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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1581/2965

1581. 不倒翁 VS 『消火袋』 ~龍族・『消火袋の仕組み』と滞在について

 

 イーアンとオーリンの二人は、龍気に包まれているため、敵は相手にならない。


 オーリンはガルホブラフ()付きだし、イーアンも龍気むんむんで飛び回るので、近づくだけで嫌がられ、蹴散らす状態が続いた。


 最初こそ面白がっていたオーリンだが、3度目になるとイーアンに『良いの?』と訊ね始める。イーアンも聞かれる度に『さぁ』としか答えられない。質問の意味は分かっている。



 二人と一頭の動き。『人助けが目的』とあれば、正しい結果にしても。


「なぁ。追い散らしてるだけでさ、これ、()()()()()だろ」


「でしょうね」


「どうするんだよ」


「だって(※しょうがないじゃん、の気持ち)」


「消火袋、だっけ。それもさ。打撃を与えるにしたって、倒しはしないわけだろ?・・・冴えない名前だなぁ」


 名前、関係ないでしょう!と嫌そうに眉を寄せる女龍に、オーリンは無視して話す。これじゃ、倒してないんだから、延々と終わりがないぞと、下方に広がる町の様子を見つめた。


 気配から感じるに、被害は減ってきているが、まだまだ町民の混乱は続く。騒ぎは収まらないし、離れた空で仲間が動いているのも分かる。

 町の各所にある門は、警護団が必死に守っており、逃げようとする町民の押し寄せる数は、増える一方。女龍は髪をかき上げて、むぅ、と唸る。



「どうにも出来ませんよ。相手()、あんなですよ。実体がないんだもの。蹴散らかすだけでも、まだ時間稼ぎですよ。(私たち)なら、道具要らないようだし」


 親玉がいる雰囲気でもないです、とイーアンは付け加え、『これまでの魔物と質が違う』と呟いた。



「退治の仕方は、探らないといけません。追い払う程度しか出来なくても、とりあえずは身を守れるのです。今はこれで凌ぐだけ」


「これさ。()()、でもないよな?バイラの情報を始めに聞いた夜、フォラヴが心配そうだったが」


「違うでしょうね。『魔族は魔族』と分かる要素があります。

 被害としては『憑りつかれたら最後』が魔族です。この赤い煙は、『憑りついても剥がせば戻る』と分かりました。()()()()・・・のとも異なるかも。

 人に入り込むけれど、あの煙が中に入って、人を操っている様子ではないですね。一旦、人間の中で()()()()()()()()、後は放置している感じがします」


 事実、助かった人たちは、正気を取り戻した後、それまで通りの思考や感覚に戻っていると判断出来た。


 自分から死ぬに至るまで動き続ける場合が、『犯罪者』の状態であり、そうなる条件はまた別にあるのだろう、とイーアンは考えていることを教える。


 黄色い瞳に、何か思うところを含ませたオーリンも、少し頷くと『気配が消えたら、一度宿に』と言い、今は打てる手が他にないことを、認めたようだった。



「情報が必要です」


 女龍は町の隙間に見え隠れする赤い色に飛び込んでは、罵声のやり取り(※敵と)を短く交わして追い散らし、何度もそれを思った。


「相手がパーっぽい。でも得体が知れない上に、倒せないと来た。これは面倒ですよ。

 オツムが良ければ、何か策でもあるだろう、と思うけれど、元々が手の出しにくい強さ持ちで、隠すところがないアホとなると」


「えらい侮辱の仕方だな」


 ヘラっと笑う、オーリンの刺し込み。遠慮ないバカにし方だよと、続けたので、イーアンは咳払い。



「あなたね。私より先に出て行って、うっかり、敵の女の姿に()()()()()()くせに」


「やめろ(※最初2回がそう)」


「私とガルホブラフがいなかったら、あなた、とっくに」


「イーアン!やめろよ!俺だって男なんだ(※理由)。君は夜、総長といちゃつけ」


 いちゃついてないわよっ!!遮ってキレかかるイーアン。そんな暇、あると思ってんのか!(※最近ヒマがない)と逆切れした女龍に、オーリンは冷たい眼差しで『()()()()()出来るだろ』火に油を注ぐ。『ふざけんな、関係ねぇだろ』吼えるように怒鳴る女龍に、オーリンも苛立って『逆の立場だったら、言えないぞ』とやり返す。



 わぁわぁ煩い二人に、ガルホブラフはうんざり(※龍はネガティブが嫌い)。


 下方を確認すると、既に赤い煙の気配が収束しているよう。ケンカする煩い二人はさておき、龍の判断で『これはもう、今日は帰っても良い』と決定し、ガルホブラフは、ちらと乗り手を見た。


 自分の視線に、気が付きもしない・・・もういいや、と思って、ガルホブラフは背中をぶんっと曲げると、驚きの声で叫ぶオーリンを投げて、さっさと空へ戻る。


 慌てたイーアンがオーリンを抱きかかえ、二人は一瞬の出来事に面食らい、龍が小さくなる後姿を見送った(※嫌がられた、とは気が付ける)。



 仕方ないので―― イーアンはオーリンを抱えたまま(※落とすわけにいかない)無言で宿へ向かう。


 オーリンも無言で(※落とされるわけにいかない)二人は静かに、気配の消えた町の上―― 騒ぎだけは続いているが ――を移動する。


 この間、そう長くはなかったが、イーアンは様子を見て空へ上がることを考えていた。

 魔族の時も、情報を求めて、男龍に訊ねに出かけた。今回の敵も、()()()()()のような気がしていた。




 *****




 戻った宿では、全員が無事と分かり、皆でお互いを労う。イーアンたちが戻ったのが最後だったようで、宿と向かい合う食事処の間の道で、全員が揃った。


 消火袋はタンクラッドが使わなかった他、ザッカリアも『俺も2個だけだよ』と、使った回数が少なかったことで、余った分を袋に戻した。


 フォラヴは一つだけ、残っていたが、あの後にミレイオたちと助けた町民に、それを渡してきたので、彼は全部使用。ドルドレンも同じで『気配が消えた後は、警護団員に余りを渡した』と話した。



「俺たちは使ったな。ガーレニーが一つ、余らせたとか」


 ギールッフの彼らは、持っていた消火袋を使い切っていた。ガーレニ―の分が後一つあるが、それも『いなくなったから』残っただけであり、出てきた敵には、道具を使用したことを話した。



 イーアンが食事処に顔を向けると、ドルドレンはその仕草に気が付いて『客たちは解放』と教える。


「ザッカリアとイェライドたちが守ってくれていたが、客の中には自分の家族を心配する者もいたようだ。

 それでちらほらと。赤い煙が来なくなり始めた頃に、戻ったらしい」


 道具袋は各自、持ち帰ったよ、と話すドルドレンに、イーアンも了解し『もっと作っておこう』と答えた。



「午後。作ります。今はお昼前でしょう?」


「俺も手伝おう。ミレイオ、お前は」


「いいわよ。私、昨日の夜は手伝ったから、要領は分かるもの」


 タンクラッドとミレイオが一緒に作る、とすぐに決まり、ギールッフの職人でもイェライドとガーレニー、ロプトンとレングロは、手伝うと申し出た。オーリンは少し・・・間があったが、ちらと見られた女龍の目に『俺もまぁ。することもないしな』と頷く(※何か言われるのイヤ)。

 ドルドレンも、午後の彼らが作業をすると決まったので、了解。自分も結果を伝えに、と話す。


「それでは、また煙が出没したとなれば、すぐに出ることにして。俺は今から、町長とバイラに報告に行こう」


 職人たちが、効果のある道具作りをしてくれると決まったので、総長は昼食を摂らずに、このまま出かけると伝えた。


 ザッカリアとフォラヴは、バーウィーたちに任せ『全員が何かに()()()()()にならないよう』と、異変に敏感であるよう、命じた。




 *****




 一度は収束した事態だが、いつまた、と思えば手を休める時間はない。


 だがミレイオは『食べなきゃダメよ』と普段の平静を保つ持論から、片手で食べられる簡易昼食付で、職人たちは互いの馬車を寄せて、荷台を付き合わせ、道具作りを行う。


 イーアンの翼は幅が狭いので、6翼あって沢山使える面積ではない。

 とはいえ、イーアンの思い付きから『擦れば取れるかも』と、翼をぴっと出して、コリコリ・・・ペロッと剥けるところは、ミレイオに剥がしてもらって材料を増やす。


「何だか。貴重だと思うんだけどねぇ。痛くない?」


「痛みはないのですよ。でもどうせコリコリしてもらうなら、そっと気遣って下さる人にお願いしたい(※ミレイオ以外は悩む)」


「俺でも良かっただろう」


 言うだろうな、と思った矢先、タンクラッドが手元の作業から目を離さずにぼやく。イーアンが答える前に、こちらも手元から目を離さないミレイオが『あんた無理』と切り捨てた。


「この子、遠慮するんだから。ちょっと『嫌だな』と思ったって、言わないでいることばっかりよ。

 あんたみたいに、気遣わせて気付かないような()()()、ダメよ」


 なんだと、と怒るタンクラッドに、ミレイオは、翼の皮をぺろぺろ剥きながら笑って『これくらいあれば良いんじゃないの』と(※親方無視)イーアンの翼を仕舞わせる。


 怒るタンクラッドは放っておいて(※レングロが慰めている)ミレイオは、道具袋を作りながら質問する。イーアンはそれを聞いて、『ああ』とうっかりしたことを話し始めた。



「何で、あんな派手にぶっ飛ぶか、ですね。多分、私の翼の皮には、消火するに当たって有効な、3つの反応があります。


 一つは、炎や高熱に触れた時、爆発を起こすのです。その爆発は一瞬で、傍目には()()()()()()()印象です。

 二つめは、爆発した成分が変化するか何かで、燃焼供給体を断つような、窒息状態を作ります。

 最後が、酸化の連鎖を断つ抑制効果による、負触媒消火で、これが爆風のように見えます。空気中に散らばった、酸化連鎖を追いかける拡大でしょうね」


 じーっと見ている皆を、サーッと見渡して、うん、と頷く女龍。そして話を続ける(※皆さん、よく分かっていないと理解する)。



「ミンティンの吐き出す、白い炎ありますでしょう?見たことある人、はい。有難う(※挙手確認)。あれは凍結させるので、冷却効果。あれは、私には備わっていないようです。


 それ以外の、消火効果を持つのが私の翼の性質なのでしょう。皮自体は爆発を起こす表面で、次が多分ね・・・ええと、この辺。よーく見ると、ほら、表面の皮の下が()()()()浮いています。この内側に入った成分というか、それが燃焼供給体を包むとか、そんな役割をするのでしょう。

 で、反応変化によって、周囲に散る熱を抑え込む抑制が起きます」


 これね、これ、と剝がしたばかりの皮を手に、皆さんに教えるイーアン。


 素朴な疑問、イェライド。『イーアンは飛んでいて、爆発しないのにね』ぼそっと呟いた職人に、ハハハと笑うイーアン。


「私が爆発したら困ります。私にくっ付いている分には、翼は私を保護するものなのでしょうね。私に火の粉が降り注いでも、翼はビクともしません。きっと薄い膜のように、熱を遮断しています」


「取れると、変化するのか。維持する環境によって、質が変わる」


 レングロも確認し、この面白い性質の素材に興味津々。『帰る前に欲しい』と言い出す。


 イーアンは、彼らはきっとこうなるな~と思っていたので、後で皮が剥けたらあげる、と約束した(※龍の女の敷居が低い)。



 こうして、『消火袋がなぜ、あんな反応をしたのか』の解説は、続いて質問会に変わり、膝を付き合わせながらの作業は捗る(※全員職人だから)。


 久しぶりにこういう時間だなぁと思うイーアンは、ちょっと楽しい。楽しんでいる場合ではないが、見ればギールッフの職人たちも、タンクラッドやミレイオ、オーリンも、意識は、素材と応用に真剣。


 心の安寧を得られる状態は、いつでも次の力に繋がりやすい。こんな時間も大事、とイーアンは微笑み、今は道具作りに専念した。後で、空に相談に上がるまでは、と。




 *****




 夕方遅く。いつもなら『夕食』の頃合い、町はまだ騒めいており、食事処も店員の出入りが落ち着かず、様子を伺っていたものの、旅の皆は、各自の馬車で食事をすることにした。


 宿屋はやっていたが、宿でも『お風呂くらいは用意したが、部屋の掃除はしていない』と、一大事だった午前の影響で、まだ通常営業の状態ではないと話す。


 戻って来たドルドレンとフォラヴ、バイラも加わり、宿には部屋と風呂があれば充分、と話すと、宿屋の人は『すみません』と頭を下げ、『あなた方が戦ってくれたことに感謝します』と礼を言った。



 気にしなくて良いと微笑んだドルドレンは、複雑な胸中。自分がいるから・・・と思う部分は消せない。


 その表情を読み取るイーアンが、伴侶の手に触れて、小さく首を横に振る。ドルドレンも頷いて、それ以上は思いを続けないようにした。



 そして、馬車の食材で夕食の準備。裏庭を借りられたので、火を熾して、野営同様の食事にする。


「明日一日、滞在する。明日何もなければ明後日、出発だ。道具は?」


 食事中、ドルドレンは町長と警護団分団長に相談をした結果を話し、今日使用した道具の成果から、配布出来る分は渡して、町を出発することにしたようだった。


「アオファの鱗も配る。イーアン、ちょっとアオファに」


「分かりました。夜はコルステインが来ますから、夜にイヌァエル・テレンへ」


 自分も用事があった、と話すイーアンに了解し、アオファの鱗をお願いした総長は、職人たちの午後の製作で用意された、『消火袋』の数に感動。


「そんなに用意できたのか。それは助かる。有難う」


 では、と決定。明日一日滞在し、今日のように戦闘の必要があれば戦うのみ。何もなければ、明後日に発つ――



 一日は慌ただしく終わる。イーアンは夕食後、コルステインに後をお願いして、オーリンと共に空へ上がった。

お読み頂き有難うございます。

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