1510. 新しい情報①② ~龍の殻・馬車の民
☆前回までの流れ
町の中、用で来ていたギールッフの職人たちと偶然に出会い、また、イーアンは地元の魔物状況を調べた後。午後の予定である「パヴェル邸」に向かう時間、道すがらに話す様々な情報・・・
食事処の客が減った、食事屋も休憩に入る頃。
旅の馬車と、ギールッフの彼らの馬車は動き出した。ギールッフの職人たちは、普通の宿を取っているようで、市場の上の層に進む。
離れて行く彼らに手を振り、『また明日!』と挨拶して道を分かれた、旅の一行。次はパヴェルの屋敷へ向かう。
貴族の屋敷は、町の最下層。とても広い丘の裾野一帯を占める。
浮かない顔のバイラが、ぎこちない微笑みで『間違えようがないですね』と振り向いたので、御者台のドルドレンとイーアンも、ぎこちなく笑顔を返す。
旅の一行は、緩やかな下り坂の続き、徐々に整備の行き届いた、広々した道へ入った。
【新しい情報】―― その①『龍の殻』 ――
食事処から、パヴェルの別邸へ向かう、この間。
イーアンはドルドレンに、ギールッフの職人に話した理由や、地元の子供の情報で調べたことを、詳しく伝えた。一通り、聞いたドルドレンは、一人、忙しかった奥さんを労う。
聞かせてもらった最初は、シャンガマックとホーミットについて。
「ドルドレン以外には、『始祖の龍のお告げ』であることを言いませんでした。それは」
「分かっている。それを言えば、皆は更なる詳細の確認を求める。男龍に。だろう?」
はい、と答えるイーアン。でもそれは、男龍に伝えることでもないと判断しているので、ドルドレンも理解していた。
「でもホーミットには話したんだな」
「彼には正直に・・・男龍は、ホーミットの力に気が付いている様子だから。もしもこれから白い筒が発生したら、一緒に動いているホーミットは疑われます」
ドルドレンとしても、推測していた範囲の話なので、この話題についてもっと聞きたかったが、イーアンは『それが理由で彼にはちゃんと伝えて、彼に疑惑が行かないようにした』と言ったのでこれも了解した。
イーアンなりに、ホーミットを守ろうとしたんだと分かる。なので、話を変えた。
「イーアンがイェライドたちに、急に『もうすぐ、テイワグナは魔物が消えるだろう』と伝えた時は、彼らに教えてしまうのか、と驚いたが」
「いずれにしたって、魔物が終わる日は来るのです。終わるってことは、次の国に出るわけでしょう?
そうしたら、魔物製品を作れるようになった彼らに、ハイザンジェルの工房同様、3つめの国へ輸出を、お願いすることになるんですもの」
「ガーレニーは、普及に同行したがっていたな(※イヤ)」
ハハハと笑うイーアンは、『鎖帷子が入用なら』と条件を出して、私たちで間に合わない分野であれば、同行も頼むかも・・・と。
「でも。馬車に乗せるかどうかとなれば、人数の制限あります。その辺の解決が出来ればの話でしょうね」ニッコリ笑って、そう言った(※常に業務的)。
目の据わるドルドレン。
龍の女というのもあるし、『イーアン好き』が多いのは仕方ないが、好かれているのに(※本人あんま分かってない)連れて行くのはどうなの、と思う。
『条件が適えば、まぁ良いでしょう』くらいの、奥さんの度量にも参る。この人、こういうところ、気にしないんだよなぁ、と悩む旦那。
いつも目線が『仕事』だから・・・仕事優先で役に立つと判断すると、了承してしまうイーアン。
旦那が悩んでいる横で(←ガーレニーが来る心配)イーアンは話を進める。
「私が『魔物が終わる日も近い』と確信したのは、さっき話した龍の殻に会ったからです。あの仔に会わなかったら、男龍に何か知っているか、訊きに行こうかと思っていました」
そう言うとイーアンは、空を見つめて『ただ・・・男龍も予言はするけれど、時間は曖昧なのですよね』呟きながら小さく頷く。
「夢でも始祖の龍は、『もうじき』って。お伝えしたように、『もうじき』しか、分からないわけですよ。
でも私たちの・・・私も人間的感覚としてもらって。人間の『もうじき』と、龍族の『もうじき』。これ全然違います」
ドルドレンもそれは思う。人間以外の存在は、時間の流れがあってもなくても関係ない印象。男龍たちと話した時、毎回そうした感覚は受けた。
彼らの『今』は、本当に極端なくらい直下だったりするのに、『もうすぐ』の言葉には、物事の発生に遠近の差がある。
同感だと答えたドルドレンに、イーアンも『でしょ?』と困った顔をした。
「だからね。その曖昧さに焦って、ヘマしたり。逆に『まだかも』と構えて、慌てる羽目になったり。そういうの、私は嫌ですから、どうにか・・・正確さのある、日数の残りを知りたかったのです。
近いうちに、男龍が何か知っているか、聞きに行こうかと思っていました。例え曖昧でも、聞き出せたら情報には違いないわけですし。と思っていたら」
「何だっけ。名前」
「モドゥロバージェ。素敵なお名前ですよ。龍の殻ちゃんです」
うん、と頷くイーアンに、ドルドレンもニコッと笑って『カッコイイ名前である』と褒めた。トワォも良い名前だよ、と続けると、イーアンはしっかり頷く。
「勿論です。あの仔も、海チック(?)な良いお名前。モドゥロバージェは、地下っぽい感じ」
何か判別するものがあるのか。イーアンは名前の質を褒めてから、改めて『龍の殻ちゃんは、ちゃんとお話し出来る仔です』と自慢げに教える。
「あの仔は、私の龍気を感じて現れ、女龍と知って、嬉しそうに自己紹介してくれて。それから、龍気がどこでどんな風に増えているか。いろいろ、ぜーんぶ」
「うん。さっき教えてくれた。モドゥロバージェが、魔物退治をするに至った理由」
――先ほどの話。ドルドレンに教えてくれた『イーアンと、龍の殻の出会い』。
この町の祭に使う、舞台裏に似た、地下の洞穴の奥。
魔物が棲んでいる、と聞いたイーアンが、横穴を見つけて入り、翼で飛んで進んでいたところ。奥から大きな影が出て来て、それはどことなく龍に似ている姿だったと言う。
危険な気がせず、イーアンが話しかけたところ、相手はすぐに『龍?』と訊ねて、イーアンが頷くと喜んだ。相手が龍の殻と知ったイーアンは驚いた。
龍の殻は、『少し前、この辺りに龍気が流れた』と、自分がいる理由を伝える。
時期的にそれが、どうもインクパーナの一件の頃と近いと分かり、それも訊ねると、龍の殻は『そっちも行った』と言う。ここは通りすがりで、『自分が通った時に魔物がいた。でも通過した』・・・と。
つまり、モドゥロバージェは意識して倒したわけではなく、通りすがりに倒した自然体。
イーアンが感じた『龍の殻』の質は、海の仔・トワォと違って、龍気を糧にしている様子。
かと言って、イーアンのような龍相手に吸い取るわけでもない。龍気を体にまぶして、本来の能力の足しにしているのかも、とイーアンは話した。
なくても生存していられる。だが、あると滅法、身に着けた龍気の質が高くなる。
『本来の能力+龍気』は、『濃厚で強烈な龍気』の被膜のように、『龍の殻』たる、彼らを守る・・・らしく。
イーアン曰く、『だから、龍の殻って名付けられたのかも』としみじみ話し、あの龍気の密度で触れたら、大方の魔物は倒せると思う・・・ことも、感心していた――
「そうです。インクパーナで動いた龍気を辿って、モドゥロバージェは移動したでしょ?で、これからまた増えそうな場所を教えてくれたの。だからあの仔は、この場所から移動していないのですよ」
「それが・・・もうじき、と見当を付ける理由か」
「はい。あの仔が移動しないのは、待っているからです。龍気が爆発的に増えるのを感じ取っているのですね。
アギルナンなどもそうだったらしいです。地名はあの仔に分かりませんから、ある程度、察しを付けての判断ですけれど」
「そうだったのか・・・それでイオライセオダも」
「みたいですよ。でもあの仔じゃなく、別の『龍の殻ちゃん』ですって」
イーアンは、気に入ると『ちゃん』付けする。よっぽど可愛かったのだろう。
しかしイーアンの可愛い視線は、一般と異なるので、ドルドレンは相手の可愛さが分からないものの、とりあえず了解した(※皿も『お皿ちゃん』扱い)。
とにかく。龍気が爆発的に増えるのが秒読みであれば・・・それが『最初の』合図。
そして、イーアンが龍の殻・モドゥロバージェに次を訊ねれば、次までの予測―― この場合、日数の見当 ――も立つ、ということらしい。
【新しい情報】―― その②『馬車の民』 ――
御者台で二人が話し合っている間。
聞こえる距離を進んでいるバイラだったが、その胸中はざわめき、一つのことに鷲掴みにされていた。
「俺が見た、あの馬車・・・やっぱりそうだったのか」
昼食の時に、ギールッフの職人たちが何気なく振った『そう言えば、馬車の民がさ』の話題。
総長が『ハイザンジェルの馬車の民』と知って、昨日、テイワグナの馬車の民とすれ違った、そのことを教えてくれたのだ。
その場にいた自分たちは全員、ビックリして、どこで?と質問したら、道の方向から『ギールッフじゃないな』と彼らは顔を見合わせて頷いた。
恐らく、ここからもう少し西へ向かうだろうと言う。脇道を進んでいく馬車の列を見たので、行き先は『ニカファン』じゃないのか、と誰かが呟いた。
ニカファン。インクパーナ方面。岩場ばかりの場所を選ぶ、馬車の民が行きそうな地域。
水が少ないけれど、彼らは周回しているから、きっと水の伝う岩場を知っているのだろうと、バイラは思った。
この情報により、総長たちの顔が一気に明るくなった。バイラは沈んだ。馬車の雰囲気をさらっと聞いた限り、嫌でも思い出した過去のあの夜。
「ああああああ」
顔を俯かせて、心の傷に眉を寄せる警護団員。ふと顔を傾けると、話を中断して心配そうな目で見ている夫婦(※総長&女龍)。
「あ、いえ。何でもないです」
繕う笑顔。二人も分かっているように、強張った笑顔で『それなら別に』と返してくれた。
この時間、荷台でもちょっと変わった情報を受け取って、段々口数が少なくなる親方がいた。
ただ、親方の場合は、元気が失せる方の口数の減り方ではなく・・・・・
「ふーむ。オーリン。行けないと知っても、行きたくなる」
「ハハハ。そう言うと思った。でも、ちょっとこればっかりはな。難しいぜ」
「俺が見に行く分には、平気そうにも思うがな」
オーリンの『あのさ、覚えてる?』の一言から始まった話。
それは、龍の民の町に遺る『初代・時の剣を持つ男』の地上絵の話。親方は、胸を掻き乱される・・・前世の記憶に漲っていた。
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