表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1496/2965

1496. 別れの宣告 ~仲間意識、家族意識

☆前回までの流れ

シャンガマックとヨーマイテスに加え、赤ちゃんシュンディーンも一緒に魔物退治に挑んだ午前。

精霊の力も大盤振る舞い、サブパメントゥの強力な強さも拍車をかけた、迫力ある戦闘に感心した旅の一行でしたが。

この3人の組み合わせに、少々、問題がありました。そして、ヨーマイテスはそれと別に、赤ん坊のことで伝えることがありました。今回はそのお話・・・

 

 魔物退治から戻った仔牛は、道の脇に停車している馬車の後ろに現れた。


 丸ごと全て片付いたのを見ていた皆は、仔牛を見て、出発・・・と馬車に乗り込む。


 乗り込む仲間に目もくれず、馬車の横を通り過ぎた仔牛は、トコトコと、ドルドレンのいる御者台の横まで来た。じーっと見つめるドルドレン(※胸中不安)。自分を見上げる仔牛は、口を開ける。



「ドルドレン」


「倒してくれてありがとう。強かっ」


「俺とバニザットの強さは、()()()()だ。お前たちが集める魔物の体はなくなったが、それは気にするな」


 上から目線で『気にするな』と言われ、遠目で見ていても魔物が塵になったのは分かっていたので、ドルドレンは頷く(※気になるけど)。野太い声の、可愛い顔した仔牛は続ける。


「俺たちは暫く一緒に動くが、この道の先、どこへ向かうつもりだ」


「え?ああ・・・そうだったな。伝えていなかったか」



 ホーミットたちは懸念があって、同行を決めた。懸念は()()()のことだと思うが、それもはっきりは言われていない。


 あの祠のひずみを封じた際、『影響の余波がどこかで現れては危険』と判断した様子で、それで一緒にいるわけだが、シャンガマックと顔を合わせるのも食事時くらい。


 僅かな食事時。行き先の話など、互いに情報を交わす時間も持たなかったので、ドルドレンはこれから自分たちが、どこへ・何をしに・移動しているのかを、手短に伝えた。


「バニザットが伝えた、シュンディーンの親の話は。この道のりに含まれているのか」


 伝えるなり、間髪入れずに仔牛は訊ねる。ハッとしたドルドレンは『勿論』と答えた。仔牛は数秒黙ってから、進行方向に顔を向けた。


「良いか。この道を、そうだな。この遅さで進むなら、明日くらいか。道が分かれる。お前たちの通過目的地に町があるなら、その前だ。丘を下るように道が伸びる先に、()()()()だろう」


「待て。それは、もしや。シュンディーンは」


「他にないだろ。俺の今の話は()()に沿っている」


「あ・・・うむ。そうだな」


 もう返すのか・・・一瞬、焦ったドルドレンの胸中を知ってか知らずか。仔牛は少し黙った後に続けた。


「シュンディーンの親が引き取った後、町の方向に進めば、上がる道が見えるだろう。大して時間は変わらないぞ。()()()()()()()お前たちが付き添っていたんなら、俺の指示を」


「分かった。分かった・・・有難う」


 最後まで聞く気になれなくて、ドルドレンは遮ってすぐ、仔牛にお礼を言った。仔牛は言いたいことを伝えると、後ろへ行ったので、ドルドレンは馬車を出す。



 前で聞いていたバイラが側に来て、進み始めた馬車の横に並び、不安そうな顔の総長に、同じく不安げな面持ちを向ける。


「バイラ」


「ええ。聞いていました。シュンディーンを親の元へ」


「もう・・・早いのだ。いや、早い遅いは俺たちが決めることではないのだが」


「気持ちは分かりますよ。せっかく仲良く過ごしているんだから」


 そう言うと、バイラは二台の馬車の後ろを歩く仔牛を見て『シュンディーンは、ホーミットたちと一緒なんですね』と呟いた。その声は寂しさを隠さず、別れを宣告された後の時間を惜しむ声。


 手綱を取りながら、ドルドレンもバイラの後ろを向いた顔を見つめ『()()』と。口にしたくないように、小さな声で『別れまでの期限』を繰り返した。




 仔牛の中では、力を使った後のシュンディーンが、ヨーマイテスにくっ付いている状態で寝ていた。


 肩に乗ったまま寝ている小さいやつは、ヨーマイテス的には嫌だが、息子曰く『赤ちゃんだから疲れたんだよ』と、(もっと)もらしい理由を言われたので我慢する。


「二種類の動物が混ざっている・・・『あの絵の姿に()()()()()はいないか』と、ファニバスクワンが俺に訊ねた時。

 俺はシュンディーンの話をしたが、似ている特徴が、そのまま()()()とは捉えなかったな」


 何の話かと思えば、眠っている赤ん坊を見つめ、息子は小さな鉤爪のある指を撫でて、『聖獣の入った赤ちゃん』神聖そうな面持ちで呟く。ヨーマイテスは、息子の見上げた視線を受け止める。


「そうだな。多分」


「サブパメントゥだけじゃなく、精霊が関わったから?」


「聖獣、となればな。そうだろうな。だが、前から何度も言っているが、俺は()()()()()()()の存在そのもの、どうでも良いから知らなかったんだ。知っていたとしても、直結しない知識で浮遊しているような具合だ。

 だから俺に確認しても、俺だって考えたこともない話をしているんだ。もっと知りたいなら、遺跡にでも行けば、情報は残っているだろう」


 父の話に、そうだったね、と頷いて少し考えるシャンガマック。父は、いい加減、赤ん坊を離したがる。

 赤ん坊をちょっと掴んでは、息子の顔色を見る父に、シャンガマックは笑う。



「さっき・・・戦闘の前だが。シュンディーンは、タンクラッドさんでも、都合良いように聞こえたんだけれど」


「気にするな」


「いや。気にしていないよ。だけど、もしヨーマイテスがこの状態に不満なら、タンクラッドさんに預けてもと思って」


「あ。そうだな。お前は優しい(※ムスッとしていたから心読んでいなかった)」


 ということで、寝ているシュンディーンはあっさりと馬車へ戻される。


 シャンガマックが抱っこした時点で目を覚まし、慌ててヨーマイテスにしがみ付こうとしたが、仔牛を出たところで受け渡しされたので、赤ん坊になす術なく。


 不服そうな赤ちゃんは、荷馬車へ運ばれた。


 タンクラッドは寝台馬車の御者をしていたので、『こっちだ』とシャンガマックを呼び、褐色の騎士から赤ん坊を引き受ける。

 他の者はまだ、ドルドレンの聞いた話―― 明日にでも赤ん坊を渡す ――を、知らない状態。



「シュンディーンもお前も凄かったな。ホーミットも強いとは知っていたが、見事だ」


「有難うございます!皆の力になれるように頑張った甲斐があります」


 それじゃ、と笑顔で後ろに戻った騎士を見送り、片腕に抱っこした赤ん坊を見たタンクラッドは、赤ん坊も褒めてやる。赤ちゃん、どことなく不満そう。


「何だ。褒めてるんだぞ。お前は、いつも凄い力を発揮してくれるが、今日もだった」


「んん」


「嫌そうだな。何か、思い通りじゃなかったんだな。でもまぁ。お前が強いのは承知だ。頼もしい」


「んんん」


 赤ちゃんのボヤキに笑うタンクラッドは、腕に貼り付いてウトウトし始めたシュンディーンに『お疲れさん』と労って微笑む。

 小さなぷっくらした赤ん坊に、頼もしいような、大切なような、楽しい愛情に浸りながら・・・・・


 このすぐ後。眠った赤ん坊を、引き取りに来たミレイオに渡したところで。馬を下げたバイラに、『道順変更』を聞くまで――




 *****




 仔牛の中でも。馬車のそれぞれも。午前の時間は、あっという間に過ぎ去った。


 昼休憩時も会話は途切れがちで、食事を受け取るシャンガマックは、ミレイオの視線に言葉以上の憂いを見て驚いた。


 どうしたのかと、つい口にしかけたが、フォラヴがすぐ後ろで『私も』と、並んだ配給に腕を伸ばしたので退き、気になるものの、食事を貰って父の元へ戻った。


 食事中、シャンガマックはヨーマイテスと、特に話をせずに終える。

 食べ終えて食器を戻したら、やはり皆が沈んでいるように見え、これはシュンディーンのことだろうと察しを付けた。


 とは言え、自分から切り出そうにも言い難い。

 シュンディーンの話をしたのは父であり、父のせいの様に思われては困ると考えたシャンガマックは、食事のお礼を伝えてすぐに離れた。



 馬車の一行は出発しても、側にいる相手と少し話をするだけ。話題はシュンディーンとの別れについて。

 中でもイーアンは、触ることも出来なかった、小さな赤ん坊・・・シュンディーンを、口数少なく見つめ続けた。


 シュンディーンは、荷台でミレイオに抱っこされて、午後を過ごす。

 ミレイオは、シュンディーンが眠っても、彼をベッドに戻そうとしなかった。


 その温度を感じていたいように、何度も顔や耳を撫でては、静かな溜息をつき、眠る赤ん坊を抱っこした体を、ゆっくりと前後に揺らし続けた。


 オーリンはイーアンの横に座って、何も言わない女龍の視線が、赤ん坊に注がれているのを見守る。


 鳶色のその目に、感情が溢れているように見えもするし、全く無表情にも見えるが、こうした時が一番、イーアンの心の揺れの大きい時ではないかと・・・・・


 そう、オーリンには感じられ、彼女は()()()()()()()()赤ん坊に、その後一度も、触れることなく過ごした時間を、ただただ見送るだけで完了してしまうことに、気持ちがさざ波だっているかも、と思う。


 それは、オーリンからすれば、触れられない親の立場のようにも・・・自分が子供の頃、空から消えた日。俺の親は、こんな心境だっただろうかと・・・何故か、イーアンの様子を通して感情が行き交う。

 イーアンの淡々とした横顔に、オーリンは胸が絞られるような切なさを感じていた。



 前の御者台でも、ドルドレンはぶつぶつと気持ちを呟き、それを聞き続けるバイラは、相槌を打つような具合。


 ドルドレンは子煩悩。お風呂に入れない日でも、体を拭いてやったり、おむつ替えは常に自分の仕事としていたりで、すっかり馴染んでしまった今。


 いきなり『明日』、赤ん坊がいなくなる衝撃に、気持ちが追い付かない。


 理解こそ頭の中ではするものの、自然な愛情の行く先が消えることに、心が悲鳴を上げそうなほど・・・自分でもここまで、赤ん坊に気持ちを持って行かれているとは思わず、不思議な家族観に抵抗できない苦しさを味わっていた。


 バイラも、シュンディーンがいなくなる日が、まさかこんなに急とは考えていなかったため、短い期間の思い出に心を掴まれながらも、『俺もいつかは皆と離れる』その日がいつなのか、と。

 誰に言うことも出来ない胸の内に湧いた、二つの寂しさを抱えていた。


 寝台馬車の御者で見つめている荷台は、タンクラッドにも少なからず寂しい光景。


 子供に執着などない親方でも、子育てした時期はある。若かりし頃、生まれた子供をあやしたり、何か作ってやったり、食べさせたり、一通りの世話をした。

 子供が二桁になる頃、女房と一緒に出て行くまで、会話は少なくなっても気にはかけていた。


 とうに忘れ去っていた感覚は、この期間に新しい相手を前にして蘇り、普通の人間の赤ん坊と違うシュンディーンに、心の()()()()()()を通過した、異なる愛情を育てていた、と知る。


「嫌なもんだな。()()出て行くのか」


 笑うに笑えない皮肉な感覚。シュンディーンとは長い付き合いではない、と分かっていたのに。いい年したオッサンが、何を悲しく思うのやら、と。見つめる目が、眠る子供から離れない。


 

 寝台馬車にいるフォラヴとザッカリアは、中年組よりも・・・もう少し気持ちが若い。しかしそれは、若いから浅い、ということではなく。


「ザッカリア。元気を出して」


「フォラヴだって悲しそうだ」


「それはもう。とても悲しいです。私はあの子に触れなかったけれど、愛らしい赤ちゃんですもの」


「俺。こんなに早。く、いなくなる。なんて。嫌。だ」


 涙で続かない声に、フォラヴはさっきから、ザッカリアを抱き寄せて慰めるしか出来ない。


 フォラヴは赤ん坊に強い思い入れはないが、『失った兄弟』の記憶がちらつく。シュンディーンとの旅路は、年齢差もあって、幼少時の記憶に響いたのだろうと思う。


 しゃくり上げて、鼻をすする度に、ふんふん泣くザッカリアを抱き締めながら、せっせと背中を撫でて『この日が来ると分かっていました』と受け入れる促しを続ける。


 別れを繰り返すことに、慣れはしないザッカリア。特に小さな赤ちゃんだと、毎日頬っぺたを撫でたり、頭にキスをしたりして、可愛がっていた分、辛くて仕方ない。


「男龍の。子供。もね。俺のおとうと。だけど。シュンディーンも・・・ね」


「分かっていますよ。舌を噛みますよ。泣きながらしゃべってはいけません」


「だって」


 泣き続けるザッカリアに、励ます言葉は物足りず。フォラヴも、思うところ多い感情の複雑さに、少し一人で考えたい気持ちがあるが、今はただ、ザッカリアを慰めるだけ・・・その時間が、午後の全てになった。



 旅の馬車は沈鬱。


 この日。夕方の野営地は、川の見えない角度で馬車を停め、皆はシュンディーンを殊の外、可愛がった。

 誰かが何かを言うごとに、場は静まったが。


『明日』―――


 その言葉が脳裏に過ると、再びまた、シュンディーンへの想いを誰かの口が伝えるような。そんな夜だった。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ