1482. 午後の道 ~穏やかな雑談
☆前回までの流れ
前回は、シャンガマックの話を一話挟んだ『別行動』でした。今回は、旅の馬車の出発後の午後です。
午前の彼らは、それぞれ思うところを胸に郷愁もあった時間。続く、午後の道の回です。
午後の道を進む、旅の馬車。南へ向かう道は、牧歌的な風景が続き、農家も多そう。
魔物の被害がありそうで、バイラとドルドレンは話し合った後、バイラは『ここには間に合わないかも知れないが』と、町から離れた民家にも、龍の鱗を配れるようにしましょうと提案する。
ということで。
イーアンが呼ばれ、伴侶に相談を受けたイーアンは、複雑そうな面持ちではあったが、うん、と頷き、昼下がりのお空へ出発することになった(←アオファの鱗取りに)。
「お。空か。俺も行くかな」
午後も、御者台でフォラヴに懐かれていたオーリン。
自分を見た妖精の騎士に、ニコッと笑って『タンクラッドに寄りかかれ』と言うと、冗談ぽく悲し気な笑みを浮かべる騎士にサヨナラし、タンクラッドに手綱を任せた。
さっさと笛を吹いて、飛び立つイーアンに手招きし、背中から抱えてもらって空へ上がる。
「じゃあな。後で」
「行ってまいります~」
龍族の二人は、ガルホブラフが迎えに来る前に飛び立ち、見送る馬車の皆は手を振った。
寝台馬車の御者台に移ったタンクラッドは、フォラヴがじっと見ているので『どうする?』と、腰を下ろしながら笑って訊くと、フォラヴも苦笑いで首を振る。
「逃げられました(←オーリン)。私は、気持ち悪い?」
「お前が?お前ほど、男女の別が分からない、きれいな顔の男、知らん」
「タンクラッドったら(嬉)」
「妖精は皆、そうなのか。どうも、人間の男女にある欲的な印象が見えない。だから、澄んだ美しさがあるんだろう」
「寄りかかります」
ハハハと笑う親方に、フォラヴも可笑しそうに笑いながら、背凭れは引き継がれた(※親方背凭れ)。
優しい剣職人を午後の背凭れにして、フォラヴは御者台で読書。
剣職人の気がかりは一つくらいで、度々それを確認した(※加齢臭)が、フォラヴは微笑んで『大丈夫』の答えを言い続けた。
荷馬車の荷台は、ザッカリアとミレイオが、絵を描いている時間。シュンディーンはお昼寝。
ミレイオに、絵を教えてと頼んだザッカリアは、『バサンダみたいに上手くなりたい』と希望を伝え、ミレイオは『そう。美術の時間ね』と先生を引き受けた。
「目標があるのは良いことよ。でも、同じ雰囲気は得られないと思いなさい。だって、あんたはあんたなんだから」
「バサンダみたいな絵が、良いんだけど」
「最初は、真似して描けば良いでしょ。同じにならない意味は、描けば、すぐ分かることよ」
真似の仕方も、ミレイオは教えてあげる。そんなの習うことではなさそうだけれど、楽にコツを見つけやすいと、気持ちにやる気が増える。
バサンダのくれた絵を前に、ここよ、こうね、と紙に描かせて、線の動きと感覚を覚えさせる。ミレイオは誰かに教えるなんて、したことはなかったけれど、ザッカリアは真面目で頑張る子・・・なので。
上手く出来るまで、決して投げない子供に、ミレイオもちょっと甘やかしが入り、彼が気が付いていない所も伝えたりして、教える時間を楽しんだ。
荷馬車の御者台のドルドレンは、空を見上げて『イーアンが捕まらないと良いが』と呟く。
「捕まりそうですか?」
バイラの返事に頷いて『だから、ちょっと嫌そうだった』と言うと、バイラは笑って頷いた。
「理由はあるのでしょうが、イーアンは、自分が留守がちなことを気にしていますからね。男龍にその気持ちは分からないだろうけど、もうちょっと、皆と一緒にいさせてほしいですね」
「その通りである。奥さん、可哀相なのだ」
早く戻れると良いね、と二人で言いながら、話は変わって『パヴェルの別邸』に移る。バイラは触りしか知らないので、総長に『具体的には聞いていますか?』と内容を質問。
「オーリンは『パヴェルから、機構のことで話しがある』と、言っていましたが」
「うむ。多分だが、パヴェルがあの場所にいたことも、機構絡みなのだ。パヴェルたちを送り届けた際、そうした内容を聞いたと言っていた」
ドルドレンも、細かいことは知らないが、運輸に関しての話ではないだろうか、とバイラに教える。
オーリンは搔い摘んだ要点を話したため、他は予想でしかないことも踏まえて、自分が想像する『パヴェルの連絡したい機構の話』をした。
「道ですか・・・それはまた。確かに、貴族らしいと言うか」
「うむ、やりかねん。金だけはあるから(※事実だけど、やる気も必要)。ホーション家から買い上げて、道を通すつもりだったようだ」
「ホーション。ハウチオン家のことですね。そうですねぇ・・・確かにあの場所を直線に通せたら、相当・・・でも。その。『あの若者』のことを思い出すと」
バイラは言い難そうに頭を掻いて、ワバンジャのことを呟く。それはドルドレンも一緒。
「そうなのだ。ワバンジャが守る場所と、ずれていはいるが、しかし、工事となれば気にするだろう。
俺は位置の確定が出来ないから、どれくらいの距離が開いているのかも知らない。にしたって、場所がインクパーナと聞けば」
「あの。口を挟みますが。今回の精霊がいた場所ですし、それは取り下げたんですよね?」
「でもない(※貴族は諦めない)。オーリンが聞いた分だと、事故に遭った(←精霊の)周辺を外して、北へ道を引こうとしている。あくまで、精霊のいる辺りは避けて・・・と、そのくらいだ」
分かりやすいくらい、否定的な苦い顔を見せる警護団員。ドルドレンにバイラの胸中は、手に取るように伝わる。
精霊信仰・龍信仰の強いテイワグナ人からすれば、『ハイザンジェルの貴族の考え』は、罰当たりにも思えるだろう。
言葉を失うバイラに苦笑して、ドルドレンはちょっと間を置いてから『だから』と続ける。
「早めにパヴェルと話をしようと思う。機構の動きを手伝うつもりで、彼は良かれと、自分の資金も労力も使ってくれているが。
しかし、相手に大自然と精霊が回るとなれば、俺は止めようと思う。機構の運輸を考えての行為とは言え、貫いて良い場合と、そうではない場合がある。今回は、そうではない」
「私が出会えたのが、総長で良かった」
「何が」
アハハと笑ったドルドレンは、バイラの首を振りながら言う『ハイザンジェルの人、皆を、同じ目で見そうだ』との呟きに、気持ちを察して頷いた。
「俺も思う。なぜ、ハイザンジェルは、テイワグナほど、龍も知らなければ、精霊の面影もないのか。
国から出なかったら、一生、疑問にも思わなかったと思う。
閉ざされた小国だから、無理もないかも知れないが、それにしても、差をよく感じる」
素直な総長の言葉に、バイラは何度か頷き『それは本当に思う』と伝える。
でも、バイラが思うに、ハイザンジェルほど統治されていない、広いテイワグナだから、そうした『辺境の地の多さ』『開拓の進まなさ』が、定着の理由に一役買っている気もする。
それを総長に言うと、総長は思うところが似たようで『広い国だからこその、土着信仰が生きている』と話していた。
午後の道は、それぞれの穏やかさで流れて、この日は魔物にも会わず、馬車は野営する林沿いの道へ。
イーアンとオーリンは夕方には戻らず、夕食の終わるくらいに、オーリンだけ戻って来た。
オーリンは『これな』とアオファの鱗を包んだ袋を馬車に置くと、イーアンが戻らない理由を話す。
ミレイオによそってもらった食事を食べながら、焚火を囲む皆は、その理由に眉を寄せた。オーリンは淡々と話していたが、『まだ確定じゃないよ』と何度も挟んで、緊張を和らげていた。
その内容は、『白い筒の連動が、また起こるかも知れない』疑念が先立ち、イーアンは男龍にそれを聞いて、今調べている・・・とした話だった。
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