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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1463/2965

1463. 4組別 ~②演習指導・ソカと『馬車歌』

☆前回までの流れ

4組別に行動開始。最初の話は、朝の宿から出発した、タンクラッド&イーアンの、『壁画に遺る民話』のお話。

今日は、警護団で教える、ドルドレン&ザッカリアのお話。『武器ソカ・馬車歌』について情報が・・・

 

 ――【ドルドレン・ザッカリア】 ~『サイザード馬車歌情報』



 ザッカリアと二人で、ドルドレンは本日も演習指導。


 昨日午後に一度教えたことから、有難いことに警護団員の中の数名が『教える側』に入れる状態で、サイザード分団長・バイラ・他4名と騎士2人で、今日も皆さんの上達を手伝う。


 ザッカリアは何も言わずに黙々と教えているが、時々、『剣ばっかり』と呟く独り言が聞こえ、ドルドレンは彼が、北西支部で覚えた演習と違うことに、不満があるのだと知った。



「つまらないか」


 途中の10分休憩で、ドルドレンが訊ねると、子供はさっと総長を見て『何が?』と聞き返し、総長が彼の独り言の話をすると、大きなレモン色の瞳はじっと総長を見た。何か言いたそう・・・・・


「どうした」


「テイワグナって、他に武器あると思うんだよ。でも使わないんだね」


「うん?」


「ギアッチが教えてくれたの。ソカ、ってこの国の武器でしょう?剣と弓は大事だけど、テイワグナの武器があるって聞いているのに、ちっとも誰も使わないんだもの」


 ああ~・・・ドルドレンも言われるまで忘れてた。ふと、何気なく休憩中の団員を見渡す目に、確かに。剣と弓。だけ。


「ソカは有名で、ギアッチが使えるのは俺も知っているよ。イーアンが作ったソカも、ハルテッドが使っていた。だけど本場の国で誰も」


「ふむ。聞いてみるか。警護団に入ると、剣を支給されるだけかも知れない」


 ギールッフの町でも、スランダハイの町でも、武器を作る職人たちの会話に『ソカ』の一文字も出なかった。言われてみれば気になってくる。


 ドルドレンは、これについて、サイザードに訊いてみることにした。


 頷いたザッカリアは『支部みたいに、得意なことを伸ばしたら良いと思うよ』と、ソカ他、違う武器を使える人も育てる方向で提案。ドルドレンもそれは賛成。ただ――


「『戦ったことがない者』が、圧倒的に多いのだ。武器も何が得意か、それすら知らないだろう」


 まだまだ、()()を見つける手前なんだよ、とザッカリアに教えると、そこは納得したらしかった(※皆さん下手だから)。



 この後も、昼までみっちりと剣の指導をし、1対1で剣を使う練習と、1対複数の練習を何度かこなし、時間は昼休憩に入る。


 今日の昼も、昨日に引き続き、屋内業務をこなす団員たちに、騎士の二人は笑顔で挨拶を受けた。その様子は、バイラやサイザード、サイザードの側について演習をする団員たちには、しみじみ驚く変化。


 昼食中、騎士たちは彼らの食堂で食べるのだが、ちょこちょこ話しかけてくる団員が訪れ、演習の話よりも『実際に戦った経験』や『テイワグナ巡回の様子』を答える方が多かった。


 そんな具合で時間も過ぎたため、二人の騎士の食事時間は受け答えで終了し、席を立って食堂を出るなり、ザッカリアが総長の腕を引っ張り『疲れる』と困って笑った。



「ソカ、聞けなかった?」


「俺がその言葉を出したと思うか」


 ううん、と首を振るザッカリアに、ドルドレンも苦笑いして『ソカもだけれど』と髪の毛をかき上げる。


「馬車歌も、ある。肝心のサイザードが忙しそうで、食事中に何度も席を立つから」


「そうだね。バイラは食事早く済ませて、バサンダの施設に行っちゃったし」


 バサンダにも会いたいよ、とザッカリアが言うので、ドルドレンは『時間があったらバイラに頼んでみよう』と了解した。



 ――ドルドレンも思うことあり。昼も半ば、バイラが『バサンダの様子を見て来ます』と立ち上がった時、()()()()()()()のことを話そうか、と思った。


 だが、懸念があるにせよ、余計なことかも知れず、直にバサンダに『こうしたことがあった』と、イーアンの話を伝えた方が良いと考え直して黙った。


 プフランのところには、今日、イーアンと親方が向かった。


 イーアンも、これについては考えているようだったから、すぐにプフランに注意する動きはないだろうが、バサンダ本人には早めに教えてあげたいところ――



 休憩時間も終わり、お手洗いも済ませて、二人の騎士は再び演習のために空地へ出る。


 戻ったバイラに、バサンダに面会したい旨も伝え、近いうちに一緒に行く話が出た後、サイザードが来て、騎士は腹ごなしの手合わせ。


 これはザッカリアが請け負い、大柄なサイザード克服(※怖い)を意識し、頑張った。勝負関係ない手合わせで、実戦に近い自己判断を鍛える理由から、他の者たちもそれに倣う。



 午前と異なる組を作り、注意事項を与えてから開始。少しして、施設の裏の通路にバイラが呼ばれ、誰かと話しをしていた。


 バイラは一旦抜け、戻ってきた時には10名ほどの新しい団員を連れていた。


「彼らも、演習に加わります。希望者です」


 サイザードは若干驚いた顔をしたが、すぐに人数の少ない組に彼らを振り分け、指導手伝いの出来る団員に、午前からの流れを教えさせた。


「総長たちのおかげですよ」


 手合わせを見守るドルドレンの側に来たバイラが、少し小声で嬉しそうに伝える。ドルドレンは彼を見て『皆にやる気が出たのは、皆自身の心である』と微笑んだ。


 謙虚な騎士に、バイラは『本当に有難うございます』とお礼を言い、サイザードとは話せたかどうかを訊ねる。ドルドレンは首を振る。


「それどころではなかった。サイザードも忙しそうで」


「そうでしたか。今日は4時前に指導を終わりにします。2日間のまとめを話し合う時間があるので・・・サイザードさんには、最初だけ出てもらって、後は総長と話が出来るようにしましょう」


 バイラは時計を見て、『あと2時間』と呟くと、ドルドレンに挨拶してサイザードの元へ行った。向こうでもサイザードが頷いている様子が見えたので、馬車歌はどうも聞けそうであると分かった。



「ザッカリア。馬車歌の話を聞いたら、ソカの話も」


 少し離れた場所で教えているザッカリアに、ドルドレンが話しかけると、団員の一人と話していたらしいザッカリアは振り向いて、ニコッとする。


「総長、この人ソカ知っているよ」


「何?」


 団員は他の者よりも、肌の色が深く、総長に会釈してからザッカリアに微笑んだ。ドルドレンが見るに、新しく加わった10名の一人。団員は、総長にもソカの話をする。


「彼が、『ソカを知っているか』と聞いたので、私の出身地方では作っているところもある、と話しました」


「出身地方。あなたは、テイワグナの」


 ドルドレンが質問すると、団員は『南です』とすぐに答えた。南の地方から首都ウム・デヤガにかけて、山脈方面で使う武器だったことも教えてくれた。


「そうなのか。テイワグナ全域ではなかったのか。それでは、知らない者もいそうだ」


「今は、テイワグナの誰もが知っていそうですが・・・一昔前まで、()()()()()()武器の一つだったと思います」


 彼は手合わせ中だったので、話を教えてくれた礼を言い、ソカを使えるなら使っても良いと、ドルドレンが言うと、彼は驚いて『本当ですか』と笑った。


 警護団は、ドルドレンが思った通りで、剣と弓を与えるらしく、その範囲であれば、種類の異なる剣や弓の使用は認めているようだった。


「ソカは危ないですし、警護団自体もこれまで戦うような出来事はなかったから、支給される武器も」


 と言いつつ、団員はササッと周囲を見てから小さい声で『()()みたいなもの』と苦笑いで騎士二人に伝えた。二人はそれを聞いて、笑わないように頷いた(※警護団が自分で言う)。


 彼は、ソカを使っても良いと総長が許可してくれたことから、ソカではないが、長さ違いの武器は持っているから、明日はそれを使ってみると話していた。



 思いがけず、また物事が少し進んだ感じも受け、ドルドレンとザッカリアは今日も満足。


 案の定、ロゼールとフォラヴは戻らなかったが(※ロゼ衰弱)、今日は大変ではなかったし、指導が終わる頃には、皆も息が合って『もう少し続けたい』と言う者もいた。


 でも今日は、この後に会議がある。演習を取り込み、騎士たちが滞在中に他の試みも提案したい団員たちは、題材をそこに置き、4時には騎士たちに礼を言って、施設内に戻った。


 ドルドレンはサイザードに呼ばれ、『4時半まで待っていてくれ』と頼まれて了解。ザッカリアと二人、通された応接間に腰を下ろして待つ。


 待ち時間、今日の感想から始まり、ソカの話、続いて『ロゼール来なかった』話をしていると、30分も経たないうちに、サイザードが部屋に入ってきた。



「早いのだ。大丈夫か」


「良いのよ。私は明日も、朝から確認で全体を見れるから」


 それより鎧のままで休ませてすまない、とサイザードは言いながら、茶を淹れて二人に出すと、自分も茶を注いで向かい合う椅子に座る。


「鎧は、遠征中こんな感じなんだよ。だから大丈夫」


 気を遣ったサイザードに、ザッカリアが『気にしないで』と言うと、サイザードは微笑んだ(※怖い)。


 ビクッとした子供をちらと見た総長は、すぐに『馬車歌だが』と話を変えて本題へ。サイザードも、子供の緊張に意識が向きかけたが、総長の言葉で『馬車歌』に集中(※助かった)。


「バイラから聞いたのだ。サイザードが、馬車の家族と話したと」


「そうよ。私の知っていることから話すわね」


 そう言うと、サイザードはもう一杯、茶を注ぎ、詳しく、でも要点だけ絞り、自分の情報を伝えた。



 ――馬車の家族が、ダマーラ・カロへ入り、彼らがいつも停留する表が『魔物で危険』と警護団に訴えたことから、サイザードは町の中で停留することを許可し、彼らが馬車を停めて良い場所を決めた。


 案内したのは採石場付近で、町外れではあるが壁もあるため、危険はないとし、そこで休むように提案した。

 馬車の家族は、すぐに応じたサイザードの良心的な態度に気を良くし、夕食を一緒に食べようと誘う。


 サイザードはこれまで、護衛の時に何度か『馬車の民』と接触した程度で、こうした誘いは初めてだったが、気を許した相手に断る理由もなかったため、礼を言って夕食を貰った。


 この時、彼らは歌を歌い、言葉が違うために、その歌の意味は何も分からなかった。


 サイザードはこの夜はこれきりで、夕食を与って戻ったが、停留中の彼らの様子を守るため、度々、顔を出した。馬車の家族はその度に歓迎し、旅立つ数日前に、再び夕食を一緒に摂るよう勧めた。


 その晩、最初に聴いた歌をまた歌ってくれたので、サイザードが褒めると、彼らはちょっと話し合ってから『サイザードは戦うのか』と訊いた。

 躊躇なく頷いた警護団員に、馬車の女が側へ来てある話をしてくれた。


 それは、()()()()()()伝説の話――



「彼女は私に教えてくれたのよ。魔物の数は制限があって、一定数が終わると別の国に出るんだ、と」


 サイザードの話に質問したいが、ドルドレンは先を促す。ザッカリアも引き込まれて、うん、と頷いて続きを待つ。


「歌は長くて、その一部らしいけれど。他の馬車が持っていない歌で、この話は()()()()()しか知らないだろう、と言っていた。

 魔物の王がいて、国を一つずつを滅ぼしにかかるの。それは決まっていて、『約束』なんだとか。誰との約束なのかは、聞いていないわ。私は、彼女が話をするのを黙って聞いていたから。

 勇者と龍の女が、特別な仲間と共に、魔物を片付け続けるけれど、その一定数を倒し終えると()()()に行くのよ。

 魔物は、魔物の王の命令を受け取ったやつがうろついて、そいつの生み出す下っ端も魔物。命令を受けた魔物の数が『2』を超えることはない・・・っていう話。この『2』については、何だか分からない」


2()()()である」


 ドルドレンはやっと口を開き、それを教えると、サイザードを見つめて頷く。サイザードも目を見開き『そうなの』確認する声が漏れる。


「2万頭?それが制限」


「今の話で理解した。そうだろうとは思っていたが」


 確信が嬉しいドルドレン。ザッカリアも総長を見上げて『じゃ、テイワグナは早く終わるんじゃない?』と言う。その言葉にもサイザードは反応する。子供に微笑んでから、総長は分団長に説明した。



「テイワグナに魔物が出た日。俺たちは、テイワグナの南で当日に戦った。その時、相当な数の魔物を倒したが、後日、追々理解したことは、テイワグナの魔物は分裂することだった」


 もしかするとハイザンジェルもそうだったのかも知れない、と添えてから、サイザードに『親玉』の存在を伝える。


「親玉」


 繰り返した分団長に、総長は『大量発生するが、親を倒せば終わる』と、これまでのテイワグナ魔物退治の経験から知っていることを教えた。


「どこかにいるのだ。時には、大量発生した魔物の群れから、相当な距離を越えた場所にいることもある。

 だがその親玉を倒しさえすれば、湧いて出てくる群れは消える。この前、町が襲われた時もそうだった」


「それは私たちが倒せるのか・・・どうなのか」


 不安を顔に浮かべたサイザードに、ドルドレンはちらとザッカリアを見てから、一度、息を吸い込み、良くも悪くも・・・と頭に思いつつ、こう言った。



「大丈夫だと思う。性質(たち)の悪い魔物の出方をする時。そこに()()()がいる。正確には、()()()()

 逆を返せば、()()()()()()()、そこまで性質(たち)の悪い魔物の被害はないだろう」


 困ったように微笑む総長の返事。ザッカリアは総長を見上げ、その手をぎゅっと握る。


「俺も一緒だよ。そんなこと言っちゃダメだ。俺も一緒。皆、仲間なんだもの」


 慰めるように言う子供に、ドルドレンは笑みを深めてお礼を言う。サイザードの胸に、バイラがこの前話していた言葉が蘇る。


 この総長は、勇者。本当にそうなんだろう、と理解し、サイザードは座っていた腰を上げた。


 立ち上がった分団長に、二人の騎士が見上げ『どうしたのか』と訊ねる前、サイザードが突然、腰の剣を抜いて天井に切っ先を向ける。驚く騎士二人に、分団長は静かに伝えた。



「テイワグナ共和国警護団。カベテネ地区分団長ツルカ・サイザード。

 魔物資源活用機構派遣騎士・ハイザンジェル騎士修道会総長、ドルドレン・ダヴァートに敬意を表して忠誠を誓う」


「サイザード」


「あなたが、()()()()。同じ時代に命を授かったことに感謝を。その尊い勇気に心から賛辞を贈る。テイワグナで私の協力が必要な時は、いつでも勇者のために動こう」


 う、と一言。呻いたドルドレン。驚いた灰色の瞳をまん丸にして、膝に置いていた手をぐぐっと握る。その拳の力の入れ方に、手を添えていたザッカリアは、『総長が泣きそう』と理解。


「嬉しいんだね。泣いても良いよ」


「ザッカリア・・・う」


 いいよ、いいよ、と笑顔で、潤む総長の目に、涙を許す子供。ふるふるする涙を浮かべて、ドルドレンは小さく頷き、その振動で涙が落ちた。


 今度はサイザードが驚く。大の男が、一瞬の言葉に『嬉しいから』と、涙を落とす、この場面。



 この後、ドルドレンはほろほろと泣きながら、ザッカリアに頭を抱えられて、ナデナデされていた。


 サイザードはそっと剣を仕舞い、総長が泣き止むのを待っていた(※結局、バイラが戻ってくるまで泣いていたので、このまま宿に連れ帰られた)。

お読み頂き有難うございます。

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