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魔物資源活用機構  作者: Ichen
龍と王と新たな出会い
160/2944

160. 風呂事件真相

 

 弟の部屋で酒を飲む、ベル。


 今日はやんわり説教をしに来た。どこまで通じるのか、どこまで弟の理解が得られるのか。だが、この前の『お前出てけ』状態の弟ハイルに、呆れて放っておいた自分に責任がある。



「お前は何で彼女に近づくの」


「んなこと言いに来たのかよ」



 もーーーーー・・・・・・・・ どう言えば良いんだろ。昨日演習後に風呂に行ったら、ドルドレンが喚いていたから、聞き耳立ててりゃハルテッドがイーアンと風呂にいたとか何とか。もう、聞いた時はひっそり逃げたけど。ホントにやめてくれよ・・・・・



「お前ね。分かってないだろう、自分の立場」


「なんだよ。説教?」


「これが説教以外の何に聞こえんの。何でイーアンのいる時間に風呂なんだよ」


 ハイルは『バカ』と溜息をついて頭を大袈裟に振る。


「知らねぇって。イーアンがいつ風呂入るのかとか、そんなの知ってるほうがヤバイんじゃないの」


「イーアンは女だから、男が入る前に風呂入るんだよ。入隊した時、ここで言われたろ」


「だから知らねーって。早めに入っときゃ風呂汚くねーって思ったから入ったんだよ。そしたら誰か入ってきて、あー何だよ、やだなーって思ってたら、イーアンだったんだよ」


「 ・・・・・ホントに知らなかったのか」


 うぜえ、とハイルが酒をがぶ飲みした。イラつく目で兄を見据える。


「知っててやるか。これでも気ィ使ってんのにムカつく言い方すんじゃねぇよ」


 ベルは『う~ん』と唸る。多分、本当にそういうつもりなかったんだな。弟はもしかして、ちょびっと純愛っぽくなってるかもしれない。だがドルドレンに見られたのは非常にマズイ。そこどうすんべ。


 黙る兄に、けっと吐き捨て、酒を注ぐ(一応、兄にも注ぐ)。



「イーアンが入ってくるなんて思わなかったよ。あんまり男らしくないから、もしかしてと思って名前呼んだら当たったんだよ。そしたら怖がって丸くなっちゃったから、これじゃ風呂入んねぇな、と思って」


「で、抱え上げて風呂に落としたと」


「落としてねぇ。ちゃんとそっと置いた。抱えたけど、見てねーし他は触んなかった」



 コイツにしたら実に真面目。ベルはちょっと感心して見直す。ふむ、これまでなら悪さはしなくても、(こじ)れるくらいにフザケてる。それを一切しなかったという・・・・・



「あのな。もし本当に狙って行ってるなら、その場で何かしてるって。相手、裸で、こっちも裸だろ。んでドルが気がついてないわけだ。イーアンは大声で叫ばないし」


「それ。何で叫ばなかったんだろな」


「イーアンはそんなことしない。本当にうっかり入ったんだろ。それで俺がいるのはわざとじゃない、って思ってくれたから、俺が不利になるようなことしなかったんだ」



 それって都合良い解釈じゃないの?と一瞬ベルは思ったが。でも一理ある。彼女は状況判断が早いと評判だ。だから戦闘でも常にいろんな案を出す、と。

 弟が入ってる風呂に、うっかり入ったのは確かだろうから、弟が自分に危害を加えないなら、わざわざ無駄に叫んで人のせいにする感じ ――あの人、しないな。



「疑ってんのかよ。イーアンは分かってたんだ。叫んだり喚いたら、俺が全部悪くなること。ドルが外で待機してるから、間違いなく俺が悪者になるだろ」


「そうだな。そのドルドレンな。お前知ってるか分かんないけど」


「何」


「今日な。ようは昨日の今日って意味な? イーアンと仲違いしてたらしいっぽい。イーアンが泣きながら朝っぱら外に出て龍呼んで遠征に一人で」


「泣いた?イーアンが?何で」


「さー。門番の担当のやつが言ってただけだから。


 いつもならドルドレンがいるだろ。いつも引っ付いてるから。前の日も夕方、煩かったじゃん。やれ、イーアン探せとか、まだ帰ってこねーとか。ギャーギャー言ってさ。


 そんなドルが、次の日に遠征に出るイーアンを放っておくか?でも放っておいたんだよな、これが。


 まだ日が昇る前、イーアンが一人で遠征に向かう感じでな。遠目から見ても泣いてて、龍が来たら龍に抱きついてたってさ」


「ドルが怒ったの?俺と風呂入ってたかもって?」


「知らねーな。門番のやつはただ『イーアンとケンカしたんじゃないか』って言ってたけど」


「今は?まだケンカしてんのかな」


「分かんないけど。仲直りしてるかもしれないし。でもとりあえず、風呂でしょ。その『イーアンの涙』事件」


「何だ、それ。バカあいつ? 何でイーアンがそんなふうに見えんの?好きなのに」


「ドルは真面目だから、何か許せなかったんじゃないの?もしそうならだけど」



 ハイルはもの凄く嫌そうな顔をして、あいつ意味わかんねー、とこぼした。舌打ちして『何だよ、俺かよ』と苛立っていた。



「で、お前まで俺がイーアン狙ってた、って思ったわけか」



『違います』と。一応、言うベルだった。


 思いっきりそう思っていたけど、言ったら本当に弟に嫌われかねないから、ギリギリで理解できてよかったーと胸をなで下ろす。あっぶねー。



「俺、ドルに言いに行った方が良いのかな。イーアンいじめんな、って」


「え。それはどうなんだろ。難しいな。もし仲直りしてたらヤブヘビじゃんね」



 クズネツォワ兄弟は揃って頭を抱える。


 イーアンはただ単に、遠征から帰って疲れて風呂入っただけで、男と出くわして、それでドルドレンに嫌われかけた。


 んで、次の日に泣く泣く一人で遠征・・・・・



「可哀相じゃん」


「誰のせいでもないよな」



 結果。ドルドレンが悪いことになる。兄弟はそれで納得。泣かせて、一人で遠征行かせるって。


 次にドルドレンに会ったら、二人で頭ごなしに『このバカ』と叱ることにした。正しいことをするのだから、仕事に影響はない、と決定(?)。



 ドルドレンの知らないところで、バカ扱いされている夜。



お読み頂き有難うございます。

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