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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1583/2965

1583. 夜~ 空で情報②・コルステイン相談と存在概念

☆前回までの流れ

『赤い煙』対処後。宿の夜で、ドルドレンはミレイオの行動に不穏があることを伝えました。ミレイオは戸惑い、身の振り方を考えて――。イーアンはその頃、空でファドゥに迎えに来てもらい、一緒に子供部屋へ。

今回は、イーアンが空の子供部屋に入った場面から始まります・・・

 

 夜の子供部屋。まだ夜とは言え、早い時間で、星も付きもあれば、龍族は光るため、子供部屋は特に明るい。



 ファドゥに連れられて入ると、すぐに大きな男龍の背中が正面にあった。振り向いたビルガメスは、見るなり冷たい眼差しを向けて『自分で飛ばない』と、なぜかイーアンを責める。それにはファドゥがすぐに答える。



「飛んでいたよ。ここに入るから、私が抱えただけ」


「それなら、まぁ良い。ほら、イーアン見てみろ。丁度良い。子供が頑張っている」


 何となくムスッとした女龍(※来てすぐ叱られた)は、無表情で頷き、ファドゥの腕から下ろしてもらうと、大きな龍の子供がピカピカっと光るのを見た。


「1階で?」


 いつもは2階ですね、と言う女龍の質問に、ファドゥは『ビルガメスが迎えに来たら、ここで始まった』と話す。

 どうやらビルガメスは、この仔が最近変化し始めたことで、ミューチェズと一緒に自宅に連れて戻っていたらしかった。今夜、迎えに来たところで・・・とした具合。



 ふぅん、と嬉しそうに笑顔を見せる女龍に、ビルガメスは我が子を見守りながら、『イーアン。何かあったな?』と訊ねる。何かしらないと、来やしない・・・ぼやくおじいちゃんに、イーアンは笑顔が戻る(※おじいちゃん面倒)。


「ありますよ。()()


「用件が無くても来い、と何度も言っているだろう」


「だって。今、一大事です」


「お前は女龍なんだから、もう少し」


「旅路が先ですよ。イヌァエル・テレン(ここ)は安泰ですが、地上は大変なんだから」


 得体のしれない赤い煙の話を早速伝え、イーアンは反応を見る。おじいちゃんの顔つきは変わらず、美しい横顔には、ある意味寂しくなるほど、全く影響を与えていない『赤い煙』の話題。


「ビルガメス。返事をしてやって」


 女龍を可哀相に思ったらしいファドゥに囁かれ、ビルガメスはちらと女龍を見る。見上げるイーアンの恨めしそうな顔にちょっと笑うと、片腕に乗るように言い、大きな太い腕に座らせた。



「そんな顔をするな」


「返事もしてくれません」


「子供が一生懸命だからだ。その煙とやら。俺は何も知ることがない。もしかすると、ニヌルタ辺りが知っているか。とは言え、どうでも良い存在は」


 いつも通りの分かり切った『他の種族・世界はどうでも良い』発言、イーアンは耳ダコ。うんうん、頷いて『じゃー。ニヌルタに聞く』と返した。



 そして、ビルガメスにぶつくさ言われながらも、イーアンはニヌルタ邸へ向かうことに決定。ファドゥとビルガメスに挨拶し、『子供のために明日も』と約束を交わして、外へ出た。


『呼んでおくからね』気を利かせてくれたファドゥに見送られ、空へ飛んだイーアンは間もなくして、ニヌルタの龍気を感じる。


「イーアン、何だ。俺の家に来る気か」


「夜ですものね」


 そうじゃない、呼んだから、と笑ったニヌルタは、『ティグラスと一緒にいた』と言い、これから自宅へ戻るようだった。



 ニヌルタの家への道すがら、イーアンは簡単に用事を話す。きちんと聞いてくれた男龍は、すぐに驚くことを教えてくれた。


「俺は知らない。だが、その話の内容だと、異世界だぞ」


「はい?異世界?魔族みたいに、でしょうか」


「お前もそうだろう(※異世界お取り寄せ女龍)。そんなに驚くことじゃない」


「ええまぁ。そう言われれば、そうですけれど。異次元とか異界とか、区別が尽きません。この場合は異世界?」


「そうだな。()()()()()区別がどういうもんか、その基準はどうでも良い(※何でも『どうでも良い』男龍)。

 ただ、『煙』と言っている、それ。煙ではないだろうな。塵屑のような集まりだ」


 ニヌルタは自宅に到着して、女龍の前を歩きながら教える。イーアンも後について中に入り『煙って、個体の微粒子(=呼び名は())とかじゃないの』と想像しつつ、細かいことは黙っていた(※これも『どうでも良い』と思う)。


 長椅子に座るよう勧められ、イーアンは腰掛ける。ファタファトが喜んで近寄って来て、イーアンは彼を抱っこ。『大きくなりました』と笑顔でちゅーっとしてやって、笑顔の赤ちゃんにもちゅーっとして貰う。


「結界がなくても外に出ないのですね」


「ファタファトは賢い。俺が待つように言えば、待つ」


 犬のようだ(※親の扱いが)と思うイーアンだが、そんなこと気にもしない赤ちゃん。ニコニコしているので、そうかそうか~と、おばあちゃん気分のイーアンは、良い子の赤ちゃんを愛でる。



「それでな。()()の集まりだが。異世界には屑しかない場所もある。それが、そのものとは限らない。ただ、そうした場所から連れて来られたかもな・・・また、あれは(←魔物の王)」


 しょうもなさそうに苦笑いを浮かべる男龍は、イーアンの横に座って背凭れに両腕を広げると、子供をかわいがる女龍の角をちょいと摘まんで『難しいのか』と訊ねる。


「難しいと言われますとね。私たち龍は、全然、問題ないです。問題は人間がやられること」


「そうだろうな。龍に手は出せない。サブパメントゥなら、どうにかなるんじゃないのか」


「はい?」


「似ているだろう、質が。操りが得意そうだ。それはサブパメントゥに戦わせろ。あの、何だ。あの小さいの(※シュンディーン)。あれはダメだ。そうした力じゃなさそうだから」


 適しているのはコルステインやその類だ、と知恵を授ける男龍。


 イーアンこれもまたビックリ。『サブパメントゥに任せる』なんて考えもしなかった。でも・・・言われてみれば、確かに。


 その表情を読み取るニヌルタは、女龍の角を撫でながら、静かに教える。


「お前たちの旅路。得意不得意あるだろう。空で一番の存在もいれば、サブパメントゥで一番の存在も携えた旅路で、何を悩むことがある。大体のことに対応できる」


「んまー・・・そんな過分なお褒めを頂いて」


「褒めてない。事実だ」


 あらー、んまー、と人間的に恐縮するイーアンに、ニヌルタは笑って『訊きに来る内容じゃない』と、もう少し考えるように、改めて言う。



「そうですね。うーむ。今回、私は反省。すぐにどうにかしないと、と焦ると、すぐにあなたたちに頼って」


「それは構わない。だが、その場で解決できる力が揃っている運命の旅であることは、常に意識していると良い。今日は戻るんだろ?その様子だと」


 床に置かれた、まるっとした包みを見た金色の瞳に、イーアンは、うん、と頷く。


「戻ると良い。明日、また来いと言われているだろうから、明日な。この時間に馬車に戻れば、コルステインがいるわけだから」


 そこから先は言わないニヌルタに、イーアンは頭を下げてお礼を言う。コルステインに相談してみる、と答えて、イーアンはニヌルタ邸を後にした。



 空へ上がってからオーリンを呼び、『帰ろう』と言うと、オーリンは珍しく『ちょっと。明日戻る』の返事。


 これについてイーアンは言及せず了解(※察しは付く)。ミンティンを呼んで、一人と一頭でテイワグナの空へ飛んだ。




 *****




 宿では、各自が就寝時間を迎える頃。イーアンは白い星として戻ってくる。


「イーアンだ。こんな光景も、もう見られないなぁ」


 自分たちの馬車の側、裏庭で話していたギールッフの職人は、夜空に輝く白い光を見つめて『名残惜しい』と風物詩のように表現する。


『早かったね』『お帰り』と迎えられて、イーアンは皆さんに挨拶し、ひょこひょこ馬車の裏に回る。コルステインの気配が、お庭。宿の部屋ではないのか、と思いつつ、ちょこっと覗くとそこに居た。



 じーっと見ているコルステインと目が合う一瞬。なぜか、宿ではなく馬車の間にベッドを出している親方も、寝そべっていた上体を起こして、女龍を見て『もう戻ったか』の一言。


「タンクラッド。今夜は部屋ではないのですか」


「宿屋が慌ただしいんだ。もうちょっと遅くなったら、中に入る。コルステインが人間を嫌がる」


 ああ、それで・・・イーアンは納得。お宿の人たちも今日は大変だったので、まだ建物の中を忙しなく動いている様子。


「どうした。ドルドレンは2階だぞ」


 立ちっぱなしで、何か考えているイーアンに、親方は2階を指差して教える。頷いたイーアンは、コルステインに『お話したいことがあります』と頭で呼びかけた。



「何だって言うんだ」


 親方は呆気なく追い出される(※『お前ちょっとあっち行け』と突かれる)。


 寝ようとしたのに、とぼやかれつつ、イーアンは親方を目を合わせないように『すみませんねぇ』と一応謝っておき、手招きする鉤爪のもとへそそくさ小走り。


『イーアン。空。行く。した?』


『はい。今、戻りました。コルステインに相談したいのです』


 ここへお座り・・・大きなコルステインが、ベッドの横に腰掛けるように微笑んで、イーアンはニッコリ笑ってお邪魔する(※親方寝てた場所)。


『何。話す。する。困る。する?』


『コルステインはもう知っているのかしら。あのね』


 イーアンは、クロークをぴっちり前で合わせ、グィード皮製のミトンをはめて、コルステインのすぐ側に座り、手ぶり身振りも交えながら()()()の話をした。


 丁寧に伝える女龍を見下ろし、ふむふむと頷くコルステイン。月の光のようなサラサラの髪の毛が揺れて、夜空色の体が星明かりに煌めく。


 話ながら、『綺麗だなぁ』と見惚れるイーアンに、コルステインはニコーっと笑って『お前。好き』とすぐに答えてくれた。それから、そーっと鉤爪でちょんちょん触ると、女龍の腕の辺を鉤爪の背で撫でる。


 コルステインの愛情表現に嬉しくなるイーアンは、『有難う』のお礼を言ってから、煙のことはどうしよう?と訊ねた。


 夜空色の大きなサブパメントゥは、真っ青な瞳で女龍を見つめて『夜。来る。倒す。する』と言う。


「お昼はどうしましょう。お昼に出るでしょう?そうしたら」


『ロゼール。使う。する』


 ええっ?! あっさり道具のように『使う』と引っ張り出されたロゼールの名に、ビックリするイーアン。

『ロゼールはサブパメントゥじゃないですよ』、と急いで伝えると、コルステインもちょっと考える(※気にしてなかった)。


『サブパメントゥ。暗い。どこか。呼ぶ。明るい。少し。大丈夫。行く』


 新しい答えに、イーアンはゆっくりと詳細を聞き出し、コルステインが他のサブパメントゥに呼びかけてくれる・・・と理解する。


『煙を倒せそうですか?どうすれば良いのか』


『潰す』


 げっ、と思わずのけぞるイーアン。コルステインは可愛い顔で、うん、と真面目に頷いた。


 塵なのよ、煙なのよ、潰すって、とイーアンが慌てるのも、じーっと見守った後で、もう一度『潰す。消す』自信満々に戻される返答。



『そ。そうなのですか。出来ますか。だって』


『小さい。何。ある。気持ち。形。本当。そこ。ある。コルステイン。似てる』


 コルステインの説明をよくよく聞けば、『自分もそうだけれど』という具合に教えてくれたことが、すごーく意外。説明されれば解釈も無難だが、信じられるかというと、地球の概念では難しい。



 ――コルステインは()()が募った思念体のような存在で、それは空気にさえ追いつかない物質だと言う。あるようでなく、ないようである。


『物質としての肉体』を持たない。それは正しいにしても、肉体の細胞サイズではない意味らしいのだ。


 それを物質ではない、と言い切ることは出来ても、『では物質が全くないのか』となると違う。ややこしいが、非常に疎らな・・・これまた表現に難しいが―― そこに在る ――存在としては、形であるという概念。


 この概念は即ち、物質の最小を示していて、煙だ何だと言うのも、コルステインから見れば『自分と似た形をとった存在の仕方』のようだった――



『ええ、と。では。その。要は、他のサブパメントゥでも、コルステインのような感じの誰かなら、今回の相手に攻撃して倒せると』


『潰す。出来る。それ。塊。どこ。ある。絶対。ある』


 微粒子状の煙自体も壊せるが、それを作っている本体たる塊も確実にある、とコルステインは教える。



 すごい世界だな、と心底驚くイーアン。世界が幾つもある・・・そんなことも、数えるくらいしか考えたことがないが(※自分が放り込まれた時とか)、更に『ある世界』に対しての法則的な何かを、別種の存在から説かれる時間。


 イーアンはコルステインを尊敬し、本当に有難う、と教えてくれたお礼を伝える。


『お前。呼ぶ。する。タンクラッド。呼ぶ。それ。大丈夫。サブパメントゥ。少し。暗い。行く』


 イーアンが呼んでも良いし、タンクラッドが呼んでも大丈夫だから、少し暗い時であれば、対応するサブパメントゥが出向くと、コルステインは約束してくれた。



 イーアンはほとほと困る。こんな時、ぎゅうううっと抱き締めてお礼を言いたい。出来れば、ちゅーっとしても(※不純)良いじゃないか、と悩む。


 そんな心の動きは筒抜けなので、じーっと鳶色の瞳で見上げている女龍に、コルステインは可笑しそうに笑顔を向けると、黒い鉤爪で女龍の胸辺りをナデナデした。



 相談して良かったと心から伝え、イーアンはコルステインに『おやすみなさい』の挨拶をする。


 コルステインも笑顔で頷いて、一つ心配の減った夜。


 この後、イーアンが宿の部屋に戻ろうとすると、不機嫌そうな親方が戸口で待っていて『貸しだぞ』と子供じみた嫌な言葉を呟き、裏庭へ戻って行った。

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