1478. 旅の百二十日目 ~ダマーラ・カロ出発前日の午前
☆前回までの流れ
前回までは『別行動』のシャンガマックが、遺跡で魔物について調べ物をしていました。
今回は、馬車の一行に話が戻り、ダマーラ・カロの町、出発前日。
済ませておかなければいけない用事を、それぞれ行うために出かける朝・・・
今後の予想を話し合った夜を経て、旅の一行の朝は始まる。
この日。親方はオーリンと一緒に、カルバロを治癒場へ連れて行くことにし、イーアンとミレイオは、工房主が留守でも、場所を貸してもらおうと、炉場まで一緒。
ドルドレンたちはバイラと一緒に、最後の演習指導と挨拶で警護団へ。時間を取って、バサンダにも挨拶をする予定。
今日は、ダマーラ・カロを離れる前日と決定。
バサンダの手続きは殆ど完了していて、バイラが気にすることは、手を離れたに等しい。
一番の滞在理由が『バサンダの手続き』だっただけに、続く二番目の『魔物製品の指導』と『ダビの鏃』については、ある程度、形に出来たため、この町ではここまでとする。
一行が町に入る前にあった、『旅の弓引き』の一件により、警護団も弓を使うことを選択肢に入れたし、鏃の型を2つは作ったオーリンから、試作の鏃と資料写しを受け取ったことで、炉場の職人が、毒持ち鏃の制作を引き受けてくれる話は出ている。
詳しいことは、カルバロにも伝えたから、後はカルバロの腕に期待する・・・ため、タンクラッドたちは、治癒場を最後の目的とした。
イーアンは硫黄加工の道具を、何度も実験して、『これ』と言ったものが仕上がったので、それを伝える。今日はそのつもりで、炉場へ向かう。ミレイオは補佐。危なっかしい女龍なので、見守り役。
シュンディーンは女龍と一緒だと落ち着かないが、龍に乗るとなれば、タンクラッドたちとは一緒にいたがらない。シュンディーンは、渋々ミレイオ行き。
「じゃあな。明日出発って伝えて来るぞ。今日でこの町が最後」
荷馬車の御者台から、タンクラッドが笑顔で騎士たちに手を振る。イーアンとオーリン、ミレイオと赤ちゃんは荷台。見送られて、職人たちは炉場へ出かけた。
「私たちも行きましょうか」
バイラが馬に乗って声をかける。了解したドルドレンたちは、今日は寝台馬車で向かう。ドルドレン、フォラヴ、ザッカリア、騎士3人は、鎧を着けて、警護団へ出発した。
次の行き先は決まっている。唐突に決まったが、これも運命の導きと思う出来事を介し、パヴェルの別邸が次の目的地に定まった一行は、この日、するべきことを全部済ませようと、それぞれ意気込んだ。
*****
炉場到着後。馬車を置いた職人4人は、皆でカルバロの家へ向かい、カルバロに『工房を貸して』と、赤ちゃん付きミレイオとイーアンがお願いしてから、カルバロ付きで集合工房へ。
イーアンは気を抜くと、他の職人に触られまくるので、カルバロは周囲の職人たちに『残していく彼らに手を出すな(?)』ときっちり言いつけてから、タンクラッドたちと炉場を出た。
表へ出て、炉場区から少し外れた、人の少ない場所まで歩き、タンクラッドとオーリンは笛を吹く。不思議な音に緊張したカルバロは、すぐに空がふわっと白く光るのを見て、驚いた。
「連れてゆくと言っていたが。龍が」
「他にないだろう」
可笑しそうに答えるオーリンは、ガルホブラフが先に来たので、手を振って近くまで寄せると、ひょいと飛び乗ってそのまま空へ上がる。
「おお・・・ああして」
感動と驚きに、声が出ないカルバロを見て笑った親方は『俺たちが乗るのは(←ミンティン)一度降りるから』と安心させ、言い終わらないうちに来た青い龍に、怯えるカルバロの背中を止めた。
「大丈夫だ。大きいが」
「こんな龍に乗るのか。俺はこの日を死ぬまで忘れないだろう」
感激で怯えたか、カルバロの硬直した体を促して、親方は彼を龍の背に押し上げると、ミンティンに『彼は腕が使えない。固定してやってくれ』と頼み、自分も飛び乗った。
ミンティンは振り向いて、じっと乗客を見たが、すぐに前を向き、背鰭を二人に巻き付けると、騒がしくなる近隣を気にせずに浮上した。
「腹に。腹に」
「そうだ。この龍は手を離しても乗れる。気が利くんだ(?)」
体に巻き付けられた、鞭のような青い背鰭にも驚き、カルバロは一々、感動を口にしながら、面白そうに聞く親方に感謝を何度も伝えた。
そして、空の上で待っていたオーリンたちと一緒に、青い龍と乗客二人は、テイワグナの治癒場へ向かう。
「オーリンは、『弓の一部作りたい』と話していた。だが、短い期間で、何も出来なかっただろう」
治癒場までの空の道。カルバロは、気にしていたことを訊ねる。横を飛ぶオーリンの龍が側へ寄り、オーリンが首を振る。
「でもないよ。本体を削ったりは、まぁね。馬車でするだろうが。カルバロの工房で、小さいものは作った。鏃の序にね」
何も出来なかったわけじゃない・・・あっさりと笑う龍の民に、親方も頷いて『オーリンは違うことをしていたな』と加える。カルバロは教わることに真剣だったから、見ていないらしかった。
「いつか。ダマーラ・カロの町で魔物製品や、名残の何かが有名になると良いな」
龍の首に手を添えて、風を気持ち良さそうに受けるオーリンが、独り言のように言う。カルバロは『自分がそうするだろう』と約束する。
親方は何も言わなかったが、オーリンの言葉にある『名残』の意味は、じっくりと考えていた。
後どれくらい、テイワグナを進むのか分からないが、ハイザンジェルほど長引かないような・・・昨晩の話から、タンクラッドはずっとそれを思い続ける。
3人は、魔物材料の威力や加工の仕方を話し、防具は絶対に必要であることも、親方はカルバロに伝えた。
「溶かさなくても、イーアンは金属化した魔物の体を切り取って、鎧に使ったんだ。
鎖帷子のテイワグナだが、細かい板状にした魔物の体を取り付ける手もあるだろう。それだけでもかなり違う」
炉の温度や、炉自体の大きさに懸念があるとしても、やりようがあるから、それに合う魔物を探せと、親方は教え、カルバロはしっかりと頭に叩き込む。
そうして、伝えそびれることがないように教えながらの空の道も、治癒場付近へ来る。
「この辺りじゃないか。俺が探そうか」
オーリンが下を見渡してそう言うと、タンクラッドはちょっと笑って『いや。探さなくても』と彼に答えた。それからミンティンの首をポンポン叩いて『治癒場がな。あるようなんだ』龍に相談。
青い龍は首をゆらゆらさせて、金色の瞳をちらっと親方に向けると、ぐーっと体を傾けて降下し始めた。
「ああ、そういうこと!」
ハハハと笑うオーリンも、ミンティンの後に続く。
笑うタンクラッドは『前もこうして頼んだ』と、自分たちに出番がないことを教えた。カルバロは、ひたすら褒めるだけ。
青い龍に導かれて、変わった地形の森林の中にある、龍の女の彫刻を見つけた3人。
緊張の高まる隻腕の職人を連れて、タンクラッドとオーリンは『せめて彼の体の痛みが消えるように』と祈りながら、一緒に治癒場へ入る。
カルバロは勿論だが。
治癒場の意味を知っているはずの、タンクラッドもオーリンも・・・自分たちが思う以上のことを知るとは、この時、想像もしていなかった。
*****
同じ頃。騎士たちは、午前の演習指導も終わる。
最後にと、初日同様の動きを求めらた、ドルドレン・フォラヴ・ザッカリアは、それぞれ模範演習の見本を見せ、一気に増えた警護団員に続く指導を行い、持ち込んだ『剣・弓』以外の武器を使う団員にも手合わせし、内容の濃い2時間をこなした。そう。たった、2時間。
今日は、昼前よりも早く終わり、皆さんと交流会とか・・・そんな話を、先にされていた次第。
「いい、って言ったのだ」
「そうも行かないんですよ。お礼の大きさが普通と違いますから」
鎧を着けたままの総長のボヤキに、横にいるバイラが苦笑いして『仲違いを改善した結果』と、仕方なさそうにお願いする。
「でも昼の上りは早いので、私たちが出発するのも知っているし、別れの挨拶は午後1時です。その後、バサンダの施設へ行きましょう」
「あ。そうだ!どうだ、彼の永住手続きは。諸々あったと思うが」
バイラは、朝に来て早々、手続きを担当してくれた団員のスークに『こちらで出来る申請は、全部終わった』と伝えられたことを、総長に話した。ドルドレンは喜んで『バサンダに言いに行こう』と頷く。
「俺たち、今日バサンダに会えるの?」
ザッカリアも嬉しそう。フォラヴも、最初はずっと側で世話したバサンダを思い、『これからは、彼も気を楽に、どんどん幸せになれる』と喜んだ。
4人が警護団施設の廊下で話していると、サイザード分団長の案内に呼ばれ、皆は奥へ移動する。
バイラが最初に通された、衝立付きの通路はもう無く、垂らされた布も消え、続きの一室として開放されていた。
「一週間前は険悪だったんですよ。でも、魔物が出て倒し、その後こうして、総長たちが模範演習をしてくれたから」
「バイラ。何度も同じことを答えるが、皆がそれを望んだのである。俺たちが何かをしたわけではない」
困った笑顔のバイラに、ドルドレンもちょっと微笑んで首を振り『俺たちではないのだ』と、もう一度静かに伝えた。
でも―― それはドルドレンたちが思うだけで。
隣国の騎士3人と、彼らを連れて来たジェディ・バイラは、カベテネ地区警護団に、大きな感謝を贈られる。それは大袈裟にも思えるくらいで、酒を抜いた宴会さながらの会場。
鎧のままの騎士たちは、腕覆いくらいは外したが、着席して食べるとなると、狭い間隔に押し込んだ人数に気を遣うため、食べ難くて、勧められた皿に腕を伸ばすのも難しい。
苦笑いしながら、日常の食事には不向きな鎧姿で、ひっきりなしに続く歓待を受け続けた。
サイザードは総長の横に座り、『これからどこへ行くにしても、自分の手伝いが必要な時は、誰かに伝言してくれ』と言った。
ドルドレンもお礼を言い『そうしたことがあれば、頼ることもある』と受け、これから先の皆の無事を祈った。
約2時間の間、そう腹も空いていない時間に、さして動いたわけでもない騎士たちは、硬い鎧で椅子に座ってご馳走の食事を頂戴し、終わる頃には『夕食要らない』と呟くくらいに疲れていた。
そうして、サイザードたちに、心からの感謝と共にお別れの挨拶をし、馬に跨ったバイラに、やや逃げ道の様に促されつつ、騎士の乗る馬車は、警護団施設を後にした。
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