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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1516/2965

1516. 序盤空間亀裂 ~ティタナン、カベテネ地区間の次元

☆前回までの流れ

精霊ヴィメテカに、テイワグナの道・これから起こるであろう白い筒の話を、イーアンは届けました。この話をしていた最中に。

今回は、パンギの町にいるドルドレンたちの場面から始まります。

 

「ヴィメテカ」


「ここじゃないな」



 離れた空が、赤く光った一瞬。音が遅れて、乾いた空気を渡る。イーアンは、ハッと時間の経過に気が付いた。


「マズい。時間が流れて」


「待て、イーアン。行くな」


 知らないうちに、時間が経っていたと思ったイーアンが、急いで翼を出そうとした時、精霊は止める。なぜ、と精霊を見たイーアンは、彼が何かを知っているのかと思いきや。


「お前の()()の話がまだだ」


「ゲッ。そうですが、でも今。もしかするとあっちで、一刻を争」


「話が終わっていない。今お前が行けば、答えがないまま。ここに問題が生じたら」


「うへ。それもそうだけど」


 意外に冷静なヴィメテカに、でも町が襲われた直下だったりとか困るよ~・・・と、ガン見するイーアン。ハラハラして、赤い空が見えた方角と精霊を交互に見る。


 でも。精霊は静かに首を横に振った。


「俺はさっき言った。『もう何かが変化しようとしている』。それは、今の音と光の続き。ここインクパーナで変化の振動を起こす」


「何。何ですって。じゃ、今のはここと繋がって」


 多分そうだろう、と精霊は答え、イーアンが気にしている方角をちらと見る。それから『行く前に、俺の希望した存在の有無を』と短く言った。


 イーアンは急いで思い出す。可能性を皆に探り、直感的に条件に適うのは二人・・・シャンガマックか、シュンディーン。でもシュンディーンは。


 その迷いと疑念を感じたヴィメテカが、女龍の顔にちょっと背を屈め『この前の赤ん坊、シュンディーン』その他にもいるのか?と訊ねる。


「シュンディーンは、私に触れません。と・・・思うんだけど~ 嫌がっているから。でももしかすると、大丈夫かも知れないし。龍気の強い状態を、赤ちゃんは嫌がるのを知っています。

 もう一人は、精霊の力を操る人間で、龍気にも問題ないのですが、彼は」


「それ。その者を寄越せ」


 違うの、その人今いないの、と困るイーアン。送り出したばっかりだよ~ 呼んでも来ないよ~(精霊に名指し指名)


 名指し指名の理由もちょっとしか知らない。それもざっくり伝えると、ヴィメテカも困ったように黙り、じっと女龍を見て『では、シュンディーン』とすぐに動ける赤ちゃんを頼む。


「シュンディーンも、ここに龍気が満ちてはどうなるか。心配です。どうしましょう」


 精霊は何か考えでもあるのか。すぐに『シュンディーンを』と繰り返し、自分が補佐をしようとしていることを話した。


「強い龍気に中てられたら、赤ちゃんだから」


 オロオロする女龍に、精霊は問題ないだろうと言う。そう思う根拠に『ワバンジャにも結界を作らせる。外側に自分たちの強い結界も作る』つもりであり、そのため、龍気は届かないと教えた。


「え・・・あそこ、丸ごと?そんなこと出来るのですか」


「俺とシュンディーンは近い。シュンディーンは結界の種類を変える。二重結界だ」



 二重結界の外側は、龍気他諸々の異種族の気を防ぐ『質』を持っていないと出来ない、とヴィメテカは言う。だから、()()()同士・二人分の結界で、龍気は大きく遮れると考えている様子。


 赤ちゃんに出来るの?と心配になるが、淡々と計画を教えたヴィメテカは、イーアンの心配は気にしない。すぐ行動に移るに当たり、今何をするべきかを決めた様子。


「よし。では戻ると良い。戻ってシュンディーンをここに。この前のミレイオと一緒でも。お前も来るな?」


「えーっと。あちらの状況に左右されますが。でも、はい。()()()が発生すると感じれば、急いで」


「発生する前に来い。特にシュンディーンは、すぐに()()()


 とりあえず『行って良し』のサインが出たので、イーアンは了解し『ヴィメテカ、無事で』と叫ぶと、思いっきり空へ飛んだ。




 *****




 ドルドレンたちのいる町も、大騒ぎの最中。

 オーリンはあっという間に龍を呼んで、ガルホブラフと共に空へ上がった。


 続いてタンクラッドも、ミレイオに早口で荷馬車を託し、合流中のギールッフの職人に後を頼んで、バーハラーと一緒に様子を見に出た。


 同じ時、ドルドレンも龍を呼び、バイラと部下に馬車を守るように言いつけ、『何を見つけてもすぐに戻る』と言い残すと、空へ飛んだ後。悲しいかな、そうは行かないのだが。



「フォラヴ、どうしよう」


 ザッカリアは、嫌な想像が止まらない。馬車の御者を頼まれたフォラヴの腕に縋りついて、『何か始まる。俺は見た。魔物が()()()()()()』と焦る口調で告げる。


 子供の狼狽える腕を撫でるフォラヴも、肌にちりちりと焼けるような感覚で感じている。


「溢れる・・・この町だけではない、被害の可能性が」


「そうだよ。俺たちだけで守れるか。アギルナンみたいだ!」


 いきなり見えた、赤い閃光の稲光。追いかけるように空気を劈いた轟音は、魔物の声のようにも思えた。とすればもう、魔物はザッカリアの未来予知どおりに。


 そして、自分の中の力がぐんぐん反応していることも、これが予言のままでは・・・と――



「フォラヴ、こっちです!町役場には、魔物が来たら鱗を使うように言いました!」


 総長を乗せた龍の影が、小さくなった空を見つめている二人の騎士に、バイラが大声で呼ぶ。町役場から出たばかりで、急いで中へ戻って伝えたバイラは、片手に荷袋を握る。


「警護団と、自警団にも配らせます。大急ぎで、全ての階層を回ります。フォラヴとザッカリアは市場へ降りて下さい!」


 タンクラッドさんたちと合流して!と急かすバイラは、市場への近道を指差し『あの角から中心へ、その後は』と道順を教えてから、困惑しながらも頷く二人に『私も後で行きます。まずは彼らと一緒に』と短く終えた。


 言い終えると同時に馬を走らせるバイラの背中を見て、『私たちも』さっと向かう方向に顔を向け、フォラヴは馬車を出した。


 いざとなったら・・・この変わった町を攻撃されたら。

 自分が()()()()()()()をしなければ、と緊張に胸を叩かれながら。



 

 *****




 金色の鎌が飛ぶ空中。タンクラッドの剣が唸りを上げて、北に続く道を逸れた地点で、魔物の群れを倒す。


「ドルドレン、俺とお前が残るぞ!オーリン、イーアンを呼べ」


「イーアンは近づいている!」


「オーリンは俺から離れろ!ドルドレン、俺に力を注げ。バーハラーとショレイヤの龍気を使っちまう」


 タンクラッドの怒鳴る命令に、ドルドレンを乗せたショレイヤがさーっと離れて、乗り手を振り返る。金色の瞳に、既に龍気を遣われていそうな困った様子を見て、ドルドレンは急いで頷く。


「待っていてくれ。急ぐ。でもお前たちの龍気も、区別なく使われてしまう。どうしたものか」


 勇者の冠が発動し始め、ドルドレンの抜いた剣に、勢いをつけた橙色の光の柱が膨れ上がる。それでもショレイヤは心配そうで、タンクラッドの側へ行きたがらない。


「おお、ショレイヤ。お前は分かっているのか。バーハラーも戸惑っているだろう。あれは乗り主の間近。可哀相に」


 まして、バーハラーは、時の剣の力に死にかけたのだ。それを思うと、勇猛な龍の動きと、覚悟にも似た戸惑いの首の振り方があまりにも正反対で、ドルドレンは可哀相で仕方ない。


「タンクラッドも分かっている。どうすれば良いのか。しかし、俺と彼でなければ、ここは」


 ハッとして、離れて行くオーリンに振り向き『オーリン!』と名を叫ぶドルドレン。


 こちらを見た彼の顔に『先に町へ!フォラヴたちに状況報告を』それだけ叫ぶと、了解を示すオーリンの腕が上がったので、ドルドレンはすぐにタンクラッドの側へ向かった。



 タンクラッドの側へ来たドルドレンの龍。彼の体と剣を包む、橙色の上下に伸びた、力強い太陽柱。それを見たタンクラッドは、時の剣の力を使い始める。


「ドルドレン、龍たちを守れ!俺に力を注ぎながら」


「無茶言うのだ!やったことない」


 勇者だろ!と怒鳴られて、全ての責任を自分に投げられたドルドレンは、慌てて頑張る(※龍二頭と親方保護)。こうした時のタンクラッドは、ドルドレンよりも判断が早くて、独断と命令で貫く。


「ショレイヤ。もし俺のせいで、お前が弱ってしまったら、俺は毎日見舞いに行くから」


 自信がないことを先に告げる乗り手に、ショレイヤは困った顔で振り向いて頷く。


 突っ込む藍色の龍。燻し黄金の龍の横で、二人の男の剣に合わせて、次元の歪を入り口に。

 溢れるようにボロボロと出て来る魔物を逃さないよう、二頭の龍は吸い取られる龍気を感じながら飛び回った。



 彼らの眼前の光景――



 時の剣の大渦を作る、魔物を塵に変える竜巻。そのすぐ後ろに、青空を縦に裂いた黒灰色の別次元。強烈な禍々しい邪気を噴出する、魔物の世界。


 それは、テイワグナの大津波戦で見た、あの津波の中から飛び出してくる無制限にも似た、魔物の光景だった。



「中へ入るのか」


 タンクラッドの大渦が一瞬止んだことに気が付き、ドルドレンが叫ぶ。タンクラッドが振り向き様に首を横に振る。


「違う・・・来た!」


「何が」


 言いかけて、ハッとしたドルドレンも振り返る。龍たちは既に、溢れて落ちる魔物に目もくれず、上空へ自分の意思で上がる。



 真っ白い光の玉が、物凄い速度で突っ込んできて、『ふざけんな!!』の銅鑼声と共に、バンっと白い大きな龍が翻った。

お読み頂き有難うございます。ブックマークを有難うございます!

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