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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1523/2965

1523. 別行動:精霊の都合により

☆前回までの流れ

疲労のタンクラッドが連れ出され、インクパーナで龍気と精霊結界の中和に限界の頃。シムが交代で『時の剣』をコピー。

今回、場所と視点が変わり、別行動中のシャンガマックを教える、シュンディーンの親・ファニバスクワンの場面。

 

 学びに通う、獅子と騎士。獅子はカワウソに変わって息子の学びを見守り、騎士はせっせと教えを覚える毎日。なのだが――



「今日は休みなさい」


「え。休み」


 水に入って、師たるファニバスクワンが開口一番、『休め』と言う。


 オウム返しに訊ねたシャンガマックは、抱っこしていたカワウソが、いつも通り、壺(※ここに入って待つ)に泳いで行った背中を見送り、もう一度精霊に『休み?』と訊き直す。


 ファニバスクワンは同じように頷き『休みなさい』とだけ答える。その理由が何か、言われた側のシャンガマックは気になってしまう。それ以上言わない精霊に、訊き難いけれど理由を教えてもらえないかと頼んだら。


「今日。お前に力を使うわけにいかない」


「あのう、俺が何かをしましたか?俺はまだ、そんなにちゃんと覚えていなくて」


「お前が理由ではない。シャンガマック。私の都合」


「あ。あの、はい。ええと、ファニバスクワンの()()っていうことは、あまり聞き出すのも良くないですが、俺は関係ない事情と解釈して良いですか?」


 そう、と頷いた精霊に、何だか戸惑う騎士だけれど。


 ファニバスクワンは『休め(※帰れってこと)』しか言わないし、シャンガマックも自分に非があるわけではないと分かったため、挨拶をして父の元へ行った。



「何だ。どうした」


 壺からちょこっと頭を出して見ているカワウソ(※可愛い)は、なぜか息子が来たので不審そう。


「今日はね。休んで良いらしいんだよ。ファニバスクワンに都合があるようだ」


「はぁ?(素)都合?何だ、昨日言えば良いじゃないか」


 わざわざ来たのにと、ぼやくカワウソに笑い、シャンガマックはカワウソを壺から抱っこして引き上げる。


「行こう。確認したんだ。俺が理由じゃないから大丈夫だよ。今日は帰ろう」


「早く言えってんだ。全く」


「怒らないでくれ。ファニバスクワンは精霊だから、きっと、俺たちのような感覚で交流しないんだよ」


 ぶつぶつ言い続ける、機嫌の悪いカワウソを宥めつつ、こっちをじーっと見ている精霊に苦笑いで『それでは明日』と挨拶した騎士は(※文句言ってると思われる)、カワウソを抱えて水面へ上がった。



 水から上がって乾かしてもらい、まだ朝も早い時間の空を見上げるシャンガマックは、『何かあるのかな』と独り言を落とす。


「何か・・・ああ・・・ああ?これか」


 カワウソは息子の言葉を拾い、ふと、顔を一方に向けて何かに気がついた様子。


「どうしたの。何かあるのか」


「いや、うむ。またお前に()()()()()()類だ」


「え!それじゃ、魔物が」


「待て待て、バニザット。俺の話を聞け。多分、お前じゃダメなんだろ」


 ハッとして驚く息子に、カワウソはすぐ止めて『ファニバスクワンがお前を帰した理由だ』と思い出させる。息子の眉が寄り、何度か瞬きして意味を理解しようとしているので、カワウソは座らせた。


「バニザット。お前じゃない、きっとシュンディーンだ。あの赤ん坊が動くんだ。だから」


「ああ~・・・そういうことか。俺は出て行っても役立たずか」


 ちょっと悲し気に目を伏せた息子に、カワウソはビシッと注意(※息子可哀相)。


「そんな言い方するな!騎士として戦うにしても、お前が呼ばれていない。何か込み入った状況なんだろ。

 俺とお前が呼ばれるなら、とっくに呼ばれている。()()()()()そう言った」


「イーアン」


 父の口から、彼女の名前が出ること自体、珍しいのに。父は、あの日の去り際に、イーアンと話した言葉を伝えている。

 シャンガマックは、うん、と頷いて『そうだ。彼女は、俺たちを呼ぶ時のことを』そう呟くと、カワウソも小さく頷き返す。


「そうだ。『呼んだら来てもらえるように』とか何とか、言っていたんだ。大事態なら、連絡つく・つかない関係なく、あいつなら呼ぶのを試す。それが無かったんだ。俺は感じていない」


「じゃあ。イーアンが話していた夢の・・・最初?まだ、俺たち全員が揃うわけではなく」


 カワウソは息子の言葉に『だろうな』と大したことなさそうに答え、息子の胡坐の上に乗っかると、彼を見上げて『一日休みだ。ただの、休みだ』と念を押した。


 困った笑顔を向ける息子に、ヨーマイテスは繰り返して伝え、自分たちが呼ばれる日ではない意味を教える。


「分かるだろ。お前はこの前、そう悟った。正しい。あいつらは戦っているかも知れないが、おっ・・・と。そんな顔するな。落ち着けよ、悪く取るな。

 俺たちは俺たちで、()()()()()()()()()()別のことがあるんだ。そう思え」


「その・・・それは。()()だから?」


「せっかくの休みだ。予想していない空き時間は、大体しなけりゃならないことがある時だ」


 父の言葉に、シャンガマックは分からなさそうに少し首を振って、続きを求める。カワウソの背中を撫でながら『思いつかない』と言うと、カワウソは息子に出かけると言った。


「どこへ?」


「お前と行くつもりだった遺跡だ」


「今?皆が戦っているかも知れないのに」


「だからそれと、俺たちは別なんだって。行くのか行かないのか」


 うーんと、困ってから、シャンガマックは頭を掻き『行くよ』と答える。カワウソは頷き、それから獅子に戻って息子に乗るように促す。


 シャンガマックとしては、気乗りしないというか、落ち着かない気持ちのままだが。


 だけど父の言うことも一理ある。これもまた、導かれていることなのかなと思いつつ、獅子の背中に跨って影の中へ滑り込んだ。



 ヨーマイテスとしては――


 ガドゥグ・ィッダン分裂遺跡が動き始めたことで、自分の行く予定だった場所まで()()()()()しまう気配を感じ、安全そうな遺跡には先に出かけておこうと考えた次第。


 もう。サブパメントゥ統一なんか、どうでも良くても。

 息子が気持ちを寄せてくれた『一緒に先祖の約束を手伝う(※1481話参照)』あの言葉に沿って、動けそうな場所は行っておくかと思い直した。


 行く道。粗方伏せた話として、目的地と理由を伝えた獅子に、息子は静かに耳を貸し『そうか』と気持ちを切り替えたようだった。




 *****




 精霊ファニバスクワンは、息子シュンディーンが荒野に移動したと知る。


 この前も同じことがあった。それはどうも、結界を龍の範囲に使う様子だった。一番近い水辺、地下鍾乳洞に移ったファニバスクワンは、そこからも離れている、荒野の一画にいるシュンディーンに応じる。


 ファニバスクワンからすれば、離れていたとしても問題ない程度。息子が力を使う範囲を訊ね、戻った答えに応じて注ぎ始めた。



 シュンディーンは、他の精霊の手伝いをしている。そして、あの子が生まれた理由である『人助け』にも適っている。それを求められた遥か昔の約束に、今、息子は小さな体で頑張っている。


 それを知る精霊の親は、誇らしげに微笑み、息子の使いたい分を幾らでも惜しみなく、補助の力として渡した。



「側にヴィメテカ。シュンディーンは守られて。ふむ。サブパメントゥ・・・・・ あれはまた、ヨーマイテスとは違う。しかし、サブパメントゥのような。

 ヴィメテカも、サブパメントゥが入っているが。それとも違う。誰か(←ミレイオ)」


 息子と一緒にいるサブパメントゥの正体。前回も一緒だった気がする(※細かいこと気にしない)。今回も息子と行動しているとは・・・と、少し気に留めたファニバスクワン。


 息子に力を与えながら、ふと思い出した。そう言えば、この前の川辺で、勇者と一緒にいたサブパメントゥ。あれがそうではないか。


「サブパメントゥにしては、龍も光も精霊も無事。ヨーマイテスとは異なる領域か。覚えておこう」



 なかなか面白い味方と行動する、息子の出だしに、ファニバスクワンは満足そうに笑う。


 このすぐ後、龍気が大地を貫くように行き渡ったのを感じ、鍾乳洞丸ごと、精霊の界域に変えた。膨大な龍気は、誰が対応しているのか、同じような拡張を繰り返しながら、どんどん空へ流されている。


 息子と、ヴィメテカが出した結界に、これまた別の者が、()()()()()()()()を発揮しているのも伝わる。

 これは何者かな、と思いながらも、特に問題なさそうなので、ファニバスクワンは息子の頑張りに意識が向く。


 結界を張って誰かを守る、息子の仕事。『この状況。結界でどこまで持つか』少し気になる親心。


 精霊の界域まで作れるのは、息子にはまだまだ先の話――



 息子の能力を、これからも補佐してやろうと考えていると、暫くして、龍気と結界の気が、乱暴な勢いで凝集され始め、ファニバスクワンの表情に不愉快の色が浮かんだ。


 これは。あいつらでは(←男龍)。


 龍族の小生意気な輩。先ほどまでの、特別気にならない範囲の何者か(※親方)ではない。この力の膨れ方、相手を引っ手繰るような力の使い方。



「私の息子が怯える。本当に自分勝手な輩だ」


 息子は小さいから、疲れ始めているのに。そこに加えて、あの乱暴な輩。

 精霊は苦虫を嚙み潰したように顔を歪め、どこかで男龍を捉まえて説教しようと決めた。


 それに―― あいつらに、私の息子の存在が影響を受けるわけもないが、まだ生まれたばかりで『約束の記憶』に怯える。


「この前、伝えたなら良かったか。終わり次第、シュンディーンに教えるか」


 龍族に怯えてしまう息子の力が、先に比べて一層弱まったことに、親のファニバスクワンの苛つきが激しくなった。


 精霊は思う。この龍気が消えたら、あいつらは空へ戻る。そうしたら、シュンディーンを呼んで伝えておこう。



「ヴィメテカ。あれにここまで、息子を連れさせよう。息子の側にいる、サブパメントゥも一緒に」


 良い良いと、一人頷いた精霊。雑で乱暴な男龍にイライラしながら手伝い続け、龍気が完全に消える頃、ヴィメテカに呼びかけた。

お読み頂き有難うございます。

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