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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1588/2965

1588. 旅の百五十日目 ~無言の後ろめたさ・連動の有無

☆前回までの流れ

別行動中の二人は、仲間が得体の知れない敵と戦ったことを知りましたが、自分たちの成長と併せて今回は静観。離れた場所では、『老バニザット』に力を与え続ける、ショショウィの悩みが。

今回は場面が旅路に戻り、口封じされた、総長とバイラの朝・・・

 

 前日の午後は、穏やかではない時間を過ごした、旅の一行だったが。一晩明けた朝になれば、それぞれ胸の内に、ある程度の(かた)が付く。()()()だけでも。


 朝食は、向かいの食事処で・・・と、宿に言われたが、出発優先で包んでもらい、馬車に乗り込んで、朝食を食べながら出発。



 ギールッフの職人たちも、日数を気にかける発言が増えているので、それに少し合わせるところもある。

 彼らの相談『今後も付き合いが続くように』 ――形は、まとまっていないにしても―― ()()()()()()()()を保てる何か。

 それは道々、考えながら移動する。切羽詰まれば(※分かれ道までの時間で)良い案も浮かぶだろう・・・と。



 昨日から留守のザッカリアは、それもあって、先に早めに空へ行きたかったのか。


 『煙の正体』情報は必須だから、出来る仕事はする(※情報収集)。自分の気持ちも大事(※職人たちと最後まで進む)。

 子供なりに考えて、()()()()()()()・・・なのかな、そう思うイーアン。


「男龍と、戻って来るかも」


 迎えに行こうかしらねぇと、空を見上げる。曇り空で、今日は雨が落ちてきそう。風も少し涼しさが増している。


 御者台に並んで座るドルドレンは『イーアンまで行ってしまったら困るよ』少ない人数に過敏に反応する。


 笑うイーアンは首を振って『呼ばれたら、です。行っても良いかなと』と、動くにしても数十分ですよ・・・と答えた。

 だがこの後。イーアンは『急いで戻りますから』の挨拶で出かける。理由は()()



「オーリンもいないのに。一人で大丈夫なのか」


 見送ったドルドレンは呟くが、声は小さめ。昨日から、体調の良くなさそうなバイラに気遣い、特に話しかけないでいる。


 前を進むバイラは、きっと聞こえている・・・いつもなら振り向くところが、額を何度か押さえ、俯くことを繰り返しているので、具合が悪いのだと思う。



 イーアンが急いだのは『()()()()()が』との一言から、どうやら精霊()に呼ばれたか、何かあったか、の用事。


 御者台で話していたら、突然、景色の一方を見つめ、呟いたと同時くらいで飛んで行ってしまったのだが。


 異様に見た目の良い精霊、と聞いているが、イーアン曰く『重要なお友達』の認識で、ついでに『ドルドレンも彼が好きだと思う(※複雑)』。


 そうした意識でいるから、イーアンは彼に会うことに全く躊躇せず、急に気配を察知したことで、さっさと行ってしまった。


「俺ももう、やきもちはないけれど。しかし、他の男(←精霊)の気配だとかで、話も中断して出かけられたら、妬いている云々ではなく、何かが引っかかるというものだ」


 ふむ、と小さな溜息をつき、少しドルドレンは考えた。自由で、どーんとした構えの奥さん・・・に。



 ――()()しても良かったのだろうか。



 おかしな希望を抱く。もし。もしも、イーアンが精霊ヴィメテカを連れて来るなり、俺が彼に会いに行くなり。

 もしも今、そうしたことが起こったら。


 昨日のあの・・・()()()()()()()()()()に、手を打てるだろうか――



 不安の時間は、ドルドレンを掴んだまま過ぎている。顔には出さないし、態度も変えないが、ドルドレンはずっと振り払えずにいる。


『相談は出来ない』そうした類と理解している―― 『他言はやめておけ』と言われた。仮に、口を滑らせたとしても、良からぬことが付いてくる、そう予告された気がした。


 でも。イーアンなら、もしかしたら、解決に手伝えるのでは。

 もしかして、ヴィメテカ(精霊)なら、昨日の相手の情報を教えてくれるのでは。


 イーアンは言っていた。『ヴィメテカは何でも、こちらが聞いていないことまで教えてくれる』と・・・一つを訊ねると、十の言葉が戻る印象。彼が俺にも、そうしてくれるなら。


 旅の一行に関係のない立場の、強い力を持つ精霊が、もし・・・『俺の言えない悩み』を感じ取って、『俺が何かを話す前』に質問をして、『俺が答える前』に全ての答えをくれたなら。


 その状況は、俺が他言したわけではない。俺が相談したわけでもない。それで、あの奇妙な条件を突きつけた相手の、()()()()()が分かれば――



 黒髪の騎士は、手綱を両手に持ちながら、一人考えこむ。


 町を出る道を辿りながら、徐々に民家の隙間が開き始め、壁の切れ間と、検問テントが見える距離で、バイラが何も言わずに馬を速める。


 気遣うバイラには『振り向かない』ことは珍しい行為。

 彼は後ろに一言も声をかけず、『ああ、もう門か』とでもいった具合に、顔を上げて馬を進め、先に行ってしまった。



「体調が優れないのだと・・・バイラはそう話していたが。()()()()()()抱えていそうな気がする。俺の勘は・・・当たる。

 イーアン。教えてくれ。どうしたら良いのか。君にも言えないで過ごした。誰にも言えず、今も悩む。

 バイラも、沈んでいるようだ。聖なる力に打ち明けられたら、どんなに気が楽だろう」


 出かけてから1時間ほど。まだ戻らないイーアンに、ドルドレンは訊ねる。


 彼女が横に座っていた時。その前の、朝食時。その前は、一緒に眠って。その前は、前日の夕食・・・遡って半日以上、言える機会はたくさんあったのに。だが、言うわけにいかない。


「一言でも喋れば、きっと。()()が起こるだろう。これ以上・・・勇者()のために、人を巻き込む迷惑は嫌だ」



 顔をぐっと擦り、黒髪の騎士はほんの数秒だけ、弱音を吐いた。その顔はとても寂し気で、悲しそう。


 同じように、前を進んだバイラも、先に検問の警護団員に挨拶し、前日に話を通してあったため、あっさりと通過した後。


「俺が皆の足を引っ張るわけにいかない」


 苦しい気持ちを吐き出しながら、眉を寄せて大きな溜息をつくと、のろのろした動作で振り返った。

 それは自然体で振り向いただけで、後ろを気にしたわけではない。そんなぼんやりした自分に、ふと気がつき『あ』と思わず声にしたバイラ。


「俺は!・・・総長たちの馬車を、待たないなんてっ」


 門の手前の検問で止まる馬車を目にし、バイラは急いで引き返す。

 総長たちは、お礼と今後の無事を言われていただけだったが、お互いの言葉を交わす時間で、少し馬車が止まっていた。


 バイラは戻って『すみません、うっかり』と謝る。

 総長は微笑み『挨拶だよ』と答え、団員たちも笑顔で見送ってくれるところだった。そして、通り過ぎて行く旅の馬車それぞれに、『心強い道具を有難う』『武器を作ってくれて助かります』と何度も礼を伝えていた。



「良かった。道具があること。それと、実際に使った人たちが多かったことで、少し安心が」


 バイラは後にした門を振り返り、総長に微笑んだ。ドルドレンも頷く。


「そうだな。緊張は続くだろうが、追い払えるだけでも違うのだろう。『まだ魔物は出る』と意識すると、もっと滞在してほしそうな話ではあったが」


 昨日、町長はそう話していたし、警護団の分団長も、『旅人の翌日出発(※この日)』に躊躇っていた。もう少し様子を見ては?と、やんわり止められもしたが、ドルドレンは丁寧に断り、『きっと大丈夫だろう』と答えている。


 理由―― 自分を迎え撃つための魔物の出没で、自分がいるための全体への攻撃とは、言えるはずもない。だが、それがほぼ確実では、と思う気持ちがゆえに、ドルドレンは『大丈夫』と伝えていた。



「滞在しなくても。()()()()()、大丈夫だろう」


「ええ。ええと、道具がありますから。魔物製品もあるし」


 ここで短い会話は途絶え、バイラは何となく落ち着かず、微笑んでから前へ馬を進めた。


 街道を進む馬車の前に、先導するバイラ。その様子は、いつもだって同じ光景なのだが、ドルドレンの目には、黒馬の背に揺れるバイラの後姿に、悩みを抱えた孤独を感じた。




 *****




 時間の曖昧に流れる、インクパーナ奇岩群の濃い影の中では、イーアンが精霊と並んで話していた。


 今は何時かな、と思いながらも、ヴィメテカの話は等閑(なおざり)に出来ない内容。呼ばれたと分かって、会いに来て。そして開口一番で耳に入った『連動』の一言。


 詳しく聞けば聞くほど、イーアンは『このまま、空に訊きに行った方が良いのか』と悩んだ。



 今も横で、ヴィメテカは時々、蹄に伝わる感触からか、顔を一定の方向へ傾けることを繰り返す。

 それを見ながら『どうですか』と訊ねることも、何度繰り返したやら。返事も同じで『まだだが』で切れる言葉。


「イーアン。時間が気になっているか」


「はい。今回出くわした変な煙(※言いようがない)、あれがまた来たら困ります。今、人数が足りなくて・・・ヴィメテカ、今感じる連動の気配は。また()()が動くと思いますか」


「分からない。だが、同じことが起こる可能性もある。地下を動く龍気の者が移動すればすぐ分かる。この前も」


「モドゥロバージェが来たのですね」


 そうだ、と頷いたヴィメテカ。彼の話だと――


 つい最近。イーアンが全く気がつかない場所で、連動が起こっていた。


 そして、何かしらが動き、連動を押さえつけていたような話。その期間が少しあり、龍もどきの地下を移動するモドゥロバージェが来て、続いて男龍が来た様子。


 驚いたイーアンは、男龍が何も言っていない、まずはそれに唖然とした。誰も一言も、そんな話をしていない。ここでまずは気になったが、もう一つ気になるのは、『誰か』の存在だった。


 龍族以外の誰が?と口にしかけて止められ、精霊は『()()したとは言っていない』と改めて教えた。『誰か』は、連動を遅らせたような具合で、特にそれ以上が生じていない、と言う。



 今も、余震のような傾向があるらしく、『連動』があからさまに分かるほどの動きはないにしても、その関係だと分かる乱れは空気を伝う。


 ヴィメテカが教えてくれた、次の連動予想地はテイワグナ沖、海。イーアンが知らないままだった連動は、ヨライデ山脈だった。



「すぐに起こるかどうか。俺に言えるわけもない。急に動くかもしれない。

 しかしまた。先ほども話したように、同じことが起こる場合もあるだろう。お前がそれを知っているかどうか、聞いておこうと思った」


「有難う、ヴィメテカ。知らなかったから、とても大切な話でした。呼んで下さって、助かりました」


「まだインクパーナから距離がないなら、また来ると良い」


「はい。そうします。一先ずは馬車に戻って・・・どうしよう。それからやっぱり、男龍に聞いてみます」


 精霊は微笑み、イーアンの役に立てたことを素直に喜んでいるようだった。時間の気になるイーアンは、ヴィメテカにも『何か感じ取ったら、呼んで下さい』とお願いし、馬車へ戻った。



 戻る道で、イーアンのざわめきは止まらず。


「あいつじゃないの。(私たち)の感じ取れるはずの龍気を遮った・・・としたら。()()()


 ミレイオを追いかけた夜に、空で立ち往生した、あの日。『奇妙な薄氷もどき』が空中を渡り、イーアンは、地上へ帰れなかったことを思い出していた(※1553話参照)。


「連動が起こって、龍気が分からないとは。ヨライデは遠いから、()()ったって、場所によっては、気がつきにくい地域の可能性もあるけれど。

 でも、男龍さえ気がつかないなんて。先に気がついたのが、モドゥロバージェ・・・この仔は、地下を移動するから、大量の龍気に移動しただけですよ」


 男龍が黙っていることも、気になって仕方ない。誰が対処しに行ったのか、とそれも頭の中でグルグルする。



「一応。ドルドレンに相談しましょう。何か、私たちの周囲が落ち着きません。魔物退治だけで、いっぱいだってのに~」


 何なのよ~・・・面倒臭いよ~と、分からず仕舞いの物事の動きに悩みながら、イーアンは見えて来た馬車の列へ降下した。

お読み頂き有難うございます。

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