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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
185/2942

185. ザッカリアの歓迎会

 

 夕方までの時間があっという間に感じた一日。


 昼食に迎えに来たドルドレンに、食事をしながら午前中の話をした。クローハルの名前で嫌そうな顔をしたが、話しの内容を聞いて幾らか理解していた。『一応、ジゴロも使えるな』変な誉めかたをして頷いていた。


 ドルドレンは執務室から午後は解放されて、合同演習に出るという。料理担当の騎士を除いて(※歓迎会のご馳走を作る人)全員参加だから、ザッカリアも稽古をつけてあげよう、と話した。

 案の定。イーアンの嬉しそうなはじける笑顔を見ることができたので、掴みは良いと満足した。夜も楽しみだ。



 昼食を早めに済ませて、本を一度読んでほしいと頼まれたドルドレンは、一緒に工房へ行き、示されたページに書かれた文を読んで聞かせた。気になる箇所を、イーアンが急いで紙に書いた。


 作りかけの贈り物を見て、よく絵だけでこんな物が作れるな、とドルドレンは驚いた。 ――さすが愛妻。今夜はたっぷり時間をかけて良い子良い子してあげねば。



 ふふっふっふっふ・・・小さなやらしい笑い声を立てるドルドレン(←頭の中が最近こればっか)に、イーアンは少し眉根を寄せつつ、お礼を言って廊下へ出した。ドルドレンは少しその仕打ちに寂しかったが、とにかく演習で良い所を周囲にも見せておこうと、張り切って午後の仕事に出て行った。



 ドルドレンに読んでもらえて、欲しかった情報があったので助かったイーアン。せっせと作る。勘が働く間は休憩はしない。2つ・・・・・ 一つは自室用。もう一つは携帯用に。役割が違う贈り物が2個あっても良いでしょう。



「上手く出来るといいけど。それに、何よりあの子が()()を使えれば良いけれど」


 午後にはさすがに誰かのノックも聞こえた。でも『気がした』ことにする。今は誰も入れないと決めた。夕方までには完成させないといけないのだもの。イーアンはとにかく全力で、迎えが来る時間まで作り続けた。


 夕方5時過ぎ。ようやく、気がつけば仕上がっている贈り物に気がついた。


 いつもこう。夢中になると、いつ出来上がっているのか分かっていない自分がいる。もっと先へもっと上手くできる、そう思いながらひたすら時間を動き続ける。でも、ちょっと時間を取って離れて見てみれば。すでに作品が仕上がっていたことは数え切れない。



「終わった」



 机によいしょと座る。椅子の高さではなく、机の上に座って足をぶらっとさせたかった。足が痛い。

 顔をぐっと手で擦って、下を向け続けた首を上に上げて回す。肩も痛い。あー。年だわ・・・・・いたたたっ でも良いの。出来たから・・・・・



 本の絵とほとんど同じような作り。一つを手に持って触る。高い音、中間の音、低い音。押さえる場所で音が変化する。

 もう一つは光に当てて、よく擦って、よく擦って、よく擦って。綺麗に映る。よし・・・・・


 紐を編む時間があるだろうか。ギリギリまでやろう、と決めて、色の綺麗な革を細く薄く切り、一気に編んでしまう。編み終わってから、骨に穴を開けてきちんと角とバリを削ったビーズを2つ作って紐に通す。


 これでスライドが出来るから、自分の良い長さに合わせて首から下げられる。



 工具を片付けていると、扉をノックされた。


 開けると『お疲れ様』とドルドレンの優しい微笑が注がれる。ああ・・・ホッとしたイーアンは、ドルドレンの体に腕を回して抱きつく。ドルドレンがちゃんと抱き返して『大丈夫か』と笑顔で訊いてくれるのが嬉しかった。


「風呂に。先に入ろう。俺かイーアン、どちらが先になるかはあの子次第だが」


 イーアンはドルドレンを見上げてニッコリ笑う。『一緒に入れたら良いのに』そう囁いた。ドルドレンが目を丸くしてイーアンを見つめた。


「一緒に?」


「そうです。ドルドレンとも、ザッカリアとも」


 ザッカリアは要らないんじゃない?と思いつつ。自分と一緒に入りたい、その一言にクラつく黒髪の美丈夫。赤くなりつつ、悩ましげに萌えつつ、目を閉じながら『是非』本能丸出しの返事を返した。

 イーアンは返事を拾わないで、とにかく贈り物を紹介する。



「出来たのです。ドルドレンが大事なことを教えてくれましたから、間違えないで済みました。後はこれを包みます」


 イーアンが指し示した机の上に、目を見張る。『大したもんだ』ドルドレンは笑った。頑張ったイーアンにキスをして、『絶対喜ぶ』と保証した。


 贈り物を一つの包みにまとめて、赤い毛皮を細く切り取り、赤と黒の毛の混ざった紐できちんと結わえた。それからイーアンとドルドレンは風呂へ向かい、ギアッチたちが来ていなかったので、確認してからイーアンが先に風呂に入った。


 イーアンが風呂に入っている最中にギアッチとザッカリアが来たので、イーアンが出てきてから交代でドルドレンとザッカリアが入った。



「今日はね。総長はすごい張り切ってザッカリアを指導したんですよ」


 嬉しそうなギアッチが、ドルドレンがザッカリアに、受け方を教えてから剣を持たせた話を、興奮気味に説明してくれた。


「私は勉強を担当しますけど、彼は父親たるすごい魅力を持っていますから、強い父親像にぴったりです」


 茶色い賢そうな目を細めて笑うギアッチに、イーアンは『あなたは本当に良い指導者です』と誉めた。ギアッチは『いえいえ。伸びる人がいるからこその仕事』と遠慮がちに笑った。



 ドルドレンとザッカリアが風呂から上がって、ギアッチはどうするかを訊くと『私は後で』と返事したので、4人は広間へ向かった。向かう間に、ギアッチはイーアンの服を誉めていた。服が良いのですから、とイーアンも慣れた返事をして笑った。


「イーアンはいつも綺麗な服を着てるの」


 ザッカリアはイーアンの横を歩く。『ドルドレンが買ってくれて。でも遠征の時は皆と同じ服ですよ』イーアンが答えると、大きな透き通ったレモン色の瞳がイーアンを見つめて『ずっと綺麗な服でいて』と頼んだ。


 ああ、可愛い!!!イーアンはつい、ザッカリアの高さに屈んで抱き締めた。『何て可愛いの』と笑顔で言うと、ザッカリアは赤くなって『離して』ともがいた。あれ?反応が嫌がられてる・・・・・


 手を解くと、ザッカリアはギアッチの後ろに、ささっと隠れてしまった。


 イーアンが謝っても、笑顔でおいでおいでしても、ザッカリアはちらちら見ながら顔を真っ赤にして、ギアッチの後ろから出てこなかった。


 戸惑う一生懸命なイーアンを、ギアッチもドルドレンも気の毒そうに見つめているだけだった。




 広間に着くと、既にたくさんの騎士たちが座っていた。机にはいつもと違うご馳走が並び、まるで遠征の慰労会のようだった。


 一緒に座ろうとイーアンがザッカリアを見ると、なぜか距離を置かれていた。ギアッチとドルドレンの間に座っている。イーアンは少し寂しかったが、ドルドレンの横で我慢(?)した。イーアンの横は別の隊の騎士で、会釈だけで挨拶終了。それはとにかく。



「どうしてなのかしら」


 寂しくて呟くイーアン。ドルドレンはイーアンの顔を覗き込んで『彼は照れている』と聞こえないくらいの声で伝えた。照れたって良いけど避けなくても・・・・・ イーアンはしょげた。


「お母さん役で頑張ったのに」


 ちょっと唇を突き出してふてってる。可愛いなぁ、とドルドレンは微笑ましくなるが、本人がふてってる最中なので咳払いをして見守ることにした。ザッカリアは目の前のご馳走に気を取られている。


 ポドリックたちは先ほど帰ってきて、後で報告会議をすることにして席に着かせた。



 全員がいることを確認してから、ドルドレンが立ち上がり挨拶をする。場は一瞬、水を打ったように静まった。


「今日もご苦労だった。今日は、昨日に見習いで入ったザッカリア・ハドロウの歓迎会だ。彼はまだ小さいので諸君らが家族として世話を焼き、一人前の騎士に育てるように。新しい仲間を与えられたメーデ神に感謝して。それでは好きなだけ食べて、好きなだけ飲め」


 ドルドレンの無骨な挨拶に、騎士全員から『おう』と返事が返った。


 返事の後は、賑やかに変わり、騎士たちがご馳走に楽しく盛り上がった。ザッカリアにも、とドルドレンやギアッチが皿に料理を取り分ける。


「好きなだけ食べるが良い」


 ドルドレンが小さなザッカリアに微笑むと、ザッカリアは嬉しそうに灰色の瞳に笑いかけて頷いた。


 その様子を伺うイーアンが寂しそうに、自分の皿に料理を乗せる。少し食べてから、贈り物をあげよう・・・イーアンは暫くは食べることに専念することにした。


 食べ始めてすぐにヘイズが来た。イーアンの後ろから『腕に()りかけましたよ』・・・一杯食べて下さいね、とニッコリ笑って肩を叩いた。


 ヘイズの料理、と思うと美味しいのは当然。

 味わって食材を思いながら食べよう。イーアンは一口ずつ味わって、どれもが美味し過ぎることにより、ちょっとずつふてりが直る。

 そしてちょっとずつ、ヤバイ癖も出る。癖が出始める辺りで、クローハルが来て『イーアン、どうだ?』と両肩に手を置いて顔を覗き込まれた。我に返るイーアン。


 銀色の瞳をかっと見開いたドルドレンが、ジゴロの手を(はた)く。


「触らないで喋れないのか。この女垂(おんなた)らし」


 クローハルは、けっと吐き捨て、すぐに顔つきが戻る。

『上手く出来たかい』良かったら、俺にも見せてもらえないか?と言われ、それもそうだと思ったイーアンは『今、取ってきます』の言葉と共に立ち上がって工房へ行った。


「お前のせいでイーアンが行ってしまった」 「戻ってくるだろ。根性なし」


 クローハルとドルドレンが言い合う醜い姿を見せまいと、ギアッチは一生懸命、ザッカリアに『美味しいね。もっと食べるんですよ』と喋りかけては食事の味を教えていた。



 イーアンはすぐに戻ってきた。何人かの騎士が後ろについていたが、席近くになって、総長とクローハルがいるのを見ると散っていった。

 よくあることのようで、イーアンは笑顔を崩さず、包みを大切そうに抱えて席に座る。


 ドルドレンが微笑んで、ちょっと首を横のザッカリアに向けて促がした。クローハルはとっくに、イーアンの横の席の騎士をどかして座り、机に片肘を着いて、面白そうに見ている。


 ギアッチが気がついて、『ザッカリア』と小さな声で呼びかけると、ザッカリアは一度ギアッチを見てから、指差されたイーアンを見た。イーアンは遠慮がちに微笑んで(また嫌われるのを怖れ)、そっと両手で包みを差し出した。少し恥ずかしそうに目を伏せる。



「これね。お祝いに作ったの」


 イーアンの言葉と贈り物に、クローハルが疑似体験して机に突っ伏した。『俺じゃないなんて』何か苦しんでいるが誰も気にしない。ドルドレンも頭が揺れる。『俺でもない』よく分からない苦しみに顔を歪め、受難を受けている。


 ドルドレンの前を通過して、贈り物はザッカリアに渡された。ザッカリアは口を開けて驚いたまま、差し出された包みを小さな手で受け取る。



「開けて」


 囁くようにイーアンがお願いする。周囲で『開けたい』と声が響くが聞こえない。


 ザッカリアはイーアンの鳶色の瞳をちらっと見てから、机に包みを置いて、ギアッチに確認を取って毛皮の紐を引いた。


「あっ」


 包みの中には、30cmくらいの板に弦が張られた楽器と、ペンダントが入っていた。


 楽器には何本もの弦が張られて、台は白い湾曲した板で虹色の不思議な輝きを持っていた。ペンダントはやけに光を跳ね返す。金属を鏡面に磨いた鏡だった。5cmほどの楕円型で、周囲を複雑な革紐の編みこみ模様が包んでいた。細く長く編まれた艶やかな革の吊り下げ紐は、それだけでも飾りのようだった。


 ザッカリアは、初めて見る、不思議な楽器と美しいペンダントに目を丸くして、そっと指でなぞった。



「あのね。楽器。私は使えないから、楽器を弾ける人を早く探します。見つかったら習ってみましょうね。この楽器、本当は貝殻で作るみたいなのだけど、持っていないから違う素材を使いました。それでペンダントはね」


 イーアンはそっとペンダントを手に取って、ザッカリアが怖がらないようにちょっとずつ近づいて、首にかけた。


「これは割れません。この鏡はね。イオライという場所の剣の金属で作りました。紐もとても強いから切れません。ザッカリアは本当に綺麗な目をしているから、いつでも自分をよく見てね」



 そう言うとイーアンは微笑んで、椅子にまた座った。ギアッチが目を細めて『良かったね』とザッカリアの肩に手を乗せた。

 クローハルは後ろで満足そうに、ザッカリアの受け取った贈り物を眺めていた。


「さすが」


「いいえ。シンリグのおかげです」


 イーアンが少し振り向いてお礼を言う。名を呼ばれたクローハルは、味わうように目を閉じ、笑顔を浮かべて頷いた。


 ドルドレンが反応した。『今、コイツを名前で』なんてことを、と目をむいてイーアンを詰める。イーアンは『教えてくれたのは彼ですから。せめて名前を呼んでお礼を』とドルドレンを宥めた。



 歓迎会はその後も楽しく続いて、ザッカリアの元にも何人も騎士が来て、いろいろと話しかけていた。ザッカリアほど肌の色が濃い人がいなかったので、出身地をよく訊ねられたが、ザッカリアも特に分からなかった。

 素敵な肌の色で、とてもきれいな目の色とイーアンが誉めた。ザッカリアも、イーアンの顔が好きだと伝えた。


 会話はドルドレン越しに行なわれたので、終始ドルドレンは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


暫くすると、ポドリックが『報告だけ済まそう』と言いに来て、ドルドレンたちは会議室へ一旦向かった。イーアンは先に部屋に戻るように言われたので廊下まで一緒に行き、その後は階段を上がって部屋へ行った。




お読み頂き有難うございます。

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