1546. テイワグナ魔物事情後半の準備
☆前回までの流れ
村を出発した午前は、ドルドレンもイーアンも、それぞれの立場で『テイワグナを離れる日』を意識した時間でした。いつ終わるか分からないだけに、少しずつそれに沿って動き出す時間。
今回は、退治から戻ったイーアンたちの話から、午後が始まります。
テイワグナの魔物が終わること――
昼食時に、話題そのものは出なかったが、一人一人の中で、意識が膨らむ。
イーアンとオーリンが持ち帰った袋に、魔物の体が入っていた。ギールッフの職人たちは、二人の龍族を誉め、昼食の最中はずっと『これはどうやって使おう』と意気込んでいた。
大型の鳥類のような魔物で、嘴と足がやたら大きい。持ち帰ったのは、羽毛毛皮と、爪、嘴部分、そして『必要ないのに、魔物は内臓もありますから』とのことで、胃袋もある。
イーアン的には『何か詰め込める用途』で使えると判断。女龍の指に、ぶらんと摘ままれた空っぽの胃袋。皆さんは、何気に嫌そうだった(※気持ち悪い)。
戦利品の量は、と言えば、袋の限りがあるため、ぎゅうぎゅうに詰め込んでも、30袋分しか持って帰れなかったのだが。
とはいえ、普通に集めるよりも遥かに多い、その量と質に、ギールッフの職人も、タンクラッドやミレイオも興奮気味。
羽毛は柔らかさの欠片もなく、オーリンが言うには『ガルホブラフの鱗だから、鏃以上の効果で倒せた』だけで、普通の鏃では受け付けないだろうと話した。
首部分の皮も剥がしたイーアンは、それをちょんちょん突いて『ここ見て下さい』と職人たちに教える。首の部分の羽毛は、細かい石板に似ていて、イーアンは『自分だったらこれを鏃に使うかも』と言った。
胴体の羽毛は『これはこのまま、鎧のように使えたら』とアイデアを伝え、こうでしょ、ああでしょと、地面に絵を描き、職人たちと頭を付き合わせて、女龍は相談。
食事をしながらも、職人集団はみっちり会議の如く、互いの意見を出し合い、後半は詰め込むように食事をかき込んで、紙に記入し始める。
ドルドレンやバイラは、その様子を見てちょっと笑い、彼らの夢中具合を邪魔しないよう、後片付けは引き受けた。
昼食の片づけを終え、皆が馬車に乗り込んで、旅の馬車は午後の道へ出発する。
「もうじき、街道です。村を出てこれまで進んでいた道が、私道でした」
バイラは後ろを振り返り、『行きもこの道を通る予定だったんですよ』と話す。ドルドレンは左右を見てから、先に横たわる街道を視界に入れ、こんなに離れていたのかと感じた。
「ギールッフの皆と分かれる道までは?」
「街道に出てから南へ進んで、二又に分かれる地点は、まだまだ先です。もう少し一緒で」
微笑んだバイラは、その手前の町に寄ることも伝える。町は街道を挟んでいるから、通過する際には立ち寄ること。小さい町でも食品は買えるなどの他、大事なことも。
「郵送施設があります。次の町に地方行動部の施設もあるし、用事がいくらか済ませられる町です」
「郵送施設か。では、今日の材料も送れる。全てギールッフの彼らに渡すのも良いが、ハイザンジェルにも」
「はい。食事の時は、彼らが真剣に話し合っていたから、これは言わなかったのですが。
でもイーアンの話を聞いたら、ここからは、倒し方を変えるようだし・・・分けられるなら、ハイザンジェルへ送っても。まだ、集める機会があるのですし」
魔物があまりに多かったり、すぐに倒さないといけない場合はあるにせよ、少し余裕があると判断した場合は、材料を得るため、時間をかけて倒すような話。
「イーアンは、硫黄も道具にしたから。それを、イェライドと話していたので、もしかするとイェライドが、手製の道具に利用して、『魔物製品の枠』を広げるかも知れません」
「そうか・・・俺は洗い物をしていたから、聞いていなかったのだ。
テイワグナから、輸出される魔物製品。武器や防具だけではなくなりそうだな。道具にも範囲が広がるのか。
イーアンは、ハイザンジェルで『民間が使える道具も作りたい』と何度も話していた」
時間も足りないし、その時はそこまで出来なかったのだ、と話す総長に、バイラはとても感じ入ったように頷く。
「イーアンは本当に・・・魔物を征服するために、来たような人ですね」
「うむ。良い表現である。『征服』とはまた少し異なるだろうが、『魔物を業務にした第一人者』であるため、大概は正しい」
総長の言い方に、思わず笑ってしまうバイラだが、咳払いして『テイワグナの職人たちが役に立てると嬉しい』と伝えた。
「警護団も・・・何か。出来れば良いのですが。普及し始めた矢先、皆さんが次へ行くかもと」
「バイラ!それは言わない(※お別れ意識)。警護団は、使った感想などを添えてくれたら良いのだ。他の国に輸出が始まったら、警護団で使用された装備の質や状況を」
「はい。そのくらいは私が率先して(※じゃないとやらない警護団)行おうと思っています。でもそれだけ、というのも」
ドルドレンはバイラとの午後で、警護団と魔物製品に、今後、望むことを話し合った。
だが、警護団に出来る範囲も、バイラ自身が関わりを途絶えさせたくない気持ちも、具体的に思いつく案は少なく、それらは不確かに感じた。
バイラは、自分が関われる状況を維持したかったし、ドルドレンも彼との繋がりを、しっかりとした形で保てないかと考えていた。
魔物退治と、魔物製品の紹介・製造・普及目的で訪れた、このテイワグナで。
離れ難い相手に会えたことが、いかに大きかったのかと、お互いにしみじみ黙りこくる時間も含め、馬車は夕方の野営地に到着した。
そして夜。夕食の時間に、ドルドレンは連絡を受け取る。
ザッカリアから『これ』と連絡珠を渡された総長は、さっと目が据わったが、すぐに子供に『そんな顔したらダメだ』と叱られ、イヤイヤしながら連絡を受けた。
思った通り、相手はギアッチではなくサグマン。
ここまで来て、なぜ嫌味な部下の命令が下されるのだと、なぁなぁな態度で応じていたら、疑われる(※『聞いてないだろう、話を復唱してみろ』と言われる)。
『聞いている。ギアッチの講義が始まって、それで書類が作れたとか』
『それは聞いているうちに入らないですよ。総長なんだから、しっかりして下さいよ。今日は魔物退治してないんですよね?』
したぞ、と答えたが、即行『倒したのイーアンでしょ』と畳まれた(※情報熟知)。疲れていないんだから、シャキッと話を聞けと注意され、ドルドレンは溜息。
『良いですか。テイワグナにも配布するつもりで、ギアッチが頑張ってくれたんです。魔物の絵も加わって、僕たちの戦った魔物(←執務の騎士は戦ったことない)の特徴や、戦法の資料です。
僕たちが命懸けで(←上に同じ)越えて来た、ハイザンジェル魔物の記録ですよ。それをそちらにも配ってもらって』
うんうん、聞きながら、ドルドレンは『執務の騎士は部屋から出ないはず』と思っていたら、筒抜けで再び怒られ、うんざりしつつも謝って、結論を言い渡された。
『ちゃんと、警護団に届けて下さいよ!ロゼールが持って来てくれた報告書では、どう読んだって、魔物退治内容報告が少ないです。
派遣騎士の実務内容としては、まぁ、退治しているから、それだけは叶っていても。伝わってくる記録は圧倒的に少ないんですよ。最初だけしか、手紙も送ってこないし(※耳が痛い)!そんな状態では』
『分かった。分かったから。もう良いのだ』
ぎゃあぎゃあ煩いサグマンに堪え兼ね、ドルドレンはそっと横のイーアンに珠を渡す。笑いそうな顔で見上げるイーアンは、珠を受け取って伴侶の代わりに応答し、その後、呆気なく通信は終わる。
「イーアンだから、話が短い」
「労って下さいました。『また来て』って」
全然違う!と怒るドルドレンを宥めて、『話の内容は総長に聞いてと言われた』ことを伝え、それから『またロゼールが来るかも』と教えた。
「え。ロゼールが、こんな危なっかしい時に。送り出されるのか」
「サグマンたちは知りませんもの。でもロゼールが来たら、すぐにコルステインたちに預けます。早目に戻ってもらうように」
イーアンはそう言うと、少し落ち着かなさそうに『男龍からも話があって』と、昨日のうちに言えなかったことを、少し話した。
「要点だけであれば、そうしたことらしく。ハイザンジェルの魔物終焉とは違う具合で、魔物が」
「連動の度に?でも連動の合間でも、今日のように魔物は出るだろう?」
二人が話している横にいたバイラは、ちょっと手を上げて、会話に加わる。『被害報告なんですが』と村の駐在所に来ていた最新の内容を伝えた。ドルドレンもイーアンも、これは、と思う。
「今、イーアンが話していたことの裏付けのようですよ。各地で魔物被害は出ていますが、大型の被害はないんです。
パンギの町は凄まじかったですが、あれと似たようなことが起こったのは、反対側の南東沖で、魔物が発生した記録です。私たちが、パンギに入る前らしいですが。
それは夜で、突然の地震の後に、空に裂け目が浮かび、続いて魔物の声と黒い姿が空に確認されていますが、青黒い炎が立ち上がって、魔物は消えたと」
被害は出なかったらしいです、と結んだバイラは、『青黒い炎』の言葉をもう一度繰り返した。
それがコルステインたちだろうと、見当を付けたのは、3人同じ。話を戻し、『現時点では、魔物の出方が最初と違う』ことに焦点が当たる。
「これから。魔物が本当に終わる日に向けて・・・もっと分かりやすい形に変わるかも知れませんね」
バイラはそう言うと、午後に総長と話し合った案を思う。それはドルドレンも思ったようで、食べ終わった食器を片付けに行くイーアンの背中をぼんやりと見つめた後、少しまた、彼と話し合うことにした。
「先ほど。ハイザンジェルの部下から連絡があった。これまでの魔物の記録を配布用資料にした、というのだ。機構は、テイワグナにも配るつもりでいる。
だがもうじき、多分もうじき。魔物が終わるこの国に。それを考えると、もう少し『これ』と言った形で、バイラと関係を保てるような、何かあれば良いのだが」
「いや・・・総長。それ、それですよ!警護団が関われる・・・それです」
うん?と、俯かせていた顔を上げたドルドレン。バイラが目を見開いて、ゆっくりと『私たちの記録も』と呟く。
「バイラの?」
「いやいや、違いますよ。警護団のです。警護団の記録も集めて・・・半年分もありませんが、魔物製品の製作までの様子や、そうした記録がしっかりありますから」
午後の移動中に話した時は『警護団で使用した、魔物製品の感想添付』程度しか、思い浮かばなかった。
契約した工房から製作品が発送されれば、それは直接、機構とのやり取りに変わるため、警護団は関係ないと思っていた。
だが、工房取次に関わること・各地での魔物出没記録など、バイラが管理出来る『魔物関与』全般を、他国用の資料として、用意することが出来れば。
行く先々の駐在所と施設で、常に報告し続けたバイラ自身の書類なら、きっと警護団本部も、早い段階で許可してくれる。
「『テイワグナ版』でまとめて、次の国にも提供する、魔物資源活用機構の配布資料に添えてはどうですか。
私は。私なら、総長たちと旅をしたから、今の業務内容から少し範囲を変えるだけで、今後もその仕事専門にしてもらえる」
『かも知れません』と言う前に、パッと顔が明るくなった総長は、バイラの肩を掴む。
「それは良い!そうだ。必要だぞ、その仕事は。遅かれ早かれ、気が付けば、いずれは頼むことになる参考資料だ」
二人で顔を見つめ合って、総長と警護団員は満面の笑み。
皿を片手に、バイラの肩をがっしり掴むドルドレン。食べていた手を止めて、総長の伸ばした腕に手を置くバイラ。
笑顔で固まっている二人(※感動中)を、ミレイオたちはじーっと見つめ『どうしたのか』と不審げに囁き合っていたが、ドルドレンもバイラも、思いついた素晴らしい案に、涙ぐむ喜びが押し寄せていた。
口さえ開けた笑顔のまま、見つめ合って動かない二人を気にしたイーアンは、そっと側へ行って『お皿を』と(※片付け)引き取り、ハッとしたドルドレンに『イーアン、聞いてくれ』と打ち明けられる。
イーアンも皆も、二人が急に笑顔で固まった理由を知り、とても喜んだ。
話を聞いたギールッフの職人たちは、『自分たちも、音信が途絶えないようにしたい』と言い出し、縁あって関わったことを、その場の全員が意識する。
バーウィーは、ザッカリアを見て『偶にでも良い。一年に一度でも良い。会えたら』と微笑んだ。
彼の微笑みの想いは、皆も同じ。それぞれに関わった思い出がある。
ギールッフの彼らとは、この先の分かれ道で、一旦お別れ。それまでに、バイラのような良い方法を探そうと、皆は眠るまで話し合った。
お読み頂き有難うございます。




