つかはそれらの民家の側にあり、橋が架かっていたり、道が川を避けて並んでいたりが分かる。


「少し下の方へ行きましょう」


『ちょっと高度を下げて』イーアンが青い体をぺちっと叩くと、龍はつるる~っと下へ歩くように動いた。



 二人がこの付き合いなら良いのだ・・・ドルドレンはその龍の扱いに疑問があったが、龍がまんざら嫌そうでもないので、これはこれなんだと思うことにした。

 龍って。聖なる存在って、確か本に書いてあった気がする。でもイーアンもまた、聖なる存在として呼ばれてるのだから、これは口出ししてはいけないのかもしれない。


 気持ちが複雑なドルドレン。もうちょっと、こう、威厳のある感じで一緒にいたほうが良い気がするけど・・・・・


 高度が下がったおかげで、ドルドレンはイーアンが指差す方向を見て、いろんな情報を目で見て理解した。

 イーアンが地図を見て考え込んでいた理由も分かる。それと気流がぶつかる意味を、イーアンが手振りをつけながら、現場を指し示しながら教えてくれた。


 気流がぶつかると、イオライの魔物のような飛び方をする場合は、自分の力をあまり使わないで楽に飛べるらしい。

 空の上はさらに気流が大きく動くというので、『楽に移動できるのなら、上の方を飛んでる可能性はないか』と質問すると、イーアンもちょっと悩んだようで『それもありそうですが』と言葉を切った。


魔物(かれら)の都合に合わないから、下の方を飛ぶのかも。言い切れませんが、上を飛ぶと・・・体に今度は何かの負担が・・・・・ 」


 そこまで言うと、イーアンは何かに気がついたように動きを止め、目つきが変わった。鋭い目つきで(※垂れ目)空を見上げて、じっと思い巡らしている様子。



 ――あっ。怖い目だ。垂れ目だけど。ヤバイ。怖いこと考えてる。多分この目つきと()()は何か思いついた時だ。いや、一人で食らうのはちょっとキツイ・・・・・ 


 変なこと言っちゃったかもしれない。いやだ、誰か、いて。俺一人で、豹変イーアンは無理だ。今夜萎えるかも。いや・・・それはないか。でも朝も食らったし(※炎のお母さん)、夜も食らったら(※魔物破壊のお母さん)心がやられる気がする。心がやられたら、お父さん頑張れないよ。



 ドルドレンはいろいろ微妙な心配でイーアンを見つめる。既にイーアンは彼女の頭の中に入ってしまって、自分(ドルドレン)を置き去りにしているのが分かる。


「イーアン」


 おずおず声をかけてみる。イーアンがハッとして微笑んだ。『ドルドレンのおかげで、少しヒントがありましたよ』いつもの笑顔を向けてくれるが、その笑顔の裏側が怖い。ヒント聞かない。



「さて。次の場所へ行きましょう」


 イーアンが龍に指示を出すと、龍は進路を山脈が見える方向に変えて飛んだ。



 闇夜と言うほどではないが、空一面に羊の群れ(※雲)がいるので、何となく暗い。時々、月明かりが差して、月が出ていたんだと気が付く。こんなふうに、自分の国を散策するなんて思ったこともなかったな。ドルドレンは不思議な夢のような気持ちでいた。現実ではないような。


 龍が飛ぶ方向は、ポドリックが確認に出かけた地域イオライ・カパスだ。徐々に草原ばかりになり、それも終わりかけると、草がなくなり、乾いた土地が広がり始め、雲の間に注ぐ月明かりに照らされる、細い糸のような道が見えた。

 山脈手前の山々。そのずっと手前の町の明かり。そこからさらに手前、ぽつんぽつんとある、小さな民家の明かり。白い糸のような道に沿って、いくらかの集落として民家はある。


 ドルドレンが下を見ている間、イーアンは周辺を見渡していた。そして龍に『この辺に谷はある?』と訊ねた。龍がぐらっと体を傾けると、イーアンもドルドレンも斜めに揺れる。


「谷?」 「地図にあったような」 


 谷なんてあったっけ?ドルドレンが北西の支部に来て長いが、この方向の谷なんて聞いたこともない。見たこともないし、地図にもあっただろうか・・・・・


「もっと奥ではないか?イオライの山の向こうにはあると思うが」


 イーアンが振り返って『いえ。そんなに遠くではないのです。地図にあったあの線は』確信しているように、あるはずもない谷の方向に顔を向けている。


「イーアン。俺はここら辺は詳しいと思うが。それでも谷のことなど」


「違うのです。私の言っている谷は、遥か昔にあった谷なのです。それをきっとこの仔は知っています」


 龍の背に置いた手を感じたのか、龍は大量鈴を鳴らすような声を出した。



 ――イーアンと龍の間が、まるでダビとイーアンを思い出させ、ドルドレンはちょっと心がヒリヒリする。

 遥か昔の記憶を持って、イーアンの質問を理解する龍。僧院の本を見て覚えただけの情報で、昔の地形と現在の地形を丸呑みして動くイーアン。二人(一頭と一人)にしか分からないビジョン。


 俺は。俺はどこに・・・・・ こんなに俺って儚かったのか。



 がっくりと項垂れて背鰭に凭れるドルドレン。それを気にしない嬉しそうな声が掛かる。『見えてきましたよ』指差す方向には何もない。


「あれです。あそこに谷がある」


 自分の予測が的中し、ニヤッと笑った余裕なイーアン。月明かりに照らされて、輝く黒い螺旋の髪が風に舞う。



 ――カッコイイ~・・・・・奥さんなのにカッコイイ~。 頬をぽっと染めて見つめるドルドレン。カッコイイ奥さんに萌える。うん、これもイケる。かなり美味しい。この萌えもありっ(萎え回復)。



 萌える旦那(※未婚)を無視して、イーアンは谷のある場所へ近づくに連れて、笑みが深くなっていく。

 ほわほわ萌えるドルドレンは、ぎゅうぎゅうと胸が新たな恋で締め付けられて息が苦しい。


「見て下さい。この地上に走る線を。この線は道でもなければ、段差でもありません。そろそろ反対側にかかると分かるはずです」


 若干、素の声で低め。中性的な声が、萌える旦那の耳をくすぐる。


 まるで聞いてないドルドレンに気が付いたイーアンが『あら』と声を上げた。『もう見えています。ちゃんと見てますか』呆れたようにちょっと注意されてしまった。



 どこどこ、と誤魔化しながら、下を見る。見た途端にドルドレンは驚いた。


 本当に谷がある。谷というのか、大地に亀裂が。その隙間は非常に狭く、そして距離たる長さがない。谷を確認したドルドレンに、イーアンは谷の裂け目の続きを指差した。


「あれは」


 裂け目はすぐに終わっていたが、裂け目の端から直線に進んだ先には西の壁があった。イーアンにその話をしたことはなかったが、誰かに聞いていたのだろう。西の壁の穴が不気味に黒い点となって、自分たちを見ているようだった。


 イーアンは『ここも出口の一つとして、蘇ったかもしれません』と意味深なことを呟いた。古い地図にここが載っていた、と教えてくれた。谷は世界の地下に繋がるような描かれ方で、その時の谷は、もっと大きく長い距離だったようです・・・・・ イーアンは、本で見た絵を説明した。



「一度ここは閉じたのかもしれないです。それで長い歳月、誰の目に止まる場所でもありませんし、閉じたことがすっかり忘れ去られたのかもと思いました。


 イオライの岩山から魔物が飛んでくるのであれば、クローハルが話していたように、現場に近い住民が騒ぐでしょう。それがないのなら、もっと手前にいると考えた方が自然です。


 最初に確認した場所は、多分ですが、気流がぶつかるので飛びやすいのです。同じ条件を揃えているとすると、こうした場所しか思いつきませんでした。


 推測ですが。魔物(かれら)はこの二つの地点を行き来していると考えて、そこが動くのに楽な条件が揃っているのだろうと思って探しました。

 最初に見た場所も、この谷も。どちらも始発点になり、どちらも終着点になるのです。


 一旦着地すると、あの大きさと翼の作りでは・・・自分からどうにかして飛び立つのは難しい。そう、この前イオライの時も思いました」



 イーアンが説明を終えて、谷を見つめながら龍に『帰りましょう』と告げる。



「ドルドレン。ポドリックたちが探した魔物はここにいるかもしれません。イオライの時と同じか、少し違う種類でしょうけれど。夜でも出てこないのは、多分、私たちがここにいるからです」


『明日遠征に来るなら、私も同行させてもらえますか』振り返るイーアンに、ドルドレンは背鰭越しに抱きつく。背鰭付きなので奇妙な抱き締め方になっているが、気にしない。


「君は俺の守り神だ。一緒にここへ来てほしい」


 キスの出来る距離ではないので、微笑み合うだけ。続きは部屋でね、と言われて燃えるドルドレンだった。




お読み頂き有難うございます。


先ほど、ブックマークして下さった方。ポイントを入れて下さった方がいらっしゃることに気が付きました!とても嬉しいです!!本当に有難うございます!!

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