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魔物資源活用機構  作者: Ichen
混合種と過去の坩堝
1460/2965

1460. 面師の知り合い・試作と珍客・警護団施設の夕方・馬車歌の影響

☆前回までの流れ

集合工房に炉を借りた、旅の職人たち。熱心にも思える「人以外の聖なる存在」への、町の職人の行動には悩まされます。

付き合いに気を遣うため、ミレイオとイーアンは二人で昼食に出かけたのですが、食事中、知らない男に話しかけられます。

 

 昼時の混雑に滑り込んだ声は、知人の名前を呼んだ。


 ()()を思ったのは、イーアンとミレイオだけではなく、聞き返した男もそうだった――



 ――昼食を摂っていた男は、聞く気もなかった話が耳に入り、内容に注意を取られた。


 そっと相手を見てみれば、一人は黒づくめ、もう一人は派手な格好で、刺青と飾りに包まれた男と知り、少し不安を感じた。黒づくめは、背中を向けているので顔は見えない。


 食事も終わる頃だったので、早く口に詰め込み、『面師』『ニーファ』の言葉を確認しながら、相手を怪しく思う。


 どう見ても、テイワグナ人に見えない派手な男と、もう一人の会話は、千切れてしか聞こえないが、内容を捉えると『()()()()()自分の知人』。この外国人たちが『木工の工房へ行きたい』・・・そう話していると知った時、警戒が波立った。



 観光客の雰囲気とも違い、耳に入れた話の一部は『面の力』。


 ニーファはカロッカンから戻っていないので、もしやどこかで、ニーファと会った旅人か。

 何が目的か分からないが、待ち伏せされても困る!と思ったら、つい・・・知人を守るつもりで、盾になることを選んでいた。



「ニーファ?」


名前を確認して、相手がどんな反応をするのか、見ようとしたら。



「何かしら?」


 女の言葉で訊ね返した、派手な男の目。その目に驚く、その色。人の目にない、日差しのような明るい輝く金色。


 会話に上がっていたニーファ(知人)の名を訊ね返し、立ち上がったは良いものの。金色の目の男は、すぐ攻撃的な視線を向けた。威圧に感じ戸惑った一瞬、言葉を失ったが、相手が先に言葉を返す。


「違う人じゃないの」


「いや。今、ニーファの面の話と」


 家の話をしていただろう、とは言えない。『家』に用があると言い切るのは、見知らぬ相手に危険な気がして、言葉を続けなかった。だがそれで、話は閉ざされる。


 金色の目の男は、視線を皿に戻し、食事の手をまた動かしながら『それでさ』と、黒づくめの人物に話しかけた。

 話しかけたことを無視をする様子に、立ち上がった体はぎこちなく、二人の外国人の席へ歩いた。派手な男は睨みつけ、席の真横に行く手前で止める。


「何よ。食事中なの」


「ニーファのことを知っているのか。面がどうとか」


「お面はこの町に沢山あるわよ。あんた、何なのよ」


「あんたたちこそ、どこの者だ。()()()()があるようには」


「関係ないでしょ?」


「ある。ニーファは知り合いだ。面の力のことで話をする外国人は、面師に迷惑だ。どこでニーファを知ったか分からないが、ニーファが面師と知っている。迷惑をかけるかも知れない、余所者に」


「はあ?」


 いい加減にしてよ、と吐き捨てた派手な男は、その明る過ぎるほど光を湛える瞳に怒りを浮かべた。怯む心と、知人を守ろうとする気持ちの板挟みで、体が動きにくい。


 すると、黒づくめの方が派手な男に声をかけ、派手な男は小さく首を振った。

 それは、断るように見える動きだったが、黒づくめは腕を彼に伸ばし、立ち上がろうとする派手な男を制した。


 その腕・・・色が。人の肌ではない、その白い色。


 腕の色に驚いた顔をしたと思う―― だが、振り向いた黒づくめに、自分はもっと驚いた。


「人間?」


「失礼な。人間でしたよ(←変)。ちょっと色が変わっただけで」


 うっかり口にした言葉に、黒づくめの相手は気を悪くしたように、眉を寄せた。被った黒い布の下に見えた顔は、見慣れない顔で・・・『龍。龍の女』まさか、本当にと、呟いたことが、更に気に障ったか。


「ああ、もう!あんたのせいで、面倒臭い」


 他の客も何人かが振り向いてしまったため、派手な男は荒っぽく立ち上がると、最後まで食べ終えないままの食卓を放って、『行くわよ』と黒づくめの女の腕を掴み、大股で店を出て行った。


「あ、待て!」


 ハッとして急いだ自分は、二人の後を追いかけて通りへ出る。待てと言って待つわけもなく、二人は雑踏をすり抜ける。


「待て!知ったからには」


 叫ぶ声には届かない声量だと思ったが、相手はそう思わなかったらしい。

 随分、先を進んでいたはずの二人は、後ろを振り向き、派手な男がすごい勢いで間近に来た。走ったようにも見えない速さ――


 いきなり肩を掴まれ、怒った顔を向ける男は『いい加減にしろ』と低い声で威嚇する。


「他人に迷惑をかけるかどうか。そんなことは、()()()()()自分に聞いてからにしろ。お前は迷惑以外の何でもねぇ」


「め。面師は。面師を狙う外人がいる以上、放っておけはしない」


「狙う?何だ、おめえは」


 ミレイオ、と後ろから声が掛かり、刺青の男はぴくっと止まる。黒づくめの女が来て、自分と刺青男をさっと見てから『勘違いかも』と自分に言う。


 中性的な声と、その顔つき、黒い布の下の皮膚の白さに、『これが()()の龍の女だ』と分かった自分は、心が震え、その場で力が抜けてしまった――




 *****



 昼を挟んだ工房では、オーリンも戻ってきており、タンクラッドと一緒に試作を作っている最中。


 型を作る前に、(やじり)の見本をダビの説明書通りに成形しながら、様子を見て『ここからは削り出し』そう呟いて、一つめの鏃の調整。これを型取りに使うので、オーリンは成型に入る。


 タンクラッドについて学ぶカルバロは、時々質問し確認してから、自由な方の手で感覚を覚える。タンクラッドもそれを見守り、難しそうだと手を添えて支え『この工程は他の職人と一緒に』と促した。


「すまないな。手間を」


 謝るカルバロに、タンクラッドは微笑んで首を振る。『手間に思わない』と短く答えると、カルバロは思い出したように『これも作ってみたい』と立ち上がり、工房の棚から箱を出した。


「ギールッフの職人の試作だ。金属が足りないとかで、最後まで仕上げていない」


「柄がないのか。でも、剣身は出来ているじゃないか」


 見せてもらった箱の中に、剣と呼ぶには、少々短いものが何本かあり、タンクラッドは一つ取り出して『悪くない』と笑った。


「納得出来ないのは()()()()、だな」


 タンクラッドの言葉に温かみがある。カルバロも微笑み、『良い出来だと思う』と刃の模様を見て頷いた。


「試作扱いだし、ここで参考にと渡してもらった」


「誰かが直に来たのか」


 聞いてみると、来たらしいのだが。『よく覚えていない。町役場の人間たちと一緒だった』らしくて、人数に紛れていたような話。話したのは自分ではない、とカルバロは他の工房に視線を向ける。


「良かったら、タンクラッドが幾つか貰っても」


「使わないのか。参考にするだろ?」


「俺は()()()に学んでいる。いくつか残してもらえれば、比べて見直すことは出来る」


 開業者、と呼ばれて笑ったタンクラッドは、有難く『教えた責任もあるな』と、短い剣を数本受け取ることにした。


 そんなやり取りを楽しそうに見ていたオーリンは、昼過ぎても戻らないイーアンたちのことを訊ねる。



「イーアンたちは」


「もうじき戻るんじゃないのか。店が混んでいるかも知れない」


 あ、そう、とタンクラッドに頷くオーリン。

 赤ちゃんは剣職人の背中で寝ているので、『俺と昼行くか』と訊ねて、彼が頷いたので『肉の美味いところ探そう』と赤ん坊を見て笑う。


「肉の匂いで起きるな」


「だろうな」


 ハハハと笑ったタンクラッド。オーリンも笑っているが・・・カルバロは、これには笑わずに見つめる。



 カルバロがどんなに『赤ん坊を見たい』と言っても、全く見せてもらえなかった。


 そして、その赤ん坊は()()()の割に、泣き声一つ立てないと知る。よく見ていると、彼らの荷物に()()()()()()はない様子。


 龍の女もいるし、謎めいたミレイオもいる。この赤ん坊も・・・と思うのは自然で、カルバロはしつこくこそ出来ないが、気になって仕方ない。



 そんな、気になる状態を過ごしている昼も終わる頃、集合工房の中が少し騒がしくなる。


 カルバロも、二人の来客に合わせ、昼食はまだだったから、工房の入り口に何か運ばれたか、とそちらを見た。

 昼食を配達してもらうことは毎日に近いので、配達の食事が届いたのかと思いきや。


「怪我人?」


 目を丸くして呟いたカルバロの声に、タンクラッドたちも顔を向ける。

 彼らはそちらを見た途端に立ち上がり『どうした』と動いた。龍の女とミレイオが、動かない一人の男を連れて戻った状態がそこに・・・・・




 *****




 地方行動部では、一日頑張ってくれた騎士に感謝を伝えた後、彼らに明日の約束を確認し、夕日の中を送り出したところ。


 総長たちを先に帰したバイラは、今日の模範演習について、報告書を書く。

 書きながら思うのは、()()()()()()()と、今日の違い――



 毎日、バサンダの入居した施設へ顔を出して様子を聞くようにし、昨日はニーファの家に手紙も出した。


 魔物騒動は町の中において、あっさりと静まったものの、警護団では、町全体への魔物襲撃に、調査した内容を書類に起こしたりで忙しかった。


 だから昨日までは、バサンダの手続きも『後回しで当然』といった体で、忘れられたようにも感じたのだが、今日それは巻き返しを見せた。


 総長たちの協力は予想以上の効果を出し、カベテネ地区警護団全体の活気に働きかけた。


 彼らのように、全員が戦おうとしなくても、自分に出来る範囲に力を注ごうと、各自の意識が上がったのだと思う。



 バイラはこの夕方も、報告書作成後にバサンダの手続きの進行具合を、提出申請書の棚で調べる。すると、後ろから『永住権申請書は作りましたよ』と聞こえた。


 振り向くと、ここで最初にバイラを案内したスーク(※1434話参照)が笑顔で立っていて『今日は素晴らしかったです』と続けた。

 バイラも嬉しいので、大きく頷く。スークはバイラの見ていた棚ではない方を指差す。


「バサンダさんのは、明日、発送される封筒にもう、入っていますよ」


「ああ・・・そうですか!忙しいのに、対応してくれて有難うございます!」


 お礼を言うバイラに、スークは微笑んで首を横に振る。


「私も頑張らなきゃ、って思いました。騎士修道会はすごいですね!

 そうだ、『テパガ』も戻ったんですよ。途中で集落の幾つかに立ち寄ったから、すっかり遅くなったけれど」


 夕方の慌ただしい施設内で、スークが顔を向けた先には、忙しそうな一人の男が動く。


 それが、バサンダの話に同情してくれた、カロッカン駐在所で会った警護団員・・・と分かり、バイラも笑顔になる。


「テパガは戻ったばかりで、今日明日は忙しいでしょう。でも、バサンダさんの話は、後で伝えておきますよ」


「有難うございます。本当に有難う」


 スークは『こちらこそ、お礼を言っても()()()()』と、その意味は伏せたまま静かに微笑むと、また仕事に戻って行った。



「バイラ」


 スークと入れ替わりで、バイラは分団長に呼ばれる。サイザードは部屋へ行くよう、指を廊下に向けたので、バイラもすぐにそちらへ行った。


 サイザードは、今日の様子を見たとはいえ、まだ衝立の奥の一画はそのままにしているようで、布を寄せて中へ入ると、後からついて来たバイラを通す。


 分団長は改めてお礼を伝え、バイラに明日の打ち合わせをする。


 バイラもそれを聞き、幾つか質問をして了解すると、何度か目を泳がせたサイザードに、彼が話を変えようとしていると気が付き、『他には』と促した。



「昼食時に・・・総長と話した時なんだけれど」


 何となく、言い難そうな出だし。バイラは何だろうと思って『はい』と相槌を打つ。サイザードは、うん、と頷き『彼は馬車の民なの』と一言、静かに呟いた。バイラは、普通に『そうですよ』の答え。


「それが。ええと、()()()()だと」


「差別じゃないのよ。そういうつもりの質問ではなくて。ハイザンジェルの馬車の民でしょう?」


「はい・・・あの。その意味は」


 何かマズイのかな、と訝しむバイラに、サイザードは誤解をしないでくれと先に言い、それから自分が少し思っていたことを話し出した。



「私がバイラに話したでしょう。魔物の数のことを、()()()()()()()()と」


「あ~!はい、話してくれました!あの時は、テイワグナの馬車の民が、ダマーラ・カロに回って来た日の詳しいことを、私に教えてくれましたね!」


 バイラの反応に、サイザードはすぐに続ける。『()()()知っているのかと思った』と。それが核心だ、とバイラは気が付く。


 魔物資源活用機構で回っている、騎士修道会の派遣騎士。その総長が、馬車の民出身。


 これは、テイワグナ馬車の民に『魔物に関する情報』を聞いて信じたサイザードには、何とも運命的なことに捉えられたのだ、と理解した。


 バイラの表情から、自分の感覚を理解したと察した分団長は、『そういうことよ』と頷くと、バイラにお茶を勧めた。



「私はもう少し情報があれば、と思っているのよ。でも、他人の総長には訊けない。彼が知っているかどうかも分からないし、どう思うかも考えると、良くも悪くも知らない人間に探られたくないと思うから」


「サイザードさんは、そんなに気にしてくれているんですね。総長は訊けば話してくれますよ。彼らも()()()()()()動いていますから」


 ハッとするサイザードは、お茶を飲みながら『問題ないと思う』と教えてくれたバイラに、本当かと訊ねる。バイラは、開示できる範囲だろうが、教えてくれないことはないと伝えた。


「バイラが知っているような雰囲気だったから、私もあの日に話したけれど。

 でもバイラは、テイワグナの護衛も務めて、どこかで馬車の民(彼ら)と接触していても変ではないから、それで関心を持って、聞く耳を向けてくれたのだと思った」


 一度言葉を切り、考えをまとめたサイザードは『少しでも多くの人々に、安心を渡したい』思いから、馬車歌のように、魔物の脅威の中でも、希望の感じられる内容は知りたいと話した。



 うんうん、と強く同意して頷いていたが。ここでバイラは、思い出す。


 総長たちに、サイザードが知っていたことを、()()()()伝えていなかったこと(※それどころじゃなかった)。


 隠していたみたいで嫌だなぁ・・・と思いつつ、帰ったらこの話はしないといけない、と胸に決め、サイザードには、自分から話しておくことを約束する。


 嬉しそうなサイザードは、少し微笑んでから『それから()()()()にも、もう一度謝っていたと伝えて』と頼み、バイラはそれもちゃんと請け負った(※ザッカリアはずっと怖がっていた)。


 そしてバイラは、馬までサイザードに送られて、労いの挨拶を交わした後、夕日の沈みかける道を宿屋へ帰った。

お読み頂き有難うございます。

評価とブックマークを頂きました!有難うございます!

イーアンとミレイオの昼食。そして、闖入者の影が見える場面を絵にしました。



挿絵(By みてみん)



映画版・昼食風景。字幕なので、ミレイオのセリフが短縮されています~




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