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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1579/2965

1579. 不倒翁 VS 『消火袋』 ~配布と効果

☆前回までの流れ

朝食の最中、食事処にいた旅の皆は、表で騒ぎが起こったと知りました。すぐに対応したのはイーアン。表へ飛んで、赤い煙相手に作ったばかりの道具を使って追い払った後。同時にあちこちで出没していると分かりました。

今回は、道具『消火袋』を備えて・・・

 

 外の騒ぎを見ながら、イーアンが戻るのを待つドルドレンたち。


 表へ出て、警護団の手伝いをしたいところだが、イーアンの情報が先。『すぐ戻ります』の言葉に、全員で待機している、食事処の店内。



「まだですか」


 バイラは外を気にして『私はそろそろ、動かないといけないかも』と、通りにいる警護団員の落ち着き欠く様子に、心配そう。


「もう少しだけ待ってくれ。後、10分もいなくて良い。イーアンが出てから、もうじき30分だ」


 時計を見て、ドルドレンは『30分だけ』とバイラに頼み、バイラは頷いた。


 30分の間に何があるか、と思えば、今すぐにでも動きたい。だが、状況を見に動いたのが女龍なら、何かがあっても誰より早く対処するし、怪我をすることもなく、飛ぶことで多くの情報を持ち帰る。


「それに、()()()()だ。彼女は、誰の調査よりもずっと、細かな部分まで記憶して帰ってくる」


 信頼する総長の言葉に、彼女がこれまでどれほど、騎士修道会を助けたかを感じるバイラは『そうですよね』と、動いた女龍の()()()()()()()一面(※人間時代)に、しみじみ『大した女性だ』と思った。



  総長とバイラが短いやり取りをしていると、ふとタンクラッドが外を見る。オーリンも黄色い瞳をすっと窓越しの空へ向け『戻ってくる』と呟く。


 親方が窓に顔を寄せて『()()()()な』と、一言。オーリンはその意味を察し、それから『もしかして』イーアンは・・・と、思いついたことを口にしかけた時。


 窓の外、通り向かいの宿屋並び、その一本裏ら辺。

 突如、赤い煙がグオッと噴き上がり、見ていた二人が驚きを声にする間もなく、煙は業火を膨れさせ、次の一瞬で白い爆風に変わって消えた。


「今のは!」


「イーアンか?」


 窓に近い場所にいた、親方とオーリン、ギールッフの職人たちが一斉に声を上げる。裏口付近にいたドルドレンも急いで窓へ寄り『何があったんだ』と仲間に訊ねた。


「見た方が早い」


「何?」


 あれだ、と指差したタンクラッドの指先に目を向けると、ドルドレンも驚く。


 一つ奥の通り辺りで、家屋の上にイーアンらしい白い翼の飛び回る影と、その下で、赤い煙がブワッと膨れては炎の塊に変わる様。それは瞬く間に白い爆風を伴い、掻き消える。



「敵か。イーアンは」


「あれじゃないの?さっき話していた道具」


「すげえ!」


 総長、タンクラッド、オーリンの間に押し掛けたイェライドは、窓の桟に両手をかけ、目を輝かせて、混乱の表に吹き散る、赤い異常な煙を見つめる。


『さすが、龍の皮』と、感心して呟いた笑顔に、オーリンは『被害が出ているんだぞ』と窘める。あ、と頷くイェライドが、イーアンは一人で戦うんだろうか?と尋ねかけた時、白い飛行物体(※女龍)がこちらに向かって飛ぶのが見えた。


 戸口に駆け寄るドルドレンたちは、扉を開けてすぐ、螺旋の黒髪をかき上げた女龍に『どうだった、今のは何だ』と早口で詰める。


 イーアンは、うんうん、とそれぞれの質問に頷いて見せると、後ろを振り向いて『馬車に用意した、()()()を持って来ましょう』と指差した。


 質問多々に対する、まとめた答えとした『消火袋準備』の一声に、タンクラッドとイェライドが取りに走る。



「はい。では今から、お話します。バイラ、あなたには配って頂くので近くへ・・・と、その前に」


 バイラもすぐ近くに来たので、ドルドレンたちには入り口付近で集まってもらう。それからイーアンは、食事処に固まる一般人に、先に声をかける。



「龍の女。あなたがどこへ行ったかと。もう退治したんですか」


 一人が恐ろし気に外を見ながら、『もう安全?』を確認する。イーアンは即答。


「いいえ。全部じゃないです。良いですか、ここから動かないで下さい。表には、あちこちで出没しています。そう、怖れないで、話を聞いて。

 私たちは外で退治しますけれど、あなた方だけでは心配です。ですからね、これあげます。これ使って」


 ちゃかちゃか説明したイーアンは、震えたり怯えて困惑する数十人に、まずは消火袋を見せる。


「今。私の仲間が取りに行っています。戻って来たら、ここにも置いて行きますからね。こうでしょ、こう持って、変な赤いの来たら・・・大丈夫、大丈夫。結構、相手はバカっぽいので(※決定)。

 え?バカ?そうです、何か聞こえたら『バカに言われたくない』と最初に叫んで下さい。単純だから、すぐに動きが止まります。それでですね。火花が散ったら、この袋、この向きで投げて下さい」


 龍の女が直々に(※というほどでもないのだが)教える、道具の使い方。


 怖れながらも、自分の命を守るならと、皆は必死に話を聞き、怖い想像は急ぎがちに質問し、落ち着いた女龍の返答に、少しずつ冷静さを取り戻す。



「イーアン。地味な場面でも活躍ですね」


 じーっと見ているバイラは、『龍の女って、こんなに庶民的なんだと安心する』と、何やら素の感想を呟く。ちょっと笑ったフォラヴが『彼女は、前から()()ですよ』と教えた。


 ドルドレンもちょっと笑って『イーアンは、最初からあんな感じである』フォラヴの言う通り・・・と添える。


「彼女は怖れないのだ。魔物に触るのも使うのも、『恐れるな』と教えるためだった。龍の女、と呼ばれていても、中身は人間の心のまんま。

 イーアンは、()()()()怖れないのではない。イーアン自体が、怖れることを選ばないのだ」



 そんなことを、緊迫した状況に似合わない、優しい微笑みで話すドルドレン。

 頷くバイラは、答えようとして、目端に見えた親方たちの姿に振り向く。食事処の扉を開けて迎えた総長に、タンクラッドが袋を見せた。


 イーアンもすぐに来て、『これ。ざっくり皆さんに分けますよ』袋を開いて、分配し始める。


 バイラに持たせる『警護団の分』と、町民用、それから仲間の各自に持たせる分。

 小さな、一握り分ほどしかない包みだが、およそ百数十個のそれらが、『赤い煙の相手をする』という。


「朝、のんびりして良かったな」


 少し笑ったガーレニーが、お茶の時間の恩恵に『説明を省けた』と言い、イーアンも微笑んで頷く。


「使い方は、教えたとおりです。オーリン、あなたは私と一緒に。私とあなたは、この袋に頼りませんから、あなたは弱い心に気を付けて」


「俺が弱い?平気だよ、バカにするな」


 相手が女の姿を取りますよ、とちょびっと教えると、少し考えるオーリン(※女に弱い男)。『()なんじゃないの』と、後ろから呆れたようなミレイオに言われて、オーリンはそれで我に返った。



「私も要らない。シュンディーンと一緒に行くわ」


「ミレイオ。一応、一つ二つは」


「ううん・・・大丈夫よ。この子も私も、()()()()()()()だもの」


 差し出す女龍の表情に、少し心配が見える。ミレイオは微笑んで首を横に振ると、片腕の赤ちゃんに『抱っこベルト、持ってこよう』とニッコリ笑い、馬車へさっさと行ってしまった。


 刺青パンクの背中を見送ったイーアン。ドルドレンは、ミレイオに思うことがあっても、この時は何も言わずに、他の皆に道具を配る。



「では。行くぞ、フォラヴ。お前も龍を呼べ。タンクラッド、剣で切れる相手ではないようだが、知恵で勝てるならそうしてくれ」


()()()()そう言うな」


 ハハッと笑って出て行く剣職人は『無事を祈る』と口端を上げて、総長たちに挨拶すると、彼もまたあっさりと龍を呼んで飛び立つ。


 バイラもすぐに警護団に回す分を持って、馬に乗り、ドルドレンとフォラヴも出かける。ザッカリアは、ギールッフの職人たちと残り、食事処に避難させた人々を守るように、周辺で準備。


「ではね、ザッカリア。私たちも行きます。気を付けるのよ」


 イーアンは子供にお願いし、それからギールッフの職人たちと店内の皆さん全員に祈りを伝え、オーリンと共に空へ上がる。ギールッフの彼らも、それぞれ少し離れて持ち場を作る。


 そして、イーアンたちの姿が建物の影に消えたすぐ、赤い煙が町の通りに浮かぶのを、ザッカリアのレモン色の瞳が捉えた。


「来る。でも、()()()()()()()


 ぐっと顎を引いたザッカリア。腰に帯びた剣の柄を握り、もう片手に、イーアンの消火袋を持つ。スーっと息を吸い込み、『俺は空の一族。()()()だ』自分を励ますように呟き、目の前に迫る赤い煙を睨みつけた。




 *****




 ドルドレンが最初に見つけたのは、検問を行っていた正門口。ここまでの間、途中で見かけた『出始めた』煙の赤には、フォラヴが向かった。


 そこは部下に任せ、真っ直ぐ飛んだ先に見えた、今まさにやられる所――


「ショレイヤ、吼えてくれ」


 最後まで言い終わる前に、藍色の龍は龍ここにありと吼える。声は周囲を割るように轟き、赤い煙が同時にバッと広がる。

 突っ込む龍と騎士は、煙を散らして、正門で倒れた数名の警護団員と、外国人を守るように、彼らの上を旋回。


『またこれだ。何よ、この』


「貴様か、憑りつくのは」


 ドルドレンの冠がいつもと違う知らせを送る。魔物ではないが、魔物以外の『魔』と告げる冠は、煌々と輝き始め、ドルドレンの抜いた剣は太陽のように橙色の光で包み込まれる。



『こんなやついるの?面倒臭い』


「魔物じゃなかろうが、倒すに変わらん」


 聞こえる声は、声のようで声とも異なる。得体のしれない赤い煙が喋るのを、初めて耳にした黒髪の騎士は、宝石のような灰色の瞳に厳しさを湛え、滑空する龍の背中から剣を突き出し、煙を払う。


『やだ、剣で切れると思ってる!バカだわ』


「お前が」


『バカじゃない!』


 バカなんだな、と確認したドルドレン。イーアンが民間人に説明した内容は正しいと、心の中で奥さんを誉める(※敵はバカっぽい、と言っていた)。


 端から、煙を切り裂くつもりはない。会話と同時に、バカだからこその()を得た、その僅かな秒数を無駄にはしない。


 飛び去るドルドレンの左手が振られた時、煙は龍から離れるように火花を上げ・・・・・


『わっ!()()!』


 火花が上がったところで、小さな袋が弾け、それを追うように炎が生じる。ドルドレンは旋回する龍の背の上で、じーっと一部始終を見ながら『本当だ。よく効く』と感心する。


 慌てるように消えて行く煙は、どこへ隠れるのか。倒せる気がしない形状の敵だが――


 それは気になるにしても、『とりあえず追い払った』その意味では、勝利。


『また』と驚いた敵は、どうもこの方法を()()()()()()()()()らしい。が、食らったところで、何も学んでいなさそうな状態も、理解した。


「これか。イーアンが見下した理由は」


 これはもしや、運びようによっては撃退が楽かもしれないと、龍の背で呟いたドルドレン。あっという間に追い払えたので、一先ず、地面に倒れた人々の救助に急いだ。

お読み頂き有難うございます。

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