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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1469/2965

1469. 囚われの地下神殿 ~精霊ヴィメテカと交渉

☆前回までの流れ

明日の予定を変更し、夜の訪問者リヒャルドの頼みを聞いた、旅の一行。

捕まっているパヴェルに課せられた『龍を呼んで来い』の引き換え条件のため、イーアン・オーリン・フォラヴが救出に向かいました。

到着したそこには、何やら、被害を受けた様子の精霊が・・・

 

 姿を現した精霊を前に、女龍は少し観察。この相手は強いのかな、と過る。



 ヴィメテカは下半身が馬に似る。インクパーナは、野生馬がいるからか。

 とは言え。この際、姿形は良いとして。


 レゼルデは、龍に近寄れなかったが、この疲労を見せる相手は、()()と名乗ったのに、自分との距離は3~4歩程度。龍気は控えめにしているけれど、これでも他の精霊は寄らないのだ。

 大型の精霊・アンガコックチャックだって、イーアンがいることで近寄らなかったのだけど・・・・・


 どうしてだろう?と思うが、今これを考えても仕方ない。相手は『退かせ・ここは自分の場所』と言っている。まずは、この話を解決する。


 この神殿は、『空にある()()』と似ている様子から。間違いなく、男龍に相談する対象。


 ちょっと後ろを振り返り、皆さんがお互いの無事を確認している様子と、横の龍・オーリンを見たイーアンは、ガルホブラフに来るように合図する。頭の中で呼びかけた相手は、すぐに顔を向けて、てくてく歩いて来た。


「あ。ガルホブラフ」


 いきなりトコトコ歩きだした、自分の友達に驚いたオーリンだが、女龍がこっちを見ているので呼んだのかと気づく。


 龍が歩いて寄って来るので、精霊が後ずさる。イーアンはさっと彼を見て『嫌か』と質問。精霊の目が険しくなり、『平気だと思うのか』逆に訊かれた。


 イーアンはガルホブラフを止め、龍は停止。精霊に向き直り、答える前に質問を重ねる。


「不思議。あなたは私が平気なのに。あの仔はダメだと」


『龍が2頭だ。お前はまだ、()()()()()が』


()()。どこ?」


 分からないので、イーアンが訊ねると、精霊は後ろの神殿を顎で示した。


 イーアンが、ガルホブラフを呼んだ理由・・・それは、この要求を解決するために男龍を呼ぼうと思い、その前に、『女龍に近くて平気そうな彼』がいるこの場所に、『男龍も呼んで平気かな』の疑問から、試しにガルホブラフ。なのだが、ダメらしい。


 女龍が平気な理由も、よく分からない。『イーアン=神殿と近い存在』と言いたそうだが、ピンとこない。

 とりあえずイーアンは、ガルホブラフに戻るように伝え、龍が戻ったので改めて、精霊と交渉することにした。


「まず。彼らはもう良いでしょう。約束通り、私が来たのだから、彼ら人間は全員、地上へ戻します」


『イーアン。お前はこれを』


「それですが。私一人で、どうにかなるものではない・・・ので交渉。他の龍族にも、相談が必要ですよ」


『退かすのか』


 うーんと唸るイーアン。腕組みして困る。退かしてやりたいが、デーンとそこにある遺跡的神殿をどうすりゃ良いのかしら?と首を捻る。


「退かせ、とあなた言うけれど。()()()()ですか。これ」


『ずっと昔』


 精霊の返事は、分かりやすいくらい大雑把(?)。悩む女龍は、首をポリポリ掻いて『あのですね』と事情を話す。



 ――自分もこれを見たことがない。龍族はまず地上に降りないから、他の龍族も対処出来るか疑問。


 これを先に伝え、不機嫌な表情を見せる精霊に『一先ず、仲間の龍族にここを見せるか・聞かないことには、対処も何も進まない』まで話すと、イーアンは大きな精霊を見上げて、少し同情。


「弱っていますね。龍気のせいか」


『このまま消える気はない。()()()()()()が退かすのを待った』


「うむぅ。そう言われると、私のせいじゃないけれど申し訳ない気もする・・・約束しましょう。彼らは戻して下さい。私は一旦、空へ上がり」


『人間は置いて行け』


 イーアンはその遮りを睨んだ。『約束と龍が言えば、破らない』そうじゃなくたって私は破らない、と吐き捨てるように言うと、精霊は女龍をじっと見つめ、頷いた。


 何かこう・・・疑われている感がヒシヒシ伝わるのが嫌な感じ。イーアンの不服そうな顔に、精霊は呟く。


『龍は約束する。守る。知っている。だが、お前が()()()()()()()気がした』


「ああ?(←態度が素)」


 正真正銘の女龍だよっ! 失礼な!と怒るイーアンに、なぜか精霊はちょっと笑った。


『その服。サブパメントゥに近いが龍。お前も同じ』


 精霊ヴィメテカの言葉に、ハッとしたイーアンは、怒った顔を引っ込めて『まさか』と勘づく。相手は動物と人間の間の顔をぐぐぐと大きな手で掴み、びゅっと手を外した途端、本当の顔を見せた。


『俺は、精霊とサブパメントゥの()()()()


 全くの人間に見える顔。先ほどの顔はどこへ、と思うほど変わった精霊に、イーアンは目が真ん丸。イケメンだった・・・じゃなくて(※そうだけど)。


 こんな時に納得する。この()()()()()()()を持つ見た目は、能力の高いサブパメントゥの特徴なのかも、と。

 別に人間が能力が高いのではなくて・・・元々、こういう見た目が種族に行き渡っている特性のような。


 ポカンとしてヴィメテカを見つめたイーアンは、そこから一つの推測が浮かび、ゆっくりと視線を後ろの神殿へずらす。神殿も。もしや。もう、そうだろうとしか思えない。


 なーんとなく分かったこと―― これ・・・絶対、男龍に相談ですよ。



 イーアン、咳払いして意識を正す。野生的なイケメンのヴィメテカに、『ますます、私だけでは結論が出ない』とはっきり伝え、選択してくれるように提案。


「ここに、私の仲間を連れて来るか。それとも私が空へ行って彼らと話すか。どちらにしますか。最初に伝えますが、私はもしかすると、サブパメントゥ寄りでしょうが、仲間は丸っきり龍そのもの」


『ぬ。この上だ。地面の上。訊いて済むならそうしろ。ここはやめろ。俺が持たない』


 移動出来ない、すなわち逃げられない。そう答えた精霊に、イーアンは了解。


「では、人間まず解放して下さい。私は空へ行きます。そして出来るだけ早く戻ります。何をするにしても、最初にヴィメテカに知らせましょう」



 ヴィメテカは少し考えてから頷いて、見て分かるほどゆっくりと腕を伸ばすと、女龍の大きな白い角を避け、その黒い衣服のある肩付近へ手を動かす。


 イーアンは気が付く。これは、ホーミットが自分に試そうとした時と同じ。


 じっとして彼を見ていると、大きな体の精霊はそーっと指先を、イーアンのクロークの上に乗せた。イーアンが心配になる。


「あなた・・・だ、大丈夫なのか」


『大丈夫そうだ。お前は。俺に少し力を分けている』


 え?と聞き返したイーアンは、ハッとして『ちょっと待って』と言うと、急いでクロークを外した。驚いて手を引っ込めたヴィメテカに、クロークを渡す。


「これを。サブパメントゥにも入れず、精霊の力も閉ざされた、という意味でしょう?これ、大丈夫でしたら持っていて。これはグィードという龍の」


『グィード。そうだったのか』


 女龍から受け取った、グィードの皮を両手に持ったヴィメテカは、少し瞼を狭めて『サブパメントゥの力』と微笑んだ。不思議だが、龍の皮なのに、本当にグィードだけはサブパメントゥに通じる。


 イーアンは、クローク(それ)が少しの間でも役に立つなら持っていて、と言うと、後ろを振り向いた。


『出してやろう。お前も行け。龍族もあの龍も、もう外へ出せ』


 ガルホブラフがずっといるのも嫌だった様子の精霊に、イーアンは了解した。もう一度振り向いた時、パヴェルたちの姿が消え、オーリンが上の穴を見上げたところ。


「イーアン、パヴェルたちはすっ飛んで!」


「はい。約束済み。オーリン、外へ出ますよ!」


 オーリンに答えたイーアンが走ると、オーリンも察して龍に乗り、神殿の側に立つ精霊を残して、二人は外へ飛んだ。




 *****




 外へ出ると、パヴェルとリヒャルド、他召使さんたちがイーアンとオーリンを迎えた。


「イーアン!助けに来てくれたんですね!オーリンに会えた時は、私は本当に」


 パヴェルが感動して抱き締めたので、イーアンは『ご無事で何より』と背中をポンポン叩き、自分急ぎますので、と彼を離した(※業務優先)。


「ここからは、フォラヴとオーリンで()()して下さい。私は交渉した手前、大急ぎでお空」


「『往復』って。どこをだ?」


 オーリンは急いで訊ね返す。その答えはパヴェルが戻す。

 パヴェルは一先ず、ホーション家に戻ると言い、自分たちの乗って来た馬車と業者は、きっとそこで待っているだろうと、見当をつけた。


 リヒャルドさんと一緒に、ダマーラ・カロの町まで移動した、他の召使については、『首都へ向かう馬車に乗るように伝えて』との伝言だった。


 手短にするべきことを理解した後、次にオーリンは、囚われていた貴族と召使の体調を気にする。


「腹、減ってないか。俺は食べ物持ってないが、水とか」


「いえ。囚われてから、そう()()()()()()()()()()から大丈夫です」


 パヴェルの返答に、イーアンたちは目を見合わせる。フォラヴは、妖精の世界を思い、龍族二人は別界に入った時を思う。


 さっと、地面に開いた穴に顔を向けてから、リヒャルドさんを見ると、彼も驚いて戸惑う顔を向けた。


「なぜ・・・・・ 」


 執事の呟きに、パヴェルたちが彼に振り向く。イーアンは執事の困惑に『違う時間が流れている』とだけ教え『地上と、この下は違う』そうした場所がある、短い説明で終えた。


「詳しくは、オーリンとフォラヴに聞いて下さい。それでは私、約束果たしますので、行って来ますよ。

 オーリン、フォラヴ。どうぞ皆さんを宜しくお願いします。全て済んだら、ドルドレンたちの元へ先に戻って下さい」



 後を頼み、イーアンはパヴェルたちにも挨拶すると、お別れもそこそこ、真っ白い光の玉となってお空へ飛んだ。


「凄いですねぇ・・・迫力が出ました~」


 救出されたばかりの大旦那様は、余裕が戻った様子で、首を振り振り、女龍の姿を後から褒める。


「忙しそうだから褒めなかったのですが、まぁ。()()褒めさせて頂こう」


 一緒になって、空を見上げていたオーリンとフォラヴ。龍に跨った背から、今の発言に違和感を感じ、そっと貴族を振り向くと、彼は笑顔で頷いた。



「さて!では帰る準備です!この先の土地を購入する話を取りやめて。何、時間はかかりません。一言告げたら、それで終わり。そうしたら()()()()()()()()!」


 パヴェルは機嫌良さそうに、オーリンを見て、パンと両手を打つ。オーリンは嫌な予感。ちょっと笑って『俺、忙しいんだよ』とだけは言っておいた。フォラヴも丁寧に頷いて『私も()()』と呟いた。

お読み頂き有難うございます。ブックマークを頂きました!有難うございます!

イーアン・イケメン認定の精霊を絵にしました。



挿絵(By みてみん)



精霊ヴィメテカの人の姿、上半身だけですが、雰囲気だけでも~

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