1475. 夜 ~テイワグナ状況談・変化の兆し・連絡・報告
☆前回までの流れ
夕方まえ、宿に戻った旅の一行。いつも通りの一日報告をしましたが、夜に流れ込む話し合いに変わりました・・・
夜。皆の報告から、意見が飛び交う流れに変わり、夕食を終えた後、一行は一部屋に集まり直した。
『テイワグナの魔物は、後半なのでは』
集った理由は、夕食の報告後、この一言がドルドレンから出た時、皆の反応が変わったことによる。
ドルドレンとしては、勘。だったのだが、皆はそれぞれに、思うところがあったようで、一気に喋り始めたのだ。
ドルドレンとイーアンの部屋は、最初にあてがわれた日から、妙に広い良い一室なので、10人以上も問題ない。
足りない椅子を、各自、部屋から持ち込むと、お茶を淹れて、お手洗いを済ませ、コルステインも待たせ(?)久しぶりの『今後の予想』話し合い。
題目は『テイワグナの魔物の量・後半に入った予測』だが。
その前に、この話に至った、夕食時の報告から説明すると――
イーアン=『謎の地下神殿と、精霊ヴィメテカ。彼は精霊とサブパメントゥの子で、友達になった』
ミレイオ・シュンディーン=『精霊ヴィメテカ救出後、イーアンの気配もなく、宿に戻った』のみ。
タンクラッド・オーリン=『斧職人カルバロの了解。治癒場へ明日出発。場所は確認済み』
ドルドレン・ザッカリア=『プフランに、バサンダの情報を与えた』『町に魔物の名残があり、除去作業』『他にも見つけ除去完了。名残は吹き溜まりの灰だった』
バイラ=『演習欠席報告後、分団長から、出発前に立ち寄ってほしいと言伝。バサンダの手続きは国からの返事待ちで、手続きに必要な書類は全て完了。ニーファが町に戻る連絡あり』
フォラヴ=『魔物退治に見られた銀粉は、過去の妖精の力であったことを確認』
以上が、本日の各自報告内容で、ここに改めて『パヴェル邸からの招待』が加わる。この、パヴェルとの接触も、皆が同時に感じた『今?』の意識を伴う。
つい最近、イーアンがハイザンジェルに呼ばれて『魔物資源活用機構』の進捗具合を聞いて来たばかり。
呼ばれた理由こそ、謎めいた重要文化財受け取りのためだったけれど、機構の話が出たばかりで、このだだっ広い国・たった一人の頼れる知り合いであり、機構絡みの『パヴェル・アリジェン』救出に関わるとは、誰もが不思議に思った。
自分たちが移動中だったら。もっと離れた場所にいたら。パヴェルの召使さんたちだって、自分たちを探しに来れなかったかも知れない。
偶然と言えば偶然だが、全てに意味がありそうにも思える、今日の救出手伝いは、『テイワグナの旅において、行動の変化』をどこか含んでいる気がした。
話が前後するが、カルバロを治癒場に連れて行く話も、これまでテイワグナで治癒場を探そうとしていなかったことが、先にある。
治癒場まで意識が向かなかったのは、旅の仲間が強化されていることと、フォラヴの癒す力も上がったことなど、ハイザンジェルにいた時と事情が変わったのが理由。
自分たちではなく、すぐに救助しなければいけない民間人に出会った時も、その場に男龍がいたり、フォラヴが癒せる範囲であったり、また、特別な経過によって受け取った道具(※ノクワボの水、妖精の癒しの雨など)が、急場を切り抜けてくれた。
このため、ここまでの旅路で『治癒場』を探すにまで繋がらなかったのだが、ここまで来て、自然な流れで治癒場の存在へ目が向いた。
これは『今後のために、知っておいた方が良い』意味だろうかと、皆は想像する。
精霊ヴィメテカを解放する手伝いの、今回についても。
テイワグナに入ってから『精霊を助ける手伝いが、やけに多い』と、皆が思うところ。魔物絡みもあれば、何やら遥か昔の因縁もある。
最初こそ、『助けたら⇒恩返し』の印象だったのもあり、助ける手伝いをする機会があるとすれば、それは今後のヒントのための出会い・・・と単純に捉えていたが、ここまで多いと、それでは足りない気もする。
魔物の関連で救助手伝いなら、魔物がいなくなれば良いだけの話だが。
魔物関係なく、別種族の因縁云々となると話は変わる。こうした背景に常に『不思議な遺跡』『奇妙な異界』が付いて回ることに気が付くと、視野も動く。
これは一体、と、これまで見えていなかった事情が気になり始めた。
そして、こう並べて改めて見つめると、シュンディーン受け取りの『ペリペガン集落』や、バサンダのいた『マスクの集落』、そしてカロッカンの面師ニーファ、この町の絵具師プフランに教えてもらった民話まで。
全てに通じることとして、『人間以上の力を有することが出来る』、云わば、種族の別は越えなくても、足掛けに近い『混在』が現実に与えられている状態に気が付く。
この意味は。交じり合う世界への、一片ずつが、あちこちに鏤められていた、と知る意味。
過去の妖精の援助も受けたとなれば、既にその身は消えているはずの存在に、助けられる意味は何か。
何に気が付くように、示されているのか。どこを見るように告げられているのか。
魔物の王を倒す、そこが終着点ではないことを、旅の仲間全員が意識する。
だが、今はまだテイワグナ。詰め込むように、動けば何かを受け取る日々で、今こうして皆が膝を突き合わせて話す時間を持ったことに、当座、意識するべき次の何かがあるのか、と目前の未来を感じ始める。
――こうして、ドルドレンの夕食時の発言『テイワグナの魔物が後半』が、ぼそっと呟かれた。
部屋に移動した、話し合い第二場面。
先の話の他に、引っ掛かり続けていることも話題に出て来る。ここまでに、テイワグナ馬車歌は、残す3家族であること。
ここの馬車歌の示唆が『動き始めた世界の交錯』を感じさせること。
不思議な『旅の弓引き』の存在が何か変化を予感させること。
同行者とは異なる、別種族の繋がりと協力が多くなったこと。(※ショショウィ・トワォ・青い聖獣・今回のヴィメテカ等)
魔族の追跡が、魔物を伴う変化をしたこと。
魔族の登場により、旅の仲間全員が魔族への耐性を整えたこと。
よって、他の種族の領域にも移動範囲が広がったこと。
龍図と龍境船が、テイワグナ以外の国を教えたこと。
フィギの町から始まり、遺跡と異界の関係する出来事が増えたこと。
機構の動きがテイワグナに定着し始めたこと。
武器や防具への取り組みが予想以上に早いこと。
そして今日一番の驚き、『パヴェル邸招待』も機構の話に則っていること。
もう一つ・・・シュンディーンとの出会い、もうじきのお別れも。何かへの導きなのでは、と。
それは誰も口に出していないが、あれこれと意見を出しては『だからもう変化しそう』と続けた、この談義の終了間近で、ふと、誰もが赤ん坊を見たことで、皆の中に共通の感覚があると理解した。
話の間、ずっとミレイオが抱っこしていたので、ミレイオは眠っている赤ん坊を抱え直し、皆の視線から目を逸らした。
横に座っていたタンクラッドが腕を伸ばし、目で嫌がるミレイオからゆっくり引き取ると、自分の腕の中に赤ん坊を抱く。それから剣職人は、まん丸になって眠る赤ん坊に微笑むと『もうちょっとな』と呟いた。
「もうちょっと、何よ」
ミレイオが怪訝そうに続きを求める。タンクラッドはミレイオをちらと見て、視線を赤ちゃんに戻すとまた微笑んだ。
「もうちょっと・・・『一緒にいような』ってことだ」
「ああ・・・そう。ね。そうね、そうが良い」
二人の会話は、静かな室内に寂しさを誘う。
ドルドレンは胸がきゅーっと詰まる。横の奥さんに顔を向けて、泣きそうと判断され、撫でてもらう。
イーアンだって寂しい。シュンディーンに触れはしないが『成長見守り隊(?)』。
バブバブしている姿は、お空の赤ちゃんたちとも被る。この中で一番情が移りやすいのは、誰にも言っていないけれど、きっと自分だろうと自覚もある(※距離置かないとムリ)。
ザッカリアも急に悲しくなったか、フォラヴにもたれかかって『いなくなるの、嫌だな』と小さい声で訴える。フォラヴは彼の腕を撫でて『親御さんに頼んでみる?』と提案。
「世話。別に大変じゃないしな」
悲しい涙から遠い、笑顔の龍の民。どことなく、みなしご状態の赤ん坊に我が身の記憶を重ね、『親は。後で会っても良いんじゃないの』と適当な発言をした(※自分、親知らないで45まで成長)。
皆の様子を見つめるバイラは、こんな風に愛される出会いもあるんだな、としみじみする。
愛される家庭は他人事だったバイラだが、この風変わりな赤ん坊と旅の一行の関係は、側で見ていて心が温まること、四六時中。
世界の命運を背負う、魔物退治の旅だけれど。皆が気にする小さな存在がいても、良いのではないか・・・と考えてしまう(※この赤ちゃんは戦力にもなる)。
少し、しんみりした場は、『シュンディーンが眠っているから』の呟きにより(※親方)この後、すんなりお開きとなった。
結論も結果も何もない、テイワグナの魔物事情予測。
でも、こうして話し合うと、皆の思いを一度に知ることが出来るし、今日の題材は、特に個別に話に出たことはなくても、全員が気にしていたと分かった。
テイワグナに来て、もう4ヶ月。正確には、あの大津波戦の時から、4ヶ月・・・・・
不在がちなイーアン。別行動に変わったシャンガマック。アギルナン地区以降、単独行動の増えたフォラヴ。自分を知るため、時々留守にするザッカリア。
ハイザンジェルを出発した、旅の仲間6人の内、この4人は常時一緒ではないことの不思議。
これだけ見れば『旅の仲間なのに、なぜ』の対象だが、ここから先がまだまだあると思えば、今だから、『力を付けるために動ける時期』なのかも知れない。
この4人、シャンガマックを抜かした3人は人間以外の種族だし、シャンガマックも貴重な『海の水』をそのまま飲んだ男と分かったことから、4人は『旅の序盤で能力を高める・もしくは、自分の受け取った運命を理解する』必要があるのだろう・・・そう捉えると、様々なことが繋がってゆく。
同行者のミレイオ、お手伝いさん役のオーリンが、いつでも協力してくれる、頭数合わせ。
タンクラッドもまず、馬車から動かない。早い段階で、彼にコルステインが付いたから、夜に訪れるコルステインのため、タンクラッドは不在を選ばない。
ドルドレンは『勇者』とした責任感もあり、馬車を出ることは殆どないので、これまでも常に、旅の中心を把握してきた。
彼を守る存在は、いつでも、『時の剣を持つ男』と『サブパメントゥのミレイオ』がいる。
イーアンが不在でも、呼べば龍が来てくれる。必要と判断されれば、ドルドレンが呼んだ時、ミンティンが来ることもある。
『旅の仲間』と言われた者は、ちょくちょく離れても、勇者は、旅を動かす援助をいつでも受けている。
誰のために―― 世界のために、とした漠然と広がる解釈しか出来ないが、これもまた、旅を続けるうちに紐解かれてゆく気がする。
ドルドレンとイーアンは、皆が部屋に戻った後、二人で少し起きて、この話を続けていた。そしてイーアン、思い出す。
「あ。シャンガマックに連絡を」
「ん。連絡珠?」
ドルドレンがシャンガマックの珠を取り出し『でも夜だから嫌がられるかも(※いろんな想像)』と、少し躊躇ったが、イーアンは『ビルガメスから伝言が』と、自分が珠を受け取る。
伴侶には全て話せないので、『これは男龍経由だから』と、言えない理由を先に伝え、イーアンはダメ元でシャンガマックを呼んだ。
時間は10時近い夜。どうかな、ダメかな。何かしてたりして・・・(照) 妄想に憑りつかれつつ、イーアンが悩んでいると、意外にも1分以内に応答があった。
ここからが――
『シャンガマックです。総長?』
『いえ。私はイーアン。シャンガマック、ホーミットに変わって下さい。伝言を受けています』
応答した騎士は、少し驚いたようで、イーアンが誰からの伝言かを言わないことに、やや警戒した。少し間を置いて返事しかけた時、イーアンの頭の中に、野太い重い声が聞こえる。
『俺に用か』
『ホーミット。そうです。手短に伝えます。あなたが近づいてはいけない場所があります。それを伝えておきます』
『お前が見つけたのか?伝言は誰からだ』
『男龍です。私はあなたが、そこへ近づいてはいけない理由を知りません。しかし、場所を知っています。インクパーナと呼ばれる、不思議な形の奇岩と谷が続く、テイワグナの』
『分かった。そこのどこだ』
話が早いな、と思いつつ。イーアンは『地下に神殿があった』『神殿に龍気があり、不思議な絵がある』『囚われ人を救出して知った』と続けて教えた。
ホーミットは黙って聞いており、女龍の情報が終わったと分かると、すぐに返事をした。
『近づかないようにしよう。じゃあな、イーアン』
『ん。ああ、はい。じゃあね、ホーミット』
意表を突かれる返事に、イーアンは拍子抜けしたものの。イーアンが挨拶を言い終えるまで連絡珠は繋がっていて、挨拶が終わると通信は切れた。
連絡珠を伴侶に返したイーアン。その顔に、ドルドレンは『どうしたの』と何かあった様子を見る。
「ホーミットと話したの。何か・・・ちょっと素直になっていました」
イーアンは静かに驚いたことを伝え、ドルドレンは、話の内容は気になるものの、彼の変化をまず喜ぼうと思い、『シャンガマックのおかげかも』と微笑んだ。
そして、この後もちょっと、さっきの話を続け、『協力してくれる存在の増加』と、『特殊系の存在』と、『マスクのような超現象的な力』に話は移り、この3つの共通項に、混ざる重要性が浮かんだ。
と、ここまでは良かったが。
イーアンが新しいお友達(←ヴィメテカ)の話で、やたら機嫌が良いことが気になっていたドルドレンは、更に脱線して『その精霊。どんななの』と質問。
イーアンはちゃーんと、ヴィメテカの3変化を教えてあげた(※翼のある馬・精霊的な顔の人の姿・モロ人の顔の時の姿)。
「です。すごいでしょ」
「どうしてイーアンが胸を張るの。その人、イーアンのことを気に入ったのだ。何だか少し嫌」
ドルドレンは久しぶりにヤキモチ。イーアンは、サブパメントゥ系と仲良くなる傾向がある。こいつもか、と思うと、何だか『運命的』みたいな感じで、ドルドレンにすれば、嫌。
「ドルドレンが一番イケメンです。ヴィメテカはイケメンですが、そうじゃなくて、私の思う彼の素晴らしさは」
「あんまり聞きたくない。イケメンって言っているし。知らない相手のことで『彼の素晴らしさ』って、奥さんから言われたら、どこの旦那も嫌だぞ」
イーアン、ちょっと反省。でも思うことは伝える。ぶすっとしたドルドレンに、『きっとあなたも好き』と小さい声で言ってみる。ちらっと見る伴侶(※反応)。
「さっきも話しましたが、彼に聞けば、聞いていないことも教えて下さいます。それにとても良心的。
そしてね。ドルドレン、絶対あの方の事『好み』ですよ(※え~~~)」
「奥さんに、男の紹介をされる俺は」
何だそれは、と言いながらも、ちょっと興味があるらしい反応をするドルドレンに、イーアンは畳み掛けるようにヴィメテカの見た目をきちきちと伝えた。
ドルドレンは、のめり込みそうになるとハッとして『奥さんが、他の男を観察して』と挟むが、話の最後にはやられた(※男色傾向あり)。ボソボソ『直に見てみたい』と言い始めたドルドレン。
イーアンは、咳払いして背筋を伸ばすと、ぴしっと話を閉じる。
「タムズの方が勿論、ドルドレンの好みだと知っていますが(※男龍全部好き)。また一味違う、野性味ぷんぷんの、お友達感抜群、親切で笑顔のヴィメテカは、きっとドルドレンも触りたがります」
ドルドレン、イーアンの言葉尻に微妙に引っ掛かるが。
しかし先ほど、『私にこうしてね、触れるくらいだと平気なの。すごいですよ』とジェスチャー付きで説明はされている。
奥さんは、あちこちで触られる、と認識済み・・・なので、ここもまたそうだと思えば。
「俺にも。彼はそうやって触るんだろうか(※希望)」
「サブパメントゥが入っていますから。半分以上、サブパメントゥっぽいの。ですから、かなりの確率で、お体に触ろうとするのではと思います。ミレイオたちと一緒」
そう、と頷いたドルドレン。話はここで終わりにし、眠ることにする。
イーアンはその後何も言わなかったが、伴侶はとても赤くなっていたので、きっとヴィメテカに会うのが待ち遠しいだろうと想像した(←ボディタッチが)。
――当然。
怪しげな(?)好奇心を募らせた二人が、知る由もないのだが。
ヴィメテカとの出会いは、勇者ドルドレンにこそ・・・とは、全く気が付くこともなかった。
お読み頂き有難うございます。




