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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1596/2965

1596. 別行動:フォラヴ帰路・地霊の役目・同時存在の危険

☆前回までの流れ

別行動中のフォラヴ。銀の城で、アレハミィの娘・ピュディリタに、兄センの話と、旅路に現れるセンダラについて話を聞き、続く話を女王にも聞くことが出来ました。

今回は、フォラヴの帰りから始まり、他で動く者たちの旅路に関わる話・・・

 

 銀の城に架かる橋を渡り切ったところで、妖精の騎士は振り返る。自分がいた『呼び声の書』の部屋に、ピュディリタの姿が見えた。


 彼女は窓を開けてこちらを見ており、フォラヴは手を振る。彼女も手を振り返し、フォラヴは微笑んでそこを後にした。



「まだ。何の気配も感じていない。でも急ぎましょう・・・イーアンも待っています」


 私が動くことを許可したのは、イーアン。彼女は総長に気遣って、肩身が狭い思いをしているかも。そう思うと、フォラヴは苦笑いして『無理を言ってしまった』と可笑しそうに首を傾げる。


「以前も・・・この前は、オーリンが行かせて下さった。()()()前向き(※でもないけど)」


 次も龍族に相談しよう・・・(※許可の時)微笑み零れる、機嫌の良い騎士は、草むらの柔らかな感触や木々の木漏れ日も楽しむ余裕がある。


 戻る道の足取りは軽く、妖精の女王から得た情報を、早く皆に伝えたい。


 ピュディリタと話した内容も大きかったが、女王が更に説明をした話は、旅の皆にも教えて良いと言われたことで、フォラヴの心の重荷は減った。個人的に気にしてしまう問題は、減るどころか追われるように増えるけれど。


「センのことも、センダラのことも。アレハミィ・・・彼のことも。私自身の気持ちに関わるだけ。

 今、一番必要なことは、旅路で皆が使える情報。あの『煙』に関して、伝えることが出来るのは、とても大きな収穫」


 うん、と力強く頷いて、大樹の森に入ったフォラヴは、家のようにどっしりと立つ木の前で、背景になった城を振り向くと、女王とピュディリタに感謝の礼をして、メキメキと開く幹の内側へ進んだ。




 *****




 ショショウィの、その後――


 旅の仲間でも同行者でもない、ただ、タンクラッドに呼び出される(※理由=可愛いから)だけの地霊もまた、渦を拡大する運命の輪にいる。その役目は小さくても、大きな影響を担う。



 ――『私もいる。安心して良いよ』


 あの夜、白いネコの背を撫でたノクワボは、そう言って、優しくショショウィを外へ出した。


 ノクワボに相談した夜。精霊を呼び出して聞いてみたところ、ノクワボは理解したようだった。


 ショショウィは精霊に話を聞いて、『よく分からないこと』と『分かること』があったけれど、精霊が消えた後にノクワボに『大丈夫』の確認を貰ったことで、やっと安心出来た。


『怖いない。タンクラッドも言ってた。大丈夫。なの?(※だと思う、の範囲)』


 白い毛を舐めて、毛づくろいしたショショウィは、岩棚に寝そべり頭を起こして、明るい月を見上げ、キラキラ光る精霊のことを思う。精霊は()()の事・・・・・


()()。ショショウィじゃないとダメ、言う。()()、悪いないって精霊教えてくれた』


 ショショウィに分かるのはそこまで・・・赤い布が出て来て、ショショウィに『力を()()()よう』に言う。何度も来るから、気になっていた。誰と話すわけじゃない。


 獅子は前、布と喋るために、ショショウィに『力をくれるよう』に言っていた。今じゃ獅子は来なくて、布だけ来て、動物の力を貰う。ショショウィの分と、布の分。


『でも。ショショウィも悪いじゃない。大丈夫。大丈夫・・・(※微妙に不安は残る)』



 精霊は言っていた。ノクワボが簡単に教えてくれた。

 赤い布は気にしないで良い、って。ショショウィは、ショショウィ。だから平気、って。


 怖いことはないんだって教えてくれた。ショショウィの首に、タンクラッドが付けてくれた小さい骨(※指輪)。


 精霊はそれを見て『お前と旅をつなぐ、()()。赤い布が()()()()()もの』温かい風が吹いて、ショショウィの長い毛が揺れ、首にある小さいのが光った。


『お前は無事だよ。お前はお前』


 砂の輝く精霊は、ショショウィの頭を撫でる真似をした。精霊の種類が大き過ぎて、触るとショショウィが大変だから、触らない・・・と言っていた。



 白いネコは月を見上げて、岩棚にバタッと寝そべる。ノクワボも、何も問題ない。これからも同じ・・・布が来たら、力を渡すだけ。


 最近、タンクラッドが呼ばないな、と思う。寂しいけれど、魔物がいる時は呼ばないからかな、と考える。

 次にタンクラッドに呼ばれたら、この話をしよう、とショショウィは決めて、静かな夜風の中で月を見続けた。




 永遠に途切れない水の溢れる墳墓の池で、ノクワボも思い出す。

 かつて、自分が人々のために願った頃を。結果は現在の状態で、未来にも続く罰を背負った。


『ショショウィはそうではない。良かった』


 緑の目をした龍の頭を持つ、地霊の類・サドゥ。ノクワボはサドゥという種類の地霊で、人々への哀れみが過ぎた悲劇の対象・・・と、『昔のこと。ここに刻まれたが、今や誰が知ることもない』呟きも胸の内で収める。


『蘇ることは出来ないにしても。魂の境界線を越えて、数百年の歳月を跨いだとは。大した人間だ』


 精霊に話を聞いた男のことを、ふと思い出し、ノクワボは少し笑う。何て生意気な、と思うふてぶてしい魂。可笑しくて笑ってしまうが、彼はそれを赦されるほどの存在なのか、と思い直すと、それもまた。


『その為に、ショショウィか。フフフ・・・どこから何が飛び出すやら』


 ショショウィの首に付けられた飾りも、聞けばどうやら、その男が生きていた人生で得たものだったとか。人間と小精霊を繋ぐような道具で・・・・・


『前の旅の頃。ここを訪れた者に、女龍と、時の剣を持つ男と・・・もう一人いたが。もしや、()()()とは、あの男の?

 精霊に、どこの誰とは聞いていないが、旅路と、赤で思い出した印象はそれ。

 あの男の魂なら、ふむ。これは思い及ばん。魂で手出しをする理由があるにしても、精霊の目を潜り抜けている気でいるのか。

 それとも―― やめておこう。私には何ともない話だ』



 ノクワボは、月夜の光に、宝石のように散る飛沫を見つめて思う。


 自分の役目はなさそうだが、ショショウィを支えてやることは出来そう。そうして手伝うことが、ささやかな自分の立場なのかと。


『散る光の、一つ。私も世界の運命(そこ)に在る』


 ノクワボの声は、水を一層輝かせる。龍頭の体が羽織る、重なる鮮やかな着物は、丁寧な刺繍を星のように瞬かせて、()()()()()()()の精霊を包み慰める夜。




 *****




 別行動中のシャンガマックは、今日も、水の精霊・ファニバスクワンに指導を受けて学ぶ。


 最近。ヨーマイテスは毎日付き添うわけではなく、用事があると息子を預けて(※息子34才)一人で行動する時間がある。それは今日もだった。



 夕方まで過ごした場所で、ヨーマイテスはその場を見渡し、それから表へ出る。

 時間なんてものは、考えたこともなかったが、『睡眠』さえ得たこの体に、どうも『時間』を無意識に捉える機能が備わったようで(←体感時間)地上に出たら、丁度良い夕焼け空。


 狭間空間は、俺の領域――


 それは変わらないんだな、と獅子は思う。自分だけが行き来し、他の誰も入れない。自分は、サブパメントゥに絡む(しがらみ)を放り投げたような話だったが、それとこれは関係ないのか。


「いずれにしろ。まぁ、都合は良い」


 集めた宝はそのまんま。それだけでも大事だと思った。老バニザットの手に入らない宝が、狭間空間(ここ)にある。


老バニザット(あいつ)が動き出したこと。ミレイオと接触した時点で、直に集めているんだろう。恐らく、ショショウィも使われている。()()()()()、魔力は弱いもんな。

 俺がこれまでに収集した宝には、手が出せない・・・老バニザット(あいつ)の手に渡ったら、何に使うか。精霊と交わした俺の誓いを、()()()()()()()


 冗談じゃない、と嫌そうに顔をしかめ、獅子は(たてがみ)を振るう。嫌な予想はしたくないが、しておくに限る相手。厄介極まりない、かつての仲間がどう出るか。


 ヨーマイテスは度々、狭間空間を訪れては、宝の状態などを調べて問題ないか確認する。そしてこの間も、その厄介な相手のために『気になっていること』が脳裏に過っていた。



 夜が来る前、水際で待つ獅子の前に、バシャンと噴水が上がる。

 慣れたもので、気付くと同時に獅子は跳躍し、毎回のように『うわ』と叫ぶ、降ってくる息子を背に乗せ、土の上に連れて行く。


「ごめん。毎度毎度」


 済まなそうに笑う息子の服を乾かしてやり、獅子は『いつものことだ』と大したことなさそうに答えると、早速食事にする。息子の今日の話を聞きながら、丘を上がって寝床にしている場所で、魚を焼く。


「ヨーマイテスが持つ能力、あるだろう?」


「何だ、いきなり。そんな話も出たのか」


 うん、と頷いて、褐色の騎士は切り身の魚(※父が魚を身だけにしてくれる)を引っ張り寄せ、獅子の口に一つ入れる。自分も食べて、空っ腹に魚を押し込んでから『あのね』と話し出した。


「この前の、千里眼。俺はほら。俺の範囲しか見られないが、ヨーマイテスはどこでも・・・何でも見られるよね」


「そうだな。そう言った。お前の千里眼に、何か役立つのか」


「ううん、そっちじゃないんだ。俺はヨーマイテスの能力について、多分、全部は知らないだろう。

 これまで見たどの能力も、実に凄まじいと感じるが・・・だけど中でも、()()()印象的な能力がある。それがね」


 唐突に褒められて、獅子はじーっと続きを待つ(※嬉)。が。息子は次から次に魚を食べ『ごめん。今日は、やけに腹が減っちゃて』と、イイトコロまで話しておいて、食欲に負けている様子。



 待つには待つが(※待つのキライ)ヨーマイテスはうずうずして、息子がくれようとする魚を息子の口に押し込むと、さっさと背中に乗せて風呂へ直行。


 背中で『ちょっと待ってくれ』『まだ食べ終わってないよ』と喚いている息子を無視し、湯気立つ露天風呂到着。

 獅子の行動が理解出来るシャンガマックは、笑いながら服を脱ぎ、まだモグモグしながら熱い湯に浸かった。


「ヨーマイテスも」


「言われなくても入る」


 獅子はジャブっと入り、それから少し考えて。口を動かしている息子を見つめ、人の姿に変わり始める。


「?」


 モグッ、として止まるシャンガマック。父はなぜか、獅子の姿から人に変わって・・・ごくっと魚を飲み込み、不自然さを言い難いけれど指摘。


「耳。あと、それは尻尾じゃないのか。ヨーマイテス」


()()()好きだろ」


 アハハと笑ったシャンガマックは、自分のためにそうしてくれたのか!と頷いて、『分かった。話すよ』と、話の続きを、態度で促す父に(※愛想のつもりと知る)了解した。



 父の長い髪と、尻尾を洗いながら、シャンガマックは精霊と、『今日は何を話したか』詳しく伝える。


 最初こそ、ヨーマイテスの能力の素晴らしさや、特別で想像を超えた威力に対し、息子は熱っぽく、憧れも含めた口調と表情で語るように話すので、ヨーマイテスも気分良く、息子に褒められて尊敬を受け・・・に浸っていた(※愛想を使った甲斐があった)のだが。


 途中から、不穏な言葉が聞こえ、ヨーマイテスの眉が寄る。だが、口を挟まずに最後まで聞くだけ聞いた後――



「それで全部か」


「そう。ファニバスクワンが」


「俺の・・・『異界移動』を」


 精霊が話していたんだよ、と答える騎士に、ヨーマイテスは彼を見つめ『お前はどう思う』と尋ねる。


「うーん。俺が思うに?そうだな、俺は、使()()()()があるような気がするんだ。これはただの、俺の勘だけど」


「話せ。お前の気持ちが知りたい」


「そうだね。言っておくか。あのね、俺の部族の話だよ。子供の頃に聞いた口承で、覚えていたんだ」


 シャンガマックも一人、分からないなりに考えていたこと。

 洗う手を休めず、淡々とヨーマイテスに打ち明ける。ヨーマイテスは黙って聞き、それから『俺も気がかりではあった』・・・その対処に悩む、と答えた。


 意外そうな目を向ける息子の頭を撫でて『万が一、な』と、前置きする。



「過去のバニザット。そして、お前。万が一、『同じような質で、同時に同じ場所に存在』した場合。

 お前の部族に残る、口承の警告は、(あなが)ち間違いでもない。俺はそれが心配だった。お前に何が起こるか」

お読み頂き有難うございます。

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