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魔物資源活用機構  作者: Ichen
同行者の底流
1575/2965

1575. 緋色の魔導士 ~異空間遺跡にて

☆前回までの流れ

火薬普及について考えるイーアンの午前、警護団員に不思議な道の出現を知らされたドルドレンの午前。

場面は変わって、今回はギールッフの職人たちのお昼時から。そしてミレイオの一日へ・・・

 

 ドルドレンが宿に戻り、イーアンたちが迎えて、昼食に差し掛かる頃。


 町の一角に集まっている、武器・工具などの店屋の並びで、ギールッフの職人たちも昼にしようかと、空に高く上がった白い太陽を見上げていた。



()()()食べるには、遠いな」


「そうだな。総長たちも、もう食べているだろう。俺たちはここで」


「もう少しで、彼らと一緒にいる時間も終わるなぁ・・・何だか、『食事くらいは一緒に』と毎回思うよ」


 ハハハと笑うレングロに、ガーレニーもイェライドも笑顔で頷き、バーウィーは寂しそうな微笑みを浮かべて、隣にいるフィリッカに『バーウィーには()()()な』と胸の内を言い当てられる。


「ザッカリアか」


「ザッカリアはしょっちゅう、バーウィーの馬車に乗っていたから」


「馬車が一緒じゃなくてもな。それに、子供相手じゃなくたって、残念な気持ちはあるぞ」


 ロプトンも、オーリンやミレイオに、新しい技術を聞ける時間が終わることを残念がる。


 皆、一様に『ハイザンジェルの旅人』との思い出に終止符を打つ日を、寂しく思う。それぞれに思い出が出来たし、一度仲良くなれば、屈託なく付き合う職人たちに、別れの日までの時間は惜しいばかり。


「とは言ったってな。この時間だから」


 アハハと笑った職人たちは、近所の食事処にゾロゾロ入り・・・最後に入ったレングロが、後ろ手に扉を閉めようと、顔を少し傾けた時。



「あれ」


 薄っすらと、扉にはまったガラスに反射した姿。え?と急いで戸を開け、店屋の(ひさし)下から空を見上げる。


「ミレイオ」


 呟いた時には、一陣の風に巻かれ、その姿は掻き消えた。今のは確かに、空飛ぶ板に乗ったミレイオ。


「どうした、レングロ」


「あ。いや。今・・・うん。いいや、食べながら話す」


 バーウィーに振り向かれて、レングロは扉を閉める。仲間は注文していて、ロプトンたちは食卓へ移動していたので、レングロも一度だけ、外を振り返ってから、食卓へ進んだ。


 ミレイオが一人で、探索に行くとは知っているが――



「あの()・・・あの風は、何か大いなる力の関係なのかな」


 今更、そうしたことで驚きはしないが。色のついた緑色の風は、生きた風の化身のように、厳かな老人の顔を思わせた。




 *****




 町の外へ出ろ、と言われたから、動き回ったものの。

 朝からあちこち移動して、案の定、行く先々で『どこの人?』『旅人か』の類で、質問攻めにあったミレイオ。



「だから言ったのよ。()()()移動できる状況じゃないのに」


 小さい町の中で、ちょっと動けばすぐに声をかけられ、『私、怪しくないです』と何回説明したか。一度捉まると、20分はそこで足止めされ、移動しては、警護団に呼び止められることを繰り返した。


 ようやく、町の外へ出たかと思いきや、外は外で警護団だらけ。


 どこから動くんだろうと、ほとほと疲れたミレイオだったが、『そこから南に歩け』の指示が頭に響き、溜め息交じりに言うことを聞いた、見えない姿の道案内。


 そうして数秒、ほんの数秒だが、人が周囲に見えなくなった時『浮かべ』の命令に、ミレイオも『今しかない』と、さっとお皿ちゃんに乗って浮上した。


 目立つだろうな~とは思ったが、バニザット(爺さん)がどうにかするでしょ、とも思っていて。


 それはその通りになった。お皿ちゃんで、ひゅっと空へ滑り出したミレイオだが、浮かんだ途端に、他の者の目に映らないような無関心な様子を、眼下に見た。


「最初から、こうすりゃ良いじゃないのよ」


 ぼやいたところで、時間は戻らない。しかし、嫌味はきちんと戻った。


『俺は()()、って言っただろ』


 お前が勝手にうろついたんだ・・・くらいの言葉に、ミレイオの目が据わる。

 何か言うの、やめよう・・・精神衛生上、自分を守るため、ミレイオは『そうね』とだけ答えて黙った。



 そして、レングロが目にした、一陣の風がミレイオを包む。レングロの目に映ったのは、彼の関心が、ハイザンジェルの旅人たちにあったからか、どうか。


 他の誰が見ることもない、薄れる姿を見たのは、幸いにもレングロだけで、ミレイオは老バニザットの魔法の風に包まれて、青空ではない場所へ移動した。




 *****




「どこ。同じ世界じゃないみたい」


 風が弱まったので、ミレイオはお皿ちゃんに乗ったまま、ゆっくりと地面に向かって下がる。目の前に緋色の透ける布が見え、ミレイオが降りるより早く、どんよりした草原に人の姿が現れた。


 お皿ちゃんを下りたすぐ、自分より背の高い位置に頭がある男の・・・奇妙な具合だが、透けているその姿を見上げる。ミレイオは、親父にも質問して答えを貰えなかった経験から、直には訊ねない。


 すると、フードを被った頭がミレイオを見て『どこだと思う』と一言。面食らう質問に、『知るわけないじゃない』と咄嗟に答えた。


「行くぞ。少し歩くから、その間で教えてやろう」


「ああ・・・そう」


 ふと、周囲の雰囲気に、思い出した記憶。

 ヨーマイテスに連れて行かれた、最初の場所と、どことなく被る印象(※892話参照)。次に連れて行かれた時は、出発地が水中の遺跡だったが、思えばそこも(※1032話参照)、今、歩いているこの場所と似ている。


 曇り空。灰色しかないような風景。ドルドレンの灰色の瞳は、煌めく宝石みたいに澄んでいるけれど、あんなにきれいな灰色ではなく、もっと淀んでぼんやりとした、この場所の灰色。立ち込める霧は、千切れ千切れで不安定。


 歩く草っぱらには花一本ない。野生の草だろうけれど、野の花一つ・・・咲いてもいない、静寂を視覚化したような場所。


「まず、ここの話をしてやろう。ここは、お前と同じような質を持っている」


「はい?私?」


 周囲を見渡しているミレイオは、急に話し出した緋色の布まとう姿に、さっと目を向ける。フードに隠れた顔は分からないが、声は落ち着いているので、ミレイオも話を邪魔しないよう、短く答えて次を待つ。


「そうだ。お前の体には、空と同じものがある。『旅をしている世界と別』と言えば、そうとも言えるし、違うとも言える。()()()()()()と捉えると、理解に早い。意味は『別として在るにして、全く域外ではない』だ。

 この場所・・・お前の感覚では、信じがたいかも知れないな。お前は光が好きだから。だが、ここも()()()()。かつて、空の一部だ」


「私の。私がどうして『光が好き』って」


「そんなもの。見りゃ分かる。ギラギラ、顔中に光る物くっ付けてるんだ。どんな小さな光さえ、お前は求める」


 フンと鼻で笑った声。ムカッとくる言い方だが、変なことに・・・言い方は嫌でも、言われている内容は、何だか抵抗しにくい。厭味ったらしいのは親父と同じだけれど、親父と違って、どこか優しい気がする。


 黙って後ろを付いて歩くミレイオに、背の高い老人の幻は、また話し出す。


「共通点、ってところだ。お前と、この場所には共通する素材がある。それがまず、お前の知識に加える一つめ」


「うん・・・そう」


「ここから見えるか。もう少し先に、建造物がある。その中にお前は下りたことがあるだろう。()()()が連れて行ったからな。別の場所だが、存在は一緒。この意味は深く考えなくて良い」


「分かった。今日も、その、『別だけど似ている場所』なのね?」


「そうだな。()()()()()()()どこまで聞いている」


 会話に初めて、親父の名が出てきたことで、ミレイオは緊張する。でもすぐ、彼が親父と同じ時代で動いていた仲間と思い出し、狼狽えつつも『そんなには教えてもらってない』と答えた。


「そうか。あいつの話し方は、回りくどい時がある。話すと言って、話していなかったり、過去が混じったり。時が関係ない体だからだろうな。『時系列が適当』だ」


 最後の一言に、思わずちょっと笑ってしまったミレイオは、あ、と慌てて口を押さえた。


 だが、前を歩く男は振り向いて、笑ったミレイオに・・・冷めているにしても笑みを見せる。その振り向くタイミングと、冷えた感じに見えるけれど、笑みが。一々、驚かされる。老人は小さく首を振る。


「お前もそう思っただろ。ヨーマイテスは、自分が分かっていることには、頓着しない。誰と話すことも慣れていないから、言葉の並びが適当なんだ。

 俺が今、何で他愛ない思い出話をしてやっているかと言うと、『お前は大体、必要なことを知っている』と教えているんだ。ヨーマイテスの言い方じゃ理解しにくいにしても。()()()()()()で言われている」


「そうなんだ。うん、まぁ。そうかな。あいつが相手だと苛つくから、あんまり覚えていないし」


「相性悪いもんな」


 ざっくりと・・・笑えることを言うので、ミレイオはまた少し笑ってしまう。ちらと相手を見ると、やはり老人は、その厳めしい風貌に似合わない『人間味のある冷笑』を浮かべる。


 そんな、悪い人じゃないのかなと、ちょっと警戒心が解ける部分。気を許すと、すぐに嫌味が来るので、構えは取れないが。



「ミレイオ。訊きたいことがあれば聞け。だがお前に話すことを、他の誰にも言うな。それは守れよ」


「守ってるわよ」


「知ってる」


 拍子抜けする、その返事。でも別に、優しくしてくれているわけではないのだ。何か調子が狂うなぁとミレイオは苦笑いしながら、老人の前に見えて来た、小さな御堂に意識を向けた。


 そこは紛れもなく。


 以前、親父と一緒に出掛けた、御堂と同じ造り。そして今回もまた、老人バニザットの幻と一緒に、御堂の地下に続く螺旋階段を進んだ。

お読み頂き有難うございます。

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