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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1474/2967

1474. 旅の百十九日目 ~皆の用事

☆前回までの流れ

精霊ヴィメテカを無事に解放したシュンディーン。どこかへ逃げ延びた彼を探し、赤ちゃんと一緒にミレイオは謎めいた神殿を後にします。その頃、様子を外から見守っていたイーアンは、ヴィメテカの回復した姿に出会い、お礼と喜びを伝え合う間に友達になりました。今回は、その続き・・・

 

 イーアンとヴィメテカは、その後も少し話した。


 イーアンの指輪を見た精霊は、海の仔トワォについて『次に会った時に話す』として、近いうちにここを通るなら、また呼び出すのも約束した。これは、軽い感じの約束で。



 午前の日差しは相変わらず、清々しい煌めきを放ち、荒涼としたテイワグナの乾いた地形と奇岩群に、何とも言えない幻想感を持たせていた。

 ミレイオたちが地上に出るかな、と思い、待っている間に話せることは沢山話したいと、会話を続けていたのだが。


 少し長く話したような気がして、イーアンはお暇することにする。

 ミレイオたちの気配も感じ取れないので、きっと先に帰ったのだと思い、待っていても地上に上がらないかもと、腰を上げた。


『近いうちに来る。そうだな?』


「はい。だってですね。こっち方面に向かう話が出たのです。用事はまぁ(※パヴェル)あれですが、だから一人で、ちょこっと来ることは出来ますよ」


 微笑んで頷くイケてる精霊は『またな』と挨拶。イーアンも少し離れた所で、翼を出して浮上。

 手を振り振り、見送るヴィメテカに『さよ~なら~』と大きな声で挨拶し、笑顔もホクホクで戻って行った。


「カッコイイですよ~ お馬の時は翼付き!金茶色の翼、フサフサの毛に、銅のような輝く体!・・・ぬ。誰かさんと被るカラーコーディネート(←某獅子)。いや、でも。いやいや!ヴィメテカは性格が、かなり良いです(※違いは性格だけじゃないはず)。

 あんなに良心的で、協力姿勢のある、特種系。滅多にお目にかかれませんよ。会ったことないもの(※トワォどこ行った)。

 人の姿の時もイケメン。美しいものは素晴らしいです。勿論、ドルドレンや男龍たちもイケメンですが、本当に、この世界は男女共に、イケてる御方の確率高い~ 私、シアワセ~」



 イーアンは、目にも優しく(?)性格も良く、また協力的なヴィメテカ登場に、すっかり満足。


 無邪気に喜んで、くるくる旋回したり、超高速を出したりで、ご機嫌に飛んだ帰り道・・・・ 少しして、何だか()()()()()()()()ことに気が付くまでの間。


 思いもよらないことだったが。イーアンはあの奇岩群、ヴィメテカの側で、実に半日近くを過ごしていた。


 イーアンには、『午前の朝、まだ遅くない頃』がずっと続いていたけれど、()()()時間が進んでおり、他の皆の時間は既に夕方。


 あの神殿がある界隈・そしてヴィメテカの取り戻した力の範囲は、イーアンを『別界に置いている』状態。


 その強さは、精霊に遠慮していたイーアンの龍気を囲い込み、無論、イーアンが気にしていた『ミレイオたちの気配』も遮断されていたのだったと・・・徐々にあれこれ、理解することになった(※なので、夕方の風景に焦る)。




 *****




 さて、女龍の一日は、知らずに終わってしまった中。

 他の者も、またそれぞれの用事で、過ぎた一日。



【ミレイオ&シュンディーン】


 ミレイオとシュンディーンは、あの後に地上に上がったは良いものの、どこにもイーアンの気配も感じられず、そして肝心の救出相手・ヴィメテカの動きも追えず。


 どうしたのかと不思議に思いながら、周辺をうろついたが、サブパメントゥから大きなものを感じ、もしや助けた精霊では!と、急いで地下へ入った。



 実はこれが行き違い。イーアンの気配が分からなかったのは、事情は別でさておき。


 結界を伝って地下へ逃げたヴィメテカは、サブパメントゥに入ってから力を補充し、地上へ向かった。補充し立ての彼の動きは大きく、また、あまり地下で休むことのない存在なので、地下の者には馴染みも薄い『今の誰?』の状況。

 ミレイオも漏れなく『何?』となり、もしや彼か!と移動したが、すれ違ってしまった。



 地上へ上がったヴィメテカは、精霊馬の姿で空へ向かい、この時点で彼の力は働いている。

 これは、以前出会った精霊レゼルデも同じような能力により、別の空間的な状況を作り出していた、()()()()()()()なのだが。


 そんなの忘れて、地下を探すミレイオは『もういないのかしら?』の一言と共に、仕方なし、赤ちゃんと先に町へ戻ることにした。


 この間、何度か連絡を入れたのだが、イーアンとは繋がらず(←別界入り)気を付けてはいたものの、結局は、町に到着するまで()()()()で終わった。


 二人は馬車へ戻り、お宿の人に『部屋を使わせて』とお願いし、宿の一室と馬車の往復、その待機。


 出かけて一仕事を済ませた、ミレイオが赤ちゃんと戻ったのは、午前の遅い時間で、宿待機しながらお昼も貰ったり、赤ちゃんのオムツを替えたり(※あまり得意じゃない)淡々と過ごした。



 でもこの()()()過ごす、二人の時間は、ミレイオには大切だった。


 誰にも邪魔されず、他の何もせず。シュンディーンと遊んだり、食べさせたり、寝かせたり、起きたら外を見せたり。


 パヴェル邸に向かう道すがら、大きな川を跨ぐと聞かされた朝。いつ、赤ちゃんと離れるのかと思うと、ミレイオは何かにつけて、シュンディーンを抱っこした。


「親がいるし。あんた、デカい運命もあるし。だけどさぁ・・・早くない?」


 赤ちゃんを抱っこして、ベッドに座って前後に揺れるミレイオ。赤ん坊の頭に頬を付けて『嫌だなぁ』と何度も呟いていた。赤ちゃんは、そんなミレイオに大人しく抱っこされていた。




 *****




【オーリン&タンクラッド】


 二人は炉場に向かい、カルバロを訪ねたが。工房にはおらず、1時間ほど待っても彼は来なかった。


 彼の腕の話を聞いたばかりのオーリンには、それはとても不安に感じ、集合工房の他の職人に、彼の家は近くかと訊いてみて、意外に近いと分かったので、心配がてら、様子を見に行った。


 昨日、彼と出かけた食事処の道を進んだ先で、カルバロの家と教えられた場所には、1階が厩で、横づけの階段を上がった2階が彼の家だった。


 見間違いようのない『目印』を教えてもらっていたので、ここだろうと見当をつけた二人。厩の壁にも、階段の入り口にも、斧が掛かっている。これは集合工房もそうで、斧や斧に纏わるものを作る職人たちの印と聞いた。


 オーリンが扉を叩き、名前を呼んで『オーリンだよ。悪いな、家まで来ちまって』と少し大きめの声で伝えると、数秒して戸が開いた。


 カルバロは体躯がしっかりしているが、彼の見た目に違和感。片腕に着けていた、金属製の腕に隙間があり、内側に極端なほど細い何かが見えた。


 来客の視線を追ったカルバロは、疲れたように少し笑うと、彼らを中へ通して座らせる。


 心配を告げた二人の斜め向かいの椅子に腰かけ、カルバロは『今日は炉を動かせそうにない』と言った。

 理由は、この腕が痛くて仕方ない、と。


「腕が落ちるだけで、済まないかも知れないと思うと」


「それなんだがな。今日は伝えたいことがあったから、招かれてもいない家に押し入ってる」


 不安そうなカルバロにちょっと冗談めかした、タンクラッドの言葉に、カルバロの顔がハッとした。


「治癒場がな。このテイワグナにも()()



 ここから、タンクラッドの説明で詳細を聞いた斧職人は、『場所の確認がこれから』と付け加えられた内容にも構わず、『行く。連れて行ってくれ』と頼んだ。


 オーリンもタンクラッドも『勿論だ』と答え、今日はまだだが、明日明後日にも連れて行こうと約束し、カルバロは深く頭を垂れて感謝していた。


『何もなければ、明日、またここまで来る』と、旅の職人二人は約束を交わした後、そのまま宿へ戻った。

 着いてすぐ馬車を入れると、タンクラッドはオーリンを誘って『()()()見晴らしの良いところへ行かないか』と誘った。


 オーリンはそれが『あの地図の確認』と分かり、馬車の荷台から金属板を一枚出すと『行くか』と笑顔を向けた。


 二人は宿から離れた、人の少ない場所で龍を呼ぶと、周囲にそれなりに騒がれながら青空へ飛んだ。




 *****




【ドルドレン&ザッカリア】


 地図を見ながら、ダマーラ・カロに見えない古風な通りに感心しつつ、馬を進めた二人の騎士。



 聞けば誰もが知っているという工房名『ボッカルジョ工房はどこだろうか』と訊ね、道を教えてもらい、着いた先でまたも驚く、その見事な伝統工芸の建物・敷地の美しさ。


 そう早い時間ではないが、まだ朝の内。敷地に入って、使用人でもいそうな広さを眺めつつ、誰かいないかと探していると、一人の男が遠くに見え、彼もこちらを見ていたため、挨拶を交わす。


 この人がプフラン本人で、用を聞かれたドルドレンは、自己紹介に『イーアンの夫』と言っておいた(※話が早い)。


 後ろに乗せた、肌の色の違う少年に『子供?』と目を丸くしたプフランに、『彼は部下』ときちんと教え、プフランに伝えておこうと思ったことがある・・・と切り出したら。


「イーアンを、最初に追いかけたことなら謝る」


 潔いのか何なのか。馬に乗った黒髪の美丈夫に恐れをなしたか、プフランは即行、謝った。


「うむ。違う。そっちではない」


 それはまぁ気にしていないよ、と続けて言うと、絵具師はホッとしたようだった。違う用と知り、彼は二人の来客を工房へ招くと、茶を出して一緒に座る。



「プフランが、イーアンを最初に追いかけた理由。それは『ニーファ』のことであったか」


 前置きなく本題に入った男が口にした名に、絵具師は警戒した様に頷く。ザッカリアは見守るだけ。


「なぜ、ニーファをそれほど守り通そうとするのか。それを最初に聞きたい。事情がある。

 俺たちは確かに彼を知っている。彼の世話にもなったし、恐らく、()()()()()()()()にも、僅かな時間関わった」


 ニーファを知っている、と言い切った男に、『なぜ彼を守ろうとする』と言われた、長年の付き合いのプフラン。その質問、自分の方が聞き返したくなる。なぜ旅人にそんなことを聞かれるのか。


 顔つきを見て取ったドルドレンは、丁寧に、誤解のないよう、静かに自分たちが関わった経緯とその後を教えた。


 話を聞いていた絵具師は、非常に驚いて『そんなのダメだ』と口にしたが、ドルドレンは彼を見つめ、理由を訊く。


『ニーファが選んでいても、友人が否定するのか』他人事に首を突っ込む気はないが、と呟いたドルドレンに、プフランは少し悩んだように黙り、こう言った。


「伝統がある。伝統を守るのは仕事だ。ニーファが求める偉業の行方は、私も何度も聞いていますが、それをどこの誰とも分からない男に託すことは」


「ニーファが戻ったら、それを聞くだろう。そして、その言い分であれば、俺が思うにプフランも『彼』の存在を()()()()()()


 不思議なことを言う黒髪の美丈夫に、プフランは何故か言い返しにくく、伝統を守る大切さをブツブツと口にしていた。

 それに、『伝統以外の事をしては、面の力も失せるかも知れない』とか、『この町の面師を狙う外国人は少なくない』とか、面の力による影響があることも理由にしていた。


 ドルドレンはそれを聞き、茶を飲み干すと、部下も立たせて、茶の礼を言った。


 急な帰りに、プフランが『話しが終わっていないのでは』と追いかける。二人は馬に乗り、ドルドレンはプフランを見ると微笑んだ。


「面の力。その特性に伝統を重んじているプフラン。ここまで分かれば、俺が伝えることはない」


「でも。え?さっき、そのどこかの外国人とニーファが意気投合して、一緒に仕事するとか。私はそれを聞かされて穏やかじゃないです」


「先ほど俺が言ったままのことが、そのうち理解出来る。

 ()()()()()()を知っている男が、生きて自分たちの前に現れたら。どれだけ確認しても、疑いようのない()()と知れば、プフランも『彼』を求めるだろう」


「何ですって?」


「ここまで言えば充分。後は楽しみにしていると良い。くれぐれも、ニーファの感覚を疑うようなことはするな。そして、相手の『彼』についても、『伝説の一部』と思って接することを薦める」


 黒髪の男はそう言うと、ハハハと笑って馬を出す。

 総長の笑顔につられて、ザッカリアもちょっと笑うと、馬から手を振って『()()()()は、すごい面師だよ!』と(※名前言っちゃう)それを以て、お別れの挨拶とした。



「バサンダ」


 プフランは、その名前を呟く。急に来た、不思議な来客の話に、後々、感謝するとまでは思っていなかったが、なぜか自分の運命が動いた気がした瞬間だった。


 門をくぐって消えてゆく馬の影。『これ!名前を言って!』と『どうせ知るもの!』と言い返す声が、最後に耳に届いたプフランの、キツネにつままれたような朝――




 *****




【フォラヴ&バイラ】



「遅くなってしまった」


 昼に戻ると言った割には、戻って来たら、午後の日差しも遅い頃。妖精の騎士はバツが悪くて、宿に戻る足が重い。


 宿から近くて、一番人目の少なそうな場所に降り、龍を帰してから徒歩で帰る道は、宿までせいぜい20分。


 困ったなぁ、と思いつつも、言い訳も満載。得た情報は良質なのだ。


 アレハミィについては、娘・ピュディリタの情報で『銀の光』の裏も取れた(?)。また、彼の力の範囲に関して、彼が()()()()()を設けていたことも分かった。


 その日は予言のように書かれており、時代は今ではないかとフォラヴには思え、彼の能力を授かるために出現する妖精についても、示唆がおぼろげにあり、心が震えた。


 謎めいた『解除』の言葉が載っていた本の名も、『交代の詩』。交代の詩とは何か。自分の力も未知なフォラヴは続きを探りたいが、ここまでで時間切れのため、戻って来た。



「総長に話せば・・・あの銀の光、銀の矢となって手伝ってくれた、ズィーリー時代の妖精と知れば。

 安心もして下さると思うし、今後も心強い味方と・・・は、言い切れませんが。毎回、意思を以て手伝うわけでもないから」


 良い情報だけれど、確定のない相手であるため、アレハミィの影を追うフォラヴにとっては『素晴らしい情報』でも、総長からすれば『またいなくなった上に(←フォラヴ)、()()()()()手伝いと分かっただけ(←アレハミィ)』で終わる。


 ノロノロ歩く、妖精の騎士。その後ろ姿に気がついた、警護団員が側に寄りながら彼の名を呼ぶ。


「フォラヴ!」


「バイラ」


 振り返ったフォラヴの目に、青毛の馬に乗る、優しい大人代表バイラ(←怒られない人)。


「お帰りなさい。元気はどうしたんですか。さぁ、馬に乗って」


 笑顔で腕を伸ばしてくれる、大人なバイラに、フォラヴは恥ずかしそうに頷くと、彼の手を取って後ろに乗せてもらい、帰り道の間に気後れを打ち明けた。


 内容が凄く感じたバイラは少し驚き、『そんな貴重な情報、皆が喜ばないはずはないです』そう笑顔で、彼を励まして『自分も一緒に言ってあげる』と味方に付く約束をした。


 バイラは今日、早上がりで戻った日。


 演習欠席を伝えた後、バサンダの永住用の手続きの確認を済ませ、順調に進んでいると分かったので、午前中に保護施設を訊ねた。

 そこで、バサンダから『ニーファの手紙を受け取った』と嬉しそうに言われた午前。


 町に、ニーファがもうすぐ戻って来る、と喜ぶバサンダに、バイラも祝いの言葉を贈り、一緒に喜んだ。


 ニーファが戻る前に、もっと絵を描きたいというバサンダは、受け取った紙は全部絵を描いてしまって、と苦笑いした。バイラは了解し、少し遠かったけれど画材がある店へ出かけ、彼の使う紙と炭棒を購入し、バサンダにお祝いで渡した。


 喜ぶバサンダに一通りの絵を見せてもらい、その芸術性に舌を巻く。生き延びた彼の、新しい出発を改めて祝福した後、バイラは少々早いが宿に戻った。その帰り道、フォラヴを拾った次第。



 元気のないフォラヴを励ましながら、バイラは夕方前の宿に着く。


 先にタンクラッドとオーリンが戻っており、一番最初に宿に帰った、ミレイオとシュンディーンと一緒に迎えられた。


 ドルドレンとザッカリアも、午後の早い時間に戻ったようだったが、帰り道に人助けしていたらしく、『他の場所も気がかり』とかで、また出かけ、バイラたちが戻ったすぐ後に、帰って来た。



 この日。早くに集まって待機と、言っていた割には。


 守ったのは、ミレイオとシュンディーン(※抱っこだから)だけで、一番遅かったのは、夕方近くに帰って来たイーアンだった。

お読み頂き有難うございます。

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