1471. 囚われの地下神殿 ~ヴィメテカの『精霊情報』盛り沢山・救助決定
☆前回までの流れ
地下の神殿から動けない精霊を助けるため、イーアンは男龍に相談。ビルガメスの返答は『自分たちにどうにも出来ない』でした。がっかりするイーアンに同情したビルガメスは、自分の思うところを知恵として教え、イーアンはそれを聞いて、急いで地上へ戻りました・・・・・
夜明けが来る前に、空から戻って来たイーアン。
一人で戻らないと精霊に迷惑が掛かりそうで、龍を連れず戻った穴の周辺は、既に誰も見えず、静かなもの。オーリンとフォラヴは、パヴェルたちを往復で運んだのだ。
急ぐイーアンは、穴をくぐってすぐに龍気を引っ込め、翼を畳んで、神殿を見た。神殿は弱々しく光っているようにも感じ、とても気の毒に思う。
神殿の側まで行ってから、精霊の名を呼ぶ。精霊はぼんやりした光の塊で出て来て、その姿を現した。
『イーアン。どうだった』
ヴィメテカは、精霊の顔ではなく、人間的な顔を見せている。イーアンは、彼の素顔がこれなのかもと思うと『彼はサブパメントゥ寄り』であると判断したビルガメスの言葉が正しい気がした。
『イーアン』
答えない女龍に、もう一度名を呼んで訊ねた彼に、イーアンはハッとして『可能性があります』と先に答えを伝える。
意味を訊ねる精霊に、男龍と話したことを教えると、彼はとても困ったように表情を曇らせた。
『龍ではどうにも出来ない?』
「はい。そういう対象だそうです。私も昔のことは分かりません。とても昔の神殿らしいですから、対処も私たちでは何とも」
『可能性、とお前が話したのは。この神殿を動かすわけではなくて、精霊の結界を広げること』
「そうです。ヴィメテカは、精霊の結界の範囲で移動できる・・・出来ますよね」
今更、気がついた大事なこと。出来なきゃ意味がないんだ、と慌てて訊ねると、ヴィメテカは不満そうに『当たり前だ』と答えてくれた。
そして、どうも女龍が自分のような存在に詳しくないことも、同時に理解したらしく、ヴィメテカは少々話をずらす。
『サブパメントゥと精霊の合いの子を、お前の仲間に迎えているようだが、分かっていないのか』
何が?と聞き返した、女龍を見つめ、ヴィメテカは女龍に借りていたクロークを返すと、神殿の階段に座るよう促した。
イーアンはクロークを羽織り、言われた場所に座り、横に並んで座る精霊を見上げる。
『龍でも知らないのか』
「珍しい存在だと思っていました。まず、お会いしない気がします」
『精霊の力も使う。サブパメントゥの力も使う。どっちの影響が強いかで、力の強弱は変わるが、使える力の種類は減らない。分かるか』
何となく分かるイーアン。それはこういう意味ですか?と、思うところを訊ねると、ヴィメテカは頷く。
『そうだ。親が出来ることは、出来る。影響力の強い方に、力の広がりもある。弱い方には、力の広がりが少ない。それだけのことで、使える力の数は親と同じ』
「そうなのですか。私たちと一緒にいる子は、自分でまだお話出来ません。赤ちゃんですが強い子で」
『赤子』
ヴィメテカは少し驚いたようで、イーアンはもう少し詳しく、シュンディーンのことを話してあげた。それから、彼に協力してもらわないと、自分たちではどうにも出来ないかもと伝えると、ヴィメテカは唸る。
『赤子とは。サブパメントゥで生まれただけか』
「その意味は。あなたもサブパメントゥ生まれ」
『少し違う意味だ。赤子はサブパメントゥの場所で生まれた存在だが、親がサブパメントゥにいない気がする。言ってみれば、サブパメントゥの世界全てが、親の対象。
赤子の力の内容。それは、殆ど精霊だ。
だが、能力と姿にサブパメントゥがある、と言うなら、お前のこの龍・・・この龍の守る場所を通過したのだろう』
ヴィメテカは話しながら、横に座るイーアンの肩に触れて、ゆっくりと撫でた。イーアンは彼の大きな手を見てから、『グィード』と不思議そうに訊ねる。精霊はその反応に、首を傾げる。
『女龍。お前は何も知らないのか。どうしてそれほど知らないのか。俺の方が分からない』
知らない、と言われて、ムスッとするイーアン。前、ホーミットにも言われた気がする。ぽりぽり頭を掻いてから『あのですね』と注意。
「私が知ろうとすると、男龍がダメと言うのです。男龍って、私の仲間。私だってもっと知りたいのに、知り過ぎてはいけないと隠されます」
『イーアンは龍のこともよく分かっていない』
何それ、と思う即答に、女龍が眉を寄せた顔を見て、ヴィメテカはちょっと笑う。小さなイーアンの背中に手を添えると、顔を近寄せて『もっと知ることが出来る』と教えた。
『俺をここから出せるなら。俺が教えてやろう。お前がどうすると、もっと知ることが出来るのか』
「ヴィメテカは龍の事、ご存じなさそうです。それなのに、分かると仰いますか」
『お前がお前を知るために、必要なことくらいは』
イーアンは、覗き込む精霊を見つめ、確かに長生きしていそうだと(※判断材料=長生き)認め、うん、と頷く。
「でも。そうしますとね。ヴィメテカは賭けに出ることになります。そう捉えて良いですか。シュンディーンを呼んで・・・赤ちゃんの名前です。『あの子に頼んで、精霊の結界を広げる話』で決定でしょうか」
精霊は了解し、いつ連れて来るのかと訊ねたので、イーアンはちょっと考える。
「あの子は私が触れることが出来ません。だから、他の人と一緒に来てもらうしか・・・そうすると、どれくらいの時間が掛かるやら」
ミレイオと一緒に移動してもらう・・・のが一番かなぁと思い巡らせているイーアンに。ヴィメテカは再び質問。
『イーアンに触れないと言う。触ると、どうなる』
この質問にはイーアンが面食らう。ヴィメテカをつい、上から下まで見て、相手が訝しそうな顔をしたので『変な意味じゃない』と謝り、『あなたも私に触れないでしょう』と、彼の質問の意味を質した。
『触った。このくらいなら平気だ。お前は、サブパメントゥの龍みたいだから』
ヴィメテカは遠慮していたのか、両腕を伸ばしてイーアンをよいしょと抱き寄せる。イーアンびっくり。角からは、ちょっと顔を離しているが、精霊は普通にイーアンを腕に入れている。
「え!触れていますよ。こんなにがっつり触って平気なんですか」
『がっつり。は何だ(※知らない言語)』
それは気にしなくて良いと急いで答えて、大きな両腕の内に、すっぽり女龍を収めた精霊に驚いたイーアンは説明する。
「ヴィメテカは、精霊も入っていますでしょう。どうして平気ですか」
『精霊だが、ナシャウニットが親にいる』
「あ。その名前。シャンガマックの後ろの人(←精霊)ですよ!」
ヴィメテカの腕の輪っかの中で、イーアン更に驚く。
それから、よく分からないままに、『んまー』のオドロキを繰り返して、彼の腕をちょんちょん触ってみたり、肌がすべすべ・・・と違うところで感心したり。
それから理解した。多分。ナシャウニットは、龍平気系(※これまでの情報の結果)。
自分の腕の輪の中で、興味深そうにしている女龍に笑うヴィメテカは、腕を解いて、見上げた顔に『赤子は?』と親の様子を訊ねる。
「お名前を知らないですが、あの子は大きな水のある場所で、親御さんにお返しする予定です」
『水・・・そうか。それじゃ、お前は難しいか。相手はファニバスクワンか、メメヌウィー。その辺りだ』
次から次に・・・・・ 男龍だったら絶対に言わないだろう、と思うくらいの新たなことを、出し惜しまずに口にするヴィメテカに、イーアンはしみじみ、好感度上がる(※こういう人大事)。
これからも是非、お友達でいて下さい(※要情報)と頭を下げると、意味が分かっていない精霊は可笑しそうに『それも良いな』と友達申請を許可してくれた。
そしてイーアンは、『自分が赤ちゃんを連れて来るには、ミレイオという、サブパメントゥにお願いするだろう』ことと、『龍が離れていないと、赤ちゃんは力を使い難いから、来たらここを出る』と話した。
ヴィメテカは、少し頷きかけて止まり、『ふむ』と気になったような声を漏らす。イーアンも、これと別に少し気にしていたことがあったので、今のうちに聞いておくことにして、続けて訊ねる。
「インクパーナは広いのか。私は以前、もっと平地側の谷間で、精霊と人間の・・・子?なのでしょうか。そうした御方が、インクパーナの土地を守っているのを見ました。彼はワバンジャと言い、祈祷師で、親が」
『レゼルデ。レゼルデの子・ワバンジャ。そうだな』
「あら~ すごいですよ、本当に!すらすらと教えて下さる!私、ヴィメテカ好きです(※大事)」
『うん?俺が好き。そうか。俺もお前が好きだ。龍はもっと高慢だと思ったが、お前は強さと粗暴、素朴と素直が混ざる。心を開けば親切だ。よしよし』
ヴィメテカ。気を良くしたのか、女龍の背中をナデナデ・・・イーアンは、親方の幻影を見て、ちょっと固まった。
褒められたけど、それもよく考えると、ビミョーな誉め言葉だったような(※『粗暴』って言ったような)。
精霊でもこんなにフレンドリーで、しかも何だか強そうな立ち位置っぽい(?)。私、龍なのに、と思うくらい、普通に『よしよし』してくれる。
角だけは触らないけれど、他には触れる。これが『精霊の種類』による特性か、と理解した。
『ワバンジャと、レゼルデ。レゼルデは、もっと離れた場所にいる。それがどうかしたか』
話を戻されて、イーアンはささやかな疑問を続けた。今や、彼に何を聞いても、教えてくれる信頼しかない。
「彼が守っている場所もインクパーナ。あなたが守るここら一帯も、インクパーナ。守るのは複数ですか」
『何が知りたいか見えないが。質問の答えだけなら、俺は広域。レゼルデの子・ワバンジャは、彼の範囲を守るだけだ。そして、俺が出かける時は、ここは別の精霊に任せる。俺は他も守る』
聞いてないことまで話してくれる・・・イーアン、感動。こんなお友達欲しかった(※ここまでゼロ)。
しみじみ、出会いに感謝して。またここに来よう、と誓い(※お友達でも格上げ)よっこらせと立ち上がる。
「幾つもの質問に、快く答えて下さって有難うございました。私は本当に嬉しい。
最初の出会い頭、あなたに失礼な口の利き方をしたことを詫びます。ごめんなさい」
ペコっと頭を下げて謝罪。お友達に悪いことしちゃった、の気持ちで謝ったイーアンに、ヴィメテカは微笑んで『謝らなくて良い』と言うと、一緒に立ち上がる。
『どうするんだ。呼んでくるのか。俺はここから動けない。待つ期間によっては俺も衰弱する。どれくらい掛かる』
それを心配するイーアンも、うーんと唸って、一先ずまたクロークを外して貸してあげる。
「ミレイオに聞かないと分からないですが、サブパメントゥの中を移動してくれると思います。赤ちゃんも平気ですため。遅くても今日中には」
と言いかけて、イーアン、ハッとする。ここは時間の流れが――
一応、これも確認。ヴィメテカに、『最初に入った時は時間がそう流れていなかった』でも『人間たちがここに居た時間は、外の時間に比べると短かった』と伝えて、時間の曖昧さ(?)について情報を貰う。
『俺にも分からない。時間は俺にとって、あってもなくても。ただ、今の俺はこの神殿の影響で、力の残りに余裕がない』
そうなのかと了解して、イーアンは、ぐっと気を引きしめる。
「では。行きます。急ぎますから、頑張って待っていて下さい。次に来る時は、地下からミレイオとシュンディーンが現れると思います」
『イーアンはどこにいる。上か』
「はい。上でも、少し離れた場所。精霊の結界の邪魔をしません」
『終わったらお前を探す。どこを探せば良い。話がある』
ヴィメテカは表情を変えずに、大切なことらしい様子を畳み掛けるように訊ねる。待機場所は特に決まっていないので、呼ばれたら来る、とイーアンが答えると、精霊は笑顔で頷いた。
『お前だろう?今回の魔物退治の龍は。前も女龍がいた』
笑顔の精霊の一言に、ハッとしてイーアンが見つめる。ヴィメテカの大きな手が、女龍の肩を撫でて『俺も力になってやろう』と言葉を添えた。
『それには、約束だ』
頼もしい申し出に、イーアンはニコーっと笑って、元気良く頷く。そして、大急ぎでダマーラ・カロへ戻った。
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