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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1484/2965

1484. 総長の教え・昼の地震

☆前回までの流れ

馬車の時間、親方がイーアンに悩みを話しましたが、理解はすれ違い。オーリンとミレイオは、話せる範囲の変化を気にしながら、白い筒について予想を話していました・・・

 

 ミレイオがオーリンと話している間。

 前の御者台にいるドルドレンは、元気のない奥さんが、横に座って話すことを聞いていた。



「言えないことがあっても仕方ない。俺も総長の立場になってから、そうしたことを感じた」


「ドルドレンは、訊かないですね。それに私が言葉を選んでも、そこで止めないと言いましょうか」


「訊く時は訊いていると思うが、先を求めない時もある。言い難そうなことは、特にイーアンの立場では増えているだろう」


「平気?聞かなくても」


 イーアンは、伴侶を見上げる。ドルドレンは前を見ていた顔を向け、イーアンを見て、眉をちょっと上げた。


「イーアンが言えない場合。イーアンは、自分で責任を取る。()()()()()()()()()()のだ。

 イーアン一人だけを動かしているようで、何とも歯痒い気持ちはあるにせよ、立場に応じた行動を取る人だと知っている。

 おかしな言い方をするが、それは俺たちが()()()()()()()()()()()だ」


 分からなさそうな顔の女龍に、ドルドレンは、頷いてもう少し説明を足す。



「守られる側が、それを判断できずに動いた時。危険が増えることがあるのだ。これは、団体で戦う騎士たちは、皆が理解している。

 守る側・守られる側、とした安直な理解だけで捉えれば、『守られることは弱いことで、守ることは強い』程度の話に終わってしまう。それは、強弱の意識を濃くするだけで、他の考え方と影響を入れていない。


 そうではないのだ。イーアンたち、大きな力の持ち主と比べて、動けていない俺たちは、時に情けなくもなるが、だが、立ち位置がある以上、守られていなければいけない事態もある。


『大きな力だからこそ』と言ってしまうと、理解がそこを中心に回る。俺はそう捉えないようにした。シャンガマックが教えてくれた日、以降だ。

 騎士修道会の戦闘の場で学んだ理解は、こんな壮大な旅にも適用して良い。彼はその理解が正しいことを教えてくれた。


 どんな場面でも、その場面で()()()()()適した者がいれば、その者に合わせて、他は範囲内で動くべきだ。

 イーアンが皆に話せないこと、それも然るべき。同じである」



 伴侶のお話に、イーアンは、うん、と頷く。振り向いて聞いていたバイラも、頷く(?)。


「度々、話題に出る内容です。でも、忘れがち」


「そうなのだ。ずーっと、この話はついて回る。俺だって、偉そうにこんなこと言ってみたが、場面が変わると呆気なく忘れるのだ。忘れると凹む。この前もザッカリアに励まされた」


 ハハハと笑うドルドレンに、バイラは『さすが総長』と尊敬の眼差しを送る。


 イーアンも尊敬の眼差し。伴侶の胴体に腕を回して、ぎゅーっと抱き締め『私は良い旦那さんがいて幸せです』としみじみ伝えた。



「タンクラッドは生き方が違う。ロゼールも言っていたが、彼は一匹狼系なのだ。イーアンもミレイオも、そんなところあるけれど。オーリンもそうだろうが、オーリンは友達が多い」


「私友達少なめ」


「そこではない。一人で生きることが普通、という話である。そうするとどうしても、自分の力を常に把握しようとする。誰かに()()()()()ことを選べても、誰かの()()()()ことを選べない」


 分かる?と訊ねるドルドレンに、イーアンは、何となく分かると答える。ドルドレンは手綱をちょっと緩めて『この状態だよ』と手元に揺れる綱を見せる。


「何?手綱が緩いですか」


「これはヴェリミル(※馬の名前)に任せているのだ。道は少し曲線を描くが、前にバイラがいる。ヴェリミルは、俺に誘導されていなくても、手綱が緩んだからと言って、好きに動きはしないのだ。バイラが進む後を選んで、彼は歩いてくれる。

 俺は今。ヴェリミルの()()()()()()()状態だ。出番とはまた違う解釈。伝わるか」


「ドルドレンは、とても良い先生です」


 ハハッと笑って、ドルドレンは奥さんの角を撫で『タンクラッドも影に回ることが出来れば、彼の憂慮も消えるだろう』と言った。


「自分の力を把握するのは間違っていない。しかしそれは、場を選ぶ。さっきの話だが、適した者が動いている時は、常に影の中にいる方が良いのだ。

 いつも冷静に状況を見極めるタンクラッドだが、彼は一人で行動することが主体だから、その軸ではない軸も手に入れると、今後に無理がないだろうと思う」


「ドルドレン。タンクラッドにそれ話してあげて下さい。私が手綱を取るから」


 え。 奥さんの言葉の終わりに、ギョッとした目を向ける総長。


 イーアンの手が手綱に伸び、ドルドレンとバイラがさっとその手を見る。イーアンは感動して、是非、伴侶の口から言ってほしいと・・・手綱を受け取った(※馬も振り返る)。



 ということで。『私、一度は手綱を取ったことがあります』とイーアンに押し切られたドルドレン。


 バイラに目で安全を頼みながら(※言葉では言えない)小刻みに了解の頷きを返してくれた警護団員に、後を願って御者台を下り、タンクラッドの元へ行った。


 何故か珍しい男が来たので、親方はわざとらしく首を傾げる。

 イーアンに何か言われたか、と思いつつ、自分の横に乗った総長に『前は』と訊くと、総長は真剣に『危険である』と答えた(※道少し曲がってる)。


「早く帰る」


「なんで来たんだ」


 笑うタンクラッドに、ドルドレンは咳払いし『頼まれたのだ』と先に言う。総長の顔を、茶化すように覗き込んだ剣職人は『俺に説教?』と口角を少し上げた。


「説教などではない。イーアンは、タンクラッドの心を癒したくても、あれこれ変化した現在では、『自分がどう話しても、嫌味になる』と思っている」


「そんなこと。俺は思っていない」


「でも、彼女はそう思った」


「俺が彼女に話したことを、お前に言ったのか」


「いや。内容は知らない。純粋に『タンクラッドの気持ちに寄り添えない』悩みである」


「寄り添えない・・・俺に」


 呟き返したタンクラッドの言葉に、ドルドレンも、ちょっと言葉が素敵過ぎちゃったかと(※奥さんが気があると思われる恐れ)止まり、『ええとね』とそそくさ、イーアンと話したことを伝える。


 タンクラッドは黙って聴き、総長が淡々と丁寧に説明する話をすべて聞き終わってから、静かに頷く。


「そこまで言われると。お前に俺の()()()()()が伝わっていない、とは思い難いな」


「思うのは自由だが、俺は知らない。そしてもしそう思うなら、俺は総長だ。騎士修道会の騎士たちの心をいつも見て来た。その経験もあるだろう」


「そうか」


 フフンと鼻で笑って、誠実な総長の足にポンと手を乗せたタンクラッド。自分を見た灰色の瞳に『お前らしい』と褒め、総長の足をポンポン叩いてから『有難うな、()()』と礼を言った。


「何か。ちょっと嫌味っぽいのだ」


「何が。嫌味じゃないだろ。10も下のお前に諭されているんだ。礼を言ったことに感心してくれ」


 剣職人の言葉にフフフと笑ったドルドレンは、了解して『それもそうだ』と、タンクラッドのお礼に感謝しておいた。



 二人がちょっと笑ったすぐ後。


 どちらともなく、顔を右側に向ける。二人は数秒黙って、同じ方向を見つめ『そうか?』『だろうな』の確認を交わし――



 ドドン!! 地響きが真下から音を立てる。嘶いた馬に、慌てて手綱を引いたタンクラッド。

 前の馬車がゆらっとしたのを見て、急いで走り出すドルドレン(※奥さんが手綱持ち)。


「イーアン!」


 馬車がマズい!と(←これ大事)名を叫んだすぐ、イーアンの白い翼が馬車の上に伸びた。


 御者台に飛び乗ったドルドレンは、スーッと上がったイーアンを見上げる。イーアンは遠くを見て『魔物ではないような』と眉を寄せた(※手綱どうした)。


「魔物ではないのか?イーアン、手綱を持っている時は」


「あなたがすぐに来ると思いました」


 うん、と頷く女龍に、ドルドレンは『そりゃそうだけど』と思いつつ、『ちゃんと代わるまで放してはいけない』と教えておく。女龍、少し黙って、また頷いた(※反省)。



「地震ですが、この手の揺れは、大体、嫌な予感」


 ちょっと見て来ますよ、と動いたイーアン。動いた側から、龍を呼ぶ笛の音が聞こえ、振り向くとオーリンが馬車の屋根に飛び乗った。


「俺も一緒に」


「はい。では行きますよ」


 ニコッと笑ったイーアンは、笑顔のオーリンの後ろを抱えて、空へ上がる。間もなくガルホブラフが来て、二人の龍族は勢い良く・・・ドルドレンたちが気にした方向へ向かって飛んだ。



 見送ったドルドレン。タンクラッドに話した後のこれ。


「早速。誰かしら・・・()()()()かも知れない」


 何が起こるかなど分かるわけはないが、ドルドレンの胸中には、皆それぞれに与えられる、()()()()()を感じる。



 時は、昼前――


 イーアンは『魔物ではない』と言っていたが、ドルドレンとタンクラッドが反応した気配は、魔物のような気がしていた。

お読み頂き有難うございます。

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